
はたまた今宵のご紹介は、当工房の創設期に組み上げたインダスター22の寄せ集めレンズ、名づけて"赤インダスター220"です。
このレンズは一見すると、せいぜい1万円もしない、ロシア物の安物の沈胴レンズに見えますが、さにあらず、赤い距離指標が一般のものとの区別として、当工房で施した唯一の特徴です。
尤も、判る人間が見れば、前玉、中玉、そして後玉のコーティングも硝質も全然バラバラのものを無理繰り組み込んであるので、なんか相当ヘンなレンズだなぁ・・・これで写るんかいな!?と首を傾げてしまうような、相当アヤシイ個体です。
これは、当工房が工作機械を導入して本格的な改造を始める前に、各レンズの硝質、脈理、そして整形、研磨等加工の不具合を検査する練習台として、新宿西口で10個ばかり買い集めたインダスターとフェドのジャンクを全部、群単位の3つのユニットにバラシ、まず、キズものは外して、偏光フィルター検査、クロスパターン投影検査、そして、微細図柄の拡大目視検査を行い、優れていると思われたものを上位3番目まで選別し、それを一番、ヘリコイドの状態が良く、且つバレルに損傷がなく固定バヨネットに磨耗も無くしっかりしている鏡胴に嵌めこみ、3倍のマグニファイア付のピント基準機で見て写りを想定するのです。
単純に考えれば、一番イイもの同士を組めばベストのものが出来上がる筈ですが、レンズの場合は、必ずしもそうでなく、相性が有りますので、幾つかのユニットからの組み合わせで光学系を組み上げ、それを実写したもので判定するのが一番間違いないのです。
ところが、もとが横着なこの工房主は、キズ、コーティング異常等ないものでも総当り戦やったら、200や300通りになってしまい、とても手間に見合わないってことで、手を抜いて、よさげなユニット3位までの組み合わせで試したのです。
それでも、回転が効かない中、後玉は仕方ないとして、前玉は組んだ状態でクロスパターン投影、微細図柄の目視をやって回し、キブン的に一番、周辺まですっきり映った位置に調整しています。
その結果、おいおい実写結果はアップしますが、マイクロニッコールやアリレンズ達がやってくるまでは、ダントツシャープで色ヌケも良く、本家のテッサーやエルマーは勿論、普通のニッコールもゾナーもクックアモタルも、キャノンですら、まず敵わない高性能標準レンズに産まれ変わったのです。
レンズの歪曲や周辺の崩れが一発で判ってしまう、東京フォーラムの鉄骨の下からの仰角撮影でも全く破綻がないどころか、逆光では不可避な筈のフレアも実用上、全く無視出来るレベルまで抑え込み、さすが、世界最高のウラル産光学ガラスの本領発揮と思いました。
唯一の欠点は、やはりそのレンズ構成からくる構造上の限界で近距離合焦時のバックの遠景に非点収差が抑え切れずグルグルして、若干気持ち悪いボケになることくらいですか。
まぁ、よくよく考えれば、ジャンクを1本3千円で10本買って、多大な手間を掛けて組み直しやるなら、もうちょいお金出せば、写りには影響ないレベルキズ有りの沈胴ズミクロンが買えたのではないかとも思いましたが、果たしてどっちが良かったのか・・・
テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真
- 2008/07/29(火) 00:05:46|
- その他Lマウント改造レンズ
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さてさて、今宵のご紹介は、秘宝館の収蔵品からです。
並み居る珍品・銘品をさしおき、先々週、海の向こうからやってきた新しいお友達、De Oude Delftの
Minor35mmf3.5です。
このレンズの外形と写りを見て、こんな空想をしてしまいました・・・
或る夏の日、夜が明けたら、深川公園の広場にいかにもそのものズバリというアダムスキー型の円盤が着座していました。
この付近の住民各位はTVロケ慣れしているので、たとえイトーヨーカ堂に第二次大戦中の「隼」が鎮座して、その横で特攻服姿の石原慎太郎が絣もんぺの岸恵子を口説いていてもまず驚いたりはしません。
従って、このいかにも、というメタリック感も生々しいUFOを、無粋にも自衛隊や政府に通報したりせず、みんな遠巻きに、これからどうなるのかと見守っていました。
すると、中から、タラップが降りてきて、初老のしょぼいピエロと、酸いも甘いも噛み分けたような深い皺が刻み込まれたお年寄り達のちんどん屋の一行が、巧みな口上と懐かしいジンタのメロディを奏でながら、地上に歩み出てきます。
本来なら、体を張ってでも無辜の住民を守らねばならない交番の巡査さえも、口をぽかぁんと開けたまま、この一行の一挙手、一投足を見守るばかりです。
この奇妙な一行の口上曰く、あなたの帰りたい昔を垣間見せましょう、思ひ出を大切にしましょう♪と。
何でも。この装置の中に入れば、誰でも一番帰りたい昔を画像で見せてくれるというのです。
ちょっと聞く限りでは相当胡散臭いハナシですが、何せ、なりはそのものずばり、ベタなちんどん屋一行でも、正体不明のUFOから出てきた連中ですから、どんなカラクリを持っているのか、また何の目的でこんなことをするのか、誰しも図りかねていました。
しかし、たまたま通りがかった独居老女が、「もうお迎えを待つばかりだし、大東亜戦争に取られた息子との時間が戻せるなら、試してみようぢゃぁないか・・・」と名乗りでました。
そして、初老のピエロに手を引かれ、円盤の中へ入ること10数分、さきほどまで、精気を失い、うつむき加減だった老女は別人のように目を輝かせ、円盤から降りてきました。
さすがに疑い深い野次馬達も、タダで面白い見世物を見せて貰えるというので、我先にと行列し、円盤の中に乗り込んでいきます。
子供の頃の家の前の運河に浮かぶ船、父親と遊びに行った公園、路地裏の無意味なオブジェ・・・皆が忙しくて、とっくに記憶の奥底に仕舞いこんだまま忘れてしまい、振り返られることもなくなった記憶達が、銀河の中心から来た宇宙人達の未知のテクノロジーで、あたかも目の前の出来事の如く、三次元映像で甦ります。
しかし、記憶の中の映像というものは、どんな技術を以ってしても、どうしても紗がかかったように見えてしまうようです・・・
この深川の奇跡は、やがて全国の物見高い民衆に知れ渡ることになり、あくせくと将来のことを考えるばかりでなく、時には思い出に浸り、そして過去へ目を向けることの大切さがマスメディアなどでも大きく語られるようになります。
今から遥か数千年前、科学技術の進歩に奢り高ぶり、脇目も振らず前に進むことのみ追求し、しまいには自然を、そして、その一部である自分達の在り方まで見失っていってまでも、来た道を振り返ることをしなかったために、結局、科学技術の行き詰まりで滅んでしまった或る惑星の高等生物が、まだ幼い宇宙の迷い子たちが同じ道を辿ることがないよう、惑星最後の日に祈りを込め、送り出したアンドロイド達だったのです。
とまぁ、恥ずかしげもなく、へたくそなショートショートを書いてしまいたくなるような、何となく懐かしい外観と写りを見せてくれるレンズなのです。
このレンズは、1950年代初めに、柿右衛門のコピーであるマイセン焼の更にコピーであるデルフト焼で有名な、オランダのデルフト市に有るDe Oude Delft社が唯一、ライカ用に製造したL39マウントの広角レンズです。
戦後の作りにも関わらず、コーティングがありません。しかし、金属加工、表面仕上げの美しさは特筆すべきもので、オリジナルのライカにも全く遜色がありません。
作例は、全て工房近傍の深川一帯で撮影したもので、RD-1Sに装着し、全コマ開放でテストしています。
- 2008/07/21(月) 20:49:03|
- Arri改造レンズ群
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さてと今宵のご紹介は、一見、ドノーマルの黒ニッコールがごく普通のSP黒にはまって画面に横たわっているありきたりの平凡な画像にも見えますがさにあらず、この個人工房が、日本光学工業のレンズを再加工してアッセンブリした記念碑的作品なのです。
当工房は基本的に光学系エレメントはそのままで、腰から下、つまり、ヘリコやマウントの改造や新設で以って、とにかく、ライカやニコンのボディに嵌って、距離計連動で撮影が出来るレンズにでっち上げるのをなりわいとしていたのですが、実はニッコール50mmf2のL、Sの程度のイイもの悪いものが合わせて4個ばかり溜まってしまったんで、まぁ、4個イチでもやって、まともなレンズを1本でも組めればめっけもん☆とばかりに、後ろ玉をはずす工具まで新調して、全て光学エレメントを群単位までバラシ、来週以降ご紹介するナゾのレンズともう1本、この黒のSマウントのものに組み上げようとしたのですが、実は開けてビックリ玉手箱ではないのですが、このNikkor50mmF2というレンズは、初期~前期"H・C"銘のものと、後期~末期の"H"銘のものとでは、構成は同一とは言いながら、中の部品形状が全く異なっていたのです。
特に今回組んだものでは、肝心要の後玉の貼り合わせユニットの被写体側が全く異なる形状で、この最後期型の鏡胴に前期の後玉をねじ込もうとしても途中までは入るのですが、中玉と絞り羽根アッセンブリのクリアランスを保つ部分が、本体側にあって、一方、レンズ側も前期型は中玉を土手で囲むようにスペーサ的な部位があるので、どうやっても、所定の位置まで入りません。
そこで、当日、友邦ドイツからUボートで到着した?超硬バイトの極細中グリ刃で以って鏡胴内部のクリアランスを取る部位をキレイに削り落とし、レンズ側にクリアランス保持部位の有る、前期モデルのキレイな後玉ユニットを挿入し固定したワケです。
ただ、それでは、外からみたら、何の変哲もない、黒いSマウントニッコールですから、ここで当工房の得意技術を一点投入。
それは、レンズ先端のリングにご注目。良く見ないと判りづらいのですが、このパーツはキズだらけだったんで旋盤で一回皮むいてから、工房得意の時代ニッケルメッキをかけたのです。
通常のニッケルメッキに比べ、シャンパンゴールドっぽく、時代がかって見えます。
これは、かつて購入したA型改DIIブラック&ニッケルのメッキ色を参考に工房で多層メッキと熱処理による界面合金化によって実現したものです。
で、肝心の写りはというと、勿論、元がニッコールですし、計測してオリジナル通りに組んで、ピント基準機でも、比較のメーカーコンプリート品と同一の合焦性能を持つことを確認し、レーザー光測定で光軸ずれが無い旨確認してからフィルムで試写しましたから、まともに写らない筈がなく、ハイライトはフレアッぽく、そして、シャドーはくっきりと締って、という、なかなか味の有る写りになったと思います。
テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真
- 2008/07/15(火) 00:22:58|
- Sマウント改造レンズ
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七夕とは何の関係もないようですが、今宵のご紹介は、再び当工房附設秘宝館から、意外と有りそうで、無さそう、買ってびっくり玉手箱のどっきりレンズ、キャノンがRF機当時、世界最強のハイスピード広角レンズとして世に送り出した35mmF1.5です。
このレンズは今を遡ること昭和33年に発売されました。当時のお値段が35000円、今の中古相場の半分以下にも思えますが、初任給がせいぜい1万5千円とかそのくらいだった時代ですから、今の貨幣感覚に直せば、だいたい50万円弱の超高級レンズということになります。
このレンズの凄いところは、RF界のトップメーカーエルンストライツ社が35mmではやっとF2のズミクロンを送り出した年だというのに、それを遥かに越える明るさを持つコンパクトなレンズを送り出してしまったのです。
ライツは昭和36年になって、やっとズミルクス35mmF1.4を送り出し、F値の上では0.1優位に立ったのでした。
しかしながら、このズミルクスは開放ではコマフレアが多くて、ピントの芯が見当たらず、個人的には、F3.5以下に絞ってやっとまともなレンズになるというカンジで、曲りなりにも開放から、何とか使い物になる、このキャノンのハイスピードレンズの敵ではないと思いました。
キャノンの35mmはこのF1.5のほかにもう1本、キャノンがRF用としては最後期に開発し、開放からズミクロン同等以上のシャープネスとコントラストを誇る昭和38年発売のF2IIを持っていますが、同じF値、例えばF5.6で較べれば、このF1.5のモデルに軍配が上がると思いました。
確かに今のレンズに較べると、球面収差が大きく、開放で日中に撮ったりしようものなら、コマフレア大会になってしまい、何とかピントの芯こそは判るものの、ベス単か調子の悪いタンバールの如き、ソフトフォーカスレンズになってしまうため、撮るシーンを選ばねばなりませんが、このレンズの本領発揮は日没前から、灯りの点る時間帯です。
特に路地裏の夕暮れスナップには、このレンズは重宝します。
下のカット二枚は、新宿某所で夕暮れ時にこのレンズを買ってすぐ性能テストに持ち出した時のものですが、同伴機のF1-ODにつけたNew FD50mmF1.2Lのどこまでもネオンや点光源がシャープに濁りなく描写するのに対し、このレンズは荒削りながら、人の営みというか、澱んだ場の空気みたいなものまでしっかりと拾い上げ、路地裏のうらぶれたカンジを良く掴んでいると思いました。
テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真
- 2008/07/07(月) 22:58:08|
- 深川秘宝館
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さてお立会い、今晩はまた工房の夏の新作レンズのご紹介。
何のレンズかというと、前にご紹介した、CE-Rokkor同様、ミノルタが世に送り出した引伸機用のレンズの傑作なのです。
このレンズは、国内では滅多に出ることがないため、知る人ぞ知る、電子湾夜釣りの名物となっています。
しかも、ただでさえ見かけることが少ないこのレンズを、CLE用のバリエーションに紛れ込ませるべく、MかL39マウントならまだしも、へそ曲がりエンジニアが鎮座まします、この深川の工房では、CX/Sマウント化してしまったのです。
実はこのレンズ、組み上げてから、まだ正規のフィルムによる試写は終わっていないのですが、関連団体の新宿西口写真修錬会のミーティングの際、たまたま持っていた、StoMアダプタ経由、RD-1Sでタングステンライト下で近距離の被写体を写してみましたが、シャープネス、アウトフォーカスのボケ具合い、そしてカラーバランス、ガラス製品の質感、全てにおいて高い水準の結果を残しており、早いとこ、1本撮ってみたいと言う衝動を掻き立ててくれます。
話しは前後しますが、デザイン的には、安物の一眼レフ用レンズみたいですし、しょぼいアンバー系コートにも見えますが、そこはそれ、凝り性のミノルタ設計陣が、EL-Nikkor、Compononを仮想敵と置いて開発し、ニコンもこの性能に驚き、まだまだ需要はあったガウス+オルソメター折衷型の旧El-Nikkor50mmf2.8をお払箱とし、新規にWガウス型の設計とし、El-Nikkor50mmf2.8Nを送り出すこととなったというのです。
個人的には、この前の"X"なしのものを撮影に使っても、やはりEl-Nikkorでは解像力こそ上回るものの、コントラスト、発色バランス、ボケの美しさで今一歩及ばず、Compononでは全く勝負にさえならないと思いました。
強いてライバルを上げるとすれば、おそらく世界最高性能の引伸しレンズを製造し続けていると思われるローデンシュトックの送り出す無敵のロダゴン、もしくはアポロダゴンくらいではないでしょうか。
先週末に某浅草の有名カメラ修理職人の方とお酒を飲んで懇話する機会に恵まれましたが、引伸しレンズは投射ランプの強い熱に晒されるので、貼り合わせ面などに通常の銀塩撮影用とは違った設計上の制約が求められるということを伺いました。
そういった意味では、紫外線硬化樹脂なども適宜使いながら、過酷な使用環境に耐えながら、均質な投影像を送り出すようヘビィーデューティ設計された引伸しレンズを改造して撮影に用いるというのは、とても贅沢で、意外性という点からは夢の有る遊びだなぁと思いました。
テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真
- 2008/07/01(火) 23:08:39|
- Sマウント改造レンズ
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