深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Un huérfano de un genio trágico~Sanei EZUMAR ANASTIGMAT 5cmf3.5 mod Nikon S~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出+1/3 ISO400(1~4コマ)、ISO800(5コマ)、全コマ開放
さて、今宵のご紹介は、先般のICSで出会った謎の豆レンズを工房でニコンマウント化した作品です。
このレンズ、マニアの間ではつと有名な某相模原の珍品カメラ・レンズ業者の出店で、大中判レンズやボードなどが置かれたコーナーの片隅に薄汚れたポリエチレンのパックに入れられて、数千円の捨て値で転がされていました。

店のパンチパーマがトレードマークの名物社長に聞いても、「ハテ、何のレンズでしょうかね、誰がこんなの置いたんだろう?」とか甚だ心もとないお答え・・・

しかし、アルミの妙に丁寧な仕上げ、そして"ANASTIGMAT"の文字に何か心惹かれるものがあり、代金を支払い引き取って帰ることとしました。

かなり汚れた状態だったので、玉を前後にばらしてクリーニングがてら、このレンズがトリプレットであることに気が付きました。

まぁ、50mmだから、何のヘリコイド付けてもイイし、ニコンSかコンタックスCXマウント化してもイイやとか思い、時間が出来るまで、暫し、防湿庫の中で休んで貰うこととしました。

そして程なく、某JCII日本カメラ博物館に運営委員としてご奉公されておられるIlovephotoさまより、「EZUMARというのは、今は亡きSAMOCAの玉ですぞ、尤も、会社自体は雲散霧消してキャノンに合併されてしまいましたが・・・」との情報を頂戴致しました。

このSAMOCAというカメラは、かのステキーなるからくりカメラを開発した、経営者というよりは設計者といった方が相応しかった故「坂田秀雄」氏の手によるもので、このタイプのレンズはSAMOCAの第三世代の昭和29年発売、SAMOCA35IIIという機種に付いていたことが判っています。

坂田秀雄氏のエピソードについては、あまたのクラカメ本で情報を見ることも出来ますから、ここでくどくど書くのも憚られますが、1952年に三栄産業という会社を興し、輸出中心にそれなりに隆盛を誇ったのですが、大メーカーがレンズシャッター機に本格的に進出して来るに従い、売れ行きが低下し、それを苦にした氏は1963年に悲劇的な最期を迎えました。

この坂田氏の人となりを語るのに典型的なエピソードが有って、アサヒカメラの小倉磐夫ドクターをはじめ、光学を研究していた学生さん達に私的な奨学金を出していたというのです。
こういった中小企業の篤志家の熱い思いが今の日本の光学界の基礎を磐石にしたのかと思うと、思わず頭を垂れざるを得なくなります。

さて、話は湿っぽくなってしまいましたが、作例行ってみます。今回は、大久保のレンズ再生の"人間国宝"山崎名人のもとへ向かう道すがら、ちょこちょこっと撮ったネタです。

まず一枚目。
大久保の駅を降りて、北新宿方面に歩いていくと、フレーザーホテルの駐車場の片隅で桜がちらほらとほころび始め、手前には、イタリアのスーパーカーを彷彿とさせる色合いのワーゲンポロが駐車していました。
曇天をバックにイタリアンレッドの車・・・これほど素晴らしい発色試験対象はありません。
そこで早速一枚戴き。
素晴らしいクリアなカンジで上がったと思いました、まさにトリプレットの妙味というカンジです。
背景も難なく収まっている雰囲気です。

そして二枚目。
フレーザーホテルの駐車場から出て、再び歩道を北新宿方面に進もうとすると、栗色の髪を颯爽と翻し、いわゆるガールズトークをあたりに播き散らかしながら闊歩する小姐の三人組とすれ違いました。
ここで、いつもの"辻斬りスナップ術"の復活です。このところ、声掛けて目線貰った、いわば演出有の写真ばっかり撮っていたので、たまにはこういう無断速写もイイ刺激になります。
夕陽を浴びて仄かに栗色の光を弾き返す髪がイイ雰囲気に捉えられたのではないっでしょうか。
また、先方に伸びる街路樹の並木のボケ具合いが程好い距離感を演出しています。

それから三枚目。
鉄道の高架をくぐり、歩道を更に歩んでいくと、クロムメッキのパーツも美しいバイクが一台、乗り捨てられていました。
そこで、至近距離の描写性能、そして金属光沢に対する対フレア性ということで、画面中央の金属製の涙滴型のパーツにピンを置いて一枚いってみました。
その結果、かなり持ちこたえてはいますが、やはり微妙な蒼白いフレアが、ちょうど空が写り込んだ部分に認められます。
しかし、50年近く時を経た、当時の大衆機のトリプレットで以て、内面反射に敏感なデジタルカメラでの撮影でここまでやってのけるとは、オリジナルのポテンシャルがいかに高かったかを物語るものではないしょうか。

まだまだの四枚目。
バイクの機関部の描写に気を良くして、背景にぐるぐるが出そうなモチーフが目の前に登場したので、早速試してみました。
手前の自転車のブレーキレバーの黒染め部品にピンを置いての撮影です。
黒光りする光沢有りの黒染パーツは若干のフレアをまとっていますが、あたかも肉眼で捉えたかの如き臨場感で精緻に描写されていますし、背景のポピーだかは、一部の尖鋭的なマニアが狂喜乱舞しそうな、ぐるぐるパターンを描いています。まぁ、トリプレットに万能を求めるのがそもそも間違いですから、これはこれで良しとせねば。

最後の五枚目
大久保の名人工房で話は弾み、お願いしていたブツも無事上がったので、気分上々、新宿に向かいました。
西口のカメラ屋街を後にして、東口の沖縄料理屋に向かう途上、いかにも、芸術系の学生デース♪というカンジの小姐がガードレールに所在なく、ちょこんと座っていました。
ここでも、辻斬りスナップの登場です。だって、こんなの後ろから撮るから宜しくなんて声かけた日には、身構えて硬くなっちゃうだろうし、前向いて貰って、ガードレールに座る小姐をわざわざ撮るのも、スナップらしくはないでしょうから・・・これはこれで新宿という街の空気を捉えるには格好の表現方法ではないかと思います。
だいぶ暗くなってきましたが、R-D1sのISO800に助けられ、50年前の開放値f3.5のトリプレットは小姐のしなやかな髪や、衣服のテクスチャまで忠実に捉えてくれました。

今回の感想としては、いやぁ、素晴らしい、人知れずジャンク同様の扱いだった豆レンズがきちんと開けてクリーニングした上で、適切な暗箱と組ませてやれば、こんな性能を発揮するのです。
まさに一人の熱いハートを持った悲運の天才の遺志と失われた日本の光学史の一端を垣間見たキブンでした。

さて、来週は附設秘宝館からのご紹介です。
乞うご期待。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2011/04/10(日) 20:47:43|
  2. Sマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

早々の掲載、ご苦労様です。
しかし、話は違うのですが今日の福島の地震は
なんか小刻みに回数が多くて、これを書いている間も
また地震がありました・・・・
山形で感じるくらいだから相当感じているのだと思うし
30分おきに揺れている感じなので大変でしょうね・・・

話は戻って
写真ですが、1枚目の車は
同じ場所で私も撮ったのですが、見事に構図が違って参考になります。

二枚目は、Cさんが撮った後、私も撮ろうとしたのですが
何故か、殺気?を感じたのか、
思いっきり振り向かれて、気まずくなり断念しましたね・・・・(^_^;)

4枚目の「車(自転車)にポピー~~~♪)の写真は
今日の私の日記に乗せますが
これもピントと構図が違っていて面白い世界です・・・笑

5枚目は
私も写真を撮りたかったのですが
カメラを出していなかった事が悔やまれた場面でした。
50mmの明るいレンズと一眼レフを持っていたらと
悔やみましたよ・・・・・(^_^;)

全体の中では
この最後のカットが気に入っております。

  1. 2011/04/11(月) 22:35:19 |
  2. URL |
  3. やまがた #-
  4. [ 編集]

やまがたさん
有難うございます。
このところ、また地震の虫がブリ返してきたみたいで、のべつまくなし携帯の緊急地震速報のあの「ファンファン、ファンファン」とかいう陰気なメロディが鳴りまくってますよね。

さて、写真の方ですが、赤い車も(自転)車にポピー♪も極めて、絵画でのデッサンの基礎に忠実な構図で撮っただけで、今さら感心されるほどのことでもないようにも思えます。
ま、それでも、某運営委員殿と某映画機器会社長の双方から熱いラブコール?を贈られる立場の鬼才からホメられると悪い気はしませんね(汗)

それから、最期の後姿的美小姐、これは或る意味、あざみ野駅で山村貞子的女学生を上手く撮れなかったことに対するカウンターパンチだと思って下さい、これで小姐被写体対決はお合いこってことで(爆)
  1. 2011/04/13(水) 00:15:38 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

(春眠へのオマージュ)

「自転車のハンドル」こそ近接なので、そこそこの収差がありますが、左側の荒あらしい収差なんて新鮮な感じすらします。

ほかのコマは、それほどトリプレットと感じさせないです。

バイクのシーンも、少々ハロ掛かっているのもオツな感じで、『全体的にはヘキサーのマイルド雰囲気かな?』なんて、私なりには感じました。


ご苦労なされたサモカの社長サマには申し訳ありませんが、こういった〈ユルイ〉レンズを春の野にでも持ち出して草を枕にして、しばらくは昼寝でもしていたい気分です。
  1. 2011/04/13(水) 20:56:28 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
そうですね。こういったご時世、このように悲劇を背負いながら、春風駘蕩然、のほほんとした牧歌的な写りのレンズを友に気ままなスナップにひねもす打ち興じるのも、精神の平衡を保つにはとてもイイ妙薬かも知れませんね。

何れにせよ、もしレンズ単体で見つけたら、即買い、買ったら買ったで、深海生物工房にてLマウント改造して貰いましょう♪
  1. 2011/04/13(水) 23:08:03 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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