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深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

跳躍への序曲~Fuji Cristar Type3 proto.~

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さて、今宵のご紹介は、年末大特集、更に「写真工業12月号別冊 世界のライカレンズ PartIV」をお買い上げ、、もしくはご関心を寄せて戴いたマニアの方々への謝恩企画として、たぶん本邦初公開、というか、世界初公開だと思いますが、Fuji Cristar 5cmf2 Type3 試作品の実写作例付きでのご紹介です。

先週のご紹介では、富士写真フィルムが1949年に自社の光学技術を問うべく、世に送り出したCristar Type1試験販売品の実物写真と、その作例をご覧戴きましたが、レンズの造作自体は、オリジナルのズマールも先輩格のSun Sophia5cmf2に比肩、或いは凌駕し得る素晴らしいものだったのですが、その写りたるや、自社で光学ガラス熔解まで手がけ、シネキャメラ用Cristarの技術を民生用に転用したという会社側のアナウンスに首を傾げざるを得ないような惨憺たる写りでしたが、その失敗?を踏まえ、同社は少なくともその後、試作?を含め2つのタイプのCristar5cmf2を製造しています。

その特徴は、前玉の大きさ、鏡胴の構造、そして、絞りの最小値で区分が出来ます。

特に先週のType1とこのType3では、全く別のレンズのようです。前玉がズマールとズミクロン並みに大きさが違うし、こちらは最小絞りがf16まであるのに、type1ではf12.5までしかないとか、メッキ仕上げ、フィルター径等々、全く共通点が見られません。

で肝心の写りですが、何よりもこれが違います。

早速、作例をご紹介しながら、このレンズの素晴らしさを語りたいと思います。

カメラはこのキャノンVIL、フィルムはスーパーセンチュリア100、絞りは全て開放、ロケ地はtype1同様、築地場外市場界隈です。

まず、一枚目、これは、場外市場でも外れに有る、市場の塀際にくっついた長屋のような建物の一角にある魚屋さんで、前回と異なり、土曜日の2時前という、一番の書き入れ時に行ったものだから、どこもかしこも人、人、人・・・このお店でも、ベテラン然とした売り子のおじさんの気合い入った実演に老若取り混ぜたご婦人達が群がり、特売品を更に有利な条件で買い叩こうと虎視眈々の図です。

おじさんにドンピシャ、ピント合わせて、前のご婦人達はアウトフォーカスになっていますが、わりあいとナチュラルで見苦しくないボケになっていると思います。また、画面全体の均質性も素晴らしく、店内が煌々と照明焚いているのですが、気になるフレアが発生せず、おじさんの輪郭を浮き上がらせ、立体的に描くことに成功していると思います。

そして、二枚目、まさに前ボケで評価を落としたtype1の面目躍如のためのようなカットです。
先般の日曜は開店休業ヒマな魚屋さんの前も土曜日となると、飢狼の群れの如き買い物客が殺到し、その”狼の群れ"にも幼子を連れた家族連れが居まして、まさに"子連れ狼"状態となっています。
子供は子供で、やはり"狼"の子、研ぎ澄まされた五感をフルに駆使し、"親狼"の肩に凭れていても、油断なく外敵に用心を怠りません。その鋭い索敵の目に、まさに、古いカメラを構えたアヤシゲなハンターが捕らえられた図です。

子供の目にピントを合わせましたが、ニットのセーターの網目の一つ一つが鮮明に捉えられ、また人攫いスタイルの父親の黒いパーカーの背中に西日が当っていますが、その黒い面での反射が背後のやはり黒っぽい服装の女性の服とシャープな輪郭線を形作り、目を見張るような立体感を作り出しています。しかし、特筆すべきは、前の通行人のおじさん、白っぽいベージュのズボンに白いシャツをだらんと出して、おしゃれっぽい茶のジャケツを着込んで、精一杯カメラを意識してポーズつけながら通リ過ぎていきましたが、キレイな前ボケのオブジェと化したことです。

それから、最後に三枚目、これは場外でお茶を振る舞いながら、茶葉と急須を買って貰おうというスタイルの店頭販売をしている、デモンストレーターのお姐さん~おばさん的女性が居たのですが、染めた髪の毛がちょうど良い案配に西日に照っていたので、湯茶の提供は拒みつつも、振り返りざまに一発キメた図です。

女性の髪の毛で露出の見当をつけたのですが、案外、お客役のおじさんのもこもこダウンのジャンパー状の上っ張りが西日を反射して、飛ぶ寸前になっています。
しかし、デモンストレーターの女性の手を含め、白っぽいオブジェは全て飛んでしまっています。
このあたりが冬の、午後になると低い角度でさしてくる太陽光を背に撮る時の難しさだと思います。

このカットで距離をおいたバックのボケが登場しますが、後ボケに関しては、非点収差のコントロールにまでは設計余力がなかったのか、二線~崩れ気味のあまり宜しくないボケが垣間見えます。

しかし、Type1とこのType3どっちが好きかと問われれば、1950年代前半当時の国産、いや、世界の50mmf2クラストップレベルの性能を持つ、このType3に否応無く軍配を上げざるを得ないでしょう。

この初代から見れば飛躍的に改善された描写性能が、デジタル時代になっても燦然と輝く、フジノンのシリーズへと続いていくのです。
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テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/12/14(日) 22:46:49|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:9
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コメント

 斜陽を浴びる条件の悪さも感じない(ハイライトがスコンと抜けきらないで、抑えようとしてるレンズの性能がすごい)、こってり色のりの良い、日本離れした性能を感じます。むつかしい撮影条件なので、素性がまだ良く分かりませんが、たしかに、以前のものとは滲みぼけも無く、ガラスの種類から違うのではないかと。輪郭の強いボケも、f4くらいまで絞ったズマリットに比類する明確さで、大口径設計をf2に抑えたのではないかと、推測します。(あまり見慣れないcristar銘は、現代でいうconcept製品みたいな雰囲気です)
  1. 2008/12/15(月) 22:48:53 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordre さん
早速のコメント有難うございます。
お待ち申し上げておりました。

実は、この二本のクリスター、別々の修理業者に出していて、type1は閑東亀でOH、こちらのtype3については、Y崎写真レンズ研究所で前玉研磨&再コートを行っています。

良く、ネットなどで言われる通り、Y崎氏は小生も含めた常連には、商売っ気抜きで、良く上がったレンズには、「素晴らしいピントですよ、是非、試写結果見せて下さいね♪」と有難いコメントをくれますが、一生懸命修復しても、期待通りには上がらなかったレンズには、何も言わずに返してこられるということから、今回は相当興奮気味で「貴重な試写結果を心待ちにしていますよ」などと言われ、舞い上がってその翌週、寝坊気味に2時も回った頃、近所の築地へ試写に出かけた次第です。

当然のことながら、もう一本も閑東カメで3ヶ月近くかけ、丹念に性能を追い込んでレストアしたものですから、オリジナルの性能より大きく下回っているとは考え難く、やはり、外観も細部も異なる二本のレンズは銘柄名こそ同じ"Cristar"なるも、全く別物のレンズと考えた方が良さそうです。

こちらは、寧ろ、フジノン5cmf2の後期型の薄いアンバーコートタイプで前玉の凸エレメントにも新種ガラス使ったタイプに写りが近いのではないかと思いました。

しかし、たった2000本程度の同じ銘柄のレンズでここまでドラスティックに描写性能が向上するというのは、富士写真フィルムの情熱と開発の底力を感じ、とても興味深いことだと思った次第です。
  1. 2008/12/16(火) 00:11:02 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは。
いつもながらの、その場の会話や空気が伝わってくるスナップのうまさにまず目が行きます。
次に、こんな条件でもフレアっぽくならないのも、単なるダブルガウスではないことを証明していそうです。
また、画面全体の均質性やピント部分のシャープさは、とても開放とは思えず、やはり基本性能の高さをうかがわせるものです。
ハイライトが多く分かりづらいですし、露出の関係もあるかもしれませんが、こちらのレンズの方が色ノリがしっかりしているように思われます。
3対3の比較だけでは、やはりわたしもこちらに軍配をあげたいです。

ところで、1枚目の親父さんといい、2枚目の狼少女といい、絶妙の表情をとらえていますね。
昨日今日のニュースで、築地市場の見学はマナーの悪さが原因で休止になっているとやってましたが、原因はチャーリーさんなんじゃないかと真面目に思いましたよっ。
  1. 2008/12/16(火) 00:44:52 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫さんに、座布団一枚♪・・・笑

光の当たり具合が違うので
はっきりとは居えませんが
前のレンズよりは
全然コントラストか良いですね。
そして、シャープに見えます。
最初見たときは、前のレンズを
M8で撮ったのかと思いました・・・・・(^_^;)

F2.0の開放のわりには
そんなにボケないのも個性なのでしょうね。
  1. 2008/12/16(火) 01:02:45 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
コメント有難うございます。
スナップの上手い下手はさておき、このレンズの凄さは、充分でないにせよ、伝わりましたか・・・
まさに「幻の和製ズミクロン」と呼ぶに相応しいのではないかと思います。

ところで、

>昨日今日のニュースで、築地市場の見学はマナーの
>悪さが原因で休止になっているとやって
>ましたが、原因はチャーリーさんなんじゃないかと真面目に思いましたよっ。

小生はCharleyなる芸名ですが、ガイジンさんぢゃありませんぜ・・・今回の一ヶ月間の中止措置は、南蛮人の男女どもが、神聖なる競りの場で、フラッシュ焚きまくったり、マグロの目玉に触ってみたり、凍った身を指で突付いたは良いが、くっついて離れなくなって大騒ぎしたりといった乱行三昧が原因です(笑)

小生は移転受入れ先の江東区民でありながら、築地の同志達と連携し、移転反対の旗色を鮮明にするとともに、写真を通じて、その日常を世界に発信し、存在価値をPRすることを使命としているのです。

築地の同志達もその趣旨を良く理解して戴いており、かなり気安くスナップなどを撮らせて戴ける信頼関係を構築しているのです。
  1. 2008/12/16(火) 11:01:32 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

山形さん
コメント有難うございます。
そーですね。同じレンズとは全く思えない性格ですね。
好意的に言えば、type1はやさしめな大和レンズ、type3は、モダンでシャープな国際派レンズかも知れません。

同じ富士写真フィルム製の50mmクラスのレンズは、数えてみたら、クリスタが2本、フジノンが50mmf1.2が1本(あと、部品取り用にもう一本)、50mmf2、同f2.8が各一本ずつと、知らぬ間に大派閥になっていました。

面白いことにレンズ構成のみならず、全て製造時期が違うこともあってか、写りの性質がかなり違います。

このレンズは、フジノン50mmf2.8のズミクロンばりのシャープネスと、同50mmf2ばりの発色の良さ、そして、f1.2並みの立体感を兼ね備えた、まさに長老にして派閥の長だと言えましょう。

国産レンズを極めることを使命?とする貴兄にも、是非ともお勧めの一本です。

御徒町のとあるお店にtype2の程度のイイのが一本出てまっせ・・・お値段は電子湾で「白い悪魔」が買えるほどですが(、と悪の囁き)。
  1. 2008/12/16(火) 11:18:10 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

むかしの本みていたら、クリスター50mmf1,5のガラス構成図がありました。たしか、二群目が四枚張り合わせ。現物は、存在するのでしょうか?
  1. 2008/12/17(水) 22:04:48 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2008/12/17(水) 23:45:02 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

Treizieme Ordre さん
コメント有難うございます。
構成図が載っているということは、最低1個は作っている筈です。

しかし、某編集長殿曰く、富士写真フィルムは海軍系の会社やお医者さんの会社みたいに会社の備品管理がシビアぢゃなかったんで、小田原のレンズ工場(ガラス溶解、研磨~アッセンブリ)を畳んで、浦和に越した時、み~んな散逸してしまい、相当数を従業員達も山分けにしたらしく、たまに小田原周辺のカメラ屋、古道具屋には、とんでもないものが出てくることがあるとか・・・(本件は閑東でも同じようなコメント有り)

従って、結構、意外なご縁で貴兄にも巡ってくるかも知れませんぜ・・

小生のばやいは、以下のような縁でプロトがやってきたワケです。

サン・ソフィア5cmf2⇒クリスタ5cmf2type1試験販売品.
⇒フジノン5cmf1.2テスト品 ⇒ クリスタ5cmf2 type3proto.

さぁ、今からこの夢の連鎖にチャレンジ♪ KクヤへGo!です >_<\☆★Bakiii!
  1. 2008/12/18(木) 10:33:06 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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