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深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

A pride of Japan's progressive technology~Fuji Cine-Cristar4cmf2 mod.M~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り開放AE、露出+1/3 全コマ開放、ロケ地:深大寺
さて、今宵の紹介は、予告通り、幻のシネレンズ、富士写真フィルム製Cine-Cristar4cmf2です。
このレンズは、都内の某映画機材会社の倉庫兼事務所で数十年の長い眠りについていたところをたまたま発見され、それを見初めた深川精密工房の主人が、たっての願いということで、オーナー様から借り受け、最新テクノロジーを惜しげもなく投入し、ライカマウント化に成功したものです。

富士フィルムの社史によれば、この稀有なる超高性能レンズは終戦間もない昭和25年に発売となったとのことで、同社の開発史によれば、まだ新種ガラスが熔解に成功する一年前のことでした。

話は戻りますが、このレンズは発見された時、前、後玉はかなり状態が悪く、一見、細かい擦り傷か風化でもしているのか?といった外見だったのですが、お預かりしてから複数の薬液で丹念に清掃したところ、汚れが凝り固まっただけのようだったのでご覧のような、使用に耐え得る状態までは綺麗に戻せました。

ただ、それでも残念だったのは、長い間、放って置かれたためか、前後のエレメントを分解することが出来ず、中は汚れたままなのと、オーナー様が別の用途に使う予定で、一端、分解して、絞りのアッセンブリを除去してしまっていたので、常時開放の状態なのです。尤も工房主人は開放でしか撮ることはありえないですし、オーナー様も同じような撮影哲学のようなので、これは特段、ハンデキャップでも何でも有りません。

なお、レンズ構成は、外からの白色スリット光による透過で判断したところ、極めてシンプルな4群6枚のオーピック型と思われます。

さて、前置きはこのくらいにして、作例いってみます。たぶん、このレンズの作例は世界初ではないかと思います。実はフィルムとデジの両方で試写しましたが、135判の43mmの対角線は問題なくカバーしますし、デジとの相性もなかなか宜しいようです。

まず一枚目。
深大寺の門前通りから少し離れた南側に神代植物園水棲植物園が在り、その上には、意外な観光の穴場、深大寺城址が在ります。

いつも深大寺に遊びに行くと、日暮れ前のちょうど太陽が西に傾きかけた時間を見計らって、この深大寺城址に登って、「この樹何の樹、気になる樹」みたいな老木の周りで何枚か撮ってから、水棲植物園に下ります。
今回は、その下り道の途中、木漏れ日を浴びた、黄色い可憐な花がひっそりと咲いていたので、このレンズの近接性能を試すべく、一枚撮りました。
結果はこの通り、シャープな結像と背景の独特なボケと相俟って、黄色い花達が浮き立って見えます。
バックに空が写り込んでいますが、それほど酷いフレアやゴーストにはなっていません。

そして二枚目。
水棲植物園は、ちょうど、尾瀬の湿原のミニチュアみたいに、浮橋を通って、水棲植物が茂るポイント、ポイントを上から眺められるような趣向になっていて、この浮橋が風雪に晒され、なかなかイイ色合いになっています。
秋に行けば、周りの植物も茶色から褐色に近い色となっていて、浮橋もそれらに溶け込むようで、なかなか趣きのあるものですが、やはり、草木が本来の生気を取り戻す初夏から夏が最高です。
浮橋の風雪に晒され、また陽にやけた浮橋の木材の質感と草木の緑が対照的でイイ感じの構図になったのではないかと思います。
ここでも、若干の曇天とは言え、フレアもそれほど認められず、程好いコントラスト、ディティールに亘る解像力が画としての魅力を引き出しているのではないでしょうか。

それから三枚目。
水棲植物園は4時半で閉園してしまうので、撮るだけ撮ったら、そそくさと退園し、格好の人物撮影スポット、門前通りへと足を進めます。
と、その途中で、小ぶりながら、なかなか良い趣味の庭園を売り物にする茶屋の蹲に目が留まりました。
ここでも木漏れ日を浴びた水面、そして濡れた蹲の石材、そして、木の手桶が独特の情感を醸し出しています。
まさにこういったシーンこそ、レンズの真の表現力を試す、格好の被写体です。
ピンは手桶の丸い縁に置きました。
それでも、オフフォーカスとなっている濡れた石の表面、そして水面への木漏れ日の映り込み、バックは、独特の暴れたカンジにはなりましたが、それでも思わず、口笛を吹きたくなるようなカットが撮れたと思いました。

まだまだの四枚目。
深大寺に来たら、必ず、このお店のお嬢さん達は撮らねばなりません。まさに浅草仲見世の超絶美人揃い黍団子ショップと双璧の撮影ポイントと述べても過言ではないかも知れません。
今回は、声掛けての至近距離撮影という常套手段はとらず、お客さんが切れた合間に後輩バイトに実技指導を行う女子バイト生の様子をちょっとひいたところから一枚頂きました。
このカットでも、被写体の女性2名は店舗の照明の効果もあってか、浮き立つカンジの描写となっていて、暗めの背景とは、格好のコントラストになっているのではないでしょうか。
このカットでは不思議と背景のオフフォーカス域は暴れていません。

最後の五枚目。
店舗のスタッフを撮り終え、周りに何か面白い被写体はいないか物色していると、アイスを食べようとしている女の子3人組の真ん中の子と目が合いました。
これはチャンス!と思い、3人に向かって、写真撮るからこっち見ててね、と声を掛け、ファインダを覗きました。
すると、一番手前の大きなお姐さんは、真ん中の子にカメラ向けているのが面白くないか、小生の右手後ろ側でお母さんと遊ぶ、やんちゃ坊主の方に視線飛ばしてます。
それでも真ん中の子の顔といい、手もとといい、解像力の高さが写真の表現をより深くしているのは疑いようはありません。
また、このカットでは、前ボケ、後ボケの味がいっぺんに較べられる、という極めて美味しい構図になったようです。

今週の感想としては、中が汚れたままでこの性能ですから、やはり終戦後5年で世界最高水準の光学機器を作り出した日本の技術力は凄い!の一言です。まだまだやれます、頑張れニッポン!

さて、来週はまた秘宝館から何か面白いもの引っ張り出してきましょう。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2011/04/24(日) 21:00:00|
  2. Mマウント改造レンズ
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有能力隱藏釘鷹~Micro Nikkor55mmf3.5Ai~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出補整+1/3、全コマ開放、 ロケ地、腰越漁港~鎌倉小町通り
さて、今宵のご紹介は、マイクロニッコール55mmf3.5Aiの登場です。
このレンズ、見た目はしょぼい、前玉が小さく、しかも、蟻地獄の巣みたいに奥に引っ込んでいて、あまり迫力が有るとは言えない普及品みたいに見えますが、さにあらず、かの1931年に登場し、樋口一葉の「たけくらべ」をマイクロフィッシュ1枚に写し撮ったという伝説のスーパーレンズS-マイクロニッコール50mmf3.5の独創的な変型クセノタータイプの構成をそのままに、昭和36年、もはや時代の主流となった一眼レフのミラーボックスを避けるべくフランジバックを伸ばし、55mmの焦点距離とした直径の子孫なのです。

しかも、実はAiの時代になってからは、新製品である55mmf2.8のガウスタイプのものが主力となってしまって、暗いf3.5のものはあまり売れなかったようで、クセノタータイプでニコンがスーパーインテグレイティドコートと呼ぶマルチコートのものは、探そうと思うとあまり見つからないようです。尤も工房ではモノコートのものとこのマルチコートのものの2本しっかり所有していますが・・・

このレンズ、無限ではそこそこ短い鏡胴サイズではありますが、26cmの最短撮影距離までヘリコイドを繰り出すと、な、何と180mmの望遠レンズ並みの長さになってしまうんですね。今回は何回か最短距離撮影を試み、全部失敗しましたが・・・やはりレンジファインダー機での勘撮影ではムリなようです。

さて、前置きはこのくらいにしておいて、作例の解説いきます。今回は思い立っての江ノ島、鎌倉ツアーでお供させて撮って来たものです。カメラはD2Hで撮っても良かったのですが、それではボディ2台になってしまうし、R-D1sで撮ったらどうなるのか?という素朴な疑問も有ったので、ハンザの半距離計連動式カプラ経由で使ったものです。

まず一枚目。
江ノ電の腰越駅から、漁港に歩いて行く時は、いつも路地裏みたいな近道します。
この鉄工所みたいなところには、いつも地べたに寝ているためか、脚を怪我していて痛々しい老犬のゴールデンレトリバーが居たのですが、今日は見当たりません。元気で居てくれればいいがなぁとか思って立ち尽くしていたら、路地裏にちょうど好い按配に陽が射し込み、ラックに無造作に詰まれた鉄パイプをえもいわれぬ陰影とともに照らし出していました。
こういうシーンこそ、出自からして細密描写を得意とし、しかもマルチコートでフレア、ゴースト対策を行ったこの改良版マイクロニッコールの出番です。
開放の撮影であるにも関わらず、鉄の持つ硬い質感、重量感まで忠実に描き出しているのではないでしょうか。

そして二枚目。
ふと感傷に囚われた裏通りを抜け、陽光溢れる漁港に出ました。
お目当ては漁から戻り、整然と係留されている漁船達です。もっと時間が早ければ、しらす干しの作業を一家総出でやっている姿も撮れたのでしょうが、江ノ島でちょっこし遊び過ぎ、陽も傾きかけた頃の来訪ですから致し方ありません。
このレンズのソリッドで忠実な描写性能を見るには、この漁船達の特徴的なディティールを切り取る構図が相応しいと考え、突堤の付け根まで歩いて行って並んで係留されていた漁船の手前のものの先端部分のフレタンボールにピンを置いてみました。
やはり、開放とは言え、相当、緻密な描写です。しかし、カリカリかと言えば、そうでもありませんし、何よりも不思議なのはこれだけシャープなレンズなのに、後ボケに二線傾向が、少なくともこの構図では認められないことです。

それから三枚目。
腰越漁港で満足行くまで撮ってから、また江ノ電に乗って、終点鎌倉を目指します。
鎌倉駅に着いてから小町通りに向かって徒歩で移動する途中、山際の出口前広場で熱心に勧誘を行う車夫さんの姿が目に留まりました。
最初は外人さんのカップル相手に丁々発止の熱弁を振るっているのかな?とか思いファインダーを覗いていましたが、シャッター切った瞬間、男女とも日本人ということが判った次第・・・いやはや失礼致しました。
しかし、ハイライトが飛び気味にはなっていますが、夕陽が当って光っている車夫さんの大きな背中にもそれほどフレアが認められず、画面の人物達の肌、髪、そして衣服やサングラスの質感までかなり忠実に捉える描写性能はさすがと思いました。

まだまだの四枚目。
小町通りに到着し、これから日暮れまでまた一本勝負です。
いつも定点観測的に撮影する場所が何箇所かありますが、ここはその2番札所辺りになる通りを横切る川にせり出した住居の窓をモチーフに撮ったカットです。
ピンを青いビールの小瓶に置いていますが、いやはや、何とすっきり、くっきりした画なのでしょう。ごみごみした街中の生活排水も流れ込むような川なのに、妙に清冽な印象すら画面から受けてしまいます。

最後の五枚目。
小町通りにも猫が結構いて、それが虐められず、撫でられたり、えさを貰ったりすることがあるらしく、人が近寄ろうと、携帯で写真撮ろうと、全く動じる気配もなく、ずっと同じポーズをしたままであることがあります。
この小町通り奥の店舗前の猫もそういった"観光ネコ"の一種のようで、いたいけな小姐達が「きゃぁ可愛い、携帯携帯」とか騒いで、日本人の美徳である何事も順序守って整然と、を地で行くように、交替でベストポジションについてはきゃぁきゃあ云いながら携帯で即席撮影会やってます。
しかし面白いことに、むしろ、そういう他愛ない小姐達がネコ撮影会にうち興じる姿を狙おうという、いわば上前はねを狙ったこすからいカメラマンもいるわけで、工房主もさっそく、その一派に加わったってことです。
ここでも、小姐達の髪、衣服、そしてバッグのストラップといったものの質感が巧みに再現され、しかも、アウトフォーカスの猫も、極めて好ましいカンジの後ボケと化していました。

今回の感想としては、やはり日本の半導体産業発展の嚆矢となったSマイクロニッコールの子孫侮るべからず・・・望むらくは、これが完全に距離計連動で使えたらということでした。え、ちゃんと一眼レフで使えって!?
人と違うことをするのが、当工房のモットーなのですよ。

さて、来週はまた工房の驚くべき作品の公開いきます。乞うご期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2011/04/17(日) 23:10:04|
  2. 深川秘宝館
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Un huérfano de un genio trágico~Sanei EZUMAR ANASTIGMAT 5cmf3.5 mod Nikon S~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出+1/3 ISO400(1~4コマ)、ISO800(5コマ)、全コマ開放
さて、今宵のご紹介は、先般のICSで出会った謎の豆レンズを工房でニコンマウント化した作品です。
このレンズ、マニアの間ではつと有名な某相模原の珍品カメラ・レンズ業者の出店で、大中判レンズやボードなどが置かれたコーナーの片隅に薄汚れたポリエチレンのパックに入れられて、数千円の捨て値で転がされていました。

店のパンチパーマがトレードマークの名物社長に聞いても、「ハテ、何のレンズでしょうかね、誰がこんなの置いたんだろう?」とか甚だ心もとないお答え・・・

しかし、アルミの妙に丁寧な仕上げ、そして"ANASTIGMAT"の文字に何か心惹かれるものがあり、代金を支払い引き取って帰ることとしました。

かなり汚れた状態だったので、玉を前後にばらしてクリーニングがてら、このレンズがトリプレットであることに気が付きました。

まぁ、50mmだから、何のヘリコイド付けてもイイし、ニコンSかコンタックスCXマウント化してもイイやとか思い、時間が出来るまで、暫し、防湿庫の中で休んで貰うこととしました。

そして程なく、某JCII日本カメラ博物館に運営委員としてご奉公されておられるIlovephotoさまより、「EZUMARというのは、今は亡きSAMOCAの玉ですぞ、尤も、会社自体は雲散霧消してキャノンに合併されてしまいましたが・・・」との情報を頂戴致しました。

このSAMOCAというカメラは、かのステキーなるからくりカメラを開発した、経営者というよりは設計者といった方が相応しかった故「坂田秀雄」氏の手によるもので、このタイプのレンズはSAMOCAの第三世代の昭和29年発売、SAMOCA35IIIという機種に付いていたことが判っています。

坂田秀雄氏のエピソードについては、あまたのクラカメ本で情報を見ることも出来ますから、ここでくどくど書くのも憚られますが、1952年に三栄産業という会社を興し、輸出中心にそれなりに隆盛を誇ったのですが、大メーカーがレンズシャッター機に本格的に進出して来るに従い、売れ行きが低下し、それを苦にした氏は1963年に悲劇的な最期を迎えました。

この坂田氏の人となりを語るのに典型的なエピソードが有って、アサヒカメラの小倉磐夫ドクターをはじめ、光学を研究していた学生さん達に私的な奨学金を出していたというのです。
こういった中小企業の篤志家の熱い思いが今の日本の光学界の基礎を磐石にしたのかと思うと、思わず頭を垂れざるを得なくなります。

さて、話は湿っぽくなってしまいましたが、作例行ってみます。今回は、大久保のレンズ再生の"人間国宝"山崎名人のもとへ向かう道すがら、ちょこちょこっと撮ったネタです。

まず一枚目。
大久保の駅を降りて、北新宿方面に歩いていくと、フレーザーホテルの駐車場の片隅で桜がちらほらとほころび始め、手前には、イタリアのスーパーカーを彷彿とさせる色合いのワーゲンポロが駐車していました。
曇天をバックにイタリアンレッドの車・・・これほど素晴らしい発色試験対象はありません。
そこで早速一枚戴き。
素晴らしいクリアなカンジで上がったと思いました、まさにトリプレットの妙味というカンジです。
背景も難なく収まっている雰囲気です。

そして二枚目。
フレーザーホテルの駐車場から出て、再び歩道を北新宿方面に進もうとすると、栗色の髪を颯爽と翻し、いわゆるガールズトークをあたりに播き散らかしながら闊歩する小姐の三人組とすれ違いました。
ここで、いつもの"辻斬りスナップ術"の復活です。このところ、声掛けて目線貰った、いわば演出有の写真ばっかり撮っていたので、たまにはこういう無断速写もイイ刺激になります。
夕陽を浴びて仄かに栗色の光を弾き返す髪がイイ雰囲気に捉えられたのではないっでしょうか。
また、先方に伸びる街路樹の並木のボケ具合いが程好い距離感を演出しています。

それから三枚目。
鉄道の高架をくぐり、歩道を更に歩んでいくと、クロムメッキのパーツも美しいバイクが一台、乗り捨てられていました。
そこで、至近距離の描写性能、そして金属光沢に対する対フレア性ということで、画面中央の金属製の涙滴型のパーツにピンを置いて一枚いってみました。
その結果、かなり持ちこたえてはいますが、やはり微妙な蒼白いフレアが、ちょうど空が写り込んだ部分に認められます。
しかし、50年近く時を経た、当時の大衆機のトリプレットで以て、内面反射に敏感なデジタルカメラでの撮影でここまでやってのけるとは、オリジナルのポテンシャルがいかに高かったかを物語るものではないしょうか。

まだまだの四枚目。
バイクの機関部の描写に気を良くして、背景にぐるぐるが出そうなモチーフが目の前に登場したので、早速試してみました。
手前の自転車のブレーキレバーの黒染め部品にピンを置いての撮影です。
黒光りする光沢有りの黒染パーツは若干のフレアをまとっていますが、あたかも肉眼で捉えたかの如き臨場感で精緻に描写されていますし、背景のポピーだかは、一部の尖鋭的なマニアが狂喜乱舞しそうな、ぐるぐるパターンを描いています。まぁ、トリプレットに万能を求めるのがそもそも間違いですから、これはこれで良しとせねば。

最後の五枚目
大久保の名人工房で話は弾み、お願いしていたブツも無事上がったので、気分上々、新宿に向かいました。
西口のカメラ屋街を後にして、東口の沖縄料理屋に向かう途上、いかにも、芸術系の学生デース♪というカンジの小姐がガードレールに所在なく、ちょこんと座っていました。
ここでも、辻斬りスナップの登場です。だって、こんなの後ろから撮るから宜しくなんて声かけた日には、身構えて硬くなっちゃうだろうし、前向いて貰って、ガードレールに座る小姐をわざわざ撮るのも、スナップらしくはないでしょうから・・・これはこれで新宿という街の空気を捉えるには格好の表現方法ではないかと思います。
だいぶ暗くなってきましたが、R-D1sのISO800に助けられ、50年前の開放値f3.5のトリプレットは小姐のしなやかな髪や、衣服のテクスチャまで忠実に捉えてくれました。

今回の感想としては、いやぁ、素晴らしい、人知れずジャンク同様の扱いだった豆レンズがきちんと開けてクリーニングした上で、適切な暗箱と組ませてやれば、こんな性能を発揮するのです。
まさに一人の熱いハートを持った悲運の天才の遺志と失われた日本の光学史の一端を垣間見たキブンでした。

さて、来週は附設秘宝館からのご紹介です。
乞うご期待。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2011/04/10(日) 20:47:43|
  2. Sマウント改造レンズ
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Power of the alternative~Wollensak Velostignat50mmf3.5~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s、絞り優先AE ISO400 露出+1/3、全コマ開放、ロケ地浅草
さて、今宵のご紹介は予告通り、附設秘宝館からのご紹介です。
やっと秘宝というに相応しいものが出たワイ・・・とか一人ごちているそこのアナタ、工房主であり、秘宝館の館長である小生は希少性、ましてやお値段ではレンズは差別しないのですぞ。要は個性的ながら良く写るか否かだけが秘宝となり得る資格を持つのです・・・というか、要は単なる個人的な好みですんで、そこはあまり深く考えないようにして頂きたいものです。

このヲーレンザックのヴェロスティグマート50mmf3.5は、終戦直後、敗戦国ドイツからのライカマウントの標準レンズの輸入が途絶してしまったため、ニューヨークライツが、米国の一大光学機器メーカーたるヲ-レンザック社にライカIII型向けの標準レンズとしてエルマーの代替品として製造を委託したとされています。

開放値といい、3群4枚のレンズ構成といい、エルマーと外形的スペックは近似していますが、当時の戦勝国である米国は、光学兵器用の"新種ガラス"即ち、バリウムだら、砒素だらを混ぜた高屈折低分散ガラス系が終戦とともに市中に払い下げられ、Kodak社のエクターやら、このヴェロスティグマートやらは、そういった新種ガラスが採用されているものと考えられ、その理由としては、やはりコーティングにブルーやパープル系だけでなく、青系波長の透過が悪い高屈折率ガラス向けのアンバー・ブラウン系が使われています。

さて、前置きはさておき、早速作例行ってみます。今日の16時過ぎに浅草までちょっこし出かけて撮ってきました。

まず一枚目。
浅草といば、人力車のたむろする場所としてつと有名ですが、地下鉄から上がったら、早速、営業活動やってます。
たいていは、あ~ぁ捕まっちゃったよ、一応は説明聞かないと釈放してもらえそうにないから、仕方ないけど聞いてやるか?てなあまり乗り気でないお客(候補)ばかりなのですが、この若い二人、たぶん人力車の後ろにでかでかと提げられた看板「人力車は被災地の人々を応援しています、収益の一部を義援金として送ります」云々みたいなことが書いてあったから、このようなかなりポジティブな態度で話に聞き入っているのかな?と思った次第。
コントラストはそれほど高くありませんし、発色も地味目ですが、先のデュプリケーション用と称する同族のレンズのお株を奪いかねないシャープネスを小姐のベージュのセーターや車夫の帽子のテクスチャ描写等で垣間見せています。
なお、このカットでは後ボケはそれほどお行儀悪くはありません。

そして二枚目。
雷門をくぐると、門の裏側には、大きな氷を湛えた水槽に如何にも涼しそうなラムネを並べたおぢさんが店仕舞いの用意をしてました。
そこで、この春まだき時期に見た目も涼しそうなラムネを並べて売るなんて、江戸っ子の粋ですなぁ・・・とか話掛けて、まんまと一枚撮らせて貰いました。
え、買ったのかって?いえいえ、この寒空の下、まだまだリアル江戸っ子の領域には達していないと思い知らされた日暮れ前のひと時でした。
ほぼ最短距離で撮っていますが、冷え切ったラムネ瓶のガラス、氷の質感、そして水槽のブルーのペイントそれぞれの精緻な描写が見るものに冷たさを感じさせてしまうカットです。

それから三枚目。
仲見世をそのまま浅草寺方向い歩いて行くと、数メーターもしないうちに、年端もいかない小姐やら、地方から出てきた定年退職後の夫妻なのでしょうか?例のきび団子屋さんの前を取り巻いて、「モデルさんみたい」「いや女優さんなんぢゃね」「TVかなんかのロケかしら」等々懐かしいノイズが聞こえてきます。
急ぎ足で店の前までやってきたら、居ました、居ました浅草名物の"沢尻メイサ"嬢です。
ここ半年くらいご尊顔を拝していなかったので、とても嬉しくなってしまい、とっさにカメラを構え、きちんとピンを合わせたつもりだったのですが、ちょっと甘かったみたいですが、雰囲気は伝わると思いますので、わざわざ東北地方から自転車で上京してくれた?友人のため、アップしてみました。
このカットで判るのは、デュプリケーション用の玉と較べると、前ボケで非点収差による流れボケが出ないという端正さです。

まだまだの四枚目。
きび団子屋さんの裏には、いつもの定点試写スポットがあります。
ここの団扇の描写と背景のボケでレンズの味わいとか描写特性みたいなものの一端でも感じて戴こうと、お定まりのアングルで一枚撮りました。
手前のひょっとこ面の団扇にピンを置いていますが、やはり素晴らしいシャープネスです。
背景は二線ボケにはなっていますが、崩れとか非点収差による行儀悪いぐるぐる系のボケにはなっていません。

この場所で同じテッサー/エルマー型の何本か、そしてトリプレットも含め、f3.5からf2.8クラスの個性的なレンズの味比べをしたら面白いだろうなぁとか思いましたが、こんなところで三脚でも立てて、レンズをとっかえひっかえやってたら、お店の方に叱られてしまうだろうなぁ・・・とか小心者の工房主は頭の中だけで終わらせて、そそくさと店を後にしたのでありました。

最後の五枚目。
宝蔵門をくぐり、浅草寺境内に入ると、定点観測スポットであるおみくじ売り場に向かい、写真を撮らせてくれそうでしかも画になりそうなモデルさんを物色しました。
すると、ちょっとトッポそうな兄さん(ご免なさいね・・・)としっかり者そうな小姐のカップルがおみくじを引いてから文面を相互鑑賞と輪読してから、おもむろに止まり木に結びに歩いてきました。
ここでいつも通り、あいや、暫し待たれい、拙者、レンズの試写中につき、結ぶところを撮らせてよ、何、別に商業出版に使うワケぢゃなく、マニアックなブログのささやかなネタにするだけだからさぁ・・・と切り出したところ、女性の方がウン、イイですよぉ♪とか先にOK出してくれたので、何カットか撮って一番、構図と露出が決まったと思われるのがこのカット。

ここでもピンを置いた女性の髪、そして手の指に至るまで極めて自然なカンジで忠実に描写していますし、これだけシャープなわりには背景のボケはそれほど煩くもなく、結構見られるカットになったのではないかと思った次第。
そこそこ満足いくカットが撮れたので、お互いのモニターで確認ののち、鄭重にお礼を述べて立ち去った次第。

今回の感想としては、やはり世界の工業国、米国の底力は凄いものだ、と改めて驚いた次第。
ヘタすると、戦前に入って来ていた通常のエルマーより、同じパッケージングながら描写力が上回る自国製レンズに米国の愛国写真家一同は感涙に咽んだのではないかと愚考した次第。

さて、来週はまた驚きの工房製作品のご紹介いきます。乞うご期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2011/04/03(日) 21:00:00|
  2. 深川秘宝館
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プロフィール

charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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