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深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

非主流の底力~Kodak Cine-Ektar40mmf1.6~

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【撮影データ】カメラ;R-D1S Auto 絞り開放
申し訳なしと思いつつ、一週間、更新をさぼってしまいました。
愛読者各位の中で多少とも事情通の片は、ははぁ~ん、一年と経たずして、遂にネタ切れ、年末で更新ストップか・・・と良からぬ勝手な想像をされたかもしれませんが、事情はさにあらず、実は先週土曜日から今週の火曜まで一人旅に出ていたのです。

で、今週は、先週、先々週と附設秘宝館からのお宝、Cristar5cmf2のバリエーションがシリーズで登場したので、工房作品からのご紹介。

当工房では創設当時から、モーションキャプチャカメラであるArriflex35用のレンズを最小限の改造によって、L/Mマウント化することを得意としてきましたが、なかなか超えられない、ひとつの技術的なカベがありました。

それは何かと言うと、少し専門的になりますが、直進ヘリコイドで、焦点距離が51.6mm±0.5から外れるレンズの距離計連動化です。

回転ヘリコイドであれば、51.6mmよりどんなに短い焦点距離のレンズであろうと、傾斜カムを切って、連動コロとの位相を調整してやれば、距離計連動のメカニズム自体はそれほど難しくもない作業ですが、直進ヘリコイド、判り易く言えば、レンズ光学系が回転して前後しないものは、回転を利用した傾斜カムが適用出来ないことから、距離計連動カムが設置出来なかったのです。

勿論のこと、オリジナルのヘリコイドを棄て、何か別の回転ヘリコイドに移植して、傾斜カムを切って、微妙な、焦点距離による結像位置とカムの繰り出し量を調整すればイイのですが、残念ながら、この種の加工を行うと、Arriflexのハンサムなレンズ達は一様に不恰好になってしまいます。

このような事情から、この超レアでハンサムなアメリカ産まれの銘レンズは、距離計連動化加工も施されることなく、暫し防湿庫の肥しになっていました。

しかしながら、先のCooke Kinetal50mmf1.8の加工を行う過程でふと閃くものがあり、早速、このレンズの実用化にトライすることとしたのです。

そのアイデアの骨子と言えば、まさにコロンブスの卵的な発想なのですが、直進ヘリコイドを回転ヘリコイドに作り直した上で、いつものように傾斜カム加工を行えばイイ・・・というものでした。

実際にレンズを金物も、光学系も全部ばらして、クリーニング、必要に応じPTFEグリスアップ等を行い組み直したあと、直進ヘリコイドを回転ヘリコイドに改造しましたが、このレンズの場合は、新たに、「抜け止め」を新規設計の上、加えた以外はそれほど難度は高いものではありませんでした。

分解清掃した結果判ったことは、4群6枚の典型的オーピック型でメニスカスのRからしても、薄いアンバーパープルのコーティングからしても、かなり高性能な新種ガラスを惜しげもなく投入したのだろうということでした。

そして、この新作レンズのシェイクダウンテストは築地~浅草という当工房の二大テストフィールドをハシゴすることとしました。

では、早速作例を見ていくことと致しましょう。

まずは一枚目、これは3時前の築地でそろそろ日が西から水平よりやや上くらいの角度で射してくる時刻なのですが、いつも写真を店先で撮らせて貰っている鮮魚店大将が、何か店員とか奥方に聞かれてはまずい内容ででもあったのでしょうか、わざわざ店の表まで出て、携帯で何かしら会話しています。

逆光でシルエットになりかけた描画の中でおやじの禿げ頭の肌色の反射光が妙に生々しくイイ案配です。後ボケもなかなかまともで宜しいでのではないでしょうか。

続いて二枚目、舞台は変わって浅草です。
この女性が我々の仲間内では密かにブーム?になっている謎の美少女、「沢尻メイサ」嬢です。

こんなエキゾチックな美女がせこせこと、一本100円のきび団子を焼いて売るなどというまっとうな商いをやっているなんて、まだ日本も捨てたもんぢゃありませんぜ。

髪の毛の一本一本までキレイに解像しているのに、全体としてはカリカリせず程良く柔らかめな描写で、前ボケもふんわりしてなかなか宜しいのではないかと思います。

そして、ラストの3枚目、ここも同じく浅草です。
或る程度撮って安心して、舟和の二階で粟ぜんざいなんか頂いてお茶なんかしばいていたら、もうすっかり日も落ちてしまいました。
ここからはISO800での撮影テストモードです。
赤提灯街でも行って、幸せそうな無辜の人々の笑顔でも撮ろうかいなと思い公会堂のウラというか、伝法院通りを歩いていたら、威勢のイイ、人力車の兄ちゃんが結構体格のイイ男性客2名サマを載せて走り疲れたか、伝法院の前で車を止め、説明なんかしている画です。

被写体の後ろに自発光の看板だかが有って条件としてはかなり厳しいですが、男性の顔の表情までくっきり捉えています。
また、人力車後ろのLED赤色案内棒も艶かしい発色でなかなか宜しいのではないでしょうか。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/12/27(土) 00:53:51|
  2. Mマウント改造レンズ
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跳躍への序曲~Fuji Cristar Type3 proto.~

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さて、今宵のご紹介は、年末大特集、更に「写真工業12月号別冊 世界のライカレンズ PartIV」をお買い上げ、、もしくはご関心を寄せて戴いたマニアの方々への謝恩企画として、たぶん本邦初公開、というか、世界初公開だと思いますが、Fuji Cristar 5cmf2 Type3 試作品の実写作例付きでのご紹介です。

先週のご紹介では、富士写真フィルムが1949年に自社の光学技術を問うべく、世に送り出したCristar Type1試験販売品の実物写真と、その作例をご覧戴きましたが、レンズの造作自体は、オリジナルのズマールも先輩格のSun Sophia5cmf2に比肩、或いは凌駕し得る素晴らしいものだったのですが、その写りたるや、自社で光学ガラス熔解まで手がけ、シネキャメラ用Cristarの技術を民生用に転用したという会社側のアナウンスに首を傾げざるを得ないような惨憺たる写りでしたが、その失敗?を踏まえ、同社は少なくともその後、試作?を含め2つのタイプのCristar5cmf2を製造しています。

その特徴は、前玉の大きさ、鏡胴の構造、そして、絞りの最小値で区分が出来ます。

特に先週のType1とこのType3では、全く別のレンズのようです。前玉がズマールとズミクロン並みに大きさが違うし、こちらは最小絞りがf16まであるのに、type1ではf12.5までしかないとか、メッキ仕上げ、フィルター径等々、全く共通点が見られません。

で肝心の写りですが、何よりもこれが違います。

早速、作例をご紹介しながら、このレンズの素晴らしさを語りたいと思います。

カメラはこのキャノンVIL、フィルムはスーパーセンチュリア100、絞りは全て開放、ロケ地はtype1同様、築地場外市場界隈です。

まず、一枚目、これは、場外市場でも外れに有る、市場の塀際にくっついた長屋のような建物の一角にある魚屋さんで、前回と異なり、土曜日の2時前という、一番の書き入れ時に行ったものだから、どこもかしこも人、人、人・・・このお店でも、ベテラン然とした売り子のおじさんの気合い入った実演に老若取り混ぜたご婦人達が群がり、特売品を更に有利な条件で買い叩こうと虎視眈々の図です。

おじさんにドンピシャ、ピント合わせて、前のご婦人達はアウトフォーカスになっていますが、わりあいとナチュラルで見苦しくないボケになっていると思います。また、画面全体の均質性も素晴らしく、店内が煌々と照明焚いているのですが、気になるフレアが発生せず、おじさんの輪郭を浮き上がらせ、立体的に描くことに成功していると思います。

そして、二枚目、まさに前ボケで評価を落としたtype1の面目躍如のためのようなカットです。
先般の日曜は開店休業ヒマな魚屋さんの前も土曜日となると、飢狼の群れの如き買い物客が殺到し、その”狼の群れ"にも幼子を連れた家族連れが居まして、まさに"子連れ狼"状態となっています。
子供は子供で、やはり"狼"の子、研ぎ澄まされた五感をフルに駆使し、"親狼"の肩に凭れていても、油断なく外敵に用心を怠りません。その鋭い索敵の目に、まさに、古いカメラを構えたアヤシゲなハンターが捕らえられた図です。

子供の目にピントを合わせましたが、ニットのセーターの網目の一つ一つが鮮明に捉えられ、また人攫いスタイルの父親の黒いパーカーの背中に西日が当っていますが、その黒い面での反射が背後のやはり黒っぽい服装の女性の服とシャープな輪郭線を形作り、目を見張るような立体感を作り出しています。しかし、特筆すべきは、前の通行人のおじさん、白っぽいベージュのズボンに白いシャツをだらんと出して、おしゃれっぽい茶のジャケツを着込んで、精一杯カメラを意識してポーズつけながら通リ過ぎていきましたが、キレイな前ボケのオブジェと化したことです。

それから、最後に三枚目、これは場外でお茶を振る舞いながら、茶葉と急須を買って貰おうというスタイルの店頭販売をしている、デモンストレーターのお姐さん~おばさん的女性が居たのですが、染めた髪の毛がちょうど良い案配に西日に照っていたので、湯茶の提供は拒みつつも、振り返りざまに一発キメた図です。

女性の髪の毛で露出の見当をつけたのですが、案外、お客役のおじさんのもこもこダウンのジャンパー状の上っ張りが西日を反射して、飛ぶ寸前になっています。
しかし、デモンストレーターの女性の手を含め、白っぽいオブジェは全て飛んでしまっています。
このあたりが冬の、午後になると低い角度でさしてくる太陽光を背に撮る時の難しさだと思います。

このカットで距離をおいたバックのボケが登場しますが、後ボケに関しては、非点収差のコントロールにまでは設計余力がなかったのか、二線~崩れ気味のあまり宜しくないボケが垣間見えます。

しかし、Type1とこのType3どっちが好きかと問われれば、1950年代前半当時の国産、いや、世界の50mmf2クラストップレベルの性能を持つ、このType3に否応無く軍配を上げざるを得ないでしょう。

この初代から見れば飛躍的に改善された描写性能が、デジタル時代になっても燦然と輝く、フジノンのシリーズへと続いていくのです。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/12/14(日) 22:46:49|
  2. 深川秘宝館
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国産レンズの曙光~Fuji Cristar 5cmf2 First Proto~

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さぁいよいよ年末に突入というか、気がつかないうちに周りは師走になっていた・・・というカンジの年の暮れです。

当深川精密工房も、年に一回の棚ざらえということで、附設秘宝館からとっておきの秘宝を二週連続シリーズご紹介。

このレンズは、先に写真工業出版社から発売された「別冊 世界のライカレンズPartIV」の本編、そして特別読み切り記事でも紹介しましたが、富士写真フィルム(現フジフィルム)が1949年に発売したズマールコピーと言われる4群6枚のWガウスタイプの沈胴レンズです。

距離表示はフィートのみ、絞りは最小12.5までしかなく、デザイン、特に絞りリング周り、更には、マウントの繰出し部の距離インデックスが刻印してある部分のなで肩いかにも戦前のノーコートのズマールを彷彿とさせ、それを手本としたことを窺わせます。

しかし、細部に亘って日本人固有の美意識というか、今に繋がる、初めは模倣から出発しながら、小改良を積み重ねオリジナルを換骨堕胎していくといった商品開発の痕跡があちこちに見つけられます。

たとえば、マウント部の仕上げはライツが厚めのクロームもしくはニッケルメッキがかけられたブライトからややヘアライン目が残る光沢仕上げなのに対し、こちらは、極めて白色度が高い美しいクロームメッキの梨地仕上げとなっていますし、光学系を収納し、沈胴時はマウント内に収納されてしまう、シャフト部も、ライツのものは、初めからピストン運動による擦り傷を考えて、ヘアライン目が目立つ厚手のクロームもしくは、ニッケルメッキなのですが、こちらは画像でも一目瞭然の通り、顔が写るくらい磨き上げられたミラーブライト仕上げとなっています。尤も、このおかげで沈動するたびに擦り傷をつけやしないかと、冷や冷やしてしまいますが。

実は当工房には、記事で紹介した通り、もう一本、試作品と思しきCristarが所蔵されており、この個体とも、勿論、量販?品とも細かい点が異なります。
たった2000本かそこらしか製造していない筈のこのレンズでなぜこうもバリエーションがあったのでしょうか。

おそらく、富士写真フィルムは、Cristarシリーズ(35mm、50mm、100mm)を発売してから、色々とユーザの声に耳を傾ける一方で、ニコンがボディは未完成ながら、レンズ自体は1946年からライカマウントの高性能レンズNikkor5cmf2をリリースし、また戦前から35mmカメラを製造しながら、ニコンからレンズ供給を受けていたCanonも、1947年発売の自社開発のズマール型Wガウスのセレナー50mmf2を1949年にはf1.9に改良してきたことから、主戦場となる欧米マーケットへの輸出向けシェア確保策として、同社としても絶えざる改良を迫られたのかも知れません。

で、この貴重なレンズ、写りはどうかというと、はっきり言って、ダメです・・・深川精密工房で組んだ、ニコンSマウントのキャノン5cmf1.8の一号機には勿論、二号機にもぶっちぎりで負けます(笑)

また、先にご紹介した、日本のズマールコピーの大先輩、サン・ソフィア5cmf2とも希少性、外観の美しさならいざ知らず、肝心の描写で較べたら、あらゆる観点から勝負になりません。

では、早速作例紹介いってみます。勿論、全部開放です・・・開放から使えないレンズは存在する価値はありません(爆)
カメラはコシナイコンZM、フィルムはスーパーセンチュリア100EX24です。

まず一枚目、これは昼下がりの閑散とした築地の場外市場の店仕舞いモードに入った商店街をお散歩キブンで闊歩する母と娘です。
かなり輝度差があるカットでしたが、歩道の反射も娘さんの白いバッグもフレアにならず、何とか頑張っています。また、中心部分は、お母さんの緑色の服の皺のシャープさからも解像度の高さが窺われます。しかしながら、周辺が甘い、コントラストが低い・・・これでは、コーティングレンズの名が泣いてしまいます、サン・ソフィアはノンコートでももっとくっきり発色します。

続いて二枚目、これはまだ健気にも店を開けていて、来るか来ないか判らないお客を待ち続け、自分も含めた物好きカメラマンの餌食になり続けていた、「築地広報部」ともいえる魚屋さんでのカットです。
やはり周辺が甘いのと、通常は古いレンズは内面反射の関係から低照度域になってくると、コントラストが上がってくるのですが、全然ダメです・・・店先の蟹など、乾いてしまったかのようですし、青い陳列台も明日にはペンキ塗り替えが必要なほど色褪せてしまったかのようにも見えます。

そして、3枚目、これも2枚目の健気な魚屋さんのお隣を撮ったものですが、画面中央付近の赤いチェックのテーブルクロスみたいなシャツ着た恰幅良い中年妊婦みたいなおばさん店員はかなりシャープに捉えていますが、やはり周辺にむけて解像感が甘くなっていきます。また発色も薄くて、かなり物足りない感アリです。しかし、店先の白熱電球のフレアが膨らまないのはさすが・・・

ただ、唯一救われたのは、画面中央から放射方向で50%くらいまでが実用的な解像力なのでしょうが、甘くなるとはいえ、安物レンズや、壊れたレンズ、或いはもともとイメージサークルの小さいレンズをムリにこき使った時のように、周辺が崩れたり、片ボケしたり、見苦しい破綻は生じませんので、やくざなスナップばかり撮る小生の使い方からすれば、周辺はどうせオフフォーカスになって同一焦点面ではないので、あまり実害はないのです。

まぁ、ダメな子ほど可愛いと申しますが、色々ケチはつけましたが、使い方を考えて上手に使えば楽しい宝物というところです。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/12/07(日) 23:01:21|
  2. 深川秘宝館
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プロフィール

charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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