深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

A return of Oscillo Raptar by Ektar100

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【撮影データ】カメラ Zeiss Ikon ZM ISO100 露出補整0 Kodak Ektar100 全コマ開放
さて、思ったよりソフトだ、とか、地球の裏側で公開された玉の方がシャープで別物みたいだ、とか、解像力番長を自認する工房主人としては、あまり嬉しくない賛辞もちらほら聞こえますし、一日平均100アクセス近くあるのに拍手もないことから、満を持しての臨時更新、お気にのEktar100での作例もババァーンと大公開です。

まず一枚目。
これは竹富島での八重山諸島海開きセレモニーの前日、ロケハンがてら、牛車に乗った際、竹富島観光(有)さんのヤードにて、スタンバイ状態の牛車と三線奏車兼御者のおじさんが居たので一枚撮らして貰った図です。
ここでも、被写体は日陰とは言え周りは日光を反射しまくら千代子状態の白い砂ですから、当然フレアは出ます。
しかし、水牛の毛のディテールの描写を見れば、こちらも只ならぬ解像力を秘めていることが判るのではないでしょうか。

そして二枚目。
牛車待合室兼土産物売店の入口に飾ってある、子どもの手慰みが如き素朴なシーサー像です。
ここでは、日なたで結構照り返しも強かったのですが、被写体の反射率特性によるものか、あまりフレアっぽくならず、テラコッタの地肌のテクスチャを良く捉えています。
おっと、何故か後ろで立ち木が渦を巻いてしまったようです・・・これは想定外でした。

それから三枚目。
一旦、牛車で集落を巡り、撮影スポットの見当をつけてから、再度、徒歩で回ります。
その中で、萬古焼とも信楽焼とも見えるような不思議な造型のシーサーが門扉を守っていたので、ここで一枚戴き。
ここでは、午後の強い陽光を浴び、陶器の光る地肌は燦燦と輝いていましたが、輪郭も色も驚くほど忠実、いや、肉眼で見えていた以上にくっきりと捉えていました。
背後はシネレンズとは異なり、印象派の油彩並みにデフォルメされてしまっています。

まだまだの四枚目。
またしてもシーサーかよ、と呆れられるかも知れませんが、カラフルなシーサーを塀のあちこちに並べた陽気な、観光客相手のレストランが有ったので、その中で一番ハデなシーサーに「ハィ、チーズ!」
ここでもかなり強い陽光を浴び、デジタルなら色がふっ飛びそうなシチュエーションでしたが、それでもEktar100は元々の配色のみならず、南の島の雰囲気まで写し撮ったかのような艶やかな発色で描写しています。
前ボケのハイビスカスも、ローライディスタゴン35mmf1.4には遠く及ばずとも、決して悪くはないカンジです。

最後の五枚目。
島内を徒歩で徘徊していると色々なシーンに出くわしますが、小生の沖縄での三大モチーフのうちのひとつ、井戸が有りました。
しかも鋳鉄が強い潮風でイイ按配に錆び出している上、「この水は飲めません」などと生活臭プンプンの手書札まで付いている!
こりゃ、撮るしかねぇ!と意気揚々と撮ったのがこのカットで、井戸本体はかなりシャープに写っていますが、背景はやはりここでも、印象派の絵画の如く、樹木がぐるんぐるんに回り出しています。

へへへ、来月中旬も沖縄行きますから、当初、スタメンに入れていなかったこのレンズ、また持ち出しましょうかねぇ・・・

では、日曜日のレギュラー更新をお楽しみに。

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  1. 2010/06/30(水) 23:46:19|
  2. Mマウント改造レンズ
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A lens with melancholic histories~Oscillo Raptar51mmf1.5 mod.M~

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【撮影データ】カメラ:LeicaM8 ISO Auto 絞り開放 ロケ地:沖縄県竹富島
さて、梅雨のさなか、降ったり止んだり、クラシックカメラ・レンズで専ら撮影する人間には、辛いシーズン真っ只中ですが、今まで一部のコアなマニア各位には存在を知られ、まだかまだかと催促されていた、工房の超大作レンズ、Oschillo Raptar51mmf1.5の登場です。

このレンズは、もう既にロンドン在住のその道の通人の方のサイトで紹介されてしまっていますから、あまり新鮮味はないかも知れませんが、個体間のばらつきや、撮影条件の違いによる描写の違いくらいは判るかも知れませんので、遅ればせながらの登場です。

屋上屋を架すような説明になってしまうので、レンズの紹介は最小限に留めますが、このレンズは、米国の核開発向けのオシロスコープの波形間接撮影装置の専用レンズと言われています。
このレンズ達の前任は、Sニッコール50mmf1.4だったとのことで、ニッコールはライツと同じ51.6mmの基準焦点距離を持つため、装置での互換を考慮し、51mmというミリ換算の焦点距離が決まり、それをインチ表示した2.04"といういかにも中途半端なカンジの表示になったのでした。

このレンズは米国が衝撃波測定のために国内各地で行った平和利用目的の小規模(150kt未満)の核実験(プラウシェア計画)で使われたものと仮定すれば、1973年が最終年とのことですから、これ以降にお役御免となって、お払い箱になったものと考えられます。

このレンズの構成は、恐らく、5群7枚、ダブルガウスの最後群の凸レンズが2枚に分割された、ズマリット型のような構成と思われます。

では、早速作例行ってみます。今回は3月に訪問した竹富島の海開き編から紹介致します。

まず一枚目。
3月21日の八重山諸島の日本一早い海開きのイベントには、様々な郷土芸能のお披露目がありました。
その中でも、この女性陣による竹富渡し節という踊りで、優美な舞にも海洋という大自然と対峙して暮らしてきた海の民の力強さが滲み出て、思わずシャッターを切り続けました。
M8の8000分の1秒でも南洋のピーカンでf1.5開放はかなりつらいものがあって、オーバー気味でしかもフレアっぽくなってしまっていますが、f1.5クラスのレンズにしてはそこそこ被写界深度も広く、解像感も有って、ISOが100くらいまで下げられていたら、もっとしゃきっとした写りになったのではないかと思いました。

続いて二枚目。
また演舞が続きます。先の古民謡に続いて、今度は新たに作ったらしい観光エンコラサ節という、籠を背負った女性達のユーモラスながらこれも力強いメリハリ効いた踊りです。
ここでもピーカンの砂浜で照り返しを受けての撮影ですから、条件的にはかなりツライものがありました。
しかも、なかなか踊りの行進が早く、慎重にピンを合わせ、いざシャッターを切ろうとすると、既に前に移動してしまうとか・・・これが前カット、当カットのやや後ピンに見える理由なのです。
砂浜での踊りでのカットで後ボケの様子が良く判りましたが、なかなか素直で好ましいボケとなったのではないでしょうか。

それから三枚目。
歌舞音曲、町長による海開き宣言、そして鳩の放鳥などが終わり、やっと海開きとなりました。
海開きとは言っても、まだそんなに水温・気温自体が高いというワケでもないので、皆、せいぜい膝からしたくらいまででお茶を濁す程度が殆どです。
そんな思い思いの水遊びの風景の中で、いかにも優しそうな、ビギンみたいな帽子を被った若いオヤヂさんが、可愛い娘さんと渚を駆け回っている様子が目に留まったので一枚頂きました。
ここでも、水面、白い砂からの照り返しは相当なものでシャッター最高速でもオーバー気味の結果となってしまっています。
ここでは、奇しくも前ボケとしてブイのボールが写り込んでいますが、フレアも相俟って、なかなかイイ感じのボケ方になったのではないかと思いました。

まだまだの四枚目。
さて、今回のハイライト、「ワタシ、フォトグラファです、トウキョーからやってキマシタ♪」とか調子のイイことを述べ、新旧のミス八重山、ミス南十字星の4名の方々のモデルになって戴き、かなり接写しました。
まず一枚めは、ミス南十字星の波照間さんというお嬢さんで、写真もイイですが、実物もなかなか性格が宜しく、素晴らしく美しいお嬢さんだと溜め息出た次第。

最後の五枚目。
本年度のミス八重山、玉城さんというお嬢さんで、こちらも性格、容姿ともに素晴らしいお嬢さんで、地方のミスというのは、う~ん、なんかイイなぁと正直感嘆した次第。
大口径での至近距離撮影による球面収差と、フレアがソフトなポートレート用としての素質を発掘したようです。

物騒な核開発に従事してきたレンズは、深川のマンションの一室で、マッドサイエンティストみたいな工房主に改造された挙句、テストもそこそこに南の島まで連れ出され、このようなお祭り騒ぎで、美しいお嬢さん方の晴れの舞台を撮影するに至り、どのようなキモチになったのでしょうか。言葉を発することが出来たら是非聞いてみたいと思った次第。

さて、次週も改造レンズ行きます。たぶん、脱力系、いや隠れた実力派、やっぱり、面白系?・・・土曜までに考えときます(爆)

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  1. 2010/06/27(日) 23:24:43|
  2. Mマウント改造レンズ
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【番外編】中野お散歩会の成果~Rollei Distagon35mmf1.4 QBM~

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【撮影データ】カメラ:EOSIDsMKII ISO 100 絞り優先AE 全コマ開放 ロケ地;中野駅北口
さて、今宵は先週の予告通り、某お散歩会にお呼ばれしての撮影行からのご紹介です。

今回使用した玉は、だいぶ以前、その雄姿のみご紹介し、心有る方や、尖鋭的なマニアの方々からは、作例が出てないのはなんぢゃぃ、けしからん、写らねんぢゃね? 或いはあまりの難しさにまともに使いこなせてないから、挙げられるような作例が撮れてねんぢゃね?とか、非難轟々?で、アップしてから暫くの間、針の蓆も同然の日々が続いたのです。
http://pwfukagawa.blog98.fc2.com/category9-2.html

では、何故、今頃になってのアップか???
そう、それは二つの条件が揃ったのです。まず一点目は一眼のアダプタ遊びのプラットフォームであるEOSマウントのフルサイズ機、1DsMKIIがやっと手に入り、そしてそれを使いこなすほど、腰の状態が良くなったこと、二点目にQBM→EOSのアダプタのうち、大口径も使える、タイプIIがやっと作って貰えたからです。

このレンズは、CarlZeissがRolleiSL35の出たての頃、1970年代前半に供給したと言われており、その硝材、コーティングはこの少し後になって出てくる、ヤシコンのコンタックス用のレンズのそれに酷似しています。

しかし、このレンズの最大の特徴は、なんと絞りが三角形に絞られていくことです。
確かに絞り値の違いで、円形になったり、多角形になったり、梅鉢になったりするのよりは、終始一貫、三角形のままの方が潔いと言えなくもありません。
尤も、そんな投げやりでずぼらな理由でなく、各絞り値、被写体との距離の複雑なパラメータで収差計算をしたら、この構成であれば三角形がベストという結論に達した、というのが真相のようです。
何せ、8群9枚のレトロフォーカスタイプで、近距離補整のフローティング機能まで装備している豪奢な高級レンズが、絞りの羽の枚数くらいケチるワケもないでしょうから・・・

と、いつもの成り行きで前置き長くなりましたが、早速作例のご紹介いきます。

まず一枚目。
これは中野駅北口で終結後、早稲田通り方面を目指し、ブロ-ドウェィと並行する裏通りを通りながら目に付くものを撮影していったのですが、佃島や、神楽坂で見かけたら、必ずシャッター切ってしまう、紹興酒の甕が有ったので、すかさず一枚戴いたもの。
ピンは手前一本目の口縁の割れたところに置いていますが、ほんの数十センチ後ろの甕のボケ具合いがえもいわれぬ雰囲気になったので、思わず気を良くした、幸先の良い一枚目でした。

そして二枚目。
裏通りとも路地ともつかない道をメンバーで三々五々、つかず離れず歩いて行くと、モルタル作りのクラシックな店構えに蔦ではない蔓状の植物を生やした何とも面白い建物が有りました、しかも看板には、「新鮮蔬菜」とか、神田の路地裏とか、築地の裏通りくらいしか目にしない看板です。
早速、ここで一枚頂き、遠景に若い小姐がたまたま写り込んでしまったのはご愛嬌です。
このサイズの画像では良く判らないかも知れませんが、この往年の超高性能レンズ、現代の最高性能を持つデジ一眼とタグを組み、シネレンズもかくやあらんばかりの解像力を発揮し、この建物のモルタルのうねりとか陰影のようなものをかなり細密に捉えています。

それから三枚目。
また暫くこの路地を歩くと、突き当たりのようなところが右に開け、夜の営業向けでしょうか、何ともサイケなデザインの非常階段を配した雑居ビルが有ったり、何十年も手入れがされた形跡の無い生え放題の植え込み前に派手な自転車が放置して有ったりします。
その商売女のすっぴんみたいな繁華街の午前中の顔が面白く、一枚頂き。
背景の茶色いビルも、植え込みの雑草の発色も目で見たのとそれほど違和感ありませんが、自転車の毒々しいまでの赤の発色が印象的でした。

続いて四枚目。
この路地裏のちょっとした広場で目を左に転じて見ると、宵から営業と思われるショットバーか何かの看板が有りました。
決して上手くもおしゃれでもない壁画ですが、この殺伐とした路地裏では、むしろ飄々としていて、何故かほっとした気分にさせてくれるから不思議です。
青系統の発色と近距離補整の性能も試したかったので一枚頂き。
ピンは一杯やってゴキゲンの黒人客?に置いていますが、いやはや、被写界深度の浅いこと・・・手前数センチのお品書きはキレイな前ボケと化しています。背景のスムーズなボケも心地良いと思いました。

まだまだの五枚目。
この小路を出て、再び早稲田通り経由、新井薬師を目指し、一行は歩きます。
また別の路地に足を向けると、年代ものの木の看板とその下の朝顔の鉢植えが目に留まりました。
時代を経た看板と瑞々しい花・・・これだけで絵になると思いますが、このディスタゴンの極めて浅い被写界深度は、更に見るものに想像する余地を与えてくれるのではないでしょうか。数本の朝顔の花弁のうち、ピンを置いた一枚のみがシャープに捉えられ、あたかも見るものにこれから物語を語りかけるようです。

最後の六枚目。
早稲田通りに出る直前の路地、狭い家屋間の隙間から通りが見えました。
広角レンズを持って街撮りに出ると、必ずやりたくなるのが、立て位置で路地の向こう端にピンを置いて、前ボケともに距離感がどのように表現されるのか?というテストです。
今回、なかなか持ち出さない超重量機で、腰痛に怯えながら、おっかなびっくりのテスト撮影ですから、ちょいと水平が甘かったのはご愛嬌と勘弁して戴くとして、手前3~4メーター付近の敷石や苔の滑らかなボケ加減、一方、遠景の明るい道路のシャープな像、この対比にレンズの表現力の一端が垣間見られたのではないかと思いました。

今度は、是非、お気に入りのKodak Ektar100でテストしたいと考えました。また、35mmクラスで最強のシネレンズ、アストロベルリンのガウスタッカー32mmf2.3と真昼の決闘も面白いかな、と思った次第。

さて、次週は工房の作品ご紹介致します。乞うご期待。

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  1. 2010/06/20(日) 23:05:47|
  2. Rollei_QBMレンズ
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攻擊性的早期佳能~Canon 28mmf2.8L39~

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【撮影データ】カメラ:R-D1S ISO200 露出補整+1/3 絞り 全コマ開放、ロケ地:浅草
さて、世の中は暗い話題が続き、気が滅入りそうな毎日ではありますが、せめてもの息抜きにと、当工房ブログの更新です。
今日は写真展の常連でいつも弊ブログをご覧頂いている方のご好意に甘えて、ノンライツRF友の会の愉快な仲間達と、その奥義を秘めた"ディープ中野"撮影ツアーにお邪魔させて戴いたのですが、今回の更新ネタを土曜日に手間隙かけて仕込んでいたことと、途中で何故かデジ一眼が原因不明のスタックを起こし、家に帰ったら何の異常もなく起動した、という椿事もあったので、本日の成果発表は来週回しにして、今回は当初の予定通り、キャノン28mmf2.8のライカマウントでいきます。

このレンズとは浅からぬ因縁があり、実は、一番初めにクラカメ沼に沈む重しになったのです。

今を去ること12年前、タイに赴任が決まり、向こうで「人の心を揺さぶる写真」を撮りたいとか、大それた考えに憑り付かれた小生は、何を考えたか、当時、ペンタMEから丸々システム更新したライカのRシステムに加え、バルナックタイプも現地に持って行こうとか考え、新宿西口の、"浪費地獄への地図"という意味もありそうなカメラ屋にて、ライカIIIFのクロームで結構キレイなヤツと一緒に買ったのでした。

しかし、人の使いそうもない、風変わりなカメラで「人の心を揺さぶる写真」が撮れるなんて、妄想は現地に行ったらすぐに雲散霧消、最初は面白がって使っていたRシステムも日を追うごとに出動回数は減り、だいたい、サブで持って行ったヤシコンT2か、現地で面白半分に買ったEOS888というKissの東南アジアモデルでの撮影が多くなって行ったのです。そうなると、こんな手間隙掛かるカメラなど登場の出番などあろう筈もなく、一回、現地の比較的マニアックなカメラ屋にハナシのネタに提げてっただけで、結局、現地では一本もフィルムを通さなかったのです。

そして、内地に復員して来て、新しい職場に配属になり、山口に出張の際、萩に行くので、これとT2を持ってって、それぞれ、今は亡きコニカのセピアフィルムを詰めて街撮りしたら、この輪郭もくっきりし、階調再現性も優れた銘機の性能が初めて身にしみて判った次第です。

では、このレンズの氏素性について、少々おさらい致しましょう。

この稀代の銘パンケーキレンズは、1957年、カメラで言えばL2の時代に登場しました。
個人的には、このクラシックで重厚感有るデザインは、どちらかと言うと、モダンなL型やP型、7型というより、II型のようなクローム仕上げも美しいバルナックタイプのボディにこそ似合うと思いました。

構成は4群6枚の典型的Wガウス型、f値が2.8というのは、本家ライツがズマロンの28mmf5.6時代であったことから、いかにも光学機器新興国日本の一方の雄、キャノンの本家への対抗意識、世界への飛躍への意欲が感じられるのではないかと思います。

さて、前置きはこのくらいにして、作例行ってみます。

まず一枚目。
日が傾き出した4時過ぎ、浅草の雷門近くの出口から地上に上がり、浅草寺を目指しました。
その雷門のすぐ後ろ、豆屋さんのすぐ横で、まだうら若き乙女が、氷の塊の上にラムネ瓶を載せ、呼び込みをするでもなく、ただ単に来てくれれば、代金と引き換えに冷えたラムネを渡す・・・という官公庁や外郭団体の業務内容であれば、一発で仕分けに合い、撤退の憂き目に会いそうなやる気ない商売でしたが、ただ、観光への協力姿勢は立派なもので、「お嬢さん、ラムネオンアイス、写真撮らしてもらいますよぉ」とか声かけたら、「ふぁぁぃ」とか、気の抜けた返事を返してくれたのでした。ラムネ売りが気の抜けた返事してどーする!と心の奥底でこの年端もいかない美少姐露天商を叱咤激励しつつシャッター切ったのがこの一枚。

ラムネを撮ると断っておきながら、小姐にピン置いてますので、栗色に染めた髪の一本一本が精緻に描かれているのが容易に見てとれると思います。
ちょっとオーバー気味の白いサマーニットも殆どフレアが認められないのは、古いレンズながら天晴れだと思いました。

そして二枚目。
極めて友好的かつ協力的な小姐に礼を述べ、途中、扇屋の軒先なんか寄りながら、浅草寺境内を目指します。
その途中、裏通りへの切れ目に西日が差し込んでいて、シルエットになったカップルが居たので、一枚頂き。
ちょいと、左端の半裁爺さまが珠に疵ですが、全体としては、このレンズの逆光性能の良さを表すにはもってこいの一枚になったのではないかと思いました。もっと光の入り方がきついとあたかもバケツで撒いたようにばしゃぁ!と光の筋というか、シャワーというか、そうなカンジの写りこみ方になるのです。
なお、ここでは、背景が開けているので、後ボケがよく観察出来ますが、崩れず、2線気味にもならず、シネレンズっぽい、なだらかなボケになったと思いました。

それから三枚目。
また暫く仲見世を歩き、伝法院通りに来ると、いつもの脇道コースです。
伝法院通りには、色々な屋台に毛が生えたような小さなお店が並び、それを目当てにした観光客が多く、写真撮り放題だからです。
更にその奥まで進み、AKB48総選挙ならぬ、お馬さんの一等賞を投票してお小遣いを貰うという人たちのための建物が在る地区へ向かいます。
この近傍にはオープンエアの居酒屋が建ち並び、店先ではまだ日の高い時間から、モツ煮かなんかをアテに一杯きこしめす方々がひしめいていて、カメラを向けても、カエルのつらにしょんべん、いや、へたするとピースなんかするお調子ものなんかも居て、否が応にも撮影のモチベーションが高まります。
そして、そのオープンエアの飲み屋で一番クラシックな雰囲気を漂わせていた、初音小路前の店舗前でシャッターを切ったら、俊足のリキシャマンが飛び込んできたというワケ。
本来なら、撮影の邪魔だ!!!とか、怒り狂いたいところではありましたが、面白いカンジで写りこんだので、モデルとして採用する代わり、恩赦したという次第。
ここでは、背景の店先にピンを置いていますが、前ボケも結構優しく、使い物になる、ということを実証したカットとなった次第でした。

まだまだの四枚目。
お馬遊びと日中飲酒の通りから、本題の浅草寺境内に戻ります。
その途中の花やしきの並びの通りで長屋のような建築様式の店舗で、何かしら無料試食をやっており、いたいけな子供連れの家族をターゲットとして、いかにも人柄の良さそうな兄ちゃんが、満面の笑顔で腰も低く、その食物を勧めていた様子を傍観者として一枚戴きました。
ここでは、ピンを置いている人物のシャープな描写もさることながら、背景のボケも、赤、緑そして肌色までも、キレイな発色を示し、崩れの少なさと相俟って、好ましいボケとなっていることが良く判るのではないかと思いました。

最後の五枚目。
境内を鷹の目の如くカメラを構え徘徊し、いつもの主要撮影ポイントのひとつ、コンサバティブ手動井戸のところへやって来ると、居ました居ました・・・あたかもタコ壺に掛かったタコの如く、期待していた通り、親子連れが子供に水汲みやらせて、自分達は見物としゃれこんで、記念写真なんか撮ってます。
当方も「撮らせて貰いますよ」と一声掛けてペストポジションに陣取ると、子供総出で水を汲む人、手を洗う人と俄か分業体制が組まれ、何か保健所の衛生推進キャンペーンみたいな画面構成になってしまいました。
しかし、見せて見せてという親御さんのリクエストに応じてモニターを見せたら、へぇぇ、おっきいカメラ使うとうんまく撮れるもんなんですねぇ・・・と妙に感心されることしきり。
ここでは2.5mくらいの距離でポンプにピンを置いていますが、手前の女の子、ポンプで各役割を演じる子供達全てが被写界深度に入っています。開放ながら、ベンリなものだと改めて感心した次第。

今回の感想としては、キャノン侮りがたし、たぶん、この時代のレンズとしては、最も意欲的、かつ高性能だっただろうと思いました。
何せ50年以上過ぎた今でも最新のデジタルカメラとコンビを組んでさえ、期待以上の活躍をするのですから・・・

さぁ、次回は某小隊によるディープ中野ツアーからハイライト編をご紹介致します。

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  1. 2010/06/13(日) 22:36:46|
  2. 深川秘宝館
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Die Objektive mit Strom und Drang~Astro-Berlin Pantachar50mmf2.3 mod.CX~

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【撮影データ】カメラ:Nikon SP、フィルム:Kodak Ektar100 全コマ開放、ロケ地:月島~佃島
さて、悪夢のような年中行事、「世界の中古カメラ市」の開催されたこの週末も何とか無事乗り切り、恒例の工房ブログ更新の夕べがやって参りました。

今回は、さすがに昔のようにボーナスやら、株の泡銭をあてに清水の舞台やら、スカイツリーあたりから飛び降りてばかりはいられません。

尤も、もうすぐ手許に戻ってくる、或るレンズヘッドの改造を意識して、お買い得なパーツを一個買い求めましたが・・・

余談ですが、一昨日、昨日と会場に出勤したのですが、昨日は中目黒~代官山界隈での撮影会の帰りに寄ったという整理なので、工房謹製のレンズをそれぞれM8とR-D1sにくっつけて、一ノ瀬泰三か、澤田教一もかくやあらんとばかりに首から、肩から提げて、各お店を巡回しましたが、皆さん、さすが、お目が高い・・・人外魔境のレンズは良くお判りのようで、声までは掛けてこなかったまでも、まずはレンズをじっくり凝視し、ついで、小生の顔をまざまざと見つめる・・・というパターンが結構多く、どうせなら、いたいけな女子カメラ勢にそうして欲しかったなぁ・・・と密かに反省したのでありました。よっしゃ、次の目標は、ハローキティ柄か、半ズボンのねずみ系で行くか・・・笑

さて、閑話休題、今回の工房作品紹介行きます。
このレンズは、知る人ぞ知る、珍品中の珍品、マニアには、垂涎の銘玉らしく、電子湾のはえ縄漁業でも底引き網でも滅多にかかって来ません。

しかし、ふと馴染みの欧州のレンズ売人のおっさんが、何の気まぐれか、珍しいレンズを数本、一気に売り立てやってました。しかも、皆、Buy it now!の扱いです。

速攻で2本買いました、そのうちの一本がこれ、独Astro-Berlin社製のPantachar50mmf2.3という映画撮影用のレンズで、元はたぶん、Arriより大きなBNCRマウントのMitchelか、或いはEyemo35あたりのレンズブロックだったのではないかと推定しました。

Pantacharは、先にご紹介した、キレイな対称系のオーピック型4群6枚構成のGauss-Tacharと異なり、4群4枚という貼り合わせのない、Tripletに一枚凸レンズを足したような形式になっています。このシリーズは主にf1.8とこのf2.3があり、f2.3のものは、25mmから255mmの焦点距離までラインナップが取り揃えてあるとのことです。

製造年代は、資料が無いため、推定でしかないですが、早ければ1940年代後半、遅くとも1950年の半ばくらいではないしょうか。なお、通常は"Nr."とすべきジリアル表示が"No."表記となっており、また、製造国表記が、"deutschland"ではなく、"Germany"となっていることから、英米への輸出用だったと思われます。

さて、レンズの氏素性はこのくらいにして、早速、作例行ってみます。今回は、今年の春先に近所の月島~佃島で撮った作例で行きます。

まず一枚目。
築地から晴海通りを抜け、左に曲がって月島へ入ると、暫く先に橋が有り、そこでは、大川端沿いのオフィスビルを写した舟溜まりがあります。天気が良いと、鏡のような水面に茶色の高層ビルが写り、また木陰から漁船が見えたりして、結構下町情緒溢れた画が撮れるので、うちの近所の運河沿い同様、格好の撮影スポットです。
ここでは、かなり遠距離にピンを置いていますので、シャープな結像のみが目立ち、まだこのレンズの本性は現れません。

そして二枚目。
月島で何箇所か定番の撮影スポットを回ったあと、佃島へ入ります。
ここも面白い町で、昭和初期のような木造住宅と狭い路地があちこちにある古風な街並みとバブル期の億ションと言われる超高層マンションが狭いエリアに同居しており、しかも、その新旧住民がなかなか良好な関係で暮らしているとのことなのです。
その下町のど真ん中にある隠れ家中華料理店の入口に無造作に置いてある、甕出し紹興酒の甕の行列を上から一枚戴きました。
ピンは手前列のこちらから二本目の甕の口縁に合わせています。
合焦部はさすがシャープですが、三本目、四本目・・・画面上に行くほどに甕が流れ、硬いセラミックスが、時空の裂け目に蕩けながら吸い込まれてしまっているかの如きイメージとなりました。

それから三枚目。
お店の前から、駄菓子屋兼酒屋の如き店舗の或る堤防方向に歩くと、裏通りに花を植えた鉢が吊るされていました。こういう住民各位の細かな心遣いは、どこへ行っても心を打たれるものです。
警備会社のステッカーとか、監視カメラ、警邏箱みたいな仰々しいものを設置するより、こういう、住民相互、そして通りがかりの者も含めて、心を和ませるような気遣いの方が、よっぽど防犯には役立つと思いましたが、甘い考えでしょうか。
ここでも、真正面の白いマーガレットだかにピンを置きましたが、さすが、最短に近い撮影距離ですと、被写界深度を外れた途端にぐるんぐるんに渦巻き、まさに「疾風怒濤」の四文字が頭をよぎる、ワイルドな画面構成になりました。

まだまだの四枚目。
佃中央公園を抜け、高層マンション街へ足を運ぼうとしていた時、住吉神社の鳥居のふもとで孫達と遊ぶご老人の姿を発見しました。
同行の仲間は、1m以内に接近し、かなり大胆に接写を試みていましたが、レンズの焦点距離からも程好い距離感が欲しかったので、2mほど後ろから、数カット戴き。
ここでも、中央の人物はシャープに際立っていますが、背景の民家の軒先の鉢植えは、またしても時空の裂け目へとぐるんぐるん渦巻いて吸い込まれていきます。
ホントは彼らの影が渦巻いてるところを撮りたかったのですけれど。

最後の五枚目。
佃中央公園には、さすが子供が多い地域だけあって、様々な遊具があります。
そのうちの木製の止まり木だか、平均台だかの上に仲良く腰掛けて、愛、もとい将来の夢でも語らい合う、いたいけな男の子2名が居ましたので、背景も良い案配に流れそうカンジだったこともあり、一枚戴き。
現像から上がって、フォトCDを見て、やった!!!と思いました。
まさにぐるんぐるんの回り具合、被写体の位置、姿勢、時空の裂け目に吸い込まれそうになって、身もだえする、子供達というイメージで、いかにもSFテイストの作画となりました。

普段は、シャープでボケもキレイ、画面全体の均質性を重視したレンズ作りを心がけていますが、たまには、こういう、遊び心に満ちた、デフォルメ系レンズも面白いと思いました、というか、未発表のものを含め、Pantacharは全焦点距離、アウトフォーカスはぐるんぐるんになるのだと初めて知った次第。
ぐるんぐるんは決して毒キノコ一家の専売特許ではなかったのです。

こんど、仲間内でぐるんぐるんみたいなキワモノレンズ限定の写真展でもやりたいなぁ・・・とも話した次第。

さて、次回の秘宝館は何が出てくるか、お楽しみに。

テーマ:CX mounted lens - ジャンル:写真

  1. 2010/06/06(日) 23:00:00|
  2. CXマウント改造レンズ
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charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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