深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Renovation of optics in glorious age~Kodak Ekatar50mm f1.9 mod. L39~

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【撮影データ】カメラ:Leica M8 ISO Auto、絞り優先AE 全コマ開放 ロケ地 浅草
さて、巡る月日は風車と申しますが、早くも3月の更新第1回です。
今週末も雨のため、工房で試作に没頭していたため、ご紹介は昨年秋口に撮った作例を使ってのものとなります。

まず、レンズのご紹介ですが、このレンズは、今から4年近く前に写真仲間がヤフオクに出していたのを知らずにビッドしていて、その翌日、ご本人から電話が有り、「ご入用であれば、早期終了でお譲りしませう♪」ってことで、かなり安く譲って戴いたものだったのです。

それもその筈、巨大なEktraマウントのレンズなんか持ってたって、ボディがなければ、ルーペか文鎮くらいしかならないし、中玉にほんの少し曇りがあったためでした。

譲っては戴いたもの、分解方法が全然判らず、数年間、深川精密工房の「改造不能レンズ」のケースに眠ったままでした。
ところが、同様に改造不能と思われた、Cine-Ektarが第4世代改造、即ち、直進ヘリコイドを回転ヘリコイドに構造変換して、傾斜カムを切って、素晴らしく良く写る戦力として生まれ変わったのに、この薄幸の銘玉は、とにかくヘリコイドから光学ユニットを取り出すことさえ出来れば、後はいかようにも出来るのですが、なかなか分解が出来ず、同様に大きなヘリコとアブノーマルなマウントのため、「改造不能レンズ」の良き同輩だった、マクロスィター50mmf1.8が、マウントブロックを真鍮の丸インゴットから削り出してMマウント化する、という大技により、これも見事なMマウントレンズに生まれ変わり、最後の一個となってしまったワケでした。

ところが、昨年の夏も過ぎた頃、某浅草の神業的修理名人のお店にふらっと寄った時、思わず、目を疑いました・・・
そう、この玉と同じものを、まさに分解していたのです。

プロ相手にこんなことを聞くのも大変な無礼に当たるのは承知の上で、「へぇ~、ずいぶんと難しいのをやられてますねぇ、うちにも一個有るんですが、なかなか手が出せなくて・・・」と話し掛けてみたら、あっさりと分解方法を教えて戴けたので、しめしめと家に戻り、早速教わった通りにやったら、くるくる、すっぽ~ん!!てなカンジで光学ブロックがヘリコからキレイに外れました。

ここからが深川精密工房の腕の見せ所です。手許のヘリコ&マウントユニットに合体させ、一見、沈胴風に仕上げました。

このレンズは、先に述べたように、米国Kodak社が1941年から1948年にかけて、約2500台ほど生産したEktraの標準レンズで、物の本では、すべてコーティングされていると説明されていますが、この個体をはじめ、相当数はノーコートのものがあとの説明を浅草の名人は言われていました。

構成は4群7枚の変型Wガウス型で、Ektarと名の付くレンズはこの世にあまたあれど、この50mmf1.9というスペックはこのEktra用のみであり、シリーズ中、最高の描写性能を誇るというのが世間の下馬評であります。

では、その伝説の写りを作例を追って検証していきましょう。

まず一枚目。
浅草の名人に敬意を表し、作例は浅草シリーズで行きます。
浅草寺の宝蔵門手前では色々な露天商がお店を出しており、その中で、夏が過ぎたにも関わらず、店先で清涼飲料水を並べて涼しげな雰囲気を醸し出しているお店があったので、そのラムネにピンおいて、バックのボケを検証。

一番手前の緑のオーセンティックなラムネ瓶にピンを置いていますが、バックのおじさんなど、重々しく溶けるようにぼけ、油絵のような雰囲気になりました。

そして二枚目。
仲見世を眺めていたら、この頃では珍しい、我が国の民族衣装、着物を美麗に纏ったうら若い姑娘が二人していそいそと歩いていきます。

こりゃ、天の恵みだわぃとか、勝手に思い込んで、M8を片手に目を血走らせたアヤシゲなカメラマンは人ごみを縫って、一定距離で姑娘二人組を追尾します。

ちょうど、雷門がバックに写り込む格好のポイントで人ごみがぱっと切れ、視界が広がったので、すかさずシャッターを切ります。

空が画面に映りこんでしまったので、M8の雑駁なAEではアンダーに写し込んでしまいますが、着物の雰囲気、光の当った髪の毛の描写でシャープでありながらどこか優しいこのレンズの描写が垣間見られた気がします。

ただ、残念なことにバックの店頭の繭玉飾りは若干ぐるぐるになりかけています。

続いての三枚目。
何枚かシャッター切って満足出来たので、姑娘達の艶やかな後姿を見送り、いつもの定点観測地点、扇屋さんの店頭のオブジェ撮影に移ります。

1.5mくらいの距離で、ひょっとこの値札にピンを置いてシャッターを切りましたが、いやはや被写界深度が浅く、廻りの団扇はぼけています。

背後の藍染の暖簾、柳など、やはり油絵でのデフォルメの如きボケをかましています。

まだまだの四枚目。
裏通りの扇屋さんでのテストを終え、いつもの超絶美女でもテスト撮影しようかと仲見世に戻りましたが、あいにく、この日は店頭に姿が見えませんでした。
仕方なく、宝蔵門の方角に視線を移すと、右手の商店街の何番目かの提灯にだけ陽が当って、面白い光線加減となっていました。
そこで、気を取り直して一枚。
銘玉は赤の描き分けで味が出るという説もあり、まさに格好のテストパターンとなったわけですが、手前から二番目のピンを置いた提灯はあたかも浮き出たような描写となり手前の日陰の提灯もそれほど見苦しくはないボケとなっています。
後ボケがキレイでシャープなレンズは前ボケが遺憾な結果となることが多いですが、Ektar50mmf1.9の少なくともこの個体は全く問題ない結果を見せてくれました。

最後の五枚目。
仲見世を歩き通し、雷門の前までやってくると、ここでも露天商のおじさまがいたいけな女子供相手になにやらセールストーク満開状態です。

要は女子供の好きそうな小間物を一個100円とか、50円とかでところ狭しと並べて商っており、「はぃ今日だけ、今日だけ、売り切れたらゴメンね♪」とか葛飾柴又の伝説の露天商自家薬籠中の常套句を並べ、道行く人々の射幸心を煽っているようなのです。

あたかも昨日、還俗した小坊主のような佇まいの少年達の真摯な表情が面白く、一枚戴き。

ノンコートのレンズながら、コントラスト、階調再現性、色のバランスとも全く不満はなく、なかなか重厚な描写の一枚に上がったのでありました。

今回の感想としては、伝説の銘玉はやはりタダ者ではなく、艱難辛苦の果て、使うことが出来るようにした者だけにそのヴェールを脱ぎ捨て、魅惑の描写を見せるのだということでした。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2010/03/07(日) 20:20:50|
  2. その他Lマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:12
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コメント

このレンズって、35mmカバーするんですか?
結構ボケが個性的で
気に入りましたよ~~~~~

写真的には
1枚目と3枚目が好きです♪
  1. 2010/03/07(日) 20:54:10 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

エクターも、クラ・レンズ入門で多くのフアンがあるかなーと考える筆頭のレンズですね。

ハッセル用とプレスカメラ用が有名ですが、35判ではエクトラ用位しか無いのかと思うと淋しいものです。ほかのライカ判への提供は無かったのでしょうか?

アメリカの古い写真雑誌には、このレンズでの誇らしげなカラー・ページを多く拝見したものです。モチロン白黒でもトーンのすばらしい作例もありますね。

といった訳で、わたしも30cmモノでも欲しいのですが・・・。

こうしてデジタルでみると、かなり濃厚な色再現に驚きましたが、フイルムの選択で色々と楽しめそうな事うけ合いですね。
各作例のボケ具合を漠然と見ていたら、こんなのがアメリカの風流なのかな・・・と、妙なとんちんかんな事を考えて仕舞いました。
こうしたべったり濃厚で艶やかな色彩は、アメリカの「黄金時代」から覗けば、ひなびた日本の現風景さえも、エクターが生まれた1940年代くらいからは、こんな風に賑やかな色彩に彩られていたのでないかと言う、そんな感慨にとらわれてしまいます。

35判での貴重なデジタル作例に、感謝です。

  1. 2010/03/07(日) 22:21:36 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

山形さん
有難うございます。
勿論、銀塩フィルム135判用のカメラですから、24x36の対角線、43mmについては、余裕でカバーします。
このレンズ、ボディがなければ、ただの文鎮くらいにしか役立たないので、たまに単品で出るときはびっくりするほど安い値段だと思いますよ~~~w
  1. 2010/03/07(日) 22:52:30 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
ライカ判には、もうひとつ有名なのが有るぢゃぁないですか・・・
そう、カードン用のエクター47mmf2です。
これは、レチナIIの公称50mmf2と全く同一のもので、なかなか良い写りを見せてくれますよね。

しかし、レチナIIの玉を某有名改造請負業者?さんにお願いしたら、片ボケというか、必ず画面右下が気持ち悪く流れる症状が頻発してしまったので、何本か撮って、黄色い手榴弾で44mmの方と一緒に叩き売ってしまったのは苦い経験です。

今度、ヒマを見つけて、このEktarレンズでEktarフィルムを使ったら、どんな極彩色の写りになるか、実験したいと考えています。
  1. 2010/03/07(日) 22:59:10 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

思い返しましたが、カードンやシグネットとかもありましたね!ここらへんは、モノクロレンズ(そんなものありませんが)という印象があって、カラーで使えるの?というのは、エクトラから「カラー時代」に突入したかの先入観でした!

コーテイングの無い時代から色付きに特徴があるのは、B&Lかコダックの開発したという新種ガラスに拠るものなのでしょうか?

アメリカのつややかな色再現のあるレンズ群を思い浮かべながら、考えてしまいました。(色覚に対する国民性なんていう意見もあるようですが)
  1. 2010/03/08(月) 09:13:28 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
再び有難うございます。

このレンズについて書かれた文献はあまり多くはないようで、硝材に関する記述は見かけませんが、このレンズの開発時期が1940年以前であるにせよ、光学史上での新種ガラスは米国で1931年に開発されていますから、米国最大の写真機・感材メーカーであるKodak社がその威信と誇りをかけて開発したフラッグシップ機のレンズである以上、当時の最新鋭のテクノロジーを導入したであろうということは想像するに難くはありません。

因みに同じエクター名でも、シグネット用の44mmf3.5のものだけは若干事情が違っていて、大東亜戦争終結後に米軍が光学兵器、特に潜望鏡のプリズム用に大量に備蓄していた新種ガラスが放出されたので、それを用いて、宿敵ドイツに対する意趣返しか、逆テッサー型の設計で開発されたという話を聞いたことがあります。
  1. 2010/03/08(月) 13:09:56 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

驚きました!

あの不可解なマウントのEktraの50mmをライカの連動マウントに改造などとは・・・絶対不可能と思っていましたが、神の手に委ねると実現するモンですねぇ・・・目をむくほど驚きました!
  1. 2010/03/08(月) 17:11:56 |
  2. URL |
  3. ファジー #UXr/yv2Y
  4. [ 編集]

ファジーさん
有難うございます。
実はおの改造には後日談が有って、この試写はM8で行ったので、その足で教えて戴いたささやかなお礼に深川名物、「明治のどら焼」を一袋持参して、当の名人のお店を訪れたら、「まさかホントに出来るとは思わなかった」とのことで、どうせ、途中で怖くなって、泣きでも入れてくるだろうとタカを括っていたカンジでした(笑)

あの無骨で頑丈一点張りのダブルヘリコイドの鎧さえ外してしまえば、裸の光学ユニットを距離計連動に改造するのは、他愛もないことです(笑)

今もこれまで改造不能と思われてきた難攻不落のUSAレンズの改造に挑み、6合目を越したあたりです。
  1. 2010/03/08(月) 21:23:58 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

痺れました

このEktarの溶けていくようなボケ具合、とっても気に入りました。
Kodak侮りがたし、ですねぇ。
M9での絵も見てみたいものです。

  1. 2010/03/08(月) 21:28:48 |
  2. URL |
  3. Nash #Dg7UdZ/w
  4. [ 編集]

Nashさん
有難うございます。

実は、このEktar、改造前に総分解やって、くもり取りがてら、エレメント固定のリング金物類のスクリューを溶剤で拭いたり、Kカメ直伝のエレメントの回し積みやったり、コバ塗りやったりして、細かい手直しの積み重ねの上で組み直しをやっての結果です。

そのボケが気に入って戴けたとなると職人冥利に尽きますね。

ただ、M9は持っていないので、今度、ilovephotoさんにでもテストして戴きましょう。
  1. 2010/03/08(月) 21:42:07 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは。
ほんと、素晴らしい技術ですね!!
レンズ解体の一節だけでドキドキしましたよ~。
仕上がりもお見事だし、写りもとても好みです!
ぜひ、次回はフィルムもコダック・エクターでお願いします。笑
  1. 2010/03/08(月) 22:10:06 |
  2. URL |
  3. andoodesign #WSWGH/LU
  4. [ 編集]

andoodesign さん
有難うございます。
実は、今月の3連休の一日有休をくっつけて、南の島に写真展向けの最後の追い込みに行くのですが、今回は、デジより、寧ろ、フィルムメイン、デジをサブとしようか!?などという大それたことを考えてまして、その時にこれを持って行ってもイイかなぁとも思っていますが、何せ、このところ、まだ発表していないものも含め、50mmの標準域は大漁続きで、全部持ってったら、カバンが重くて動けなくなりそうなサマですから・・・笑
  1. 2010/03/08(月) 22:23:15 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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