深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Une erreur de syntaxe dans la théorie de la photographie~Angenieux G10 mod.M~

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【撮影データ】カメラ:Leica M8 絞り優先AE ISO Auto 露出+1/3 全コマ開放、ロケ地:中目黒~代官山
さて、もう早いもので、2月の第一週の週末というか、暦的には第二週の始まりの日曜日です。
今回のご紹介は、仏 P.Angenieux社製の引伸レンズ? G10のMマウント改造モデルとなります。

このレンズは電子湾は言うに及ばず、都内の中古カメラ市でもたまに見かける割には、謎が多く、いつ位にどの程度の数量が作られたか、はっきりしたデータがなく、また、最大の謎はそのレンズ構成です。

枚数は6枚、最初の群が凸と凹の貼り合わせになっていて、その後が【の内側に極めて弱い凸、そして絞りを挟んだ対向の】の内側にも弱い凸玉が入っていて、後群は張り合わせが一切無しの凹と凸の組み合わせになっていますから、クセノタータイプのようでもあるし、ズミクロン35mmf2の8枚玉にも構成が似てなくもない、極めて不可思議な構成です。

なお、今回の改造に当っては、オリジナリティを加えるべく、絞り直後の弱い凸玉ホルダを兼ねたチョークリングを目一杯切削し、実効F値ではf3.5程度まで開口面積を稼いでいます。

さて、今回のタイトル、フランス語で「写真理論における構文エラー」という文意ですが、まさに写真の教科書的な常識、いや風評を実写で覆す、という意味でつけました。

これまで他の引伸レンズからの改造版の際にも述べましたが、一般的には引伸レンズは、①平面⇒平面の複写目的なので、撮影に使っても立体感、距離感を表現出来ない、②至近距離での透写に使われるため、無限に近い距離域では解像力が極度に落ちる、③コントラスト重視で階調再現性に劣る、とか言われますが、さて、これが、深川精密工房に手に掛かるとどうなるか、作品を見て行きましょう。

まず一枚目。
中目黒の駅を降り、西に歩いて行くと、大通りから一本入った辺りに瀟洒な住宅地が在って、そこには小さいながらも遊具を備えた公園があります。
その公園で幼い姉弟が遊んでいたので、保護者に「撮らして貰いますよ♪」と断って、滑り台の下で親御さんの投げるボールを待ち構える小々姐にピンを置いての一枚です。
比較的、画面内の明暗差に弱いM8を以てしても、ピーカンの下白っぽい服を着た小々姐も背景の木立ちの暗がりも見事に一画面の中で描き切っていますし、前に立つ小々姐と背後の弟との距離感も、卓越した解像力の為せる技か、極めて自然且つ心地好く描き分けています。

そして二枚目。
親御さんと童子達にお礼と別離の挨拶を述べ、駅方面に戻ります。
その途中、小さいながら、地域の方々の崇敬を集めているようで、きちんと神域の手入れが行われている神社があったので、黙礼しつつ、手前に有った手水の水面と竹の様子を一枚戴き。
竹、石、そして水面といった質感を的確に描写するのみならず、背景の小石も自然な後ボケで描ききっています。

それから三枚目。
駅の向かにある高層ビルの下には半地下部を含めたちょっとした広場があり、地域の人々が行きかっています。
そこで、いたいけな小々姐2組が溌剌と歩いてすれ違ったので、振り向き様に一閃、久々に辻斬りスナップの炸裂です。
このサイズだとなかなか判りずらいかも知れませんが、衣服の細かい皺から、髪の毛のつむじに至るまで、素晴らしい細密描写です。この謎のフランス玉は、難なく東洋の美女予備軍を隅々まで容赦なく捉えてしまったようです。

まだまだの四枚目。
中目黒を後にして、西郷山公園経由、代官山駅方面に向かおうとしたら、日柄が良かったのか、日頃の行いが良かったからなのか今となっては知る由もないですが、偶然、近くの結婚式場で式を挙げたばかりと思しき、まだ初々しい新郎新婦がこの203高地のような丘に登ってきました。
丘の中腹辺りから、一行の正面に陣取ってカメラを構え、ちょうど木陰から二人が日なたに出たところでシャッターを切りました。
ここでも、柔らかな花嫁のヴェールの質感から、幸福の絶好調といった感ありありのお二方の表情まで余すところなく捉え、しかも、背景の木陰の中の様子まで、しっかりと描写しています。

最後の五枚目。
代官山駅への道を歩いていたら、偶然、漆黒のフェラーリが路傍に駐車していました。
一般的にフェラーリは赤か黄色、モデルによってはブルーもアリ、とか言われていますが、そんな派手目なデザインのクルマに敢えて黒を選んだ、オーナーの大人の選択に敬意を表して、このクルマの一番セクシーな表情といわれる、フロントフェンダーの峰の曲線を一枚戴きました。
ここでも、このフランスのレンズはイタリアの"走る工芸品"の高品位の塗装はいうまでもなく、官能的でさえある曲線に写った景色まで清清しく描写しています。

今回の一連の画でもうお判りになったかと思いますが、引伸ばしレンズであろうと、撮影レンズであろうと、素性の良いレンズは、どう使っても高性能を発揮するということです。
工房の存立理念は、まさに先入観を打ち破り、知られざる高性能レンズを発掘し、陽の目を見させることにあるのです。

さて、来週は、型破りの面白い企画を考えていますので、乞うご期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2011/02/06(日) 22:37:30|
  2. Mマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:12
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コメント

(今回は、ひいき目この上ない感想です!)

(ライカ用ともM42用とも違い、更に描写にモダンな緻密感を加え。高揚感を押さえ・控え目とさえ思える色彩も好ましいものです。ずっと大切にして行きたい、そんな素晴らしいレンズです!!!)
  1. 2011/02/07(月) 00:14:39 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

こんにちは。今回もかなり異色なレンズの登場ですね!画面上でもかなりのシャープさが伝わってきております。
引き伸ばしレンズはハイスペックなレンズが多いようですが、私は最近プロジェクターレンズが気になっております。改造、ご使用の経験はございますでしょうか?
値段も安くAngenieuxなどの名レンズメーカーのものも多いので、非常に興味があります。
  1. 2011/02/07(月) 07:10:26 |
  2. URL |
  3. ktf_turbo #-
  4. [ 編集]

そういえばエルマーを引き伸ばしレンズに転用できるアダプターがあったような。

昔のレンズはその辺り一つのレンズで何でもOKってことにしてたのですかねえ?

今回は1枚目と2枚目がいい感じですね。
でも同じレンズで、1枚目のコンクリの質感はマイルドに出るのに、5枚目のフェラーリの黒の締まった質感が出るのは何故なんでしょう?
金属との相性がいいとか??
  1. 2011/02/07(月) 08:51:19 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

やっばり隙なのは3枚目かな・・・・・マテw

久々に、解像力番長の本領発揮ですね♪

解像度が上がってくると
どうしても、ぱっと見には、コントラストが下がって見えるのは
仕方が無い事ですよね。

モノに光が当たって、キラキラしているとか
ぬめっとした感じは、解像度のあるレンズじゃないと
ダメだと思います。

しかし、F4.8で
6枚とは、贅沢なレンズですね♪
テッサータイプでは、取り切れないいろんな収差を
補正しているレンズなんでしょうね。
  1. 2011/02/07(月) 19:43:49 |
  2. URL |
  3. やまがた #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
この類い希なる宝石のようなレンズのこれまた精緻な写りに感じ入って戴いたようで何よりです。
ただ、ここで改造可能ということを公表し、写りまで公開してしまうと、今は精巧な翻訳ソフトがあるらしいので、世界中のマニアに手の内を明かすことになって、電子湾等で次のものが入手しずらくなるのが悩みの種ではありますが・・・
  1. 2011/02/07(月) 22:53:53 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

ktf_turbo さん
有難うございます。お久しぶりですね。
一般的に海外の引伸レンズは、複写用のレンズと設計が共通、或いは近似していることが結構有るようで、引伸しだけに用いるのであれば、オーバースペック気味の設計となっていることもままあるようです。コンポノン、ラプターなどでその写りに驚いたことがあります。
さて、プロジェクター用レンズですが、実はまだ買ったことがないです。
どうせ開放でしか撮らないので、ムダといえばムダな作業なのですが、一応、コンプリートなレンズ改造を志向しているため、絞りユニットを新設しなければならず、結構、それが面倒なので、手が出ないため、敬遠しているというのが実情です。
  1. 2011/02/07(月) 22:59:14 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

charley944様

お返事ありがとうございます。現在、お勧めいただいたKinetal25mmのカラー製作があがってこず、深川精密工房さんのページを見ながら悶々ンとした日々を送っております。
私のように開放メインで絞り等にこだわらないと、プロジェクターレンズはヘリコイドの取り付けだけなので、かなり気になる存在になっています(涙)
このAngeniexのように驚きの描写力だとうれしいのですが、情報が少ないので悩んでおります。
プロジェクターレンズは検討中ですが、Kinetalは完成後ご報告いたしますので、またいろいろとご教授ください!
今回も丁寧なご説明ありがとうございました。
  1. 2011/02/07(月) 23:17:21 |
  2. URL |
  3. ktf_turbo #-
  4. [ 編集]

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
確かにヴァロブとかいう引伸ばしレンズの世代はまんまエルマーだったみたいですが、フォコマートの世代になって、フォコターという専用レンズが出来てからは、撮影レンズと引伸しレンズ別箇設計になったようです。
それでも、たまに個人ブログなどで、やれエルマーとか、ズミクロンをフォコマートにつけて焼いてみた、とかいう体験談が出るようですが、レンズ加工を行う立場からすれば、これは決してお勧め出来ません。
何とならば、引伸し機に内蔵される光源、即ちハロゲンランプ等は強い光線の他にかなり高い熱線を発しますので、撮影レンズはそういった高熱や強い光線対策が考慮されていないため、バルがやられたり、ヘリコイドのオイルが軟化して抜けたり、最悪、コーティングが焼けたり、絞り羽根が変型してしてしまったりすることも予想出来ます。従って、よい子は絶対マネしてはいけないのです。

それから、コンクリがマイルドに写り、黒い塗装が極めてソリッドに描写される件ですが、これはレンズの描写特性云々よりも、むしろ、最後面のコーティングやガラスそのものの透過波長とM8のCCD前面の補助光学系との相性の問題ではないかと思っています。
  1. 2011/02/07(月) 23:20:50 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

やまがたさん
有難うございます。
ははは、やっぱり3枚目に反応しましたね・・・
冗談はさておき、このコントラストが低めでちょっと眠いような描写はM8の仕業、具体的にはAuto ISOという機能が、ヘンテコリンな露出補整の判断をして、ピーカンにも関わらず、反射率が平均より極度に高いところがあると、暗箱全体が光ってしまうためか、ドアンダーで露出してしまうからのようです。
お利巧なR-D1sであれば、もっと上手く立ちまわってくれるところでしょうけど。

それにしても、ご指摘の通り、この贅沢な硝材と設計でF4.8とは相当オーバースペックだと思います。

実は内緒でG13さんのために拵えた兄弟機はチョークリングを落としていないので、公平を期してR-D1sで撮り較べたら、更にシャープに写るのではないかと思います。ま、この個体でもひと絞り絞れば同じことでしょうが・・・
  1. 2011/02/07(月) 23:28:56 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

ktf_turbo さん
再びのコメント深謝です。
キネタル25mm待ち遠しいですね。
次はBALTAR25mm行ってみますかwww
冗談はさておき、開放専門と割り切れば、プロジェクターレンズは買い、と思いますが、唯一、M3/4遣いの貴兄にとってのネックは、焦点距離の長いものしかない、ということに尽きるでしょう。
一番短いもので2"、だいたい3"超が標準みたいなものですから。
それに較べれば、シュナイダのコンポノンなど、引伸しとラインセンサ、複写兼用のス-パーレンズですが、28mm、40mmとバリエーションあり、つい先般も電子湾で28mmf4(絞り無)がそこそこの安い値段で落ちていましたね。
是非、お試しあれ。
  1. 2011/02/07(月) 23:34:40 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
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わたしは今回の色彩感覚に、特に興味を持ちました。

花嫁を連れたカット全体の色彩は、全体が高輝度であるためか多少露出不足と見えるようなイメージですが、色ヌケが濃い色を維持しながら達成出来ている気がして、フイルムよりもポジの感覚に近いもので、デジタルとの相性が良いのでしょうか・・・。
また、すべり台少女の白い服を着ている柄と肌色の独特な色彩に惹かれます。


かつての古い淡いカラーのアンジェニューとごく最近の製品(実際、性能はよく判りませんが)との橋渡し的な存在と感じましたが、いずれにせよ、最近淘汰され始めている引き伸ばし系統のレンズ・再評価になっているのは間違い無いし、現代の日本製レンズ高コントラスト流行にも一石を投じると思いますし、なんといっても色分け表現はこの手のフランス製には敵わないなんて、そんな先入観を裏ずけるような結果では困りますね。わたしの思い違いなら良いですが。
でも、日本製の引き伸ばしレンズは、多分、モノクロ用としてこの先も(ワタシに限っては)重宝されるでしょうね・・・。

そんな思いです。
  1. 2011/02/12(土) 03:10:40 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
再び有難うございます。
確かに彩度が上がりがちなM8において、このような、醒めていて、なおかつ発色バランス自体はすこぶる優れたレンズは稀有かも知れません。しかも、コントラストはそれほど高くないので、ぱっと見は大したことなさそうですが、よくよく見てみれば、マイクロニッコールもかくやあらんばかりの極細密描写をやってのけています。

今回のサプライズ公開?が引退後、死蔵されつつある引伸しレンズ達に新たな活躍の場への水平線を示したのであれば、これに増す喜びはありません。
  1. 2011/02/13(日) 22:10:55 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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