深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Legenda gloria amisit~Kowa Prominar50mmf1.4 mod.M~

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【撮影データ】カメラ:Leica M8 ISO Auto 6Bit Code レンズ検出On、全コマ開放、ロケ:下北沢~渋谷
さて、今宵のご紹介は、旅の残映も消えないうちに、街頭スナップによる工房製品紹介です。

今回登場のレンズ、今は再参入したごく一部の特殊な製品を除き、カメラからは撤退して久しい、興和の製品、Prominar50mmf1.5を工房でライカMマウント完全連動に改造したものです。

このレンズ、或る意味、悲運の銘玉と言わざるを得ない生い立ちでして、1959年に今や製薬会社と思われている興和から、Kallo140という超マイナーカメラの標準レンズとして登場しました。

このKallo140というカメラ、何故かフォーカルプレン形式を頑なに拒み、一眼レフですらレンズシャッターで拵えてしまう会社にあって、レンズ交換式とはいえ、フォーカルプレン形式で作られよう筈もなく、ちょうど、フォクトレンダのプロミナント35のように、比較的大きな開口部を持ったビハインドシャッター形式のバヨネットマウント式で、35mm、50mm、85mmという専用マウントのレンズとも、全群、シャッターの前に有り、ちょうど、一眼レフでは後玉直後に有るミラー軌道の代わりにシャッター羽根が有るという構造でした。

そのため、他のレンジファインダー機用レンズと比して、二つの厳格なハンディキャップを負っており、ひとつめは、後玉の外径に制限が有るということ、ふたつめは、フラジバックが一眼レフ機同様制限されてしまうということです。

従って、前玉はキャノンで言えば50mmf1.4よりは遥かに大きく、f1.2より僅かに小さいくらいですが、後玉は、同形式のプロミナント35mmのノクトン同様、キャノンで云えば50mmf1.8の内鏡胴とほぼ同じくらいです。

構成は、前群が凸1、凸+凸+凹貼り合わせのゾナー?型で後半がキャノン50mmf1.4に良く似た凹+凸貼り合わせ、凸1のWガウスもどきのハイブリッド設計になっていました。

こうしたことから、実写例が極度に少なく、また経年劣化をのままで手入れもされないままの作例がネット上にアップされたりしたこともあって、こんなハンデを負ったレンズの描写性能には見るべきものはない、という風雪も流れるに至ったようです。

実はこの個体も、某新宿の中古カメラ店のヂャンクコーナーでクラッシュしたボディに付けられ、フィルタ枠が歪んでいたことから、前玉を外してのクリーニングも出来ないことから、僅か数千円の値段にも関わらず、誰も顧みる人など居らず、たまたま工房主がいつもの勘と閃きで買って帰って、浅草の某修理業者さんに枠修理とOHを頼み、修理から上がって後、工房にてMマウント改造したのです。

なお、今回のチャレンジは、単に機械的にMマウント化したのみならず、LHSAのHP上からMデジタル用6ビットコードの詳細なる解説を載せたサイトを発見し、そこから得たデータでMマウントリングに6ビットコードを装備し、M8で最良の画像処理が出来るようにしたということです。

写りが良いか悪いか、もはや、これは観る人の主観によりますから、作例をご覧になって、皆様がどうお感じになるか次第ではないかと思います。

まず一枚目。

下北沢での友人の写真展の帰り、裏通りに面白げなシーンが結構有ったので、それをM8でスナップし、レンズ性能を見ていくこととしました。

駅周辺の或る曲がり角を曲がったら、グレーにペイントされたコンクリート塀にハンガーでぶら提げられた古着?みたいな衣装がずらっと並べられており、ボケと被写界深度を見るのに使ってね♪と云わんばかりのシーンだったので、一番手前のパーカーだかジャンパーだか判らないようなよれよれの衣装の肩口にピンを合わせてシャッター切ったのがこのカットです。

さすがf1.4の大口径だけあって、開放ではかなり被写界深度が浅く、1.5mくらいの距離でも、ピンが合っているように見えるのは、せいぜい5~6cmくらいの奥行きしか無いように見えます。

ただ、ボケはゾナーの血統が濃いのか、なめらかでキレイに見えます。

そして二枚目

京王線の神泉で途中下車し、道玄坂界隈で街撮りを試みました。

マークシティの裏辺りは結構、オシャレなオブジェが有るので、ちょっとした試写にはとても重宝しています。

そこで、夕刻から営業するレストランみたいな飲食店の軒先に下がっている、コルテン状の金属素材で作られたランタンみたいな物体があったので、質感と背後のボケを観察するため、一枚撮ってみたものです。

ここでも、コントラストも程好く、かといって、緻密なサビの覆うランタンのディテール、質感は余すところなく描写しており、またここでも背景の漆喰の壁に掛けられた木製の看板をおぼろげに描き、イイカンジの画面構成になっているのではないか、と思いました。

それから三枚目。

M8の背面LCDで出来栄えを確認しておいて、また次なるオブジェを物色しながら徘徊していると、今度は開店前の食堂だか居酒屋だかの看板?が少し高い床面に置かれているのを見つけました。

まさに大口径の古いレンズの泣き所みたいな構図です。

鏡胴内部の反射防止塗膜やらコバ塗りが劣化してきたり、或いはコーティングそのものが変質、エレメント空気面が曇ったりしていると、たちどころに馬脚が出てしまうのがこういった、色の濃い被写体と背景に曇天の明るめの空を入れた構図なのです。

しかし、ご覧の通り、このレンズはこんな嫌がらせに等しい撮影条件もものかわ、ピンを合わせた手前のコルテン状の看板みたいな缶をかなりくっきり的確に描写しています。

こんな条件では、ライツズマリットもニッコールも、キャノンも同じ時代のレンジファインダ用大口径レンズは皆、コマフレアで被写体は淡いヴェールに覆われたかの如き、柔らかめの描写になってしまうと思います。

続いて四枚目。

道玄坂から東急東横店前の交差点まで出ると、斜め後ろから見る限りでは健康美に溢れた小姐が可愛らしい花の髪飾りをしていました。

そこで、そぉっと、髪飾りにピンを合わせて、シャッター切りました。

シャッター切った瞬間に髪を掻き上げたかで、ちょっとピンがずれてしまいましたが、ここで副次的に面白いことが判りました。

それは、後ボケで写り込んでいる信号などの点光源です。

中央付近はキレイにボケていて、球面収差の具合いが判るようなサンプルです。

ただ、画面の周辺にいくに従い、外コマの影響か、点光源のボケが外側に流れるのが認められます。

最後の五枚目。

交差点を渡り切って、東口方面へと歩いて行きました。

すると、陽が傾き出し、人工光と残光のミックスライト状態という、これまた大口径レンズのテストには格好の条件となってきました。

そこで、辺りを見回すと、へへへ、また信号待ちで、渋谷っぽい小姐がスマホ操作に夢中になっていて、周囲への関心が疎かになっています。

また背景にも、華やかな如何にも渋谷系人種ってなカンジの小姐が笑ったり、電話したりして、被写界深度から外れていくごとにどういったボケで表現されるのか試したら面白そう☆ との創作意欲を掻き立ててくれたので、反射的にシャッター切ったのがこのカット。

実は、このカット、ピンは手前の小姐のご尊顔ではなく、まさにスマホを操作する、白魚の如き、美しい手指なのです。

ここでも、背景の店舗?の照明のランプが画面の上部ギリギリに写り込んで、ハイライトは飛んでしまっていますが、やはり外側にすっ飛ぶが如き写り方になっていますから、APS-Hサイズの画面のM8でこれだけなのですから、24x36の画面サイズの銀塩フィルムで撮ったら、やはり大暴れレンズと受け取る人も居たのかも知れません。

今回の感想としては、やはりKOWAにはこのミラーレスの時代、カムバックして戴きたい。

先にカメラ用レンズから撤退した京セラオプトがミラーレス用で4月から再参入するというニュースがあり、5月ももう終わろうというのに、何の音沙汰もないですが、まさにこのKOWAとTOPCON、KONICA&MINOLTA各位に於かれましては、出来れば距離計連動で写真用レンズに再チャレンヂして戴きたいものです。

さて、来週は攻守交替、工房附設秘宝館からコレクションご紹介致します。さぁ何が出てくるか、乞うご期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2012/05/27(日) 22:36:34|
  2. Mマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

4枚目の丸いボケが良い感じで。

またまたすっきりレンズだなあと思ったらコーワですか。
日本製のレンズはこういう傾向なんですかねえ?

海外製のこってり濃厚レンズの色に慣れていると、どうもざるそばを食べたようなさっぱり感に襲われますねえ。
  1. 2012/05/28(月) 22:59:29 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #liuN1Pm2
  4. [ 編集]

Re:4枚目の丸いボケが良い感じで。

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。

そーですね、云われてみれば、コーワもズノーも国産レンズ、こと1950年代の絶版レンズに似通った傾向として、発色があっさりめで、線の細いがカリカリでなく端正、といった共通点があるのかもしれませんね。

この個体は奇しくもMマウント化+6ビットコードで再び生を受けましたが、実は工房にはもう一台、オリヂナルボディに装着された後期型の完全Wガウスタイプのものも秘蔵されているのです・・・てか、云っちゃったら秘蔵ぢゃないですなぁ・・・

6月3日のイベントには、もう一本の「日本光学史」の鬼っ子レンズともども出撃致します。
  1. 2012/05/28(月) 23:09:11 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

コーワの35mm写真用レンズもある時期からアメリカのパナビジョンに供給が始まった頃から、
シネコーワも写真用も中判以外販売が中止された様でコーワのレンズは品数や価格がバラバラですね?
しかしよく見つけて改造するものです、
脱帽
  1. 2012/05/29(火) 17:17:08 |
  2. URL |
  3. hiro #xPR/ZykM
  4. [ 編集]

hiroさん
有難うございます。
巷間では、Nikon Canon、Pentax、Olimpus、そしてSONYと化して生き延びたMinolta、といった知名度も販売量も有る一流どころのレンズがもてはやされる傾向がなきにしもあらずですが、このProminarにしても、拝領したZunowにしても、Mマウント化させて戴いたCine-Cristarにしても、まだまだ優秀ながら不運なレンズは歴史の片隅に埋もれているのではないか、と愚考致します。

しかし、そういったレンズ達と巡り合うのも、これまた縁と運・・・折角巡り合えたレンズ達に確実に新たな生命を吹き込めるよう、日々、改造の腕を磨いております。

今週末も、もはや、改造の領域を超えた、奇跡の逸品をお目に掛けられると思います。
  1. 2012/05/30(水) 21:55:53 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

ゾナータイプとは違うkallo140のレンズ。

多くの試みがなされた豊かな時代のレンズなのでしょか、以前とは違うレンズ構成というのにも興味を感じます。

1,2枚目のボケや色にスチル撮影でのシネ・コーワの雰囲気を感じますが、多分相当用心の図られたと思われるコーワsixレンズ群などよりも個体差はあれど多くの試みがなされたという気がします。
コンパクト・カメラにf1,4クラスなんてのも現在でも驚きですね。


今回こうしたビットコード登録での色調整でのより確かな結果把握も非常に大切なので、更には色キャリブレーション済モニター導入等、適正化への挑戦も随時図ってください。

期待しています!
  1. 2012/06/02(土) 16:44:49 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

Re:ゾナータイプとは違うkallo140のレンズ。

treizieme ordre さん
有難うございます。

このKowa140は、ライカM3ショックから5年経ち、同い年産まれのNikon Fが日本写真史に残る金字塔となったことに象徴されるように、日本メーカーは既にフォーカルプレン式の一眼レフに主力を移し始めた頃の製品です。

そのような時流にも関わらず、興和は十年一日の如く、一眼レフもレンズシャッターなんかで作っているような会社ですから、ボディ設計者は良いとしても、他社と比較し制約だらけのレンズ設計者の苦労は並大抵のものではなかったと察します。

従って、そんな中で商品力を保とうとすれば、普通の製品ではダメでこのような尖った製品を出さなければならなかったのです。

かくして、こんなヲバさま方が町内旅行に持ち出すが如きコンパクトカメラ然としたボディに当時の世界水準の最先端を行くレンズを載っけて出したりするワケです。

カテゴリーこそ違え、まさに羊の皮を被った狼と云われたスカGRとか、イギリス製の軽ボディに強力なV8エンジンを載っけたACコブラなどを彷彿とさせます。

因みに6ビットコードは色ノリの調整ではなく、周辺の光量とコントラストくらいしか役立っていないようです。

カラーしか撮らないとは云え、そんな厳密に発色など拘っていませんし・・・笑
  1. 2012/06/03(日) 00:44:27 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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