深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

A message from Meister in Okubo~Summar5cmf2 mod. by Y.labo.~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出補整+1/3 ISO800 全コマ開放、 ロケ地: 浅草
今日は久々の晴天、愛読者各位も過ぎ行く夏を惜しむかの如く、何処かに行楽に出かけられたのではないでしょうか。

工房主人は、本日は実家から車を飛ばしてお江戸深川まで戻り、日の有るうちに試写しなきゃなんないと、数ヶ月前に名人から渡された彼のレンズにかける哲学の具象であり、当工房へのメッセ-ジそのものである、このSummar5cmf2の試写に浅草まで繰り出したのです。

そもそも、こんなに試写が遅れてしまったのは、34mという特殊フィルター径のためで、これがなかなか入手出来ず、ずるずると時は過ぎ、しかもシネレンズによる写真展が迫っているため、寸暇を惜しみ、遠くであろうと近場であろうと、とにかくシネレンズをはじめとした工房製品の試写の貴重な休日を割いたため、夏前に手渡されたこの貴重な作品の評価が遅れに遅れてしまった次第。

このSummar5cmf2は1933年にツァイスのゾナー5cmf2という当時のハイスピードレンズに対抗して作られたWガウス型のライツ初のハイスピードレンズなのですが、とにかく現存するものは、程度が悪いものが多く、従って、写りも眠いとか、ピンが合っているかいないか判らないとか散々な評価を受け、中古市場では、とてもステータス性を誇るライツ社のクラシックレンズとは思えないような価格、そう1万円前後から叩き売られるという有様でした。

今回のレンズも例外ではなく、元々が新宿の某カメラ店の地下売り場でジャンク扱いで数千円で売られていたものを、初めは部品取り用、しかし、弟子の助命嘆願を受け、エレメントを全部開け、クリーニングとコバ塗り、そして回し積みをしてかなりまともには写るようにはなったのですが、当工房ではさすがに前玉のキズ、中玉の曇りまでは完全に除去することは出来ず、まぁ、フレアも味わいのうち・・・とか通ぶってそこそこ使っていました。

ところが、或る時、別のレンズのエレメント再生をお願いしに、大久保の名人のところに伺って、このSummarの話をして、作例をご覧戴いたら、「だめだめ、全然こんなんじゃダメ、見せて貰ったからには置いてって下さい、深川さんが、こんな状態ので撮り捲ってたら、ご本人の恥ですし、Summarの汚名が広まるだけですから・・・」と、いつもにない厳しいお言葉。

しかも、畳み掛けるように「私に預けたからには、全く見違えるように別のレンズにしてお返ししますから、作業内容、写りには文句言わないで下さいよ、約束ですよ・・・」と。

そして、待つこと約3週間。名人からのお電話で、「出来ましたので、いつでもお閑の有る時にお越し下さい」と。

早速、次の週末、新宿西口写真修錬会の会合の前に弟子を伴い、大久保のラボを訪問、見違えるように生まれ変わったSummar5cmf2改を受取りました。

名人は笑いを押し殺せず「良く写りすぎるからって文句言って来ないで下さいよ、ここまでやっちゃったら、元には戻せませんからね・・・」といつもにない上機嫌でした。

その夜、修錬会のアジトである某茶店でR-D1sで何枚か試したら、万全の撮影コンディションではないにも関わらず、コントラストが異様に高く、ヌケ、シャープネス、画面全体の均質性に優れた、まさにシネレンズもどきのクラシックレンズに産まれ変わっていることに気付いたのです。

と、まぁ能書きはさておき、作例見ていきましょう。

まず一枚目。
これは、浅草の数有る試写スポットのうち、近接性能と、逆光、そして後ボケがいっぺんに見られる優れた場所なのですが、ここでは、夏の終わりにかけてのみ、店先に見事なほうずきの鉢植えを吊るしています。
この描写でも、近接にも関わらず、極めて緻密にほうずきの実、葉、そして籠を描写し、若干の上品なフレアをまぶしているのが、逆光と判るアクセントです。
まさにクラシックレンズの"クラシック"という意味を最新のマルチコート+異常低分散ガラス+非球面で武装したレンズでの作例との比較において判らしめてくれるカットではないでしょうか。

そして二枚目。
仲見世を歩くと、週末はいつでも世界中の人々が徘徊しています。
この白人のカップルも、かなり至近距離でカメラを構えていたのにも関わらず、どこ吹く風で、自分達のショッピングを楽しんでいました。
ここでも、日本人に比べ、反射率の高い白人の肌が店先のハロゲン光源に照らされ、かなりフレアを誘発しそうなシチュエーションですが、とても柔らかく、滑らかに質感再現しています。
ここでは、前カットと比して、後ボケはそれほど暴れていません。

それから三枚目。
仲見世を歩き切って、宝蔵門をくぐると、浅草寺の境内に入ります。
いつもは、宝蔵門前で観光客を数枚撮って引き返し、伝法院通りに抜けるところですが、今日は、キブンを変え、ご本尊にお参りしてから境内で何枚か撮らせて戴くことに。
その中で真っ先に目が留まったのが、この祈るような眼差しでみくじを結ぶ少姐でした。
この掲示板には、「凶、大凶のみ結び合わせて下さい」と書いてあるので、この小姐は何か願い事をした後、みくじを引いたら、折悪しく「凶」か何かを引き当てててしまい、「やだなぁ・・・」とか、心の中で舌でも出しながら結んでいたのでしょう。
ここでもかなり至近距離でカメラを構えていたのにも関わらず、全く意に介さないようで、快く?モデルになって戴いたこの薄幸の小姐の今後の多幸を祈らざるを得ませんでした。

続いて四枚目。
このみくじ売り場で目を転じると、日本人離れしたスタイルの小姐2名がお互いのみくじをみせっこして、「声に出して読みたい日本語」ごっこをやっています。ところが、漢字に慣れていないのか、なかなかスムーズに読めません。あーだのこーだの、いや違うわよ!なんてやっているところを一枚戴きました。
ここでも合焦部の硬くならない程度の心地良いシャープネスと、なだらかな後ボケ、そして極めてナチュラルなコントラストが気に入ったカットになりました。

最後の五枚目。
また仲見世を歩いて戻り、雷門側まで来たら、なかなかお目にかかれない、東欧風の美女2名が店頭でショッピングしている場面に遭遇しました。
カメラを構え、気配を消して至近距離まで近寄ると、敵もさるもの、こちらの企みには当然勘付いていて、向かって奥の小姐が一瞬ニコリと笑ったかと思うと、また真剣なショッピング値切りモードにレジューム。
その値切りの気迫を一枚戴いたという次第。
ここでは、陽も暮れかけ、人工光があちこちから射すという悪条件であったにも関わらず、この豪胆な東欧の小姐達のお姿はかなり上手く捉えられたのではないかと思いました。
このカットでも、バックはかなりおとなしめに落ち着いたのではないでしょうか。

今回、この名人の渾身の作を試すにあたって思ったことは、何事も慢心はいけないということ・・・
たとえ、かなりのレンズの改造が出来るようになり、それなりに撮れるようにはなっても、まだ上には上が居て、日々の精進を以ってのみ、その技と哲学に近づけるのではないかということ。

いや、それこそが奢りで、名人は生涯技を磨き、存在を高めていくのですから、背中を遠く眺め、彼が或る時点で到達した位置を後から追い続けていくことくらいしか出来ないのでしょう。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2009/09/13(日) 20:55:10|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

ズマールで、ハロも無くこんなにしっかりした写りとは驚きです。黄昏時の詩情とあいまって、色も少々暖色系なのか目に優しく、写真の距離感も気のせいかゆったりした感じで、距離によるハマグリ状の大口径独特のボケも、写りのおおらかさに一役買っています。
色の再現性もしっかりしていて、「このような再生は二度とお目に掛けられない」といった風情。
(ベタほめですね。)

『ズミクロンといった近代兵器』以前の、みごとな〈ライツ〉の秀作をここまでいとおしむ、見事な「再生作品」です。
  1. 2009/09/13(日) 22:46:37 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordor #-
  4. [ 編集]

こんばんは。
本当に発色が良く気持ち良いほどコントラストも出てますね!
このレンズ、以前に数本試し撮りさせて頂いたことがあったんですが、その時に一番状態が良かった個体よりシャープだと感じました。
以前のキャノン50mm F1.2の再生ぶりにも驚きましたが、今回の再生もまた世界レベルで超一流の仕事ですね。
そして、そんな仕事をされる方々からも一目置かれているcharley944さんも凄いです...。
さらに「何事も慢心はいけない...」と仰せられる...
外野から「スゴイ!スゴイ!」と言ってるだけで、何が行われているのか全然解ってない僕が、こうして勝手なコメントを書いている...、ちょっと場違いな気がして来ました...。
でも、時々素人が見たままの感想を言うのも、偶然に核心をつくことがあるかもしれません...、からね...。ないか...。笑。
  1. 2009/09/13(日) 23:29:36 |
  2. URL |
  3. andoodesign #WSWGH/LU
  4. [ 編集]

Treizieme Ordor さん
有難うございます。
このレンズは今回登場する前、確か、山崎写真レンズ光学研から引き取ってすぐ、カフェ89でお目にかけたことがあります。
その時、一同で、鏡胴の中の全エレメントの研ぎ澄まされた面と、必ずしも良好ではない光線条件下でテーブル周りを何枚か撮ってゾナーと較べ、メンバーの数名から、「これは別物だ!」というお声を戴きましたですね。

恐らく、大久保の名人は、小生をこの薄幸のズマールというレンズの名誉回復のためのスポークスマンに選ばれたのではないか、と勝手に思っています。

これを機に、名人の無言の教えを胸に更なる精進に勤めたいと思っています。
  1. 2009/09/14(月) 21:42:13 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

andoodesignさん
有難うございます。
当の本人もまさかここまでなるとは思いませんでした。
写りが好みか否かと問われれば、もろ、ストライクゾ-ンに嵌まってます・・・としかお答えしようがありません。
新しいレンズでも、古いレンズでも、とにかくシャープでクリアでコントラストが高めで画面の均質性が良いことが必要条件で、そこから、後ボケがどうの、前ボケがどうのという議論が始まるのです。

そういった意味では、このレンズがオリジナルのズマールの写りか否か、或いは、設計者の意図した写りか否かは知る由もありませんが、手許にやってきたレンズを状態如何に関わらず、その持ち主の好みの"味"に仕上げてしまう名工の技は、もう人間技を超えているのかも知れませんね。

それに引き換え、深川では、そのままでは使えないレンズをとにかくカメラに繋げて写すことが出来るようにするのが精一杯ですから、まだまだ修行半ばということを悟った次第なのです。
  1. 2009/09/14(月) 21:50:24 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは。
遅れてのコメントが習慣化してしまっていて申し訳ありません。
ぱっと見て、今回の女性たちは、みんな横向きなのが気になってしまいました。
横顔フェチのファンを意識されたかのようです。

それにしても、すばらしい写りの戦前ズマールです。
クラシックなシャープネスというのか、開放の甘さを微塵も見せない安定感があります。
しかもズマールらしくと言うか光線の状態によって表情がさまざまで、複数のレンズを比較したような楽しさもあります。

さすがにボケは評判にたがわないと言うか、周辺で流れがあってちょっと落ち着きません。
しかし、これはよく考えると中心部のシャープネスとコントラストのためにボケを犠牲にするズミクロンと一脈通ずるところがあって、これがライツなんだなとあらためて思い知らされました。
結論。やっぱりズマールは山崎さんですね。
  1. 2009/09/15(火) 23:19:11 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
有難うござます。
遅れて・・・なんてどうかお気遣い無用です。
しかし、ホント驚きましたねぇ・・・柴又では、5000円かそこらの引伸レンズ改造した玉にも負けるような写りだったのが、その数十倍はするフジクリスター5cmf2Type1よりも遥かに良く写るようになるんですから。
しかし、数十本もお願いしていたのに、ズマールが今回初めてだったということは、名人はじれったくて仕方なかったのかも・・・
  1. 2009/09/16(水) 22:27:54 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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