深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Good luck meets steadily acquired technology~R-SERENAR5cmf1.5 mod.L39~

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【撮影データ】カメラ:Leica M8 絞り優先AE、露出±0、ISO Auto、ロケ地:川越
さて、今宵のご紹介は、予告通り、工房製品のご紹介です。

今回ご紹介するレンズ、精機光学R-SERENAR5cmf1.5は、一時期は電子湾やら、山の雄叫びオークションなどでも纏まっての出品が有ったようなのですが、このところ、ぱったりと見かけなくなりました。

それもそのはず、そもそも、このレンズ、キャノンの前身である精機光学が正規のライカマウント判銀塩撮影レンズで発売したものでなく、"R"のレターが示すように「Röntgen」即ちX線透視写真の蛍光面に対する間接撮影用レンズであって、市中で売られたものは、戦後のどさくさに紛れ、メーカー外の業者、職人が主に進駐軍のスーベニア用として極少数をライカマウントに改造したものと考えられるからです。

このR-SERENAR5cmf1.5は海の向こうからやって来て、深川の技術でライカマウントレンズとして第二の"人生"を歩み出したWollensakのRaptar兄弟と同じく、軍需物質という、暗い生い立ちを背負っています。

本来の生まれはと云えば、第二次大戦で兵士の集団を輸送船に乗せる際、1人でも結核を持っていると船内で感染が拡がる危険性が有る為、大量かつ迅速な検査を実現すべく、11x14の感光フィルムを使う代わりに燐などを用いた蛍光板への透過X線の投影像を135判フィルムで記録するため開発されたシステムのレンズで、、精機光学経営者であり、医者でもあった、御手洗氏が国防に対し、医療衛生面から貢献すべく、積極的に開発を進めさせ、1942年に陸海軍ともにこのR-SERENAR5cmf1.5付きでX線間接撮影システムは納入開始されたと云われています。

翻ってこの個体、実はその1942年当時に精機光学で生まれたものでもありません。

注意深く観察すれば、このアンバーコートが1936年当時に同盟国ドイツでアレクサンダー・スマクラ博士が発明し、イ号潜水艦経由もたらされたものとは明らかに異質な処理と判る筈です。

そう、この個体、実は2012年5月の産まれなのです。

実は、新宿に改造用パーツを買出しに行った或る日、何か目ぼしいものはないか?と東口の某店に寄り、ヂャンクかごを覗いた途端、この異形のレンズのどんがら鏡胴が目に留まりました。

しかも、この日本の光学史々上、極々貴重なレンズの鏡胴は、考えられないような捨て値が付けられていて、誰も顧みる人が居なかったようなのでした。

R-SERENAR5cmf1.5は通常品は真鍮削り出しにクロムメッキですが、この個体、アルミの鋳造品に黒い艶の有るエナメル塗装が施されていて、ぱっと見ても、中のエレメント押さえ用リングは揃っているようなので、写せるように直して上げられなくとも、貴重な資料として手許に置いておこうかと思ったのです。

工房に持ち帰り、前後からリングを回して分解してみれば、やはり全部の内部リングは揃っているようで、しかも、不可思議なことに、レンズを組み付けた後がありませんでした。

アルミや真鍮のリングだと、それらより表面硬度の高いレンズの端面の研削面が当たると、擦れた痕跡が残るものなのですが、この個体では全くそれが見当たらなかったということなのです。

しかも不可思議なことは、朝日ソノラマ等で公開されているこのレンズの構成は4群4枚のオルソメター型?なのですが、そのような構成で5cmとはいえ、開放値f1.5が達成出来よう筈もなく、工房で色々なエレメントをあてがってレストアを試みたところ、何と1957年発売のキャノン50mmf1.4タイプIのエレメントが殆どそっくりそのまま収まってしまうことを発見したのです。

ただ、組み立てには大きなネックが二つ有って、まずf1.4とf1.5のコンマ1の差故か、前玉エレメントが直径がコンマ6mmほど大きく、鏡胴内部の所定位置まで入って行きません。

そこで、工房のダイヤモンドラッパーで前玉周囲を削って填めるか、或いはこの貴重な金物の内部を旋盤で精密切削して拡孔しようかと迷ったのですが、以前、畏友Tarningさんの秘密工場を見学させて貰った時のことを思い出し、専業の機器で芯出し研削して外径を合わせて戴くことにしたのです。

お願いしたところ、快諾して頂き、待つこと約2週間、ご覧の通り、寸分の誤差もなく見事に嵌まり、ここで第一の問題はクリア出来たのです。

そして二つ目のネックは、第二群の外径とL2の被写体側のエレメント曲率が異なるため、オリジナルの金具にやはり収まらず、たとえL2とL3貼り合わせの第二群エレメント外径の芯出し研削で収まったとしても元の位置にねじ込むとL1とL2がクラッシュしてしまう虞れがあったので、第二群を収めた金物をそっくりそのまま、真鍮インゴットから削り出して複製し、第ニ群の位置を数十μm後退させた位置で固定し、無事組み立てることに成功したのです。

しかし、やっとの思いで光学系を再生したのですが、これを組み込むヘリコイドで適切なものがありません。

文献やオークションに出ているものを参考とすれば、エルマーのように真っ平らなマウント兼ヘリコイドディスクに富士山型の円錐の山が出ているパーツの頂点にねじ込めば一件落着という目論みだったのですが、まずアテにしたキャノン5cmf3.5のヘリコ&マウントユニットは細過ぎて全然ダメ、内径を研削して拡張している過程でバラバラになって御臨終、仕方なく、キャノン5cmf1.8Lの銀鏡胴のパーツとアルミ鏡胴のものの真鍮削り出し部分のみを組み合わせて再調整し、光学系をネジ込む部分は真鍮で新たに削り出して作ったパーツをヘリコイドのオスに精密切削他の技巧を駆使して固定し、インフストップも新たに設計敷設し、正味半月以上の工期を費やし、やっと完成に至ったのです。

では、実写例を見て行きましょう。今回のロケ地は遥々川越まで出かけてしまいました(ホントは安くて旨い鰻屋さん探訪も兼ねてでしたが・・・笑)

まず一枚目。

東武東上線の川越市駅から蔵作り通りに在る鰻屋さんへ向かう途中、低いアーケードの商店街に、なかなかオシャレなオブジェを掲げた喫茶店が有るのが目に留まりました。

いつもは、大勢で行動し、はぐれるメンバーなどが居ないようにとか、時間が押せ押せになってきているから移動スピードを上げなきゃとか、写真撮るのもそっちのけで、ツアコンまがいの役目も大きいですから、こういう地味ながら秀逸なオブジェを見落としているのもむべなるかなというカンジです。

ピンはこの風鈴みたいな一連の構造体の上部のハート状の透かし彫りに合わせていますが、同一焦点面に入っている下部の風輪部もフレアこそあれ、キレイに合焦しています。

一方、背景は今にもぐるんぐるん回り出しそうな雰囲気で、昔、何処かで見た、R-Biotarの暴力的とも云える写りを彷彿とさせました。

そして二枚目。

蔵作りの街並みを少々急ぎ足で歩き、一般的なランチタイムの刻限であると推定される2時より少し前に目当てのお店に着きました。

が・・・そもそもランチメニューなどなく、鰻重は松竹梅しか有りませんでした。

そこはそれ、日本人の悲しい習性でどうしても真ん中のメニューを頼んでしまうようで、迷う間もなく「鰻重松」を頼んでいました。

焼き上がるまで少々お時間下さいってことだったので、このお店のウリである、トロッコの線路付き土蔵やら、店内に吊るしてある、鮎のいぶりがっこうやら撮ってましたが、三田村邦彦っぽいシブイ兄さんが店頭で鮎の炭火焼なんかパフォーマンス演じてるんで、こりゃ格好の被写体だわぃとか独りごちて、声を掛けて撮らせて貰ったのがこのカット。

ここでもお兄さんの目付近でピンを合わせたので、同一焦点面内の肩口までは、清潔な白装束の皺とか布地の質感まで描いていますが、前ボケたるや惨憺たる有様で、まさに像面湾曲大会でAPS-HサイズのM8でこれですから、24x36のフルサイズでは相当アラが目立つかなぁ・・・・と思った次第。尤も、このレンズは設計通りであれば、イメージサークルは24x25.5mmですから長辺の下は崩れても問題無い!と云えなくもないのですが。

それから三枚目。

お兄さんにモデルのお礼を述べ、また店内へと引っ込み、あちこち被写体を物色します。

こんなイイ年こいたヲサーンが、カメラを持って店内をうろうろするのは、お客が少なかったから良いようなものの、店員さんは皆一様に苦笑いするばかりでした。

そんな物色の中でふと心の琴線に触れたのが、奥のテーブル席上の涼をとるためであろうミニチュア金魚鉢のオブジェでした。

しかも、背景が陽の当たる板壁ときては、もう撮らないワケにはいきません。テーブルにはお客さんが居ましたが、「ちょいと失礼しますネ」とか声を掛けたら、インドの山奥のヨガの行者もびっくりといった柔軟な身のこなしで上半身をさっと反らせ被写界から消してしまい、その合間に一枚戴いたのがこのカットです。

ここでは手前の波状の金魚鉢の縁に合わせたのですが、背景の板壁は、ぐるぐるみたいに見苦しくならず、イイ案配にボケて写り込んでくれています。

また、手前の像面湾曲による流れもそれほど目立ちません。

続いて四枚目。

味、量、そしてお値段ともかなりの満足度で、鰻屋さんに再訪を約して後にします。

また蔵作りの通りを北に向かって歩いていると、パン屋さんの店頭で、青い目をしたブロンズの小姐達がニコニコしながら、買ったばかりのパンをおいしそうに頬張っていました。

一旦手前に立ち尽くし、、黙って抜き打ち的に横向いているとこを撮っちゃうか、或いは断られて元々、声掛けて、ばっちり正面から撮るか、ほんの刹那考えたのですが、やはり声掛けて撮らせて貰うことに決め、通りすがりざまに振り返り、手前の小姐に「Can I take your Photograph?」と声掛けてみたら、やや困り加減の笑顔で、首をかしげ、手を広げて手のひらを天に向けるポーズを決めてくれたので、「Fotografieren Bitte!」とか適当なこと言ったら、奥の小姐が指でOKサインを出し、手前の小姐に笑顔でカメラ見るように指示してくれたので、これ幸いに、と一枚戴いたのがこのカット。

ピンは手前の小姐の向かって右の目に合わせたつもりなのですが、若干前ピンとなってしまったようで、手前の左手のパンを持つ指の方に合ってしまったように見えます。

しかし、この戦前産まれの堅物レンズ、異国の美しい小姐に対する礼節は持って産まれてきたようで、奥の赤毛の小姐の御尊顔は流れずに表情は判る程度のボケで描き出してくれました。

まだまだの五枚目。

快くモデルになってくれた異国の小姐達に3ヶ国語でお礼と、良い一日を!とか惜別の辞を述べ、その場を後にし、また被写体を探して駄菓子屋横丁へと足を急がせました。

今回も色々と見せ場を作ってくれた親子連れが多かったのですが、とりわけ秀逸だったのが、大手の駄菓子屋の軒先でドライミストによる汽水冷却をしているところに、笑顔で伸びをしたり、ミストを手で受け止めたりして無邪気に遊んでいる小々姐が居て、その上、よほど自分の子供に自信有るのか、或いは自身でも写真をやっている変わり者なのか判りませんが、オモニが「ホラ、あっちで写真撮ってくれてるから向こうも向いて上げなきゃ」とか、合いの手を入れてくれていたのです。

残念ながら、こっちを向いてくれた瞬間にはシャッターを切り終え、程なく団体さんが通りをぞろぞろ占領して歩き始めちゃったので、この物分りの良い親子の写真は撮りはぐれちゃいましたが、まぁ、このカットでもまぁ、雰囲気は伝わってくるでしょうから、佳しとしましょう。

最後の六枚目。

通り越しに手を振って親子にお礼の意を伝え、駄菓子屋横丁を後にしました。

次なる目的地は時の鐘の鐘楼通りです。

蔵作りの通りまで来た時、目を疑う一団を目にしました。

そう、中東から欧州にかけての娘さん、御婦人が色とりどりの和服に身を包み、十人近くで蔵作りの通りをしゃらんしゃらんと闊歩していたのです。

さっそく、声掛けて撮らせて貰ったのですが、このレンズの性質上、ピーカンでしかも、日本人の野次馬入りの団体写真だと、有効イメージサークルと被写界深度の関係でとても見られた写真ぢゃなくなっちゃったんで、涙を呑んでお蔵入り、お礼を述べ、別れざまに蔵作りの街並みをバックに後姿を撮ったこのカットを急遽採用した次第です。

今回は台風一過、川越まで出かけた甲斐がありました。

ここで掲載させて戴いた以外にも、あと3組ばかり声を掛けて撮らせて戴いたカットがありましたが、それらも、この稀有なレンズの貴重な作例として、大事にデータ保管させて戴きます。

よくよく考えてみれば、60年数年ぶりに帰国して修理から上がったSun Sophia5cmf2のテスト撮影もここ川越で行いましたし、或る意味、日本のクラッシックレンズの聖地なのかも知れませんね。

さて来週は、攻守交替、工房附設秘宝館からコレクションご紹介いきます。さて、何が出てくるやら・・・乞う御期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2012/06/24(日) 23:16:55|
  2. その他Lマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

ぱっとみ、久々に使った200個限定某レンズにそっくりです。(微細にはちがいますが)

S50mmf1,4の素性がいいのか、色のりもいいですね。(と、おもう)

前玉削れるのがすごい。(Tさんおそるべし)
  1. 2012/06/25(月) 01:33:07 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

もういっそのこと

趣味のレンズ工場を開いても良いかもしれない(笑)
会員制、かつ注文から完成まで10年待てる人限定ってところで。

川越の雰囲気は大体理解できそうですよ。今回の写真で。

8月以降、撮りに行きますかねえこの辺りを。

それはそれとして今帰宅したばかりなので、アユの塩焼きの写真は目の毒ですねえ。
  1. 2012/06/25(月) 20:13:01 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #liuN1Pm2
  4. [ 編集]

treizieme ordreさん
有難うございます。
確かにくびれた漏斗状の鏡胴は似てなくもないですが、歴史の重みとか稀少さは全然比べ物にならないですヨ・・・(苦笑)

それはそうとして、このレンズ、結構、色ノリがイイのと、線描写が甘めなんで、こういうレトロな街でのんびりスナップ楽しむのには最適かも知れませんね。

ってか、今年は佐原の夏の大祭も3年に一回だかの年番交替とかで盛り上がりそうですから、ちょっこし出かけてみませぬか???

行くなら、成田駅前のアパホテル泊でのんびり行きやせう♪
  1. 2012/06/25(月) 22:36:31 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

Re:もういっそのこと

出戻りフォトグラファーさん
有難うございます。

そうですね、海千山千の工場長の下には、海のものとも山のものともつかない掴み所の無い工員さんが控えていますから、10年待てるお客さんに対して前金制であれば、充分、商業ベース行けますね♪

とまぁ冗談はさておき、川越って写真撮るにはイイとこですねぇ・・・
街並みは当然変わらないですが、毎週末、日本は云うに及ばず、世界中から色んなゲストがやって来て楽しんでますから、一緒になって遊んで、写真撮ってたら、それだけで楽園絵巻になりそうな気もします。

鮎の塩焼き、目の毒でしたか・・・あはは、ホントは3枚目のテーブルのカット、自分のゴーヂャスな鰻重セットも撮ってたんで、そっちにしようかかとも思ったんですが、スマホンでいつも撮ってるものをわざわざ稀少レンズで撮って乗っけるのもどうかなぁ?とか思い控えたんですわ。

8月過ぎたら、みんなで気楽に遊びに行きます♪
何せ、深川からなら東上線経由、片道500円くらいで行けますから、深大寺よりもまだ安いですしね。

まさに"お手軽小江戸"ともいうべき観光名所です(笑)
  1. 2012/06/25(月) 22:45:28 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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