深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Absolute power of innovation~Nikkor35mmf1.8~

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【撮影データ】カメラ:Nikon SP 全コマ開放 フィルム:Kodak Ektar100、ロケ地:川越
さて、今宵のご紹介は予告通り、秘宝館からNikkor35mmf1.8をお送り致します。

このレンズ、よくよく考えてみれば、工房設立以来、そう、バンコックから復員して、この深川の地に居を構えた時には既に防湿庫に鎮座ましまし、結構使ってはいたのですが、超精密加工を得意とするワリには粗忽者の工房主の記憶の片隅からすっぽりと抜け落ち、今日のこの日まで、表舞台の立ったことがなかったのです。

この開放からシャープで、シーンによっては産業用レンズであるシネレンズとタイマン張っても相討くらいには持ち込めそうな、日本の光学史に燦然と輝く銘玉中の銘玉は、昭和31年、日本光学の副長技師 東秀夫氏によって生み出されました。

5群7枚、レンズタイプの分類としては変型クセノタータイプとされますが、クセノターでは明るいものが作り難いにも関わらず、高度な設計技術と、当時の最先端の新種ガラスであるランタンガラスを全ての凸レンズに奢ることで曲率を抑えることで、登場時では世界で一番明るい35mmレンズとしてその名を轟かせました。

ところで、工房所有のこのレンズは、軽合金製のローレットは磨り減り、鏡胴先端のクロムメッキの絞りリングも擦れて、一部、その光沢を失ってしまっているところもある満身相違の状態でやって来ました。

しかも、中玉に僅かな曇りのようなものが有ったことから、いきなり、飛び込みで大久保の名人宅に持ち込み、何とかして下さい、と泣きついたところ、名人は、ちょっと待ってて下さいよ、と言い残し、上の座敷の作業机に持ち込み、捻って前群を外し、きれいに拭いた後、また捻じ込んで戻し、ハィ、出来ました、これはとってもイイ個体ですね、絶対売らない方がイイですね、と言われ、しかもお代はタダで治して貰って持ち帰って来た、という曰く因縁付きのレンズなのです。

まぁ、そんなエピソ-ドを度外視しても、激しく良く写ります。

個体差も有りますし、全く同じ被写体に向けて並べて撮るという厳密な比較をやったわけでもないのですが、同じ世代のレンズは言うに及ばず、感覚的には、設計がずっと新しい筈のヤシコンGの35mmf2のプラナーと較べても、開放時のシャープネスには半歩くらい及ばない管はありますが、発色の忠実さ、ヌケの良さ、ボケの素直さどれをとっても拮抗するレベルではないかと思います。

とまぁ、いつまでも際限なくレンズの賛歌ばかり書いていても、皆さん飽きてしまうだけなので、画を見ていきましょう。

まず一枚目。

川越での新年撮影会でまず一番初めの撮影スポットは喜多院だったことは、先週ここで述べた通りですが、深川アナスティグマット50mmf1.9を装着したR-D1sとこのNikkor35mmf1.8を装着したSPの2丁拳銃状態で境内を鵜の眼鷹の眼で獲物ならぬ被写体を求め徘徊しました。

すると、寒い日ではありましたが、日なたで湯気を立てるやかんのかかったストーブにあたりながら、きなこ餅だかを賞している小々姐が目に留まりました。

そこで、いつもの調子で、ストーブにあたりながら旨そうにオヤツ食べてるとこ撮らして♪とか声を掛け、早速シャッター切ったのがこの一枚。

ちょっと距離感が遠いカンジが無きにしもあらずですが、悲しいかな、いつもM8やらR-D1sでばかり撮っていると、35mmは、50mm前後の画角になってしまいますし、SPでは50mmのファインダで撮ってますから、ちょっと距離を置き過ぎたかな、という上がりになってしまったワケです。まだまだ修錬が足らないようです。

しかし、ピーカンのもと、開放でここまでシャープにクリアに撮れるとは、やはり、この御ン年56歳のレンズ、只者ではないと思います。

そして二枚目。

モデルさんになってくれた小々姐におやつタイムの邪魔をしたことを侘び、またお礼を述べてその場を後にし、また次の被写体を探しました。

すると、喜多院のランドマーク、ニ重の塔の下で、人待ち顔の父子が居ます。

その表情が面白く、バックの塔との距離感もなかなか宜しいので、絶えず行き交う参詣客の流れが切れるのを待ってシャター切ったのがこのカット。

残念ながら、色白の同時の顔の造作は、ピーカンの陽光の反射であまり精緻に表現出来ませんでしたが、それでも、ヲヤヂさんのヂャンパーやズボンの皺など、解像力の素晴らしさを充分に活かしていますし、何よりも、背景の二重の塔の更に背景の青空が周辺落ちによって、美しい青のグラデーションによって縁取られているのが印象的で、このカットを選んだ次第。

それから三枚目。

人待ち顔の父子の前を後にし、五百羅漢像がタダで見られるポイントまで歩いて行く途中、チョコバナナを買って、さぁ、これから食すぞぉ~という気合いの入った童子達と目が合いました。

そこで、笑みを浮かべながら、美味しそうだねぇ~、みんなで食べてるとこ一枚撮らして♪と声掛けてみたら、何故か、横に控えていた親御さんが仕切ってくれて、立ち位置まで段取りして貰って、シャッター切ったのがこのカット。

ここでは、前の男の子にピンを合わせましたが、後ろの百太郎ならぬお姐ちゃんの方も充分、被写界深度に入っており、その表情も余すところなく捉えています。

赤と青の防寒着の発色もバランス良く、肉眼で見たのと違和感の無い描写をしています。

続いて四枚目。

童子達と親御さんに心より、撮影協力の御礼を述べ、その場を後にし、喜多院から撮りながら、昼食会場である「幸すし」さんまで歩いて移動して行ったのは先週ご報告した通りですが、その途上、人力車観光をエンヂョイしようという小姐2人組が居て、一応、撮りますよ♪と声を掛けてシャッター切ろうとしたら、当の車上の2名は聞こえなかったのか、或いは関心事項はもっと別に有ったのか判りませんが、こっちを向いてはくれず、何故か、お留守居役もしく伴走者と思しき、眼鏡のふくよかな小姐が完璧カメラ目線で、工房主のリクに応えてくれたのです。

ここでも、ピンを置いた被写体の2名がシャープに写っていることは言うまでもありませんが、背景のボケがとてもなめらかで蕩けるように表現されており、まさに蔵造りの街という雰囲気を醸し出してくれたのではないでしょうか。

最後の五枚目。

昼食の後、川越撮影ツアー最大の撮影スポット、駄菓子屋横丁に到着しました。

しかし、いつもは程好い混雑でスナップを撮る距離間も被写体となる童子達も充分に闊歩しているのが、正月ともなると、勝手が違い、年末のアメ横か、平日の朝8時30分前後の東西線の門仲~茅場町間の東西線並みに混んでいて、スナップどころではありません。

そこで、童子スナップから作戦変更、横丁の各店先にここぞと置かれたオブジェを使い、大口径f1.8のボケを活かしたブツ撮りによる立体感表現などを試みることとしました。

何回か、横丁を行き来して、これは!と思ったのが、東西の通りの真ん中よりやや西に位置する北側南向き店舗の軒先に吊るしてあった、渋い色合いの菅笠とその下から吊り下がる、赤と黄色の飴玉です。

撮影に使用したのは銀塩ですから、撮ったその場ではどんな描写になっているか知る由もないですが、とりあえず、浅草の扇屋さんの構図の応用例ですから、一発勝負で決めて、その場を後にしました。

翌日、現像から上がって来た画を確認しましたが、このKodak Ektar100固有のアンダーでは青に転ぶというクセは痕跡を残していますが、最短撮影距離近くでも飴とそれを結わいた麻紐、そして、午後の傾いた陽に照らされた渋い菅笠の反射はイイ味を醸し出していると思えました。

バックのボケはさすがにシャープなレンズだけあって、やや芯が残り、モノによっては二線傾向も認められますが、それでも、被写体である飴と菅笠を浮かび上がらせるには充分な捉え方で、これはこれでアリではないかと思いました。

今回の感想は、さすが時代の寵児、55年近くの時空を超えても第一線級の実力を誇っていました。

出来ることなら、SP復刻に付いて来たエコガラス製のリプロダクションモデルと比較してみたいとも思いました。

さて、来週は工房作品から何か紹介します。乞う御期待。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2012/01/29(日) 22:58:08|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

いまとなっては何ともいえませんが、ガウスタイプでないところに当時のニコンの心意気が感じられます。
はたして、現代においてこういったおごった高性能化がデジに荒らされたカメラメーカーから発表されるでしょうかと、思ったりします。
わたしは写真業でもないのでメーカーなんか関係ありませんが、デジからの発想で飛躍的な高性能化が図られれば良いのでしょうけれども、外製化やコスト競争からは、かつてドイツがカメラ産業から撤退した歴史がありますからね・・・。


わたしもコレ持って比国でモノクロ撮影を試みましたが、現代モノとくらべるとコントラストが低くてムズカシイプリントだった記憶があります。
粒子荒らしてザラザラがニコン風なんてワルサも考えたりもします。(とりあえず、考えるだけ!)

作例も正統派スナップで攻めていますが、ハロも無くそれほど古臭くはありませんね。
200x年spでもお馴染みのコマ収差が有名ですが、昼間だったらワカリマセンね。
表紙写真も、spにピッタリというより(キャノン35mmf1,5同様)良く出来たレンズだとホントに思います。

ヘキサーについていた35mmf2がソックリな構成という事でたまたま限定35mmf2をもっていますが、それほど飛躍的な向上は感じませんでしたが、奇妙な構成なので更なる発展を望みたかったものでした。(もう手放してしまおうかとも思っています)
ヘキサーカメラの方がサイレントとかあって画期的と思いました。(瀬戸さんというcマンの『サイレントモード』というリッパな写真もありましたし・・・)

  1. 2012/02/05(日) 18:41:16 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。

このレンズ、発売された当初はともかく、今、中古として市中に出回っている個体は、結構、個体差大きいみたいですね。

それがこの特殊な設計によるものなのか、或いはランタンガラス凸レンズの光学系の経年変化の度合いによるものなのかは判りませんが、この個体のように、開放からコントラストもシャープネスも十分出ていて、現代のレンズとも比肩し得る描写性能と考えられるものが在る一方、自分のレンズは開放だとコントラストも低く、シャープネスも今ひとつ、という方も居られますから、望むと望まざるとに関わらず、まさに中古の当たり外れを楽しめる玉なのかも知れません。

ところで、ヘキサノン35mmf2の変型クセノタータイプのものですが、何と、この模倣?を発見したのが、全くの第三者たるキャノンのエンジニアで、親切にもニコンに連絡したとかしないとか・・・

しかし、やはり貴兄のご慧眼の通り、古い設計にモノコートだと、ライカマウント化しても評判はいまひとつだったらしく、ヘキサーRF用の35mmは全くの新設計のレトロフォーカスタイプに変更し、これがかなり評判良く、中古でもなかなか出てこないのは有名な話ですね。

結局のところ、コーティング技術の発達で、レンズを増やしても内面反射をそれほど気にせず済むようになったので、昔ながらのWガウスとか、クセノターとか、ウルトロンとか少ない枚数で勝負!ではなく、かなり複雑怪奇な光学系で収差を徹底的に補整しちまおう、という動きが主流のようです。

今回の富士フィルムのX-Pro1の短焦点レンズも、かなり奢った光学系になってますしね。
  1. 2012/02/05(日) 23:28:27 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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