【撮影データ】カメラ:Leica M8 絞り優先AE、露出+1/3 全コマ開放 ISO Auto ロケ地:深大寺周辺
さても月日は巡り、また日曜の晩がやってきて、当工房ブログ更新の時となりました。
今回のご紹介は、工房で改造した作品ということで、Cooke Kinic2"f3.5を取り上げようと思います。
このレンズは戦前、1930年代の早い時期に英国のTTH社が16mm映画撮影用としてリリースしたトリプレット形式のレンズとのことで、Cマウントのほっそりとした佇まいで、このノーコートのエレメントも美しいレンズは英国はサウザンプトンの好事家から工房宛に送られてきました。
このレンズはフードが異様に長く、またヘリコイドも細めの設計となっている上、近接撮影用に繰り出し量が稼げる構造となているので、最近接ポジションにした時の姿はまさにエナメル塗りのタケノコのような面妖な風体となってしまいます。
また、このレンズは長いことマニアの間では「イメージサークルが小さく、Cマウントカメラでしか使えない」という風評が立っていました。
それもそのはず、元々のフード、コイツが前玉のハウジングと一体化していて分解困難だったのですが、135判での画角には狭すぎ、大幅なケラレを生じていたのと、更にはレンズヘッド後面のヘリコイドユニットもかなり狭めの長方形の光路となっており、これら2つの要因でイメージサークルが不必要に絞られていたからです。
実は、このレンズ、かなり安値で譲って貰ったのですが、その理由が、フード部前縁がぶつけられて歪んでいる、ヘリコイドが最近接まで繰り出すと渋い、の二点でそのため、テストするには惜しくもない、通り相場と較べたらかなりの安値でキレイなレンズヘッドが買えたわけです。
マウント改造するにあたり、まずは、前縁のフード部をギリギリまで削り落す必要がありました。
計算すれば標準長は出ますが、それよりも寧ろ、フード部の刻印には手を出さない、という外観優先で削り込ました。
そして、このレンズには元々、キャップが付いて来なかったので、フードを短くすることにより前玉が擦傷を受ける可能性が増すことから、新たにキャップをアルミインゴットから削り出して作ることとしました。
ここで必要となってくるのは、キャップ内縁部の落下防止及び遮光布です。
色々と試しましたが、やはり、ライツやツァイスなどと同じ、ベルベットやテレンプと言われる丈夫な起毛布でなければ強度的にも不十分と判ったため、ネットで探し当てた「アゲハラベルベット」様に問い合わせをさせて戴いたところ、何回かのやりとりでサンプル布を送って戴いたので、それを開口部口縁より内側を1mm強削り込んで内径を拡げた5mmほどの幅の溝に貼り込んで落下防止策としたものです。
何十回か脱着を繰り返しましたが、全く異常なく耐久性が証明されました。開発協力有難うございました。この場をお借りしてお礼申し上げます。
さて、前置きが長くなりましたが、早速、作例の紹介、いってみます。
まず一枚目。
先般、シネクリスタの試写を深大寺で行いましたが、実はその際の随伴レンズがこのKinic2"だったのですが、茅葺屋根の密度感、そして、水に濡れた水車の木材の質感、そういったものが、このM8との組み合わせでどの程度表現しきるものか確かめたい衝動に駆られ、バス停近くの水車資料館前でシャッターを切りました。
その結果がこのカットです。
メインの水車部分は日陰ながら、なかなか発色も良く、シャープかつ程好いコントラストで描写していますし、午後とはいえ、青空が写り込んだ屋根部にも見苦しいフレア等は認められず、ノンコートのトリプレットにしては期待以上のパフォーマンスを発揮してくれました。
そして二枚目。
二番めの訪問箇所である深大寺城址ではフラフープをしている親子?を発見し、「撮りますよ~」と声を張り上げ、一瞬、こっちを見て頷くと、また子供との遊びに没頭するおやぢさんとその小々姐の無邪気に戯れる姿をしっかりと納めさせて戴きました。
中心部の親子は勿論シャープでクリアに描写されていますが、ここでは四隅の甘さが図らずも露呈してしまったようです。
それから三枚目。
16時半を回ると神代植物園附設水生植物園は締められてしまうので、親子に礼を述べ、大急ぎで下に下ります。
ここでも、空を写した湿地帯や、それを跨ぐ木製のクランク状の橋などが好いモチーフになっていますので、振り返りざまに一枚シャッター切りました。
画面手前から奥に向けて木製の橋が伸びて行く様はボケの具合いや画質の均質性などを把握するにはまたとないモチーフなのですが、25フィートほど先にピンを合わせてシャッター切ったら、画面奥までほぼ把握出来るくらの被写界深度に収まり、ボケを味わう、という当初の良からぬ目的は達成できませんでしたが、画面全体に亘り、それほど流れや歪みなども目立たず、すっきりした上がりになったのではないでしょうか。
まだまだの四枚目。
神代植物園附設水生植物園を後にして、いよいよ、主戦場である、門前の茶店街へ向かいました。
すると居ました、居ました。二回に一回くらいは、写真撮らせて貰うお礼も兼ね、蒸し饅頭なんか買って食べるお店の前で、女子大生のアルバイトという小姐達がラストスパートの営業活動をやっています。
もう写真に撮られるのも慣れっこってなカンジで、不自然なカメラ目線もなければ、勿論、愛想笑いもピースサインもないですが、それでも、ところどころしっかり必殺笑顔を決めるのと、心持ち、ひとつひとつの動作がゆっくりと大きく見えるようにしてくれているようです。
M8が一番苦手なタングステン光源の下でしたが、若くて美しい小姐の肌はその表情ともども活き活きと描写され、中央の主人公たる小姐以外の人物モチーフは前後のボケと化し、あたかも望遠で撮った映画の一シーンのような雰囲気のカットになったのではないでしょうか。
最後の五枚目。
シネクリスタで試した最近接での最も難題たる被写体、そう木漏れ日を浴びて光る蹲の水面、濡れた石材、そして檜の手桶です。
この質感再現がかなり難しい被写体をおん歳80歳近くのノンコートトリプレットの老レンズはシネクリスタと比肩し得るような、予想以上の高得点でクリアしてくれました。
但し、背景の池が球面収差、非点収差等がごっちゃになってぐたぐたになってしまったのは、まぁ、ご愛嬌ということで・・・
今回の感想としては、やはり、「使えない玉」というものも、手に取って、何故使えないのか、その原因を仔細に検分しないと判らないし、原因潰して、実際に使ってみれば、予想以上のパフォーマンスを叩き出すということも有る、ということが判ったということです。
さて来週は工房附設秘宝館から、まさに秘宝に相応しい玉が登場しますので、お楽しみに。
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テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真
- 2011/06/26(日) 21:00:00|
- その他Lマウント改造レンズ
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| コメント:6
なんだかすごい緑がかった絵になっている様な気がするのですよ。
2枚目とか3枚目とか。
M8の副作用なんですかね?
1枚目が緑が強いから引っ張られているのかな?うちのPCが。
対して4枚目の女性の顔は嫌な感じの緑強調じゃないし、自然なんですよね表情が。
5枚目も静謐な空間が出てくるし。
不思議ですわ。
それにしてもレンズ丸ごと作成に近いじゃないですか、すごいですねー。
こういうレンズを参考に、ニコンとかニコンとかトキナーとかタムロン辺りでデチューンした量産型モデルとか出れば面白そうなんですけどねえ。
客が限定されるから難しいですかね(笑)
- 2011/06/26(日) 21:44:46 |
- URL |
- 出戻りフォトグラファー #liuN1Pm2
- [ 編集]
出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
そうですね、1~3枚目まで何か緑が強い画面にはなっていますが、これは、M8というより、この肉眼で見ると無色透明のガラスを持つノーコートトリプレットのクセなのではないかと思います。
というのも、若干黄色掛かったレンズの方が、撮ってみたらナチュラルな発色で撮れてて、無色に見える玉では日陰では青かぶりしてた、なんてことがありましたから、これも同様のケースなのかも。
人物とか、流水に木漏れ日の反射なんてシーンではシネレンズの本領発揮です。
それはそうと、このレンズ、今ならまだ安いし、日本農園中原工作所改メ海洋堂の特命庭師サマがきっと素晴らしく改造してくれるのではないかと思いますよ。
- 2011/06/26(日) 23:35:11 |
- URL |
- charely944 #SFo5/nok
- [ 編集]
やまがたさん
有難うございます。
この茶店の小姐の顔の描写が甘く見えるのはシネレンズ中毒、もとい、タングステン光の反射によるフレアのせいではないでしょうか。
何とならば、髪の毛は充分に解像していますし、小姐の顔と同一被写界深度内にある胸元周りも充分な解像感で捉えられています。
確かに乾いた木の橋の描写は何故か原風景的なイメージで心惹かれるものがあるのは事実ですね。
- 2011/06/26(日) 23:45:34 |
- URL |
- charely944 #SFo5/nok
- [ 編集]
近接から中距離描写に興味をもちました。
描写力をアテにして無かった為に、ずいぶん昔に購入したCマウントのTT&Hを使ってみましたが、色再現はこんな感じで特にぱっとした印象がありません。わたしの印象では、それはちょうど古いエルマーのようです。しかしながらそう見込んで撮影に望むと、その感覚になれて、それが標準という感覚にもなりました。
古くコーティングの無いcookeのシネマレンズは、それが標準的な描写と思っていても、やはりジミな印象が強いです。
カイニック(と、どこかで日本語名称を読んだ事がありました)は、いつも周辺が蹴られた描写しか見た事がなかったので、そういった面では今回の描写は驚きました。
やはり、仰る通り、確かな見識で望めばあらたな発見に至る可能性があるという事を今回は痛感させられました。
(以上の様な感じでも、TT&Hの無コートレンズは全体に濃い目な仕上がりが調子良いと感じました。プリント仕上げも実際きれいで好みになりましたよ。)
- 2011/06/30(木) 20:57:29 |
- URL |
- treizieme ordre #-
- [ 編集]
treizieme ordre さん
有難うございます。
深川の存在理念自体が「まず常識を疑う」ということなのです。
そもそも、Arri35のレンズは35mm判と言ったって、135判を縦に流すからハーフサイズの画面サイズしかない、というのを鵜呑みにしていたら、Arriレンズ群の改造など手掛けなかったでしょうし、人がやらないからこそ手掛けることに価値があるのです。
今回のKinic2"f3.5しかり、16mmミリ用であれば、理論上は135判銀塩の4分の1の対角線長しかカバーしないはずですが、しかし、光路を充分確保してさえやれば、ほれ、ご覧の通り、APS-HのCCDという、周辺部はかなり厳しい条件でも、像の崩れや光量落ちしていませんし、実際にピント基準機の結像面でも周辺までキレイすっきり写っています。
まぁ、時にはとんでもない失敗したこともありますが、それでも得られるものは大きいということです。
- 2011/07/03(日) 00:14:22 |
- URL |
- charely944 #SFo5/nok
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