

今宵のご紹介は攻守入れ替わり、また新たなチャレンジャーの登場です。
このレンズは、レンズヘッド自体もかなり珍しいとされる、独Astro-Berlin社製のASTAN50mmf3.5を使った改造レンズで、出来は中の下といったところでしょうか。前回のチャレンジャーである、IVOTARの精巧さとは較べるべくもありません。
しかし、このレンズの価値は、ヘッド自体の希少性のみではなく、北京オリンピックの直前に恒例の電子湾夜釣りにて、何と、北京の業者?が出品していたものを落札したことにあるのです。
それはどういうことかというと、出品者がたまたま一個だけこの改造レンズを出品していたのなら、明らかに他国製を買って転売したのだろうと推察出来るのですが、このレンズ以外にもかなり多岐に亘るタイプの改造レンズを出品しており、また「製品」の解説もやたらマニアックだったので、はは~ん、コイツは北京在住の改造マニアだな・・・とピン!ときて、もし出来がダメだったら、希少なレンズヘッドだけ活かして、当工房にて再改造すりゃイイや☆というダメモトの軽い気持ちで落札しました。
この出品者は海外発送に慣れていなかったらしく、済まないが日本に入っている筈だから、DHLにコンタクト取って欲しいとか、有り得ないようなメールを送ってきて、何度もしつこいので、いい加減飽きれてコンタクト取ってみたら、確かに荷物は北京から届いているが、住所の都区以下がごっそり落ちていてデリバリ出来ずに困っている・・・との回答。
しゃぁないやっちゃと思いつつ、FAXで必要事項を記した紙を送付し、そこから待つこと4日、注文してから一ヶ月弱かかって手許に着いたのが、オリンピック閉会式後のことでした。
まぁ、そんなこんなで相当ズボラで杜撰な送り主(=製造者)の人物像が浮かんできたので、荷物を開梱して手に取った時は、安物のロシア製インダスター22か何かの鏡胴部品にさりげなく固定しているこのレンズを見た時、あ~ぁ、高い買物しちゃったかなぁ・・・と一瞬後悔にも似た疑念が頭をよぎりましたが、とにかく実写せにゃ判らんってことで、夜まで待って、仲間内の溜まり場である、新宿西口の南蛮茶店に出かけ、店内で他のレンズと共に実写テストを行いました。
で、下がその結果なのですが、3群4枚のエルマー型?にしては、相当ソフトな写りで、目立たないレベルのクモリが悪さをしているのかも知れません。ただ、室内で色々な距離を変えて撮った限りでは、傾斜カムの出来もまずまずらしく、全カット、開放からピントは来てました、立派なものです。
まぁ、こういうシャープでないレンズを好む人も多々居ますし、使い方によってはムーディと言えなくもない写真も撮れそうですから、マイクロニッコール教の信者である工房主は、まぁこんなもんかいね、で済んじゃいますが、北京の改造人間のマニアックさが垣間見られたことが何よりのレンズでした。
さて、この独中連合軍に対し、深川精密工房はどんな改造レンズを繰り出してくるのか・・・まぁ、予告編を兼ねてちょっと囀っちゃえば、正反対にシャープなレンズを持ってきてます。
to be continued.
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- 2008/09/30(火) 23:40:24|
- 深川秘宝館
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さて、今宵は、旧同盟国であったドイツからの挑戦者に対し、深川精密工房がこれまでの改造技術の蓄積の集大成として迎撃用に急遽製造した、Bolex用Switar2"f1.4改Mマウントです。
実は、このレンズは、IVOTAR2"f1.4がやってくるまでは、防湿庫の底で透明ポリオレフィンのフィルムに包まれ、永い惰眠を貪っておりました。
というのも、このBolexマウントのレンズというのは、手許に着いて初めて判ったのですが、オリジナルのスクリューマウント付きだと、フランジバックはライカ、ニコンSに比べ大幅に短く、しかも、お尻の直径が大きく、L39はおろか、Mマウントの内径にも入らないほどなのです。
こうなると、レンズ改造の基本セオリーからすれば、ヘリコイド付きでは改造不能、と分類されてしまいます。
また、精密機械の国スイスで製造されただけあって、レンズの分解、ヘリコイドと光学系の分離などということも一筋縄にはいきません。ネジをはずしてもリング回しても、忌々しい小径ネジの着いた太いアルミ削り出しのマウント基部は一向に外れる気配が有りませんでした。
かくして相当執拗な改造マニアの工房主も、暫くは改造を諦め、たまに何か閃いては夜な夜なレンズを防湿庫から取り出し、ためつ眺めつ、エイャっと小さく気合いを上げ、引っ張ったり回したりしても全然事態が改善に向かわないので、放って置かれたのです。
しかし、先般のCマウント改造の見事なIVOTARが挑戦状として送られてきて、実写性能も息を呑むようなものだった以上、黙って引き下がるわけにはいきません、ましてや、ドイツ人がイギリス製のレンズヘッドを使って高性能レンズを作ってしまった以上、こちらも、そのひねりというか、ユニバーサルな創意工夫に対する返礼を行わねばなりません。
そしてふと閃いたのが、かつて、海軍の主力戦闘機、零式艦上戦闘機の主力武装はスイスエリコン社製の機関砲だったという事実。
そこで、短絡的に、ぢゃスイス製レンズヘッドってことね、と、前々からバラしたまま放っておいたALPA用のマクロスィターに新たなマウントを真鍮塊から刳り貫いて作るのと、ダメもとでBOLEXスィターを分解して既存のヘリコ&マウントにくっ付けるのとどっちがラクか・・・と考え、いちかばちかでBOLEXの方を分解する方にかけたワケです。
ここまで覚悟が決まると行動は早い、今まで工房の片隅にはあったものの、素材の真鍮、アルミは切っても、絶対にレンズ本体には使わないようにしていた、糸ノコの登場です・・・
糸ノコで兜割り宜しく、アルミ削り出しのマウント部を縦に割って、そしてペンチで引っ張ったら、すぽ~ンってなカンジでレンズヘッドのみ外れました。勿論、かっこイイ、絞りリング付きです。
そして、ここで初めてフランジバック、メカニカルバック測定です。
ピント基準機を使って計測してみると、まぁフランジバックは相当キツく、マウント座面から3mm程度しかありません。
そこで、おっかなびっくり、レンズのハウジング底部を削ってはピント見て、削ってはピント見てという試行錯誤を繰り返し、カムもドンピシャに合わせて無限でのセットは完了しました。
しかし、その夜、新宿の溜まり場の南蛮茶店で店内テスト撮影を行ってみると、近距離が激しく前ピンになってしまう・・・
まさかピント基準機に不調で無限がおかしいのでは・・・と不安が胸をよぎりましたが、次の休日の昼に屋外、屋内で精密チェックやってみたら、何と焦点距離が48mm弱しかない・・・そこで傾斜カムを切って問題解決です。
で、実写の作例ですが、最初のものは、南蛮茶店の店内で1mちょい先の椅子の背凭れの彫刻を撮ってみました。
合焦部は、極めてシャープで質感再現性にも優れていますが、f1.4のコンパクト大口径だけあって、ボケは相当クセもので、挑戦者IVOTARとで、後ボケ対決、人気投票やっても面白そうな球面収差と非点収差の夢の競演状態になっています。
二枚目は二件目の新宿ゴールデン街のスナックのカウンターでたまたま居合わせた喫煙者の方に目印として、たばこをつまんだ手を供出して戴き、これも1mそこそこの距離で撮影したものです。
これも合焦部である手は柔らかくも芯のしっかりした描写になっていますが、後ろは抽象絵画のフォービズムか何かの壁画みたいにデフォルメされてしまっています。
さぁ、皆さんは深川&スイス連合軍と英独連合軍、ご注文はどっち!?
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- 2008/09/25(木) 23:36:46|
- Mマウント改造レンズ
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さて、今宵は少々目先を変えて、改造レンズながら、秘宝館の収蔵品からのご紹介です。
このレンズは、当サイトを見たというドイツのマニアないし、セミプロの業者さんから、オファーがあったものを比較用に購入したものです。
お気付きの方はもうお気付きだとは思いますが、当工房の屋号は、日本語の他の欧米語表示が、何故かドイツ語表記になっています。
これは、欧州のブラウザにより引っ掛かり易くするため、一計を案じたものです。
その甲斐有って、電子湾で何回かレアレンズを買ったことの或る出品者から、「あんたんとこのサイトを見て、自分でも出来ると思い、CマウントTV用のCooke Kinetalをライツ純正のヘリコイド&マウントに据え付けたものを作った、大幅に値引きするから、短時間しか出さない、Best Offerのところに値段を入れてくれ」、とのメッセージを貰いました。
ここの業者から買ったレンズはどれも状態が良く、値段も適価だったので、まぁ、有象無象の跳梁跋扈する電子湾内ではかなり信頼出来る業者だと思っていましたし、提示された大幅値引きを鑑みれば、レンズヘッドの値段はだいたい判っているので、ライツのオリジナルパーツ使って、手間かけたら、自分ではや~だよ!ってなレベルのマージンしか残らないんで、相当、お買い得だと思いました。
それに何よりも、技術で勝負の深川精密工房が、挑戦者からのオファーを受けないワケにはいきません。
そこで、早速、購入し、待つこと10日間、手許にレンズがやってきました。
Cマウントレンズと聞いていたので、親指くらいの可愛いレンズヘッドと思っていましたが、あにはからんや、かなり大きく立派で、押し出し感の有る鏡胴でこれも英国のレンズの伝統に則って、精緻な刻印が数箇所に刻まれていました。
ライツのMエルマー50mmf2.8のマウントパーツと合体した姿は、ちょっと見ると、超レアなプロトタイプの純正ライツレンズと言っても通ってしまいそうです。
う~ん、実写性能のみならず、見た目のマニアックさ、美しさまで追求してくるとは、当工房の運営理念とも相通ずるものがあり、相手のやる気をひしひしと感じざるを得ませんでした。
また、レンズ構成については、売り主曰く、4群6枚のWガウスタイプとのことでしたが、羽根の位置がかなり後ろに位置していること、絞りより前が一枚多く見えることから、コンパクト設計でf1.4を実現するために前群を一枚多くした5群7枚構成でないかと思いました。
で、肝心の実写ですが、この明るさを活かすため、シェイクダウンテストはいつもの溜まり場のすぐ側の新宿西口の路上です。
RD-1Sに装着し、感度ISO800で試写してみました。勿論、全コマ開放での撮影です。
まず一枚目のカップルの後ろ姿ですが、女性のしなやかなウェーブがちな髪も、男性の白い木綿のショルダーのストラップも程好いシャープネスとナチュラルな発色で質感を良く捉え、とても好感持てる写りになりましたが、ただ、後ろはかなり渦巻き系で背景の若者達が非点収差の影響でムンクの「叫び」のようにフワーと渦巻いてボケています。
そして2枚めですが、これは自発光式の屋号表示板の上に魚類の漢字名を書いた湯呑みをモチーフとしたオブジェを載せた看板ですが、これも一字一字、くっきりと捉えるのみならず、素材の光沢や、質量感まで巧みに捉えています。しかし、後ろは非点収差と球面収差が程好くミックスされ、なかなか味の有るボケを形作っています。全体の発色バランスも極めてニュートラルです。
こうして見てみると、カッコもなかなか素晴らしいし、使い方によっては、独特の立体感を活かした面白い画が撮れそうな優秀な改造レンズだということが判りました。
そして、何よりも、今まで手を出してこなかったCマウントレンズがこれほど使えるものだと気付かされたのが大きな収穫だったと言えます。
では、この海外から遥々やってきた、異形の改造レンズを素直に褒め称え、深川精密工房は、潔く参りましたと降参するのか・・・
いいぇ、答えはノーです。
このレンズを入手して以来、今まで、Cマウントレンズはフランジバックがライカ規格よりもまだ短く、またイメージサークルも小さ過ぎるので、たとえRD-1S専用でも改造は出来ない、という通説が覆されたワケで、当工房でも長いこと眠りについていた、BOLEXマウントのスーパーレンズの改造に急遽取り掛かり、これに成功したのです。
To be continued....
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- 2008/09/17(水) 00:31:29|
- 深川秘宝館
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今夜の趣向はまた、工房の作品、夏~秋にかけての新作レンズのお披露目です。
実は、このレンズは先のフォコターよりも前に完成していたのですが、小心者の小生は、ここで紹介してしまうと物の値段が高騰してしまう・・・という危惧を抱き、何やかんやでお茶を濁し、登場を遅らせていたというワケです。
しかし、このタイプのものを含め、既に2本、追加での手配が終わったので、満を持しての登場です。
このレンズ、何かに似ていると思いませんか・・・そう、だいぶ前に登場した、同じ英国製のRANK TAYLER HOBBSON製のCOOKE ENTAL2"f3.5鏡胴の長さこそ違え、佇まいはそっくりです。
端正かつ重厚な真鍮削り出しの鏡胴に入念な厚めのクロームメッキ仕上げ、そして、大英帝国のレンズここに在り!と強烈なアイデンティティを主張する精緻な刻印です。
性能さえ出てりゃ、アルマイトだろうが、エンプラだろうと関係ねぇ・・・と嘯く、昨今の引伸レンズ達に対する強烈なアンチテーゼにも思えてきます。
このレンズは英国のレンズつくりでは、RANK TAYLER HOBBSONに並ぶ老舗、1830年にロンドンに創業したROSS社が40年代後半に発売したと思われる引伸ばしレンズをL39マウントに改造したもので、構成は恐らく3群4枚、一枚目が貼り合わせの逆テッサータイプと思われます。
ところで、このResoluxという名前は、Resolution「解像力」+x「ex,並外れた」の造語です。
解像力だけなら、ELニッコール、Componon、そしてRodagonと並みいる強豪が存在するのに、大した自信です。
そこで、改造が完了してから、早速、半信半疑、深川の住まいから、道すがらシャッターを切りながら新宿へと向かいました。
最初のショットはたまにテスト撮影する、西口駅前の「思ひ出横丁」です。丁度、外国人ストリッパーを都内見物に連れ出した工藤ちゃんみたいなシチュエーション(探偵物語より)だったので、遠慮なくパチリと戴きました。
そして、二枚目のカット。これが実は凄い画像なのです。こういう肌の露わな女性は概して用心深いですから、いかな静かなベッサといえど、シャッター音が聞こえて、交差点で女性に絶叫されたら、会社員生活おしまいです(笑)
そこで、そこそこ離れて撮ったのですが、何せ水玉模様が解像力のテストには最適なんで、縦長の画面を3分の1程度にトリムした画像がこれです。
黒地に白の水玉が物凄くくっきりと捉えられ、また髪の毛のしなやかそうな風合いも良く捉えられていて、今見てもクラっときてしまいそうな一枚になりました。
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- 2008/09/09(火) 23:14:08|
- その他Lマウント改造レンズ
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今宵は、目先を変えて、LレンズはLレンズでもライカ互換のL39ぢゃなくて、キャノンがプロユースに堪えうるラインナップとしてN-FD以降送り出した"L"シリーズのうちの、所有する中で最もお気に入りのN-FD50mmf1.2Lをご紹介します。
このレンズは1980年に発売されたもので、組み合わされたボディとしては、モデルチェンジ直前、機種としては、約10年間の生産を経て熟成されたF-1Nに組み合わされての市場投入です。従って、このN-FDレンズは、F-1Nから翌年9月にバトンタッチされ、同社のフラッグシップモデルとなったNew F-1との組み合わせがメインとなります。このコンビは1996年にNew F-1が製造中止になるまで15年の長きに亘り、国産最強のハイスピードレンズではなかったのかと思います。
確かにニコンも天体撮影用を主目的にしたと思われるノクトニッコール50mmf1.2を出していましたが、街撮りで、特にネオンの派手な色から電灯の淡い色調まで濁り無くクリアに描写するという用途では、個人的にはこちらに軍配が上がり、更に昼間の撮影においても、ボケが素直でより立体感が出ているように感じました。
コストパフォーマンスをも性能に加味するとすれば、今でも世界No.1のハイスピードレンズであることは間違いないでしょう。 何とならば、ノクトニッコールが5倍弱、ノクチルックスに至っては10倍ものプライスタグが付けられているのですから。
では、この赤鉢巻を巻きつけて、Lの称号は何を意味するのか。
キャノンの説明によれば、”L”は"Luxually"で豪華とか、高級を表す区分で、各焦点距離のレンズのラインナップで最上級モデルを示すということだそうです。
そして、その赤鉢巻と"Luxually"の称号を裏付ける性能、品質は何によって裏付けられているのか。
それは、鏡胴などの材質が高級であるのみならず、このレンズでは手研削の非球面レンズが後群の一面に奢られていること、そして、全"L"レンズ共通ですが、一般のレンズより高い組立て精度、そして厳しい検査基準で出荷されていること。まさにプロの酷使にも耐え、如何なる状況下でも期待された使命を果たす、という産まれもっての誓いを表すのです。
実際にこのレンズを買ってから、街撮りに連れ出すのは、夕暮れから夜の帳が下りて以降です。
特に夜のネオンサインに浮かぶ人々の暮らしざまをスナップするのが楽しくて、この人目に付かないオリーブドラブのF-1Nとの組み合わせによる、夜間遊撃撮影はまだまだやめられそうにありません。
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- 2008/09/02(火) 22:57:06|
- 深川秘宝館
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