深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

An Extra-Terrestrial Lens ~ Astro Berlin Gauss-Tacher 32mmf2 mod. M~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s ISO160 絞り優先AE 露出 +1/3 全コマ開放
今週も、ややマンネリ化の感、なきにしもあらずですが、瀬戸内の旅から行きます。
まず、ロケーションですが、先週ご紹介した、今、一番ホットな景勝地?鞆の浦のすぐ目の前に浮かぶ、仙酔島という無人島です。

ここは無人島とは言いながら、本土側の鞆の浦にも負けない大きな観光ホテルがあったり、国民宿舎があったり、ホテルの名前が「人生感の変わる宿」とか、???の拭い切れない不思議な島です。

で、今回の旅のお供、隠し玉第二弾は、独Astro Belrin社製の超稀少シネレンズ、Gauss-Tacher32mmf2を深川でMマウントに改造したものです。

旅写真しか興味の無い方々には、退屈以外の何物でもないでしょうが、恒例のレンズのご紹介をひとくさり・・・

このGauss-Tacherという名のレンズ、戦後、AstroBerlin社が、Pan-Tacherと共に売り出したシリーズで、開放値は全てf2で、15mmから250mmまでの16の焦点距離の製品をラインナップしています。
では、発売年はといえば、手許の資料では、1963年のAstro社のカタログには既にPantacher共々、全焦点距離の構成図と諸元表が付いていますから、その前後と考えて良さそうです。

そして、このGauss-Tacherとは、その名の示す如く、構成は前後完全対照型の綺麗な4群6枚のWガウス型(正しくはOpic派生型?)となっています。

このレンズは元々、おなじみのArri用か、Cameflex用にパッケージングされ、世に産まれ出たらしいのですが、ドイツの売主を旅立ち、深川にやってくる時には、裸同然の光学ユニットと絞りの後付け真鍮リングだけの状態でした。

しかも、可哀相なことに写りに一番影響する絞りの後ろの→】に油か何かの染みとうっすらとした曇りがあったので、信頼している、川崎の救急病院へ入院させました。

二ヶ月の療養の甲斐有って、再び手許に戻って来た時には、見違えるくらい軽々とした透明感有るエレメントに甦っていました。

これだけ綺麗に仕上げて戴いた以上、ただ良く写るだけでなく、オリジナリティ、操作性も考えて、優れた改造しなければ申し訳が立ちません。

そこで、考えたのが、先に製造した"Devil's Pancake"の実装・計測技術、深川で言う、第四世代改造技術の応用です。

今回は丸々ハウジングが無い状態で、古いArriのレンズから取り出して新たなハウジングを与えた前回改造とは違い、実装状態が判らなかったため、光学ユニット固定で余計な応力が掛からないよう、材質、厚みまで丹念にチェックの上、新たなヘリコイド、マウントを備えたハウジングに移植するため、高張力真鍮のインゴットから固定用フレームを削り出し、ヘリコイド連結用のジュラルミンの補強リングも厚肉シームレスから切削でワンオフ加工です。

固定もかなり骨が折れましたが、それ以上に大変だったのが、傾斜カム加工です。

32mmの光学系に50mmのヘリコイドプロファイルを組み合わせていますので、かなり急峻度の高い傾斜カムを切らねばなりませんでした。

これは、工作機械で荒切削したあと、精密ダイアモンドラッパーで手削りしてプロファイルを造り出しました。

と、いつもの苦労話じみた前置きが長くなってしまいましたが、作例の紹介いきます。


まず、一枚目。
鞆の浦の目の前に浮かぶ仙酔島に渡るには、渡し舟を使うか、命がけで泳いで亘るか、善良な漁民の船をハイジャックするしかありませんが、一番手っ取り早くて安全な、市営? の渡し船を利用しました。一時間に何往復か出ていて、5分そこそこで着いてしまいます。
まず波止場についたところで、親子水入らずで、時より打ち寄せる高波をもろに浴びながらも狡猾な魚達にえさを与えるような、全然釣果無しの釣り人がイイ案配に夕陽を浴びて立っていたので一枚。
子供の青紫のシャツにピント置きましたが、皺までくっきり捉えています。後ボケも暴れてません。

そして二枚目。
波止場から、ホテルやら国民宿舎やらが密集する広い砂浜へ続く細道を抜けると一面に瀬戸内の海が広がります。
さすが、「人生感の変わる宿」に来たお客様各位、夕陽に映える浜辺を彷徨い、何か思うところがあったのでしょうか、倦怠感の漂う画となってしまいました。

それから三枚目。
砂浜の上の方、国民宿舎方面に目を転じると、この閑静で侘び、寂という言葉が似合いそうな"無人島"の砂浜に、カリフォルニアあたりの砂浜で二の腕に刺青でも入れたマッチョマンが、若き日のファラ フォーセット メジャーズみたいなブロンドの小姐でも誘って「無人島でも行って、愛を語らい合おうぜ☆」などと臭いセリフ述べながら波打ち際までダァァァとか押して行きそうな、センスない配色のボートが放置してありました。でも、夕陽のオレンジには妙に映えていたからこれまた不思議です。
ここでは、FRP製のボートの質感がなかなか良く捉えられているのではないかと思いました。

続いて四枚目。
砂浜を渡りきると、島の周囲を巡る通路が有るようなので、そちらに歩いていきました。
通路に繋がる小高い場所に上がると、砂浜の全景が手に取るように見えます。
よほど歩きづらいのか、或いは前世・今世・来世まで誓い合った仲なのか、全く同じ足の上げ下げでこちらに向かってくる、一種異様なカップルさんが居たので、証拠写真を一枚・・・てなワケでもないですが、夕陽の砂浜の情景図です。
踏み荒らされた砂浜のパターン、カップルの前方に伸びる影の捉え方が素晴らしいと思いました。

最後の五枚目。
結構きつい登り道、細い通路を通り、また波に洗われる岸壁を這う小径に出たのですが、暫く行くと、な、何と通路の崩落により、この先行き止まり・・・
ただの通行人にも等しい旅がらすの小生はまだイイですが、「人生感を変える」ためにここに逗留しに来た人々はどうするのでしょうか??? 閉塞感に打ちひしがれるか?或いは、「この先行き止まり」の看板をもっと手前に出しておいてくれなかった行政を怨むのか???
さぁ、戻る途中、また登ってきたお客さんに、この偏屈な工房主人は「行き止まりですよ~~~」と、教えてあげたのでしょうか・・・
いずれにせよ、近景から無限遠まで破綻なく描写しています。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2009/10/12(月) 23:04:51|
  2. Mマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

今晩は。
今回は深川さんにしては珍しい「感性に染み入る」レンズですねー。
遠景にある島の写真は、無限遠にも関わらず周辺像が甘いなんてT光学さんふうです。
今回の写真は小さいカットの新趣向も含め、お洒落です。
  1. 2009/10/12(月) 23:17:34 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordor #-
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先日はお疲れ様でした。

このレンズ、32mmとは思えない
ボケ味で良いですね~~~
周辺の落ち方も最高です。
仰っている通り
チャーリーさんの以前の作風からは考えられないですよ~~~笑

フルサイズでの画像も興味深深ですよ♪

そのうち使うの飽きたら、こっちに回してください・・・・マテw
  1. 2009/10/12(月) 23:25:16 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

こんばんは。
土日はどうもお疲れ様でした。

Treizieme Ordor さんも書かれているように、いつもと違い旅の抒情的気分が強い作品です。
いちばんいい時間の光線が美しく、レンズを客観的に評するのが難しいですね。
たぶん、もっときりっとシャープなのでしょうが、だいぷ柔らかな表現になっています。
特に5枚目にそれが顕著で、木のガードレール(?)のところの描写とかしびれます。

ところで、やはり県は控訴に踏み切るようですね。
オリンピック招致で核のない平和を全世界にアピールというニュースの直後、返す刀でとんだ仕打ちです。
広島の光と影。
  1. 2009/10/13(火) 21:57:25 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
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Treizieme Ordor さん
有難うございます。
先週末はお疲れのところ、おっとり刀で駆けつけて戴き、ろくにおもてなしも出来ないまま、東京へトンボ帰りさせてしまい、申し訳ありませんでした。

このレンズ、実は、R-D1sの距離計の無限がバカになっているのに気付いて、騙し騙し使ってたので、どうもピントが甘いのです。

一方、ZeissikonZMで以って、EKTAR100に撮ったものは、貴兄も銀座にてご覧戴いた通り、剃刀の如くシャープで発色もガラス細工の如くクリアです。


ところで、小さいカットってのは、故意にレイアウトしたワケではなく、いつもと同じ方法、サイズでアップしたのに、何故か、一番下のものだけが、サムネイルみたいになっちゃったわけです。
う~ん困ったものです。
  1. 2009/10/13(火) 22:18:23 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
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山形さん
先週末は遠路遥々ご足労戴き、どこかの薄情な寒天状生物と違い、最後まで一緒に行動戴き、有難うございました。
大先生もご満悦のようで、胸を撫で下ろしています。

それはそうと、今回のカット、旅程の紹介上、このレンズで撮ったカットはあとは生口島分しか無く、せっかく鞆の浦まで来たのに、また尾道まで戻ってしまうような構成は避けたかったので、ピントが大甘なのは目を瞑って、このシリーズをご紹介した次第。

しかし、ショックなのは、瀬戸内の旅先で脱落に悩まされた"特製"被せフィルターに代わり、ネジ径がきっちり合ったオシャレな銀の小径フィルターを嵌めて、フィルムで撮影した佐原の写真がフィルム一本、丸々、おしゃかになってしまったことです。

本番前には、キチンとテストをしよう!という苦い教訓を得ました。

このレンズ、飽きたら、秋田ならぬ山形県方面へ回しますので、先祖伝来の田畑売って、待ってて下さい >_<\☆★ばきっぃ!!!
  1. 2009/10/13(火) 22:26:26 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
先週末はお忙しいところ、時間をやり繰りしてお付き合い戴き有難うございました。

さて、今回の作例ですが、R-D1sの距離計が完全オーバーインフになった状態での撮影だった上、普段ならまずアップしない無限遠のモチーフが殆どを占めたので、作風が変わってしまったのか?という疑義を生ぜせしめたのではないかと思います。

このレンズの名誉のためにも申し上げますが、銀座の中華料理屋でご覧戴いた、生口島をEKTAR1000で撮りまくったものが、このレンズの実力です。

それにしても、県、そして本件に関しては、その傀儡である福山市が、開発方針を全く変更する気がなく、更に法定の場で争おうというのは、まさに時代の趨勢への悪あがきとしか考えられません。
  1. 2009/10/13(火) 22:32:57 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
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小さくて、妙なレンズデザイン。

アストロのレンズは、雑誌で見た一群二枚だかの超望遠レンズの紹介と作例が出会いでしたが、今回のガウス・タイプも見れば見るほど個性的ですね。
どのカットもクセがあるのは、ガウスタイプという対照型、小さいレンズサイズ、周辺がアマく光量オチがある、・・・など考えると近接設計・引き伸ばしレンズタイプなのかなと、かんぐったりもしました。

広角の割にはピント範囲も浅く、ぼやけた部分も妙な遠近感を持ち、やはり非常にオモシロイレンズです。
  1. 2009/10/15(木) 21:03:14 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordor #-
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Treizieme Ordor さん
再び有難うございます。

このレンズ、旅行中が、R-D1sとZeiss Ikon ZMで交互に使用したのですが、R-D1sの距離計連動カムの無限の位置が通常より0.2mm程度奥に入ってしまっている状態だったので、特に遠景を撮ると画面全般的にピントが甘く見えてしまうのですね。

しかし、近景だと、いつもの撮影スタイルだと、被写界のどこかしらにはピンがくるので、遠景ほどはアラが目立たないという寸法です。

このレンズの素性、売主の某有名ドイツ人のコメントを持ち出すまでもなく、Astro B.社に関する個人の研究HPを見れば、映画用にしか製造しておらず、あしかも、マウントはArriのスタンダードか、BNCRしかないということです。
  1. 2009/10/15(木) 22:49:23 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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