深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

有能力隱藏釘鷹~Micro Nikkor55mmf3.5Ai~

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【撮影データ】カメラ:R-D1s 絞り優先AE 露出補整+1/3、全コマ開放、 ロケ地、腰越漁港~鎌倉小町通り
さて、今宵のご紹介は、マイクロニッコール55mmf3.5Aiの登場です。
このレンズ、見た目はしょぼい、前玉が小さく、しかも、蟻地獄の巣みたいに奥に引っ込んでいて、あまり迫力が有るとは言えない普及品みたいに見えますが、さにあらず、かの1931年に登場し、樋口一葉の「たけくらべ」をマイクロフィッシュ1枚に写し撮ったという伝説のスーパーレンズS-マイクロニッコール50mmf3.5の独創的な変型クセノタータイプの構成をそのままに、昭和36年、もはや時代の主流となった一眼レフのミラーボックスを避けるべくフランジバックを伸ばし、55mmの焦点距離とした直径の子孫なのです。

しかも、実はAiの時代になってからは、新製品である55mmf2.8のガウスタイプのものが主力となってしまって、暗いf3.5のものはあまり売れなかったようで、クセノタータイプでニコンがスーパーインテグレイティドコートと呼ぶマルチコートのものは、探そうと思うとあまり見つからないようです。尤も工房ではモノコートのものとこのマルチコートのものの2本しっかり所有していますが・・・

このレンズ、無限ではそこそこ短い鏡胴サイズではありますが、26cmの最短撮影距離までヘリコイドを繰り出すと、な、何と180mmの望遠レンズ並みの長さになってしまうんですね。今回は何回か最短距離撮影を試み、全部失敗しましたが・・・やはりレンジファインダー機での勘撮影ではムリなようです。

さて、前置きはこのくらいにしておいて、作例の解説いきます。今回は思い立っての江ノ島、鎌倉ツアーでお供させて撮って来たものです。カメラはD2Hで撮っても良かったのですが、それではボディ2台になってしまうし、R-D1sで撮ったらどうなるのか?という素朴な疑問も有ったので、ハンザの半距離計連動式カプラ経由で使ったものです。

まず一枚目。
江ノ電の腰越駅から、漁港に歩いて行く時は、いつも路地裏みたいな近道します。
この鉄工所みたいなところには、いつも地べたに寝ているためか、脚を怪我していて痛々しい老犬のゴールデンレトリバーが居たのですが、今日は見当たりません。元気で居てくれればいいがなぁとか思って立ち尽くしていたら、路地裏にちょうど好い按配に陽が射し込み、ラックに無造作に詰まれた鉄パイプをえもいわれぬ陰影とともに照らし出していました。
こういうシーンこそ、出自からして細密描写を得意とし、しかもマルチコートでフレア、ゴースト対策を行ったこの改良版マイクロニッコールの出番です。
開放の撮影であるにも関わらず、鉄の持つ硬い質感、重量感まで忠実に描き出しているのではないでしょうか。

そして二枚目。
ふと感傷に囚われた裏通りを抜け、陽光溢れる漁港に出ました。
お目当ては漁から戻り、整然と係留されている漁船達です。もっと時間が早ければ、しらす干しの作業を一家総出でやっている姿も撮れたのでしょうが、江ノ島でちょっこし遊び過ぎ、陽も傾きかけた頃の来訪ですから致し方ありません。
このレンズのソリッドで忠実な描写性能を見るには、この漁船達の特徴的なディティールを切り取る構図が相応しいと考え、突堤の付け根まで歩いて行って並んで係留されていた漁船の手前のものの先端部分のフレタンボールにピンを置いてみました。
やはり、開放とは言え、相当、緻密な描写です。しかし、カリカリかと言えば、そうでもありませんし、何よりも不思議なのはこれだけシャープなレンズなのに、後ボケに二線傾向が、少なくともこの構図では認められないことです。

それから三枚目。
腰越漁港で満足行くまで撮ってから、また江ノ電に乗って、終点鎌倉を目指します。
鎌倉駅に着いてから小町通りに向かって徒歩で移動する途中、山際の出口前広場で熱心に勧誘を行う車夫さんの姿が目に留まりました。
最初は外人さんのカップル相手に丁々発止の熱弁を振るっているのかな?とか思いファインダーを覗いていましたが、シャッター切った瞬間、男女とも日本人ということが判った次第・・・いやはや失礼致しました。
しかし、ハイライトが飛び気味にはなっていますが、夕陽が当って光っている車夫さんの大きな背中にもそれほどフレアが認められず、画面の人物達の肌、髪、そして衣服やサングラスの質感までかなり忠実に捉える描写性能はさすがと思いました。

まだまだの四枚目。
小町通りに到着し、これから日暮れまでまた一本勝負です。
いつも定点観測的に撮影する場所が何箇所かありますが、ここはその2番札所辺りになる通りを横切る川にせり出した住居の窓をモチーフに撮ったカットです。
ピンを青いビールの小瓶に置いていますが、いやはや、何とすっきり、くっきりした画なのでしょう。ごみごみした街中の生活排水も流れ込むような川なのに、妙に清冽な印象すら画面から受けてしまいます。

最後の五枚目。
小町通りにも猫が結構いて、それが虐められず、撫でられたり、えさを貰ったりすることがあるらしく、人が近寄ろうと、携帯で写真撮ろうと、全く動じる気配もなく、ずっと同じポーズをしたままであることがあります。
この小町通り奥の店舗前の猫もそういった"観光ネコ"の一種のようで、いたいけな小姐達が「きゃぁ可愛い、携帯携帯」とか騒いで、日本人の美徳である何事も順序守って整然と、を地で行くように、交替でベストポジションについてはきゃぁきゃあ云いながら携帯で即席撮影会やってます。
しかし面白いことに、むしろ、そういう他愛ない小姐達がネコ撮影会にうち興じる姿を狙おうという、いわば上前はねを狙ったこすからいカメラマンもいるわけで、工房主もさっそく、その一派に加わったってことです。
ここでも、小姐達の髪、衣服、そしてバッグのストラップといったものの質感が巧みに再現され、しかも、アウトフォーカスの猫も、極めて好ましいカンジの後ボケと化していました。

今回の感想としては、やはり日本の半導体産業発展の嚆矢となったSマイクロニッコールの子孫侮るべからず・・・望むらくは、これが完全に距離計連動で使えたらということでした。え、ちゃんと一眼レフで使えって!?
人と違うことをするのが、当工房のモットーなのですよ。

さて、来週はまた工房の驚くべき作品の公開いきます。乞うご期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2011/04/17(日) 23:10:04|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

4枚目の川の写りこみが良いですね。

ニッコールレンズに外しなし、とは言いますがマイクロニッコールにそんな話があるとは思いませんでしたよ。
55mm/2.8はいつもFE2とセットで使ってますが、あれはあれでなかなか良いですよ。

R-D1sで写すとこういう色合いになると言うのは初めて見ました。
全体的に容赦のない映り、というところでしょうか。
やはりニッコールはニッコール、なんですねえ。
  1. 2011/04/18(月) 00:48:40 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

最初に見た時
なんで、こんなありふれたニッコールのマクロが出ているのか
ちょっと理解に苦しんでましたが
よくよく見ると、ボディーが距離計連動機だったんですね・・・・・(^_^;)

私は、
ニコンのマクロは、AF60mmF2.8しか持ってません。
実は、花とか、アップの写真が苦手なんですよ・・・・(^_^;)
(昨日の日記もダメダメでしたし・・・)


全体的に写真を見た感じだと
今のAFニッコールとは色気が全然違いますね。
昔のフィルム用レンズをデジで撮ると
やっぱりコントラストと彩度が低くなるものなのだと
確信させていただきました(デジイチで撮っても、こんな感じです)
AFニッコールだと、設計も新しいのでしょうが
結構コントラストと彩度がどぎつく出ますよ~~~~

4j枚目の川の写真も良いですが
私は、船の写真が好きです。

  1. 2011/04/18(月) 20:19:44 |
  2. URL |
  3. やまがた #-
  4. [ 編集]

融通が利かないレンズですが・・・

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
そうなんです。
これだけエピソードを秘めたレンズなのに、Fマウントで量が捌けたというだけで、値段が不当に安いんですね。
でも、常に初心忘るるべからずということで、色合いはあっさり目ながら、細めの線がくっきり力強く、画面の均質性、遠近感がばっちり表現出来るこのレンズで、時折、絵画の写生に当たる基礎的な撮影技法の基礎を確かめたくなるんですね。
世に言うクセ玉では、自分の撮影のアラが隠されてしまうことが往々にしてありますし。

このごまかしの効かない謹厳実直なレンズは被写体にも厳しいですが、それ以上に撮影者にもシビアなレンズなのですね。
  1. 2011/04/18(月) 23:33:21 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

どーせ平々凡々なレンズですがね(^_^;

やまがたさん
有難うございます。
今回はご期待に添えなくて済みませんでしたねぇ・・・もっとおどろおどろしいヘンテコレンズでも期待していましたか?
有る事は有りますが、まだまだ先は長いですからね(笑)
ここでもうひとつこの実験的な街撮りに秘められた事実をひとつ。
実は、このR-D1sの心臓部であるCCDは、ニコンD70のAPS-Cサイズのもののマイクロレンズの周辺を偏向させたもので、ハードウェアは同一なのです。
それがD70の前の世代のD1で撮った時、あまりにも寝惚けたような色ノリ悪く、シャープネスにも見るべきものがない描写だったので、"レンズ検査機"の異名を持つR-D1sだとどのように写るか、前々から興味が有ったんです。
して、その結果としては、かなり気に入りました。
願わくば、これがMもしくはLマウントで距離計連動になったら、益々嬉しいということです。
しかし、マクロレンズをレンジ機で使ったら、1mくらいしか寄ることがないので、何のためのマクロレンズか、目的不明の仕様になってしまうこともまた悲しい事実なのです。
  1. 2011/04/18(月) 23:42:14 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

質問付きで失礼します・・・。

ピントという難関はありますが、一眼レフのミラーアップと同等のショックしか無いというのが、今回魅力的なセットになっています。

結局は、Mマウントで、しかもフルサイズの別体ファインダー・デジタルでも出てくれば、本格的な《レンズ戦国時代》の火蓋が切られるんのでしょうけれども・・・。その頃には、クセノタール・タイプの50mmなんていったら、80mmや75mmはそこそこありますが、(世界的には)本家シュナイダーの150mm等と並びそうとう貴重なカンジがします。

あとはデジタル受光板との相性ですね。


(質問です。最近安い、2,1cmf4の対称型ニッコールレンズは、このアダプターでMライカでの撮影をする事ができるのでしょうか?)

  1. 2011/04/19(火) 18:44:59 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

たしかに、ミラーアップ専用のFマウントの21mmは
Sマウントに比べて破格の安さですから
ライカマウントに改造ってのも良いかも知れません。

でも、距離計を合わせる必要性があるのかが
ちょっと疑問です。

個人的には、ノクトの50mmとか
キャノンのFDアスフェリカルの24mmを
距離計連動にしてもらえれば
新しい未来が開ける感じがします。
(一眼の目では開放のピントの精度は出せないレンズだと思っています)

被写界深度って言葉は
ピントが合っているように見える・・・ってだけで
ピントが合っている訳では無いと
私は思ってます(違うのかも知れませんが・・(^_^;)

プロとか専門家の人は
そのことで知らない人を見下す人が居ますが
実際のところ
素人に、納得できる説明が出来なければ
ただの、知識をひけらかす嫌な人だと言うことを
気が付かないのが可哀想ですね・・・・・
  1. 2011/04/19(火) 20:16:06 |
  2. URL |
  3. やまがた #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
確かに、圧迫感やレリーズ時のブラックアウト、そしてなによりもミラーショックのないレンジファインダ機での撮影はこのレンズとの付き合いにおいて新た境地を拓いてくれたことは疑いようもありません。
フルサイズでのCDDとの相性は今度、I運営委員殿のM9を拝借してこの組み合わせで試すのが一番手っ取り早い気がします。
尤も、一眼でのフルサイズたるEOS1DsMKIIにアダプタ付けて撮ったところで、フルサイズのデジタル撮像素子でのテストという結果には変わりありませんが・・・

ところで、このアダプタは勿論、Oニッコール21mmf4でも結合出来、銀塩のLもしくはMマウントには使えますが、R-D1sだと、CCD前面の補助光学系、即ち、IRフィルタやローパスフィルタ、そしてマイクロレンズがシャッター直後に有るため、レンズ後端からのメカバックが約20mm短く、また、シャッター自体がAPS-Cサイズに合わせて小ぶりなため、その枠の金物とレンズの後玉ガード枠がぶつかる虞れが多分にあり、かなり危険な賭けになってしまうと思います。
M7とかMPみたいな銀塩MとかツァイスアイコンZMであれば大丈夫だと思います。
何とならば、コシナが距離計非連動式ながらニッコール21mmf4FマウントをL39に結合するアダプタ出してましたから、メカニカルバック的にも問題ないと判断しました。
  1. 2011/04/19(火) 22:49:10 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

やまがたさん
有難うございます。
確かに大口径の単玉こそ、一眼レフではなくレンジファインダ機で使うべきという意見に心より賛同致します。

ただ、一眼用の玉は色々と設計上の制約が有って、開放ではなく、f5.6でベスト描写になるよう設計してある上、絞り自動化の複雑なメカや、前にもキャノンN-FD50mmf1.2Lをライカマウント化しようと思ってもう一本買ったのですが、な、何と、後玉固定で前群と中群がヘリコイドで微妙な別々の動きをするという世にも怪奇なメカだったので、距離計連動カムの駆動が出来ず、諦めた経緯があります。たぶん、24mmf1.4Lも同じようなフローティングフォーカスとかいう厄介な機構だった気が・・・
またノクトニッコールは焦点距離が55mmなので、通常のシングルヘリコの平行カムだとレンズの繰出し量とカムのドライブ量が一致しないので距離計連動出来ず、面倒なWヘリコイドか、或いはひとつ間違えるとRF機の距離計連動機構を狂わせる危険を孕む、無限時のカム高さピークが51.6mm焦点距離のものより高い逆傾斜カムを切らねばならないのでやろうとも思いませんでしたね。
そもそも、ノクトなんか、一回、金属フードクラッシュで前玉が貝殻割れし、サービスセンターで修理を断られ、逆上して独身寮裏の玉川上水に叩き込んで以来、けったくそ悪いから手に取りたくもありませんし・・・汗
  1. 2011/04/19(火) 23:04:13 |
  2. URL |
  3. charely944 #SFo5/nok
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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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