




【撮影データ】カメラ:Leica M8 Auto ISO 全コマ開放
今宵のご紹介は、遂に来るべきものがやって来た、との感ありのご紹介です。
Arnold & Richter社製のモーションキャプチャカメラ、Arriflex35シリーズ、旧Bバヨネット最終モデルのCine-Planar50mmf2を当工房でL/M改造したものです。
一ヶ月ほど前の記事で、Arriflex-Cine-Xenon50mmf2のぶっ飛んだ写りをご覧戴き、明らかに深川改造レンズ軍団前キャプテンのCine-Planar50mmf2より、解像度、色飽和度、ボケの美しさに優れ、現行キャプテンのCooke-Kinetal50mmF1.8と対マン張っても、引き分け以上に持ち込めたであろうに、工房主はそれでもキャプテン交代を申し渡しませんでした。
それは、第三世代の改造技術を惜しげもなく投入し、元々の光学ユニットの性能の活用レベルも、操作性も飛躍的に改善されたArriflex-Cine-Xenon50mmf2と第二世代のCooke-Kinetal50mmF1.8ではハンデが有り過ぎるのと、Xenonが完成した時には既にこのレンズヘッドは工房に入庫済改造待ちだったものの、仮組みによって、驚異的な光学性能は大方判っていたためです。
この控えめな銘板からは市販レンズの135判銀塩用Planarと較べて、それほどの違いが有るとは到底思えないでしょうが、さにあらず、CarlZeiss社は銀塩用の写真レンズの生産からは実質撤退状態で、東洋の林檎畑の中に有る中小企業にまかせっきりですが、本業として、映画用のレンズは最先端のテクノロジーを注ぎ込み映画産業の興隆に貢献している旨、自社のホームページ、そして供給先であり70年以上に亘るパートナーであるArri社のホームページでも述べています。
産業用レンズなので、お値段の方も新品では、民生用である銀塩135判の同じ焦点距離・開放値のものの10倍以上します。
今回のレンズヘッドは旧Bバヨネットの最終型のモデル、恐らく1980年前後の個体がイスラエルの映画スタジオの予備品として保管されていたのを、たまたま電子湾での索敵に引っ掛かって、釣り上げたものです。
では、何故、最新のモノを入手して改造しないのか・・・・その疑問は尤もですが、幾つかの絶対的制約があって、入手してライカマウントには改造出来ないのです。
まず第一にバヨネットがPLマウントというパナビジョン共用の巨大なステンレス製のものに変わってしまい、これが船のスクリューみたいなフィンが水平に張り出していて、マウント金物自体が外せないことからL/Mマウントとのクリアランス調整とマウント変換を行うアダプタ兼スリーブが装着出来ないこと。
第二にそもそもレンズ本体が大きくレンジファインダーでは像がケラれてしまい実用的でないこと。
第三にツァイス製の80年代以降の映画レンズは単焦点であっても、殆ど近距離での各収差補整のため、フローティングフォーカス機構となっており、巨大な後玉が固定されていることから、距離計連動カムの駆動力取り出しも出来ないこと。
第四に個体価格が極めて高く、50mm~25mmのものは安くとも3000ドルを下らない・・・新品なら軽く8000ドル以上で手が出ない。
とまぁ、無い無いづくめの言い訳ばかり読んでいても気が滅入るだけでしょうから、そろそろ作例いってみます。今回は先月行われたPIE見物から、翌日、物見遊山で出かけた葛飾柴又界隈で適当に撮ったものです。
まず一枚目、これは某フォーサーズカメラをメインに出す、内視鏡メーカーのブースでサッカーのコスプレしていた小姐を捉えたものです。
M8に合うストロボを持っていかなかったというより、クラカメの形をしているものにストロボを焚くのは自分的には反則技ですから、今回はアベイラブルライトで撮ったため、露出はドンピシャとはいかないですが、モデルさんの髪の毛の一本一本、ユニフォームの生地、ボディペイントを施された柔らかな腕の肌、全然カリカリではないですが、開放でも銀塩の一眼レフ用レンズのだいたいf8程度の解像度は出ています。もちろん、後ボケもナチュラルで美しいと思います。
そして二枚目。これはライカブランドのデジカメを大量生産して世界中に広めている某家電メーカーブースを表敬した際、同じライカだからと屁理屈付けて、モデルになってもらった小姐を写したものです。
このカットは1m前後のものですが、ここでも、髪の毛の一本一本、肌の微細な凹凸(ごめんなさい・・・)を捉えていますが、何よりも注目して戴きたいのが、コンデジを掲げた右手です。
この画像サイズだと今一実感が湧きませんが、掌裏側の手相と言われる皺一本一本の濃淡まで捉え、みずみずしい肌は画面を突き破って飛び出してきそうな生々しいリアリティです。
ここでも、背景のセットはキレイにボケてカラフルながら煩くない写りになっています。
続いて三枚目。今度は河岸を替えて、良く日曜日に出かけた柴又帝釈天です。この写真、見覚え有りませんか。そう、メルコンIIと同伴テストしていたので、同じ被写体を撮ったものです。
しかし、デティールの再現性が比較になりません。
こちらでは、水を掛けられて光を反射する石造の石のテクスチャまで極めて緻密に描き切っていますが、Nikkorはもっとアバウトな描写となっています。
また、水掛をする児童のジャージに直射日光が当っていますが、ハイライトが飛ぶことなしに皺から、生地のテクスチャまで描き出しているところは注目すべきと思います。
最後に四枚目。これは帝釈天境内から少し離れたところにある、山本邸という葛飾区の史跡を訪れ、その入口の門構えをメインに母屋をバックにボケを見るために撮ったカットです。
緑青銅板で葺かれた門の屋根はシャープに金属の硬さ、冷たさを描き出され、遥か遠方の母屋は木立の影に霞んでいます。惜しむらくは屋根てっぺんの鬼瓦に二線傾向のボケが見られたことですか。
今回の様々な条件のテストで期待以上の好成績を出してくれたことで、工房主人は、第三代の深川改造レンズ軍団キャプテンにこのCine-Planar50mmT2.2を任命することとしました。
なお、最後のナゾですが、何故同じものが2本写っているのか・・・そう後追いでもう一本、海を超えてやってきたものも、工房で新たな命を吹き込み、新しい持ち主のもとへ旅立っていったからです。
そちらもおいおい作例発表があるものと思います。
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- 2009/04/19(日) 19:57:31|
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【撮影データ】カメラ Leica M8 ISO Auto 全コマ開放 絞り優先AE
実は今回はArriflex-Cine-Xenon 50mmf2の出来があまりに良すぎたので、前キャプテンで沖縄でのゾナーのシェイクダウンテストの際にお目付け役として同行し、主役を喰ってしまうかの如き、はしたない?挙動を見せてしまったCine-Planar50mmf2を対戦相手として、またもや同行させていました。
このところ、このレンズはRank Tayler HobbsonのKinetal50mmf1.8にキャプテンの座を奪われ、次々と他のレンズのデビュー戦の出鼻をくじく、というようなヒールの役割を演じ切っている感なきにしもあらずですが・・・
さて、前置きはさておき、さっそく作例を見ていくこととします。
まず一枚目。これは鎌倉小町通りを離れ、江ノ電で江ノ島まで下っていく途中、水先案内人を務めて戴いたヂモティのAさんがここイイですよ・・・と言われたので、一同途中下車した、極楽寺という駅至近の古着屋の軒先に吊るさがっていた、唐金の灯篭です。
合焦部の灯篭は緑青の風合いまでかなり忠実に写していますが・・・後ボケがイケマセン。電線が3本近くに分かれて見えてしまい、二線ボケどころでない見苦しいボケを形作ってしまっています。
この評点では、Xenonの圧勝。
そして二枚目。江ノ電で途中下車し、漁港に立ち寄ったり、昼メシを食べたりして艱難辛苦の挙句、やっと江ノ島につきましたが、ここで撮影スポットである、地下道の上がり口に佇み、アイデアルモデル?を待ち続けます。
そこにまんまとやってきたのが、北朝鮮の衛兵もかくやあらんとばかりに脚の上げ下げがまったく一緒に歩く、今風のお嬢さん2人組。
スロープの根元付近にカメラを構えたアヤシゲなおぢさん数人がたむろしているのに一瞥をくれただけで、すたこらさっさと江ノ島方面へ歩き去ります。
これは写真撮ってもイイんだね♪という暗黙の了解と捉え、背景が煩くならないポイントで一枚戴き。
このカットで本人が感心したのは、モチーフであるお姐さん2名が後から貼り付けたかの如く、背景から浮き上がって写っていること。普通の35mm判のカメラぢゃこんな写りはしませんぜ・・・
ってことで、これはXenonと引き分け。
そして3枚目。これは島での作戦行動(ミッション)を終え、次なる目的地である横浜関内に向かう際、江ノ島への参道の脇にあった古井戸のポンプを至近距離から捉えたものです。
ここでは言うまでもなく、後ボケは二線気味になって、やや煩く、至近距離でのキレみたいなものもちょいとモノ足りません・・・尤もこれを柔らかい描写、と捉える向きもあるでしょうが、撮影者本人は解像力番長に恋してますから、そんな言葉に耳を貸すとは思えません。
よって、キレと後ボケの評点から、Xenonの勝ち。
最後の四枚目。これは一日の撮影とICS@松屋での物欲を封じ込めるという精神修養を終え、健全な食欲を発散させるべく、オフ会として、銀座で晩メシを食べに移動している際、ショーウィンドのディスプレイがふと目に留まったので、一枚戴いたものです。
ここでは、むしろソフトな写りと優しい発色、そして立体描写力を活かして、雰囲気有る画像に仕上がっていると思います。こんな奥行きの狭いショーウィンド内でも最前列の帽子と後ろの方の帽子では距離感がなだらかなボケによって表現されていますから。
このカットでは、Planarの僅勝。
ということで、今回は製造者の独断と偏見ながら、意地悪な教育者たるPlanarはニューカマーである筈のArriflex-Cine-Xenonに返り討ちに合ってしまったようです。
しかし、このPlanar一族でも設計の古いこの個体に代わって、Arriflex-Cine-Xenonや、Cooke Speed
Panchro ser.IIと同じ世代の個体が旧キャプテンの仇討ちをせんと、虎視眈々と防湿庫の中で爪を研いでいるのでありました。
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- 2009/03/11(水) 23:04:23|
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今回のご紹介は当工房が産み出したArri改レンズ軍団のキャプテン的存在、光学界の巨人、独カールツアィス製のアリフレックス用キネプラナー50mmT2改L39です。
今でこそ、Carl ZeissがArriflexのデフォルトというか、実質的独占供給メーカーになってしまいましたが、このレンズが作られた当時、80年代までは、まだ他の光学メーカーも、Arriflexという優れた映画撮影システム向けに単焦点レンズを供給していました。ランク・ティラー・ホブソンしかり、シュナイダーしかり、キノプティークしかり、コダックしかり、ローデンシュトックしかり、アストロベルリンしかり、コーワしかり、ニコンしかり・・・
こういった並みいる個性派のレンズ達に対し、カールツァイス社も、自社の技術力とプライドにかけ、ベストな製品を出そうとしていた意気込みが感じられます。美しい光学エレメント、端正な鏡胴、そして正確無比の内部メカ。
工房で改造の時、ヘリコイドは分解しますが、勿論、材質も加工も最良のものだと思えました。
肝心の写りはというと、芸術家肌のキノプティーク、勤厳実直なローデン、そして、驚異的な描写性能を誇るスピードパンクロに比して、発色、シャープネス、コントラストと階調再現性、そしてボケ、全てがあらゆる被写体、撮影環境において、極めてバランスしたまさにキャプテン的レンズなのです。
良いレンズで撮った画像は目に疲れを与えず、すっと心に沁み込むというようなことを言われた方が居られましたが、まさにその一言に尽きるのかも知れません。
当工房では、この50mmの他にも32mmT2.3をMマウント化改造しましたが、こちらも、同じように繊細さと力強さ、そして艶やかさと端正さがバランスした素晴らしい写りとなりました。
余談ですが、Arriflexは、スティルカメラの35mmとは違い、イメージサークルを丸々43φ必要としませんから、40mm以下のものは、若干、四隅がケラレます。
従って、32mmのものも、四隅がケラレてしまったのですが、RD-1Sで使うようになったら、画角も約49mm、四隅もキッチリ入って、あたかも、お誂えのレンズかのようなマッチングでした。
テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真
- 2008/03/02(日) 23:58:09|
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