深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

A pride of normal one~Kodak Retina with Heligon50mmf2~

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【撮影データ】カメラ:Kodak Retina Heligon50mmf2 フィルム;Konica Centuria100、全コマ開放
今週分は、お彼岸の帰省のため、更新アップが遅れてしまいましたが、皆様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
さて今宵のご紹介は、何を登場させようか、東武電車の中で迷ったのですが、結局、雨で撮りに行けないことから、過去に撮ったものでCDが有るものからということとして、何点か発掘作業しているうちに出てきた中から、先週がCine-Heligon50mmf2だったこともあるし、「工房主はライカマウントかせいぜいニコンSマウントのレンジファインダーしか偏愛しないんかい!?」などというご批判も巧みにかわすため、コダックレチナのノーコートヘリゴン50mmf2付きをご紹介しようと思います。

しかし、ここでまず疑問が浮かびます。ライカ形式以外のRF機にイイレンズが付いていたら、もぎ取ってライカマウント改造して、R-D1sとかM8で使いたがる工房主が何故、この珍しいヘリゴン付きレチナは現状そのままで使っているのか?ということです。

実はこのレチナは工房開設のずっと前に買っていて、元々はコダックエクター47mmf2が付いていたのですが、それをもぎ取って、MS-OPTへライカマウント改造に出してしまい、結局、その改造レンズの性能にも満足し切れず、機構だけ研究して改造レンズは同じく44mmのエクター共々叩き売ってしまって、眼のないレチナが部品庫に放置されていたのです。

ところが、珍しいことがあるもので、工房開設から2年ほど経った或る晩、恒例の電子湾の夜釣りで面白いものを見つけました。
それは、レチナ用ヘリゴンの前玉と後玉のアッセンブリだけ、というアイテムです。
はは~ん、これは、蛇腹がやられたかシャッターが直せなくなったか、或いは本体を落としたかで、価値が有るのはレンズだけと見切って売りに出したな・・・と思い、入札したら、ことのほか安く買えたものでした。

しかし、届いた前後アッセンブリをこの眼無しレチナにねじ込んで、意気込み試写してみたら、ぢぇんぢぇんピンが来ない・・・そこで仕方なく、川崎の協力工場にしらばっくれて、「このレチナ、ピンが来ないんですが直せますか?」と持ち込み、スペシャリストの腕試しをさせて貰ったということです。

ところでこのレチナ用ヘリゴン、シネ用とは構成が異なっているらしく、このシリーズの他のレンズ、例えば一番多く作られたクセノン、そして最もレアなエクター同様、実焦点距離は48mm弱で4群6枚対称の典型的プラナー型です。
また、何名かの方から質問されたことがあるのですが、このレンズがノーコート仕様であることから、戦前製なのか?ということですが、さにあらず、1946~48年頃に製造されたモデルと考えられます。
理由はわからないですが、だいぶ前にご紹介したエクトラエクター50mmf1.9同様、コダックは自社製品に何らかの意図でノーコートのレンズを特注か何かで採用していたようです。というのも、中古カメラ市でレチナを同時に何台も見る機会が有って確認しましたが、番号帯が近い個体でも、ブルーパープルの濃めのコーティングがされたモデルが殆どで、クセノンモデルも概ね同じようなコーティングがされていたからです。
修理をお願いした協力工場に念のため聞いてみたら、「全群空気面を研磨してコーティング無しということは考えられない」との回答で、更に浅草の名人にも恐る恐る伺ってみたら、やはりノーコートモデルは存在した、との回答だったので、これは真正品と考えて良いでしょう。

さて、前置きが長くなりましたが、作例の紹介いきます。今回のロケ地は数年前の晩夏の川崎チネチッタです。

まず一枚目。
修理から上がってすぐの試写だったので、まずは最近接のテストです。
チネチッタのテラス付きワインレストランの看板が枯れた木の風合い、そして葡萄の木のイミテーション、銅版のタグ、役者は揃っています。
近接での解像力、そして質感の再現性、おまけに背景のボケを見られるような構図で一枚撮ってみました。
さすがにオークの材質と思われる木目の解像力はシネレンズや引伸レンズといった工房常連のモンスター達にはかなうべくもないですが、今回、フロンティアFCDを引っ張り出して画像を見ても、デジにはない味わいを感じました。
後ボケの木の葉のざわざわ感は、やはり血は争えないのか、シネヘリゴンの2線ボケに近い雰囲気でした。

そして二枚目。
チネチッタでは夏の期間中、微細水蒸気の気化熱による屋外冷房装置が稼動しており、白いパラソルのつゆ先の部分から白い霧を吹き上げています。
その霧の中を幸せ一杯、気もそぞろに徘徊するカップルのお姿をちょっこし拝借ということで、傘の反対側にこの見るからにクラシックカメラ!というレチナを構えて、殆どノーファインダで撮りました。
プロ(真正、自称含め)から見れば、人物撮影なのに目線来てないぢゃないか!とかヘタくそ呼ばわりされそうですが、あくまでも街の息吹を捉えるのが目的のスナップで目線云々はいいっこ無しです。
手前の傘の軸付近に置きピンでチャッター切りましたが、カップルにはかろうじてピンが来ており、その後ろの傘のジーパン刑事はなかなかイイ味のボケになってしまっています。
このカットでは樹木が入ってはいますが、それほど煩くはなっていないのが不思議です。

それから三枚目。
今度は常用域の3m弱での静物撮影、しかも色が黒を主題に反射するガラス、葉の緑、庇のテント地の赤、そして街灯背景の濃めのベージュがどのように再現されるかを試すためにシャッター切りました。
まず注意しなければならないのが、このフィルムはEktarが登場するまで工房主力のフィルムであったセンチュリアであることから、緑の先鋭性は認められません、しかし、その代わりに黒の締まりも今一歩になっていますが、一枚目のカットもそうですが、まさにデジタルとは正反対の色調再現性で、まさにノーコートの戦後間もなくのレンズでフィルムを撮っている、という実感の湧くカットとなったといっては過言でしょうか。

まだまだの四枚目。
ここチネチッタのは、屋外小ホールというかミニミニアリーナみたいな設備が有って、訪問したその日も何かミニコンサートの準備か何かやっていました。
そのピーカンのミニミニアリーナでグリーンのポロシャツの襟を立ててオシャレに着こなしている兄さんが居たので、後ろから音も無く近寄り、一枚戴き。こういう時、レチナとか、M型は便利です。これがR-D1sとか、M8だったら、振り向かれてしまったでしょう。尤も事情を説明して画像見せれば、笑って許しては貰えるでしょうが・・・
このカット、もしシネレンズとか、引伸レンズをR-D1sかM8に付けて撮っていたら、人物の輪郭のエッジがもっと際立ち、立体写真的な上がりになったかも知れませんが、よくよく考えてみたら、人間の目ってそういう風に見えるのか?シネとか引伸レンズのデフォルメされた解像感は好むところではありますが。
むしろこのくらいの輪郭の表現の方が、肉眼で見たのに近いのではないか、とも思った次第。
ここでは背景はかなり大人しく融けたカンジの表現となっています。

最後の六枚目。
グリーンのポロシャツの兄さんに心の中でお礼を述べ、視線をもう少し左にずらすと、イベントスタッフと思しき正ちゃん帽に白のタンクトップの小姐が、その手の者と思しき年下の男性に作業の指示を与えていました。
植え込み越しのカットなので、前ボケとピーカンの下の白いタンクトップの照り返し、そして栗色に染めた髪の毛に煌く陽光がどのように写るのか、期待に胸を膨らませてシャッター切ったカットです。
まずはハイライトですが、全空気面ノーコートにも関わらず、破廉恥なフレアはなく、寧ろ上品に陽光の照り返しを表現しています。特にタンクトップの背中の肌に弾かれた晩夏の陽光が、何故か地中海の見える海岸で過ごしたひとときの遠い思い出を甦らせてくれた気がしました。
ピーカンのアリーナの石段も極自然なトーンでの表現です。

今回の感想としては、やはり、コートの有無だけがレンズ性能の死命を制するわけでもなく、優れた性能のレンズはヘタなコート付きレンズを上回るパフォーマンスを叩き出しますし、ライカ系と較べれば遥かに不自由なレチナを使うということを通じ、先のアカレッテ、アカレレ兄弟同様、写真は街や人々の生き様の記録でもあると同時に、撮り手にとってはカメラとの格闘でもあり、そして自らが五感を働かせて行う極めて主体的な創作活動なのだということを改めて感じさせてくれました。

さぁ、来週は再び工房作品のご紹介行こうと思います。乞うご期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2011/03/21(月) 19:43:17|
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  4. | コメント:4
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コメント

前回と対比出来て面白いです。
それと比べてみれば、まだ今回は穏やかな感じです。
  1. 2011/03/22(火) 13:01:07 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre  #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
やはり産業用の超高性能レンズの後では、大人しく感じてしまいますね。
同じ自動車メーカーの製品でも、F1カーの後に高級セダンを運転するようなものでしょうから。
  1. 2011/03/22(火) 23:26:35 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

なんか、本家をさしおいて
お弟子さんが着々と改造レンズの製作をこなしているようですね~~~笑(某ご近所のブログにて)

まさか、大判ブログで、バルターが出るとは思いもしませんでした・・・・(^_^;)

ここも、もうそろそろ
秘密兵器を出さないと、不味いんじゃないかと
密かに、心配と期待(新作)をしてますよ~~~笑
  1. 2011/03/24(木) 20:05:47 |
  2. URL |
  3. やまがた #-
  4. [ 編集]

やまがたさん
有難うございます。

いやぁ、実は某高輪方面のシネ&オールドレンズウィルスを特定の数名に対し拡散している無慈悲?サイトに遠慮しちゃって、あんまりえぐぃのは出さないようにしてたんですがねぇ・・・

だって、二箇所からきわどく物欲なんか刺激されたら、このご時世、水やティッシュ買うお金も無くなっちゃうでしょう(汗)

ま、今週末は深川精密製品の発表予定ですから、何か出しましょうかね?
  1. 2011/03/24(木) 22:39:44 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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