深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

A return of German treasure~Sonnar50mmf2 mod.Nikon S~

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【撮影データ】カメラ:LeicaM8 絞り優先AE ISO Auto 全コマ 開放 ロケ地:浅草
さて、一月ももう二週間も過ぎ、当工房操業報告でもあるブログも本年二回目の更新です。
今回も撮影日時は異なりますが、浅草からの作例紹介になります。

このレンズをまずご覧になって、な~んだ、コンタックスパチモンのキエフ4にオリジナルのゾナー付けただけじゃね、面白くも何ともねんぢゃね・・・と思われる向きもあろうかと思います。

ところが、このゾナー、ただのゾナーぢゃない、先週のKinematographに先駆けて走っていたプロジェクトの成果で甦ったハイブリッドレンズなのです。

中古カメラ屋巡り、或いは世界中古市のような中古カメラが沢山並んでいる場所で、たまに見かけるのが、前玉が磨りガラス状態になり、羽は油まみれ、そして後玉もコーティングが草間彌生の版画よろしく、水玉模様になってしまっている痛々しい沈胴ゾナー5cmf2です。

稀代の銘玉もこのようなまともに撮影に使えない状態では、1万円以内で叩き売られています。

以前、この憐れなゾナーを何本か買い上げ、川崎の友誼工場で、前・後玉の研磨再コート、そして鏡胴内部のクリーニングと調整をして貰い、そのうち数本をニコン規格で組んで貰っています。

しかし、かなり手間のかかる修復作業なので、コストが高く、この作業で元のレンズの購入代金の4本分近くかかってしまいます。

可哀想なゾナーを見かけるたび、何とか甦らせて、また撮れるようにして上げたいという思いは抱くものの、遂に直近買った最後の一本は、修理にも出さず、マウント取りの部品用にでも使おうと防湿庫その底で眠りに就いていました。

しかし、或る日、買ってから暫く、分解方法が判らなかったのが、ふと閃き、あっと言う間に沈胴のマウント部とシャフトを分離し、そしてシャフト部から中身の光学ユニットを取り出し、前玉、中群、後群と取り出すことに成功しました。

最初は、前玉と後玉だけ、当工房に腐るほど在庫があるロシアのジュピター8から外して嵌めれば、取りあえず撮ることは出来るようになるだろうと考えたのですが、世の中そんなに甘くない・・・ゾナーとジュピターには、超えるに超えられない壁があったのです。

それは何かというと、前玉が銘板の下で枠金物にかしめた上で装着されており、一方、ジュピターは前玉受けは分解可能な別形状の金物になっており、そのままでは玉交換は出来ないことが判ったのです。

しかし、中玉は全く同じ形状で互換性はありそうでした。尤も中玉は憎たらしいくらいキレイなままだったので、これはそのまま使うこととして、改造方法を考案しました。

そこでまた閃いたのが、外観はボロボロでどーしょうもないレンズを一山幾ら、で送ってきた中から、50年台前半のジュピターを探すこと。

ジュピターの銘板の前から2桁が西暦の製造年の末尾2桁を表すので、簡単に見つかりました。

何と、49年生のボロボロのレンズがあり、玉は傷々、フィルター枠は曲がり、一部欠け落ち、鏡胴にもシールだかタールだかのベトベトが乾いたような物質がくっ付いていて、お世辞にもガラクタ以上のものとは言えませんでした。

う~ん、これに較べりゃ、まだゾナーは息がある・・・と正直、思った次第。

ところが、鏡胴から内部の光学系を取り出してみたら、精緻の旋盤加工で削り出された内部筒の外観形状は、戦前のゾナーと瓜二つで、真鍮から削り出して作ったか、アルミからかの違いくらいです。
勿論、形状、寸法も全く同一ですから、沈胴のシャフト部には何の違和感なくすっぽり収まりました。

大きな違いは、前玉の固定方法、戦前のゾナーの真鍮の眼鏡みたいな真鍮枠を介しての装着に対し、ジュピターはクラスノゴルスクでの生産プロセス改良の賜物か、終戦直前にツアイス自身が改良したのか判りませんが、筒の最先端部の構造が枠金物無しで前玉を保持出来る形状になっており、新しい玉を幾らでも嵌め替えられる構造にしてあったのです。

一方、後玉を受け入れる部分はオリジナルと同一で、スクリューを回してやれば、後玉が金物ごとすっぽり抜けてしまい、そのまま別のものと入れ替えが出来る構造になっていたのでした。

そこで、またいつもの地道な作業で前玉と後群の焦点距離の短いものをキレイなパーツから選って組み合わせ、オリジナルの中玉はそのままにニコンの基準である51.6mmに近づけた光学系の創出に成功しました。

そうして、パーツが全て揃ったところで、組み上げに入ったワケですが、中玉同様、銘板もオリジナルのゾナーのものを使いたかったので、前玉を固定する押さえリングをジュピターのものから現物合わせで削って薄くして、銘板が所定位置までねじ込めるようにしたのです。

文章にしてしまうとあっけないですが、結構な手間がかかりました。

でも、お金をかけずに気の毒なゾナーを甦らせることが出来たので、かなりの達成感はありました。

そこで作例いってみます。


まず一枚目。
浅草と言えば雷門、その下で欧米人のツーリスト諸氏がガイド役の兄さんと、ディベートの練習をおっぱじめたようでした。
最初は提灯下部の金物のアップでも撮って、フレアのテストしようと思っていたのですが、急遽、テストモードを変更し、白人の肌の再現性を確認。
結構、シャープで色ノリ良く写っています。
しかも、ゾナーにしては、前ボケがかなりおだやかです。

そして二枚目。
仲見世をずんずん歩いていくと、お土産物屋さんの前で、年端もいかない小々姐がずいぶん年の離れたお母さんの携帯を覗き込み、甘えています。
そこを音もなく近寄り、一枚戴き。シャッター切った直後、娘さんがご注進に及び、お母さん、あ~らいやだ、撮る時は撮るって言ってよ・・・と苦笑、すいません、イイ表情の瞬間だったんで(本音は娘さん主体なんですが)、という微笑ましいやりとり。
光源が宜しくなかった割には、小々姐の瑞々しい肌、美しい健康的な黒髪の質感が程好いシャープさで捉えられています。
また、後ボケがなかなか穏やかで好感持てました。

続いて三枚目。
仲見世を終点まで歩き、宝蔵門前までやってきました。
この時点では年末の行事前だったので、門の前に寄進者の名前を書き連ねた提灯が並んでいます。
これを宝蔵門をバックに一枚戴き。
ここでも、シャープネスと前ボケのバランスの良さが見て取れます。

まだまだの四枚目。
いつもタダでロケさせて戴くのも申し訳ないので、たまには本堂にお参りし、お賽銭を上げました。
すると、速攻のご利益か、また母娘の微笑ましい光景が目の前で繰り広げられ、如何にも撮って下さいと言わんばかりぢゃないですか・・・
ここでまた一枚戴き。
光線状態は最悪に近いですが、それでも、衣服の記事、毛髪の質感描写はかなり上手くいっており、逆光となった背後の蛍光灯もフレアはそれほど膨らみませんでした。
また、低速シャッターの恩恵として、周りの人物が皆、流れて面白い一枚になったと思います。

最後の五枚目。
仄暗い本堂を後にし、また陽が傾いたとはいえ、十分明るい表に出ました。
そして、いつものおみくじ売り場にやって来てみれば、今度は小姐とその弟がおみくじにうち興じています。
こんな年端もいかないうちから神頼みかい・・・とか思いつつ、一枚戴き。
ここでは、子供達の瑞々しい肌、そして黒髪の質感を余すところ無く捉え、一方、ステンレス製と思しき、おみくじ入れは、微妙なフレアで金属の冷たさを和らげたかの如き描写となっています。

今回の感想としては、一般的にはジュピターはゾナーの劣化コピーであって、年追うごとに品質低下の一途を辿ったなどと言われていますが、前玉こそ70年代始めのものを使いましたが、後玉は80年代になってからの赤茶けたコートのものを使っても、ご覧の通り、おそらく店頭に並ぶ未整備のゾナー、或いはニッコールにも遜色ない写りをするものが出来上がりました。
今後も風説、一般論に惑わされず、技術を磨くとともに、自らの手で実証していきたいと考えました。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2010/01/17(日) 21:00:39|
  2. Sマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

こんばんは。

1枚目のふりだし。2枚目から後、4枚目「おみくじを見る人物」を頂点にしての作例をみたら、レンズ来歴記述の前半はどうでも良く思えるほど(ごめんなさい)見所のあるスナップです。

2枚目近接の瞬間など、普段は見逃してしまうようなココロの動きですが、果敢にキャッチを試みています(ちょっとピンずれ?)。
3枚目の説明的な状況描写を挟んで4枚目の、難しくもフォトジェニックな写真を上手にモノにしています。

当初、てっきりキエフによる撮影とおもっていました。それはこういった人物へ迫った緊張感を緩和するのに絶好のクラカメと思うと供に、M3のような擬視に適するような大きなのフアインダーと、あっさりと抜け良く写ってしまうレンズの組み合わせなども、一方、魅力的に思えた次第です。
4枚目での難しい光線下、M8オートの便利さも見直すものでした。

こういった設計上素直なレンズが、かつて大量に生産されていたとは、やはり驚きにあたいします。
  1. 2010/01/17(日) 22:19:16 |
  2. URL |
  3. 13 ordre #-
  4. [ 編集]

13 ordre さん
昨日は遅くまでお付き合い戴き有難うございました。
またアップしてイの一番のコメント、重ねて御礼を申し上げます。

そうですね、2枚目は、近接までの繰り出しが例のS→Lカプラーだと時間掛かるので、合焦位置に行くまでに心持ち手前でシャター切ってしまったのかも知れませんね。

確かに4枚目は、このM8では難しい光線状態でした、R-D1sであれば、画面の若干の光源が入ろうと中央重点ながら絶妙の明暗配分してくれますし、また露出補整も簡単なのですが、たぶん、この時はまぐれで上手くいった・・・いや、仏前のご利益だったと考えるべきか(汗)

しかし、ボロクソに貶められているロシアレンズの前・後群でここまで出来るとは、やはり宇宙ロケットを飛ばし、水爆を炸裂させられる国の基礎科学は本当は侮れないってことかも知れません。
  1. 2010/01/17(日) 22:47:38 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

私はロシアレンズは
相当好きですよ~~~

まあ、高級なドイツとか、おフランスとか
エゲレス製のレンズを使ったことが無いやつの
たわごとだと言われてしまえば、それまてですが
レンズの当たり外れも少なく(実際に撮り比べましたよ)
良いレンズだと思います。

某関西の双子の方は
ロシアレンズには見向きもしないようですが
そんなレンズの味を語る人にこそ
ロシアレンズの良し悪しを「写真」で語って欲しいですし

エゲレス在住の「素人写真教室」を開催している方にこそ
素人がとても買えないようなレンズの話題なんか
やめて、
素人が一番最初にハマる
ロシアレンズの写真教室を開いてもらいたいです・・・・

なぁ~~~~んて事は
自分の日記に書けば良いことなのですが
ここで書いてしまって
Cさんに迷惑がかかったら
どうしようか・・・・・
なんて思っている小心者です・・・(^_^;)
  1. 2010/01/18(月) 20:52:07 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

山形さん
有難うございます。

ロシアレンズの良さって、なかなか判って貰えないんですよね・・・

ま、元のお値段がお値段ですし、日本の中古店の陳列棚にあるものは、品物としての状態は勿論、写りも全然ダメなものが結構あるので、相当レンズにお詳しい方々でもロシアレンズへの言及を避けておられるのは、良い経験が無かったなのかも知れませんよ。

でも、実際に或る程度、レンズをエレメント単位にバラして、調整出来るようになると、個々のパーツの素晴らしさから判ってきて、エレメントを選りすぐり、丹念に組んでやれば、そこはそれ、世界最高の光学性能を誇るウラル山脈のガラスですから、ご覧のように本家ツァイスのエレメントと数十年のギャップが有っても、絶妙のハーモニーを奏でさせることが出来るのです。

実際に10本のゾルキ・インダスターから選ったエレメントで組んだ50mmf3.5のレンズは、本家のテッサー、エルマーは言うに及ばず、今まで保有してきたあらゆる3群4枚のレンズ中、ずば抜けた描写性能を誇っていますし。

要はロシアレンズとは、コレクター諸氏には魅力に乏しい製品ではあるが、職人にとってはも魅力に満ち溢れた素材である・・・というところなのでしょうね。
  1. 2010/01/18(月) 22:37:18 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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