深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

An essence of accuracy of C.H. ~Kerm Switar 50mm f1.8 mod. L39~

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【撮影データ】カメラ:Leica M8 ISO Auto 絞り優先AE 全コマ開放、ロケ地 浅草
さて、写真展、沖縄ツアーと楽しい季節も過ぎ、先週末から工房は通常操業に入りました。
そう、溜まりに溜まった曰く因縁付きのレンズヘッド達をM、S/CXマウント化して再び使えるようにするという、レンズ供養です。
よくよく考えてみれば、今までやって来たことは、ボディが頓死してしまったり、ボディとはぐれてしまい、二度と光を写し撮ることが出来なくなったレンズ達を再び輪廻転生のサイクルに引き戻し、物欲を満たしつつ、元の役割を演じるようにして上げること以外の何物でもありませんから、供養のひとつの形態ではないかと思えてきたのです。

こうなると、いっそのこと、工房を畳み、宗教法人化し、「深川鏡頭鎮魂庵」とでもしてしまえば、宗教活動として一切無税になるのですから、こんな都合良いなことはないのですが、そもそも営利活動やってないので、無税でも全くメリットなかったのです。従って、工房のまま活動を続け、ただ、写真撮影のみは愉快な仲間達と修錬を続けていきたいと思います。

ということで、今回のご紹介は、昨年冬には加工完了していましたが、何やかんやで登場が遅れていたスイスはケルン社製のアルパ用レンズ、Switar50mm f1.8です。

これを見て、アルパ教の信者各位は、また性懲りもなく、2本目まで手なんか出して、いったい何考えてんだ!! Switarはアルパのボディで使えよ!!!とお叱りを受けてしまいそうですが、先の太鏡胴のMakro-Switar50mm f1.8同様、某ICSの有楽町会場にて、絞り機能不調、玉に若干クモリ有りということで、相場の半額以下で叩き売られていたものを、これなら、何とか分解清掃して手動絞りに改造すれば使えるだろうと見当付けて、買い受けてきたものなのです。

では、まず簡単にこのレンズのおさらいから。
この1958年発売のAlpa用スイス製の優美な細身のレンズは、2箇所の貼り合わせを持つ5群7枚構成になっています。構成図を見ると、エレメント数に比して貼り合わせが少ない、薄いメニスカスの行列なので、魚の骨か何かをソフトX線で透視した図のようにも見えます。

この特異なレンズは、トリプレットの派生型ということで、想像するに、黄色域の収差補整と大口径化を図るために、トリプレットに手を入れていったら、結果的にWガウスよりも枚数が多く複雑怪奇な構成になってしまった、というのが実情だったのでしょう。それとも、どうしてもイギリス人にオーピック型のライセンス料を払いたくなかったので、こんな構成を採用したか。

想像していたらキリがありませんので、早速、作例いってみます。

まず一枚目。
レンズの調整が終わったのが日没間際、夕暮れでも人出の多い浅草をテスト場に選び、出撃しました。
このカットは雷門前でワリカンか何かの支払いをすべく、財布を開けた女性とそれを覗き込もうとする男性の様子を一枚戴いたものです。

水銀灯と白熱灯のミックスライト下なので、M8の雑駁なホワイトバランスではあまりイイ発色とはなりませんでしたが、それでも、髪の毛、衣服のシワなどの細部の表現にこのレンズのポテンシャルの良さが垣間見られるのではないかと思います。
後ボケもなかなか自然でキレイではないでしょうか。

そして二枚目。
仲見世を歩きつつ、獲物を物色していたら、いつの間にか宝蔵門の前までやって来てしまいました。
そこには、先ほどのワリカンカップルがまた立っていて、いつの間にかカバンから取り出したか、コンパデジで二人の今生の思い出に写真でも撮ろうといったような談合をしています。
その様子を撮ろうと構え、シャッターを切ろうとした刹那、マフラーを巻いた重装備和装のおばさま2名が恵比寿顔でやって来たので、一緒にフレームに入れて撮ったカットです。
カップルにピンを置いていたので、彼らの服のテクスチャ、髪などを微細に描写したのは当然でしたが、かろうじて被写界深度内に入ったおばさま2名の様子もややソフトながら上手く捉えていると思います。
また、ガンガンに照明当てられ、飛び気味ではありますが、宝蔵門下の提灯もイイボケ加減で写っているのではないかと思います。

続いて三枚目。
また少し歩いて、宝蔵門の真下付近に移動しました。
ここでは、提灯がレンズの描写を見るテストに結構重宝するからです。
提灯真下の金具の丸紋にピンを置いてシャッター切ろうとしていたら、またもや、格好の獲物がやって来ました。
おそらく、集団就職か何かで東京に出てきた小姐が多少お金も溜まり、東京のことも判ってきたので、東北地方あたりに残してきたお母さんを呼んだのかも知れません。
それにしても不思議なのは、このレンズも前方向に被写界深度が深いので、提灯の紙張りの皺や材質の質感そのものまで上手く描写しています。
ここでも、背景のみくじ売り場の建物はキレイにボケ、水銀灯の緑の光の当った箇所が深海底のようにも見え、雰囲気がある一枚になりました。

まだまだの四枚目。
宝蔵門をくぐり抜け、そこから五重塔を見あげ、一枚シャッターを切りました。
ピンは宝蔵門の屋根の端部、張り出し部の四角い金具に置いていますが、それでも、光線状態が悪いので、ヘンな発色にはなってしまいましたが、五重塔がなだらかにボケ、なかなか面白いカットになったのではないかと思いました。

最後の五枚目。
宝蔵門からは数メーターしか離れていない、みくじ売り場に足を運び、みくじにうち興じる人々の姿を写そうと思いました。
幸いなことに、時間のせいもあるのかも知れませんが、このみくじ売り場周辺には、若い小姐たちしか居ませんでした。おじさんの影が見えますが、これは寺男の方で掃除しているだけなので見なかったことにしましょう。

ここでは、置くのメガネ小姐達にピン置いてシャッター切っていますが、やはり、髪の毛の健康なキューティクルまでも捉えているかの如きシャープな上がりとなっており、手前にも白い服の小姐が難しい顔でみくじの文面を読み、結んで置き去るべきか、持ち帰って、家の神棚に祭るか、肌身離さず持っているべきか、思案に耽っているようです。
このアウトフォーカスの画面手前の小姐もキレイなぼけとなっていて、画面構成上の邪魔とはなっていません。

こうして修理したレンズが予想通り、キレイに写るようになると、まさに供養が上手く行き、このレンズはきっと成仏してくれたのだろうと思え、満足感で胸が一杯になります。

これからも、世の片隅に埋もれている可哀想なレンズ達に再び光を当てるべく、工房の創作活動は続きます。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2010/05/23(日) 23:00:00|
  2. その他Lマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

修繕再活用活動、ご苦労さまです。

(わたしも以前、不具合見つけちゃ修理出して、市場に慈善的な価格で戻すなんてオカシナ事随分遣っていたので、でも、嘆いても何も残りません・・・。)

さて、わたしも1本だけボレックスの75mmf1,9を持っています。改造に忍び無く、CマウントのままGH-1で覗いたりしてますが、この組み合わせでも微妙な色加減に気に成ります。もちろん、オリジナルのカメラを使う事での組み合わせから、撮影状況を読み込んで、レンズの持つ最良の条件に思いを馳せるのは非常に有効だとおもいます。ボレックスやアルパの機械の中で発揮できる性能というのは、それはそれで確かでしょう。ムービーは兎も角として、だからって、まず写真が無いですからね。飯田鉄さんも現役時代のアルパについて、かつて一度だけデーターにあったと仰られていますが、困った使用状況ですね。やはり、秘匿されているのでしょうか?

今回のミックス光の中、ムズカシイ撮影状況ですね。独特の淡い色再現は感じさせますが、ごっちゃの色で蛍光灯も干渉しているようなで気に成ります。
これがシネ・クセノンや極端な大口径レンズだとかならコントラストで見せる様な気もしますが、スイターという物体が何を引き付けるのか、どこでも使わねば成らないとする、これからの課題だとおもっています。うわさだけ進行しないで、どんどん撮影されなければ、スイターだって衰退しますよと、思うこの頃です。





  1. 2010/05/24(月) 00:20:39 |
  2. URL |
  3. trezieme ordre   #-
  4. [ 編集]

trezieme ordreさん
有難うございます。
貴兄もこのSwitarの兄弟機75mmf1.9をお持ちだったのですね。

しかしながら、M3/4のボディぢゃ150mm相当の画角になってしまって、あの75mmオリジナルの中庸な遠近感と肉眼で見たカンジよりちょっと大きく写っているという微妙なバランスが妙に切り取られてしまっていて、創作にはかなりの工夫が必要となりそうですね。

ところで、色加減ばかりは、今回の一連の作例はあまり適切ではなかったですね。
こういう微妙な光線加減の場合、オートホワイトバランスと被写界内の輝度差分布の読み取りに比類なき強さを発揮するR-D1sの登場というところですが、何故かこの日はM8との組み合わせで持ち出しちゃったのです。

勿論、このレンズは43mm対角線のいわゆるフルサイズをカバーしますから、ホントは佐原の小野川沿いの遊歩道とか、大島の波浮港辺りのピーカンの日にEktar100詰めたボディ2台用意して、シネプラナー50mmf2とか、ズミクロン50mmf2の三代目辺りと順光条件下で発色を較べなければフェアではないのかも知れません。
  1. 2010/05/24(月) 22:17:05 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

修理が出来て、羨ましいですよ~~~

もう、Switarとか、アンジェニューとかは
高くて手が出せません・・・・(^_^;)

とりあえず
ガラクタを有効活用すべく
頑張ろうと思います。

まずは、机の上で
ほこりまみれになっている、ボロボロの
ROSS LONDONのレンズヘッドで
何か作ろうとは思っているのですが・・・・・・(^_^;)

  1. 2010/05/24(月) 23:04:34 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

山形さん
有難うございます。

>修理が出来て、羨ましいですよ~~~

当方で行うのは修理と最低限の加工で、鏡頭達の社会復帰の手助けをするだけ・・・

それに対し、山形さんの手作りレンズは、過去を一切清算し、新たな描写領域の創造を行っているワケですから、当工房が加工に留まるのに対し、山形さんの行いはまさに手作りの芸術以外の何物でもないでしょう。

ということで、気の毒な英国生まれの孤児も、早く第二の人生ならぬ、鏡生を与えてやって下さいね♪
  1. 2010/05/25(火) 21:56:19 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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