深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Invitation to unexpected depth of the Ocean~Cine-Planar50mmT2.2~

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【撮影データ】カメラ:EPSON R-D1s 絞り優先AE 露出+1/3 ISO200、全コマ開放、ロケ地;深川
さて、今宵のご紹介は、予告通り、工房作品いきます。

このCine-Planar50mmT2.2Arri改L39は、工房での改造シリーズからいけば、3号機となります。

しかしながら、戦時中の軍用と思しき1号機、商標問題が片付き"Carl Zeiss"銘も燦然と輝く2号機、と比べ、この個体は、東西ドイツ分断期の極短い一時期だけ、Zeiss Jena社とZeiss Opton社の商標係争の関係で"Zeiss"銘でなく、"OPTON"銘で製造されたという、珍しいAriiflex35用のシネレンズです。

構成自体は1号機、2号機と同様、まさにWガウスの典型的構成で4群6枚です。

この珍品シネレンズは、実のところ、工房所有品ではなく、かねてよりシネレンズに魅せられ、シネレンズを渇望していた或る友人が、幸運にもゲットすることが出来、ご本人の日頃のシネレンズへのあくなき憧憬に共感した工房主が、改造をお引き受けしたものです。

今回の改造は、経緯も経緯で、しかも今までの集大成という位置付けもあり、加工、部材とも相当頑張りました。

まず、スリーブは手許のもので一番レンズ本体に風合いの近いものを精密切削して内外公差数μmで仕上げて圧入し、2φのハイカーボンのホロースクリュウで以て120°等間隔での固定。そして距離計連動機構はオリジナルのレンズブロック固定用全周スクリューリングのカニ目穴を利用し、裏側からハイカーボンの精密ネジで超ヂュラルミン丸インゴット削り出しの距離計連動カム固定用ベースリングを固定、しかるのちにCu65/Zn35の真鍮丸インゴットから削り出しの距離計連動カムをこれまた公差数μmでベースリングに圧入後、SUS316の1.6φの精密ホロースクリュウで固定しています。
勿論、光路に接するところは、全て工房特製ブレンドのグラファイト系無反射塗料塗布を行っています。

さて、では早速作例いってみましょう。

まず一枚目。

或る日曜日の午後2時半過ぎにこの渾身の改造レンズは産声を上げました。

出来上がったら、撮ってみたくなるのが人情というもの、まだ陽が有ったので、近場でぱぱっと済ませようと思い、男やもめのお勤めたる週一のお買物がてら、富岡から、門仲駅裏にかけて撮り歩くこととしたのです。

まずは、富岡八幡宮への東からの参道に在る、真っ赤な鉄橋をモチーフにしようと思い、永代通りを北に渡り、材木屋の横を通って、橋を目指しました。

すると、いつも何某かのブツ撮り用のオブジェを表に出してくれている、製造直売の家具屋さんの入口の扉の金物に目がいきました。

金物、木部の質感は言うに及ばず、遠景に木造住宅が、中にはめ込まれたガラスに映り込んでいるのです。

どこにピンを置くか悩ましいところですが、あくまで、オーナー様に引き渡す前の試運転ですから、その性能が良く判る撮り方をせなあきません。

そこで、鉄の鎖にピンを置いて、えいやっとシャッター切ったのがこの一枚。

開放でも意外と被写界深度は深く、最短に近い距離で撮影しながら、鎖は言うに及ばず、その数センチ後の木の扉の木目とか質感とか、なかなか良く再現しています。

また、ガラスに映った遠景の木造家屋も何故かイイ味出していると思いました。

そして二枚目。

家具屋さんを後にして、数十秒と歩かない距離にくだんの鉄橋は在ります。

この鉄橋のイイところは、橋そのものの造作もレトロで宜しい上、意外と周辺が開けていて、しかも、西側、即ち、八幡宮方面に構図を撮れば、背景には若干の樹木と木造住宅が写り込む配置となっているのです。

そこで、夕陽を浴びて輝く真っ赤な橋の構造物の上のボルト&ナットにピンを合わせシャッター切ったのがこのカット。

距離は1.2mちょいくらいでしたが、幾星霜を経たボルト&ナットの鉄の上に何度もペンキを塗ってでこぼこした表面や質感など、かなりの照り返しの中、やはり良く捉えているのではないでしょうか。

ただ、バックのボケはなだらかに融けて・・・とはならず、少しざわざわしたようで、これは残念でした。

それから三枚目。

橋を渡りきって、久々のお参りも兼ね、八幡宮本殿方面へ抜けようと裏口から入ります。

すると、社務所?と本殿の連絡通路越しに夕陽が射し、通る人々がシルエットになり、また一瞬ですが輪郭が夕陽に輝くシーンが見られ、是非、この瞬間を切り取りたいと思いました。

そして息をひそめ、通路の斜め前で待ち構えていると、来ました来ました、喧しい小姐達がぞろぞろやって来ます。

と、その時、別の若い小姐が息せき切って、ちんたら歩きの小姐軍団を追い越し、通路下を潜らんとやって来ました。

こりゃ好都合、日頃のスナップの腕試しの目的も兼ね、全神経を研ぎ澄まし、小姐の輪郭が光芒を放つ刹那、シャッターを切ったのがこのカット。

R-D1sとは思えないくらいのシャープでクリアなシルエットが上がっていて、家で撮影結果を見てびっくりしました。

まさにこれがPlanarマジックというものなのでしょう。

まだまだの四枚目。

お参り、そしてお買物も済まし、家路に就きます。

但し、往きが永代通り北側の寺社仏閣ゾーンを通って行ったのに対し、帰りは、永代通りの南、大横川を渡った、牡丹町界隈を通って、工房の在る旧深川琴平町方面へと抜けます。

東京大空襲で殆どの街並みが焼けてしまったこの界隈ですが、それでも、戦後の香りを色濃く漂わせる街並みはそこここに残っていて、散歩する者、よそから迷い込んで来た者を飽きさせません。

いつも以上にカメラを提げキョロキョロと被写体を探して歩いていたら、古い、アパート兼住居が目に留まりました。

たぶん、デジ一眼やコンパデジで撮ったら、ただの裏通りの味気ないモルタル建造物としか写らないかも知れませんが、この稀代の銘玉、昭和の残滓をどう捉えるのか?・・・

その結果がこの通り。

カリカリ感こそないですが、比類無くシャープなこのシネレンズは、月日が刻んだモルタル外壁の表面の模様を夕陽の当り加減に応じ、微妙なグラデーションと共に、かなりドラマチックに捉えているのではないでしょうか。

最後の五枚目。

更に歩くこと約5分、木場近くの運河の橋のたもとに出ます。

毎朝の通勤ルートです。

この橋も、小ぶりながら、なかなか凝った造型で写真の撮り甲斐があります。

そこで、ちょいとひねって、沈みかけた夕陽を浴びる鉄橋の上部構造体をバックにぼかして、手前に在る奇妙な石の前衛彫刻を大胆に切り取って構図してみようという試みでシャッター切ったのがこのカット。

石のオブジェ自体は建物の蔭で沈む夕陽も当たりはしませんでしたが、橋のほうと遥か遠方の都営住宅はオレンジ色の夕陽を浴びて仄かに照り返し、イイ按配となっているようです。

このボケがまさに狙っていた、蕩けるが如きボケで、満足行きました。

あ、オーナーさん、今日は違うレンズ出そうと思ってたんですが、意欲的な新作レンズの開発やってたら陽が暮れちゃったんで、ご免なさい、承諾得る前に紹介しちゃいました。でも、どうか、いつまでも末永く愛用してやって下さい。

さて、来週は秘宝館から何かご紹介致しましょう。乞う御期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2012/02/05(日) 23:08:58|
  2. Arri改造レンズ群
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

八景島で某氏のシネ・プラナーとフード内蔵一つ前ズミクロンを比べたら、ソックリだったのを思いだしました。ワカラナイくらい多少、zeissのほうが華やかな色だった気も。

シネとはいっても、あの荒々しいcookeパンクロと比べるとコチラの個体もスチル風の柔らかさを感じます。不二さんの言うところがすこし判った気がしました。
  1. 2012/02/06(月) 21:22:05 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
Cine-Planarシリーズっていうレンズは、車に喩えれば、まさにメルセデスベンツそのものってカンジです。
走りにスリルはなくとも、確実に速いし、基本性能自体が無茶苦茶高い・・・

レンズに置き換えれば、それほど尖ったカンジはなくとも、シャープネス、ヌケ、発色、階調再現性/コントラストのバランス、画面の均質性、全ての性能が極めて高い次元でバランスしているため、却って、普通の撮り方では、一見すると銀塩の良く出来たレンズとあまり変わり映えしないようにも感じられてしまうのでしょう。

一方、Cookeのシネレンズシリーズはまさに英国のレンズだけあって、ヂャギュアのスポーツカーに似たキャラではないでしょうか。

性能と興奮は比例するとばかり、独特の締まった発色と時としてカリカリの解像感、いかにも特別なレンズで撮ってますよぉぉぉっていう昂揚感を与えてくれる写りです。

この両者を所有し、TPOで使い分けられるのが、レンズ愛好者の贅沢なのかも知れませんよ。
  1. 2012/02/06(月) 22:44:27 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

素晴らしいレンズをお造り頂き、ありがとうございました。
まさに工芸品の域にあるレンズで、
深川工房の魂が宿った作品そのものです。
レンズの性能はもとより、
深川工房のその魂に恥じない作品を創れるように精進致します。
ご紹介頂いているように、凄いレンズです。
  1. 2012/02/08(水) 00:28:15 |
  2. URL |
  3. sino-tei #xsitMUlk
  4. [ 編集]

sino-tei さん
有難うございます。

オ-ナー様の喜びのコメントを戴けるとはまさに職人冥利に尽きます。

ただ、このタイトルに御用心、御用心・・・
何せ、このレンズは「予想もつかぬ深い海の底からおいでおいで」ということで、これをきっかけにシネレンズ海溝の深みに嵌まってしまうかも知れませんからね(笑)
  1. 2012/02/08(水) 23:27:46 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

うーん

このレンズは戦時中ドイツ軍の報道宣伝部隊が使用していたアリフレックスが戦後大量に出回ったがレンズが状態が悪い為にザイスや他のメーカーにオーダーが行ってもすぐに生産出来ない状態だったようです。
(戦中はレンズ類も軍用品の為戦略爆撃の目標)
又戦中戦後連合軍管理下では特許や商標が保護されずに適当な時代が有りました、戦中シネカメラはアリフレックスのコピーがアメリカ軍の要請でシネフレックス社で製造された経過が有ります、
ドイツも東西に分割された時期は戦後の混乱が収まると特許や商標が保護が見直された時期で、
その前に製造された物に色々なメーカーの技術者や協力工場でコピー品もどきのレンズが大量に製造されたようです。
何時の時代でも戦後や動乱後は会社が分割されたり、離合集散を繰り返し、色々なブランドが乱立するようです。
日本もロシヤも中国も例外では有りませんでした。
  1. 2012/02/11(土) 14:00:22 |
  2. URL |
  3. hiro #xPR/ZykM
  4. [ 編集]

この前所要で門仲に行ったのですが

これ駅前から不動の方に抜ける途中とかそんなところでしょうか。

仕事中だったので撮ることはしませんでしたが、なかなかいい風景がありますね。

しかし5枚目のこの鉄橋だけは場所が思いつきません。奥が深いですねえ、門仲も。
  1. 2012/02/12(日) 15:21:16 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #liuN1Pm2
  4. [ 編集]

hiroさん
有難うございます。
歴史的背景に関する詳細なるご解説、有難うございます。

戦後の混乱期にヨーロッパの中心、ドイツで産まれた産業用レンズが、21世紀も12年経った頃、ポーランド経由、遥か彼方の極東の地、お江戸深川で、今度はライカマウントに生まれ変わって、更に春からは筑後の国でこの四季の有る美しい国の人や風景を写す・・・なんという数奇な運命なんでしょうね。

でも、本物だからこそ、このように生々流転を繰り返し、人々に愛され、受け継がれていくのだと思いました。
  1. 2012/02/12(日) 23:03:09 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。

門仲は表通り、即ち、永代通りは商店や、このところ無粋にも街並みを蚕食し始めたマンションが処狭しと並んでいますが、一歩中へ入れば、裏通りはまさにこんなカンジがあちこちに散在しています。

まさに時間無い時、浅草ほどではないにせよ、ちゃちゃっと試写するには便利な街だと思います。

ところで、場所の見当つかなかった5枚目の橋ですが、うちのマンションから歩いて1分ほどの平久運河にかかっている、牡丹町と木場を結ぶ古い鉄橋なのですよ。

こんど、体調良くなったら、旨いもの付きスナップ三昧でもやりますか?

趣味趣向が微妙に違う?ガイド2名居ますし(笑)
  1. 2012/02/12(日) 23:09:47 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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