深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

たおやかなる美意識の結晶~S-Micro Nikkor 5cmf2.5

mikel02a.jpg
いよいよ待ちに待った、深川精密工房のご本尊、S-マイクロニッコール5cmf3.5のお出ましです。
この端正なオールクロム仕上げの沈胴仕上げのたおやかなレンズが、超絶シャープ&クリアな画を描き出す。

そもそも、このレンズを欲しいと思ったのは、性能に期待したわけでも、希少性があるからでもなく、ただ、日本の半導体産業勃興の嚆矢となった、ステッパレンズの遠いご先祖様で、産業遺産としての興味からでした。

そして、縁有って、米国の某有名ディーラーのオヤジのコレクションを売りに出したのを譲って貰い、里帰りさせてわけです。

どんなコレクションアイテムでも、まごうことなきレンズであれば撮ってみたくなるのが人情というもの、家に来てから最初の週末、ガマンし切れず、観光客御用達の浅草に連れ出して、試写と決め込んだのです。

なーに、久々に里帰りした往年の銘レンズに時の移ろいとともに変わっていった浅草を見せてあげたかったという遊び心もあったのかも知れません。

都営線を蔵前で降り、駒形どぜうの前でパチリ、藪そばの前でパチリ、そして、雷門前の人力車溜りでまたパチリ、雷門の巨大提灯下の黄金色の金具をまたパチリ・・・と同伴した同じくニコン製のニッコール5cmf1.1と交互に撮ってきて、近所のDPEで現像してびっくり!

とにかく目の覚めるようなシャープさ、そして、クリアさ、しかも、画面の隅々まで均一な出来栄え・・・ライツの玉が空気を写すなら、こちらは空気のベールを剥ぎ取り、まさに純粋な概念としての形、色を鋭く掴み撮ってきて、ネガにそのまま焼き付けたというカンジでした。

言い方を換えれば、これは芸術ではなく、まさに記録そのもので、芸術には許される、見るものの主観による画像への解釈の違いというものを一切許容しない、冷徹ですらある客観的事実しか提供しない正確無比なマシーンなのです。

このレンズ構成は、f3.5にはありがちなテッサータイプではなく、変型ガウス型の一派であるクセノタータイプを採用しています。
一面目がまっ平らなのがチャームポイントとでも申せましょうか。

まさに撮る腕前と、被写体を選ぶ、鋭利な刃物のようなレンズだと思います。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2008/01/31(木) 23:09:50|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

ついに登場ですね。
美しい鏡胴にまず目がいきます。
クセノタール型というのが驚きました。
いかに明るいレンズを作るかにうつつを抜かしていたかに思えた日本光学ですが、これは設計者の良心が明るさを犠牲にして、どれだけ写るかにすべてを傾注した結果でしょうか。
主観を許容しないというのが、とても怖いレンズのイメージです。
これで人物を撮ると、その人の性格が包み隠さず写ってしまうという感じでしょうか。
  1. 2008/02/01(金) 00:42:25 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #-
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
早速のコメント有難うございます。
お待ちしておりました。

明るさ(=名目上のF値)競争という当時の会社間のメンツを横目で見ながら、如何にシャープに、クリアにそして画面の均一性を高めていくか・・・この真摯な努力こそが、東大の小穴教授の手で樋口一葉の「たけくらべ」70頁を一枚のマイクロフィッシュに収められるという奇跡の偉業を成し遂げた原動力になったのだと思います。

従って、このレンズは驚愕の伝説をひっさげて昭和31年に発売された日本の工業製品では稀有の存在なのです。

あえて車に喩えるならば、ポルシェ、フェラーリ等列強の持つ世界記録を塗り替えて発売となったトヨタ2000GTか、初代スカイラインGTRか、はたまたZ432Rか・・・

また、このレンズを設計したニコンの東技師、脇本技師の両名も、キャノンの名匠、伊藤宏氏と並び日本の光学史を語る上では欠かせない鬼才です。

そういったエピソードが小生を購入に突き動かした一因なのでした。

さて、前置きはさておき、物を撮ると、その人の性格が包み隠さず写ってしまうという感じでしょうか?というご質問ですが、さすがに世界最高クラスの解像度と画面の均質性を誇っていても、所詮は光学機器、フィルムを感光させ得る波長の可視光の反射像を記録することしか出来ません。

従って、その人の性格の根幹たる心の奥底までは、いかな銘玉といえど写し取ることはかないませんが、一方、顔はその人の生き様を映す鏡とも言いますので、骨格全体、肌の微細な皺、くすみ、張り具合が作り出す陰影・・・至近距離で肉眼で凝視すれば、それなりに相手の歩んできた生き様が推して知ることが出来るのであれば、このレンズは受け手に対し、足すことも引くこともなく、限りなく真実に近い情報を伝える、ことは出来るのです。

これは、オリジナルor深川ノクトン、或いは同じニッコールでも5cmf1.4の開放ではベールがかかったような、或る意味、伝えるべき情報(=事実)を手加減してしまっている描写とは対極にあると個人的には思っています。

これが、怖いレンズかどうかは、何を撮るかという使い手の問題であって、レンズ自体は形有る限り愚直に事実を写し続けていくのです。

小生としては、この不器用なまでの存在意義を背負った孤高の存在、ということにも惚れ込んだわけです。
  1. 2008/02/01(金) 09:56:37 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

化け物

これは化け物です。
近距離設計ながら、無限遠の解像力は世界最高クラスのDRズミクロンと同じ絞りでは同等。
そして近距離、殊に等倍撮影では、これに比肩できる性能のレンズを見たことがありません。

一眼レフ用の各社標準系マクロはなべて一蹴されます。新旧マウントのCanon、Zuiko、Pentax、Contax、同社のMicronikkor55mmf3.5(初期型含め)/2.8も例外ではありません。
特殊レンズのMicronikkor7cmf5、S-Orthoplanar60mmf4さえも凌駕します。Contarex用S-Planar4/50は3本試しましたが、相手にさえなりませんでした。
MacroNikkor65/4.5には、焦点距離の差で勝っているようです。

単にコレクターズアイテムで高いだけのレンズではありません。本当に化け物なのです。

なんでわざわざ距離計連動機につけて販売したのか、理解に苦しみます(笑)

余談ですが、今Nikonのレンズ設計に伊藤さんという技師がいらっしゃいます。素晴らしいレンズをご設計ですが、親子でレンズ設計してるの?って聞いたら、違うらしい(笑)
  1. 2008/02/09(土) 22:18:44 |
  2. URL |
  3. lensmania #RGJnsXQk
  4. [ 編集]

れんずまにあさん
詳細な解説有難うございます。
自分でもこれは☆と思う、良いレンズを買ったり、作ったりしても、結局、比較の対象がS-Micro Nikkorになってしまい、さまざまなレンズの評価基準で較べたらどうこうとなってしまうので、唯一無二の存在なのかも知れません。
巡り合ってしまったのが幸せだったのか、或いは不幸せの始まりだったのか・・・果てることなき、銘玉探しの旅は続きます。
  1. 2008/02/10(日) 00:11:48 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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