深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

The most reliable snap lens from USA~Duplication Velostigmat 2"f2.8~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出+1/3 全コマ開放、ロケ地:川越
さて、予告通り、今週は工房作品のご紹介を行います。
実はこのレンズ、年明け早々の操業で完成し、その翌週には川越で新年の街の晴れがましい様子をしっかりと捉えていたのですが、公私ともに色々と出来事が有って、公開が先延ばしになっていたのを、先般の夏の浅草の様子みないなものでも、今、渇望されている「平穏な生活」のアイコンのような捉え方をして戴いた方が多かったので、世間の雰囲気とは逆行しますが、作品としてネット上公開致します。

まずは、このレンズの紹介ですが、電子湾でたびたび取引有る米国の業者から、昨年12月に入ってすぐ、マイクロニッコールみたいなキャラのレンズが好きなら、面白いのが入ったから、買わないか?とオファーがあり、送られてきた画像みたら、何の変哲もないヴェロスティグマット2"f2.8だったので、「持ってるから要んないわ」と返事したのですが、相手もさるもの、「いやいや、ミスター、このヴェロは銘板がヴェロだが、そんぢょそこらのクララスとか、パーフォレックスにくっ付いてるヤツなんかとは違って、中身はエンラージングラプターよりもっと性能イイエレメントが詰まってる複写用のスペシァルモデルだそうなんだ」とか、滔々とセールス文句を打って来たので、あ、そうか、連中は12月が年度末だし、クリスマス商戦も縁無さそうだから、とにかく売り上げ上げたいのね、と思い、あまりアテにせず、値段も格別高くはなかったので買うことにしました。

2週間ほどして着いた品物を開けてみると、確かに新品同様との謳い文句どうり、使った痕跡が無く、しかも、硝質とコーティングが先にSマウント改造したものと微妙に違っている気がします。特にランタン系の高屈折ガラスは青の透過特性が良くないので、淡いブラウンゴールド系のコーティングにするとのことですが、まさにこの個体は、先のエンラージ用というヴェロスティグマットとも異なっていました。

ひょとすると、ということで、年明け早々改造してみたのですが、ズミターのヘリコ&マウントアッセンブリに付けてみたら、か、かっこイイ・・・改造レンズというと、ショッカーか何かのおどろおどろしい怪人の姿を想像してしまう方もおられると思いますが、ローレットのピッチが若干違うことを除けば、正規品でも通ってしまうこうくらいの出来栄えです。
ただ、残念ながら、精度確保と耐久性向上の観点から、沈胴はしない仕様としました。

さて、早速作品紹介行ってみましょう。

まず一枚目。
川越には、工房主の所属する写真秘密結社「ノンライツRF友の会/新宿西口写真修錬会」のメンバー+JCIIカメラ博物館の某運営委員殿にもご一緒戴き、年明け第二週の日曜日に行ったのですが、まずは恒例の喜多院での初詣客目当てのスナップです。
11時過ぎに現地で散開し、メンバーは皆、思い思いの被写体を探して、境内を餓狼の如き気迫で徘徊します。
そんな中、川越地区固有種と思われる、目がぱっちりして鼻筋が通った色白の小々姐が居たので、親御さんがあさっての方向向いているスキに手なんか振って、笑ったとこを一枚戴いたものです。
被写体の小々姐がそれほどカリカリにエッヂ立って写ってはいないので一見柔らか目に見えますが、よくよく見れば、髪の毛の一本一本ま、襟元の人造羽毛の一本一本までR-D1sの600万画素の限界見合いで解像しています。
このカットではマイクロニッコール云々というよりは、良く整備されたゾナーみたいな写りにも見えます。

そして二枚目。
喜多院で期待通りのスナップを撮れ、気分上々の一行は、お腹も満たし、内外面から幸福になるため、馴染みのお寿司屋さんを目指しました。
その途中で、土蔵の手前に赤い南天の実がなっていたので、こんな観光絵葉書みたいな構図は逃す筈もなく、工房主にしては珍しく人物抜きでのスナップです。
右手前の実の房は非点収差の影響と思われる流れが出てしまっていますが、それでもピンを置いた一番奥の実はかなりシャープに捉えられており、奥の土蔵も、若干ニ線の傾向は認められますが、それでもイイ案配の後ボケとなり、重厚な脇役を演じています。

それから三枚目。
お寿司屋さんで、美味しいランチを戴き、またメンバー皆んなでお茶しながら放談していたら、あっと言う間に時は過ぎ、足の速い冬の日はもう傾き始めていました。
そこで、第二のスナップポイントである、駄菓子屋横丁に足早に移動し、またそこで皆、思い思いのスナップ三昧です。
もうお腹一杯ってとこで、横丁を後にし、結構面白い写真が撮れることで仲間内ではブームになっている、通称「化け猫屋敷」に向かいます。
すると先客が数組いて、その中に、いたいけな小姐達数名の組が有り、ノミやら何やらもものかわ、ネコを抱きかかえたり、頬擦りしたりしての精一杯の動物への愛情表現の模範演技です。
そこで、元来小心者で、カメラを提げていないと、同僚の女性社員にも満足に声を掛けられない工房主は、大胆にも、「あっのぉ、猫と戯れているところをブログネタに一枚撮らして貰えませんか?」などと、周りが聞いたら赤面しそうなセリフを口にして、まんまと戴いたのがこのカットです。
傾きかけた夕陽がちょうどイイ案配のスポットライトのようになり、つぶらな瞳で見つめ返してくる小姐の心の内面まで映し出しているかのようです。
しかし、この当日の象徴的なカットでこのレンズは、ラプター(米国産猛禽)ではないのに、やっと爪を見せてくれたのです。
小姐の髪、セーターの袖、そしてまんだら模様のネコの毛・・・素晴らしい解像力で余すところなく、質感を描き出しています、しかも、高解像力のレンズに有りがちな、カリカリ感がなく、この点は明らかにゾナーなどとは二味も三味も違うカンジです。

まだまだの四枚目。
ナイスショットを撮らせてくれたであろう、心優しき小姐に丁寧にお礼を述べた後、屋敷敷地内を見回したら、この小姐一行に可愛がって貰っているまだら子猫を心配そうに見つめていた同じような模様の猫が居ました。
大きさからすると、きっと母猫なのだろうと見当をつけ、気配を消しそっと近寄って撮ったのがこのカット。
実は、ここではM8+BALTAR50mmf2.3で猫を被写体として凄まじい解像力を見せつけたカットを撮っていたのですが、M8とR-D1sの解像感の違いからすれば、かなり肉薄した性能とも思えました。
ここでも、背景の雑多な景色が後ボケとしてなかなか面白い構図となったと思います。

最後の五枚目。
満足行くカットが撮れた「化け猫屋敷」を後にして、また蔵作り通りでスナップを繰り広げるべく、間道を歩いて行きました。
すると、いつも何枚か撮るコーヒー豆屋さん店頭で休んでいた親子連れと近所の犬を連れたご婦人が意気投合して、小児もその雰囲気を機敏に察知して、場を盛り上げようと、蛮勇を奮い起こし、いかにも獰猛な面構えの犬に歩みより、その愛くるしい手を差し伸べます。
しかしながら、そういった勇敢な小児の心の葛藤みたいなものは画面には反映し得ず、全体的には、冬の夕暮れのどこにでも有るような微笑ましい子供と動物のスナップになってしまったのは少々残念ではありましたが・・・
ここでは、また解像力はそれほど目立たす、白い買物袋からのフレアも有って、かなりソフトでメローなタッチの上がりになったと思います。

今回の感想としては、う~ん、やはり、米国産レンズ侮るべからず。ヲーレンザックにしても、ボシュロムにしても、勿論コダックにしても、ドイツ、英国、そして日本の光学製品と遜色ないほどの性能の製品が作られていたわけです。
これが80年以降に殆ど姿を消してしまったのは、やはり経済戦争という戦場で安くてそこそこの性能の日本製品に光学メーカーが駆逐されてしまい、別分野に企業存続の活路を見出したからなのでしょうか。
そうであれば、少し複雑な心境です。

さて、来週は攻守交替、附設秘宝館からのコレクション紹介といきます。乞うご期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2011/03/27(日) 21:15:01|
  2. その他Lマウント改造レンズ
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A pride of normal one~Kodak Retina with Heligon50mmf2~

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【撮影データ】カメラ:Kodak Retina Heligon50mmf2 フィルム;Konica Centuria100、全コマ開放
今週分は、お彼岸の帰省のため、更新アップが遅れてしまいましたが、皆様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
さて今宵のご紹介は、何を登場させようか、東武電車の中で迷ったのですが、結局、雨で撮りに行けないことから、過去に撮ったものでCDが有るものからということとして、何点か発掘作業しているうちに出てきた中から、先週がCine-Heligon50mmf2だったこともあるし、「工房主はライカマウントかせいぜいニコンSマウントのレンジファインダーしか偏愛しないんかい!?」などというご批判も巧みにかわすため、コダックレチナのノーコートヘリゴン50mmf2付きをご紹介しようと思います。

しかし、ここでまず疑問が浮かびます。ライカ形式以外のRF機にイイレンズが付いていたら、もぎ取ってライカマウント改造して、R-D1sとかM8で使いたがる工房主が何故、この珍しいヘリゴン付きレチナは現状そのままで使っているのか?ということです。

実はこのレチナは工房開設のずっと前に買っていて、元々はコダックエクター47mmf2が付いていたのですが、それをもぎ取って、MS-OPTへライカマウント改造に出してしまい、結局、その改造レンズの性能にも満足し切れず、機構だけ研究して改造レンズは同じく44mmのエクター共々叩き売ってしまって、眼のないレチナが部品庫に放置されていたのです。

ところが、珍しいことがあるもので、工房開設から2年ほど経った或る晩、恒例の電子湾の夜釣りで面白いものを見つけました。
それは、レチナ用ヘリゴンの前玉と後玉のアッセンブリだけ、というアイテムです。
はは~ん、これは、蛇腹がやられたかシャッターが直せなくなったか、或いは本体を落としたかで、価値が有るのはレンズだけと見切って売りに出したな・・・と思い、入札したら、ことのほか安く買えたものでした。

しかし、届いた前後アッセンブリをこの眼無しレチナにねじ込んで、意気込み試写してみたら、ぢぇんぢぇんピンが来ない・・・そこで仕方なく、川崎の協力工場にしらばっくれて、「このレチナ、ピンが来ないんですが直せますか?」と持ち込み、スペシャリストの腕試しをさせて貰ったということです。

ところでこのレチナ用ヘリゴン、シネ用とは構成が異なっているらしく、このシリーズの他のレンズ、例えば一番多く作られたクセノン、そして最もレアなエクター同様、実焦点距離は48mm弱で4群6枚対称の典型的プラナー型です。
また、何名かの方から質問されたことがあるのですが、このレンズがノーコート仕様であることから、戦前製なのか?ということですが、さにあらず、1946~48年頃に製造されたモデルと考えられます。
理由はわからないですが、だいぶ前にご紹介したエクトラエクター50mmf1.9同様、コダックは自社製品に何らかの意図でノーコートのレンズを特注か何かで採用していたようです。というのも、中古カメラ市でレチナを同時に何台も見る機会が有って確認しましたが、番号帯が近い個体でも、ブルーパープルの濃めのコーティングがされたモデルが殆どで、クセノンモデルも概ね同じようなコーティングがされていたからです。
修理をお願いした協力工場に念のため聞いてみたら、「全群空気面を研磨してコーティング無しということは考えられない」との回答で、更に浅草の名人にも恐る恐る伺ってみたら、やはりノーコートモデルは存在した、との回答だったので、これは真正品と考えて良いでしょう。

さて、前置きが長くなりましたが、作例の紹介いきます。今回のロケ地は数年前の晩夏の川崎チネチッタです。

まず一枚目。
修理から上がってすぐの試写だったので、まずは最近接のテストです。
チネチッタのテラス付きワインレストランの看板が枯れた木の風合い、そして葡萄の木のイミテーション、銅版のタグ、役者は揃っています。
近接での解像力、そして質感の再現性、おまけに背景のボケを見られるような構図で一枚撮ってみました。
さすがにオークの材質と思われる木目の解像力はシネレンズや引伸レンズといった工房常連のモンスター達にはかなうべくもないですが、今回、フロンティアFCDを引っ張り出して画像を見ても、デジにはない味わいを感じました。
後ボケの木の葉のざわざわ感は、やはり血は争えないのか、シネヘリゴンの2線ボケに近い雰囲気でした。

そして二枚目。
チネチッタでは夏の期間中、微細水蒸気の気化熱による屋外冷房装置が稼動しており、白いパラソルのつゆ先の部分から白い霧を吹き上げています。
その霧の中を幸せ一杯、気もそぞろに徘徊するカップルのお姿をちょっこし拝借ということで、傘の反対側にこの見るからにクラシックカメラ!というレチナを構えて、殆どノーファインダで撮りました。
プロ(真正、自称含め)から見れば、人物撮影なのに目線来てないぢゃないか!とかヘタくそ呼ばわりされそうですが、あくまでも街の息吹を捉えるのが目的のスナップで目線云々はいいっこ無しです。
手前の傘の軸付近に置きピンでチャッター切りましたが、カップルにはかろうじてピンが来ており、その後ろの傘のジーパン刑事はなかなかイイ味のボケになってしまっています。
このカットでは樹木が入ってはいますが、それほど煩くはなっていないのが不思議です。

それから三枚目。
今度は常用域の3m弱での静物撮影、しかも色が黒を主題に反射するガラス、葉の緑、庇のテント地の赤、そして街灯背景の濃めのベージュがどのように再現されるかを試すためにシャッター切りました。
まず注意しなければならないのが、このフィルムはEktarが登場するまで工房主力のフィルムであったセンチュリアであることから、緑の先鋭性は認められません、しかし、その代わりに黒の締まりも今一歩になっていますが、一枚目のカットもそうですが、まさにデジタルとは正反対の色調再現性で、まさにノーコートの戦後間もなくのレンズでフィルムを撮っている、という実感の湧くカットとなったといっては過言でしょうか。

まだまだの四枚目。
ここチネチッタのは、屋外小ホールというかミニミニアリーナみたいな設備が有って、訪問したその日も何かミニコンサートの準備か何かやっていました。
そのピーカンのミニミニアリーナでグリーンのポロシャツの襟を立ててオシャレに着こなしている兄さんが居たので、後ろから音も無く近寄り、一枚戴き。こういう時、レチナとか、M型は便利です。これがR-D1sとか、M8だったら、振り向かれてしまったでしょう。尤も事情を説明して画像見せれば、笑って許しては貰えるでしょうが・・・
このカット、もしシネレンズとか、引伸レンズをR-D1sかM8に付けて撮っていたら、人物の輪郭のエッジがもっと際立ち、立体写真的な上がりになったかも知れませんが、よくよく考えてみたら、人間の目ってそういう風に見えるのか?シネとか引伸レンズのデフォルメされた解像感は好むところではありますが。
むしろこのくらいの輪郭の表現の方が、肉眼で見たのに近いのではないか、とも思った次第。
ここでは背景はかなり大人しく融けたカンジの表現となっています。

最後の六枚目。
グリーンのポロシャツの兄さんに心の中でお礼を述べ、視線をもう少し左にずらすと、イベントスタッフと思しき正ちゃん帽に白のタンクトップの小姐が、その手の者と思しき年下の男性に作業の指示を与えていました。
植え込み越しのカットなので、前ボケとピーカンの下の白いタンクトップの照り返し、そして栗色に染めた髪の毛に煌く陽光がどのように写るのか、期待に胸を膨らませてシャッター切ったカットです。
まずはハイライトですが、全空気面ノーコートにも関わらず、破廉恥なフレアはなく、寧ろ上品に陽光の照り返しを表現しています。特にタンクトップの背中の肌に弾かれた晩夏の陽光が、何故か地中海の見える海岸で過ごしたひとときの遠い思い出を甦らせてくれた気がしました。
ピーカンのアリーナの石段も極自然なトーンでの表現です。

今回の感想としては、やはり、コートの有無だけがレンズ性能の死命を制するわけでもなく、優れた性能のレンズはヘタなコート付きレンズを上回るパフォーマンスを叩き出しますし、ライカ系と較べれば遥かに不自由なレチナを使うということを通じ、先のアカレッテ、アカレレ兄弟同様、写真は街や人々の生き様の記録でもあると同時に、撮り手にとってはカメラとの格闘でもあり、そして自らが五感を働かせて行う極めて主体的な創作活動なのだということを改めて感じさせてくれました。

さぁ、来週は再び工房作品のご紹介行こうと思います。乞うご期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2011/03/21(月) 19:43:17|
  2. 深川秘宝館
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A legend of real apochromat~Cine-Heligon50mmf2~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 露出:絞り優先AE +1/3 全コマ開放
さて、先週は亡父の49日の法事のため日曜遅くまで帰省していたため、やむなく更新スキップとなりましたが、今週はやっと更新致します。
まずは東日本大震災で亡くなられた方々への心よりの哀悼を捧げさせて戴きます。そして、避難生活を余儀なくされておられる方々へ心よりお見舞いを申し上げますと共に一刻も早く復興の時を迎えられますよう、祈念致しております。

今回のご紹介は、そんなこんなで新作を撮りに行っている時間的、かつ精神的なゆとりが無かったため、改造直後にテストした結果になることをご了解下さい。(季節感が大幅のずれてますし・・・汗)

このレンズは、もう古い愛読者の方々であれば周知の通り、工房でのシネレンズ改造の栄えある一号機です。
ところが、このアポクロマート文字も無く、赤、青、黄色の小さな虹で控えめにしか表さない稀代の銘レンズは中玉に曇りが発生してしまったこともあり、一旦分解してアリフレックス装着時の状態に戻し川崎の協力工場にOHに出していたのです。

待つこと約3ヶ月、この銘玉はまた手許に来たときの透明度と美しさを取り戻し、手許に帰って来ました。
そこで、初期の改造より、加工精度、測定精度ともに向上している現在の技術で再改造を行うこととしました。

まず一旦仮組して、ピント基準機でテストしたら意外なことが判りました。
このレンズ、てっきりライカ基準の許容範囲内の51.6mm前後かと思いきや、実焦点距離は約48mmしかないのです。
これでは、当初改造の平行カムでは近距離が甘くなろう筈です。

そこで、傾斜カムのプロファイルを割り出し、無限を厳密に取った後、調整しながら敷設しました。

また、手許に来たときはあまり気にならなかったのですが、アリフレックス本体で使わないと、この鏡胴の構造では、ヘリコイドと絞りが同じリングで同じ回転させなければならず、距離を合わせたい時は普通に回し、万が一、絞りたい時は無限か近接のどちらかに押し付け、絞りを回転させてから所定の距離に戻す、という手続きが必要で、他人様には貸せない仕様となっていたのです。

この点に関しては、シネクセノン5号機開発の段階で開発された、第三世代改造の要素技術のひとつであるカーボンパーツの削り出し加工でヘリコイドノブを加工、装着することで解決しました。

こうして、初代の銘機は、最新技術の力を借りて、また甦ったのです。

では、能書きはこれくらいにして作例いってみます。

まず一枚目。
浅草寺の手水場の前には、本堂前の焼香場に供える線香に火を点ける七輪が置いてある場所があります。
お参りがてら撮影に出かけていたので、自分も手を清め、口を漱ぎ終わって、明るい方に視線を移したら、栗色のしなやか髪が逆光を透かし美しく輝く女性が居たので、すかさず一枚戴いた次第。
確かに合焦部はシャープですし、コントラストが高い上に階調再現性にも優れていることが、このアングルから、女性の表情まで窺うことが出来ることから判ります。
このカットでは背景ボケのクセはまだ良く判りません。

そして二枚目。
地方から出てきたと思しき大学生くらいの小姐2名がお互いのおみくじを見せっこして、えもいわれぬ雰囲気の盛り上がりを見せていました。
そこで、またいつものクセで「あんのぉ、盛り上がり中のところ申し訳ないのですが、おみくじ呼んでるとこ撮らしてくれません、貴重なブログのネタにしたいんで・・・」と誠心誠意お願いしたところ、え~顔出しはムリsですよぉとか一名から文句が出たので、じゃ、ちょっこし横顔が入るくらいの斜め後ろから、という条件付きで撮らして貰ったのがこのカット。
髪の毛、衣服の生地のテクスチャ再現にもこのレンズの情報量の多さ、緻密さが窺えるのではないでしょうか。

それから三枚目。
おみくじ売り場の小姐2人組に、心より御礼を述べ、ブログの名刺なんか渡してから境内を後にしました。お茶呑み、そして雑談のため、Nさんが主のハヤタカメララボに遊びに行くためです。
その途中にまた居ました、居ました、いかにも写真に撮って下さい、ブログのネタにして下さい、と言わんばかりの魅力的な振る舞いの小姐が・・・
そう、何かの供養塔の石組の上に買ったばかりの赤色124号だかで真赤っかっかのかき氷を乗っけて、携帯でその勇姿を撮ってお友達に送ろうとしているのです。
そこで、見た目は立派なカメラを提げたイイ大人ですから、「もしもしお嬢さん、良かったら、そのかき氷を片手に持って、ピースでもしている姿をその携帯で撮って上げるから、今のカッコ撮らしてくんない?」と悪魔の如き取引申し入れ。
当の小姐は狸に抓まれたような表情ながらも交渉成立、そして無事撮ったのがこの画というわけ。
何気ない日常の一コマのよではありますが、かき氷の"氷"の文字をこっちに見えるように向けて貰ったり
シャッター押す瞬間に笑え、と強要してみたり、舞台裏はもう大変でした。
このカットで初めて、本レンズの唯一のアラが見えます、それは、ボケが融けるようなナチュラルなものではなく、解像度重視型のレンズにありがちな二線のカリカリした煩さめものになってしまったことです。
まぁ、個人的にはちょっとご遠慮願いたいぐるぐるボケよりは遥かにマシと思いましたが。

まだまだの四枚目。
かき氷が融けて小姐に恨まれないうちに早々にお礼を述べて退散、カメラボへの道を急ぎます。
すると、弁天山公園の下で、浴衣の小姐2名が近づいてきました。
追いかけて行って、モデルになってよ、と頼んでも良かったのですが、あまり狭いエリアで若い小姐に声掛けまくるのもなんなので、声掛けと並んで得意技とする"辻斬り"スナップの復活です。
すれ違いざま、2m強に置きピンで振り返り、殆どノーファインダに近い状況でシャッター切ったのがこの一枚。
2名の小姐は1m半程度しか離れず歩いていましたが、後の小姐にピンが合ったら、前の小姐はなかなかキレイにボケてくれ、距離感が強調されたカットとなりました。
しかし、背景に写り込んだ木々は二線ボケでざわざわしていて、何か落ち着かないカンジです。

最後の五枚目。
カメラボ近くの揚げまんじゅう屋さんだかで軒先にほうずきが鉢ごと吊るしてあって、またその背景がイイ按配に木枠の窓内側に簾をかけたものになっていました。
これを撮らずして何を撮るというカンジの憎い配置です。早速、ご好意に甘え一枚頂き。
ただこのカットでは全体的な雰囲気はイイのですが、あまりに質感の再現性が良すぎるため、プラ製の鉢に刻まれた"浅草ほうずき市"の文字が何か百円ショップに陳列された商品のようにも見えてしまい、ちょっと意図外れで残念な気もしました。
しかし、背景の木枠と簾のボケはゾナーを彷彿とさせる、ムードあるものになったと思います。

このレンズの感想としては、あまり近接の被写体と遠景が入るような構図は苦手で、遠い風景とか、或いは背景も近い近接オンリーの構図で撮れば、シャープネス、発色、コントラスト、画面の均質性、全てに満足行く画を撮れるのではないかと思った次第。しかし、家に戻って念オのため較べてみたら、値段が十数分の一であろうApo-Rodagon50mmf2.8がかなり肉薄した描写性能を示すことに改めて驚かされた次第。

さて来週は、秘宝館から何かご紹介致しましょう。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2011/03/13(日) 19:59:54|
  2. Mマウント改造レンズ
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プロフィール

charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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