深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Noctilux eater born in ancient Japan~Canon FL58mmf1.2mod.M uncoupled~

canon_FL58mm.jpg
さて、今宵のご紹介は、予告通り、工房作品からです。

この超大物レンズ、これまでじぇんじぇん人気が無く、1万円台前半で叩き売られていて、それでも誰も手に取って見ることすら皆無という不遇中の不遇の玉でした。

生まれは1964年、ちょうど東京でオリンピックが開かれる年の春先にこの巨大児は産声を上げたのです。
構成は5群7枚の変型オーピックタイプというより、ズマリット型の最後群を二枚に分割して曲率を下げたタイプです。

実は、このレンズ、何の前触れもなく、ぽっと生まれ出たワケではなく、遡ること1962年、日本が戦後の焼け野原から、高度成長期にシフトアップしていくさなかに、キャノフレックスRMR用の交換レンズとして、当時の世界で一番の大口径レンズとして発表されたのですが、価格的にもカメラ自体の性能、デザインからも商業的に成功したとは云えず、その後継機たるFLシリーズの眼としてリニュアルされたものです。

設計者は発表されていませんが、絞りを挟んだ凸凹、凹凸の組み合わせが、まさにレンジファインダ機用の玉で大口径ガウスの生まれつきの弱点である開放でのコマフレアを軽減する「伊藤理論」の適用を匂わせています。

では、何故、日本の光学史上に名を残してもおかしくないような銘玉がヂャンク同然の二束三文で叩きき売られていても、誰も見向きもしなかったのか?・・・

その理由は、そもそもCanon自体がFD以前のレンズを斬り捨てる格好になって、今のEOS系ではフランジバックの逆転のため、互換性なく、普通の人には使用出来ないこと。

そして、高性能を謳うプロ仕様の"赤鉢巻"レンズ以外は並品で、骨董的価値はおろか、描写性能的にも見るものがなく、従って、充分なメンテナンスも行われていなかったと考えられることから、手を出すには及ばないと思われていたこと。

更には、この58mmf1.2はレンズ後端、光学ブロック底部の構造が特殊で、マイクロフォーサーズやら、NEXマウント、Fuji-Xマウントといった、姥捨山在住の往年の銘レンズにとっての「蜘蛛の糸」的なミラーレス機とのマウントアダプタに装着出来なかったこと等々が挙げられます。

それを、或る日閃いて、FL⇒Mアダプタを造り、更にM⇒Xで撮ってみたら、アラびっくり!!となった次第。

まぁ、実際にこの時代のキャノン共通なのですが、全く色気の無い鏡胴デザインでこれが今でも通用する超高性能レンズだとは、小生も使ってみるまでは夢にも思いませんでした。

では、早速、実写結果見て参りましょう。ロケ地は深川から浅草、相棒のカメラはX-Pro1での全コマ開放、絞り優先AEでの撮影です。

FL58_01.jpg
まず一枚目のカットですが、工房から永代通りに出る住宅街にいつも路駐している大型バイクです。

ピンは車体右側後部に下がっている革製バッグの上側の一連のメタル鋲の真ん中付近です。

このサイズのカットではなかなか実感出来ませんが、JPEG吐き出しデータをノートPCで2倍拡大(全紙全倍よりまだ大きい!!)して見たところ、破綻無く解像していてビックリした次第です。

また、フレア発生源となり易い、白の光沢ペイントの燃料タンク近傍もフレアは殆ど認められません。

ただ、背景ボケの崩れがやや汚いのは、まさに「伊藤理論」を用いたレンジファインダ用の玉と似通っています。

これが同じCanonの大口径でもL35mmf1.5などで撮ろうものなら、結膜炎の眼で見た景色並みにフレアが酷く、工房主の好みであるシャープな画なんか撮れそうにないですから、やはり技術の進歩というべきなのでしょう。

FL58_02.jpg
二枚目のカットは浅草まで地下鉄乗り継ぎ移動して、雷門手前のリキシャ溜まりから今まさに出発しようといういたいけな小姐2名を乗っけた人力車を抜き打ち的に撮ったものです。

こういった突然のシャッターチァンスには、二重像合致式、ないしスプリットイメージのOVFの方がダントツ早いです。

しかし、この稀代の大口径ぢゃぢゃ馬レンズは被写界深度狭いため、EVFでも拡大無しでエイヤッとばかりにシャッター切ったら、この程度にはピンの合ったカットが撮れるということです。

尤もネタを明かせば、合焦程度については、クロップなどせずとも、手前の小姐の栗色の美髪の結像加減だけ見てシャッター押せば良いのですから、或る意味、マイクロプリズムに近い使い方かも知れません。

合焦点は勿論シャープですが、背景の崩れが大変なことになっていて、伴走機のEOS20Dに付いていた某関西系光学機器メーカーの50mmf1.4のボケの美しさとはたったf0.2の違いにも関わらず、まさに天地の差だなぁと思いました。

FL58_03.jpg
三枚目のカットは雷門付近で営業活動をしている車夫各位のお姿でも撮ろうと思っていたら、美目麗しい、年端もいかぬ小姐2名が手練手管の車夫の兄さんに捕まり、お世辞半分、営業トーク半分といったカンジのやりとりを嬌声上げながら盛大にやってたんで、これはきっと目立ちたがり屋さんの小姐達なんだろう!といたく共感し、一枚戴いたもの。

このカット、家に帰って、PCで拡大して見るまでは気が付かなかったのですが、こんなソフトなカンジですが、実は結構シャープに細部まで描写しているのです。

これまでカリカリの玉だけが忠実に情報を捉えているものだと思いがちでしたが、こういう表現の仕方をするレンズもあってしかりだな、と改めて、この往年の銘玉の凄さを実感した次第です。

FL58_04.jpg
四枚目のカットはまさに雷門の基部に腰掛け、みたらし団子なんぞ堪能ちぅの健気な極小姐の姿が目に留まったので、傍らの保護者の方と思われるご老人に「旨そうですなぁ、美味しそうに食べてるところを一枚撮らして下さいな、ブログのネタに」と申し入れたら快諾して頂き、撮らせて貰った必殺の一撃です。

或る意味、このカットがこのレンズの凄さというか底力を表しているのではないかと思いました。

最短距離での比較的反射率の高い幼児の肌・・・まさに光学系の内面反射、そして近距離での球面収差といったシャープさを阻害するような作用が噴出す条件なのですが、実はこれと似たようなカットを先に台北近くの瑞芳駅前の屋台の極小姐をN-FD50mmf1.2Lで以て同じくX-Pro1で撮っていますし、だいぶ前、深大寺で同じくローパスレスのM8にライカのかつての必殺兵器、いまぢゃタダの投資対象とも評されるNoctilux50mmf1.2(Ser.225XXXX)
付けて、やはり極小姐を最短付近で撮っていますが、どちらもこの浅草のX-Pro1+FL58mmf1.2で撮ったものには及びませんでした。

透明度、臨場感、どれをとっても、21世紀のコンピュータ産まれの最新レンズ達とも互角以上に戦えると思いました。

FL58_05.jpg
五枚目のカットは浅草寺境内の定点撮影スポットのうちのひとつ、おみくじ売り場での、微笑ましいカップルのおみくじ検討の図です。

ここでも、タングステン光源を浴びて輝く茶色の美髪でピンを合わせて撮っていますが、かなり強い人工光だったにも関わらず、f1.4以上の大口径玉での開放撮影にありがちなフレアが殆ど皆無です。

このくらいの距離だと背景の御籤抽斗もきれいな後ボケと化しています。

FL58_06.jpg
六枚目のカットは陽も暮れかけた浅草寺宝蔵門前であーだらうーだらとかなりハイトーンの関西弁で路上漫才みたいなことをやっていた健気なカップルがいたので、借景とばかりに一枚戴いたものです。

ピンは手前のカンカン帽の小姐の頭付近に合わせていますが、距離も結構あったので、f1.2の玉にしては、合焦点以外のボケも比較的マイルドで渦巻きも崩れ、歪みも殆どなく、一応、"教科書的な"スナップとして成立しています。

FL58_07.jpg
七枚目のカットは浅草の有名店、一見無口な某修理名人さんのお店の並びの洋食屋さんのこれまた素敵な飾り窓を斜め横から撮ってみたもの。

ピンは「ブイヤベース」の「ブイ」付近に合わせてありますが、手前の白文字のボケが紗が掛かったようで、結構魅力的に思えました。

が、道を挟んだ彼方の確か手拭屋さんだったかと思いますが、そのショーウインドは「恐怖新聞」か「漂流教室」のカット並みに崩れ、流れて被写界深度域の絵画的なエレガント差とは「天国と地獄」の様相を呈してしまいました。

FL58_08.jpg
八枚目のカットは、その某有名カメラ店から地下鉄駅方向に伸びる、仲見世と並行する道の様子を撮ったもの。

さすがにこういったシーンでは、高感度フィルムを詰めたNoctiluxやらNーFDのLレンズの方がこれまでも、すっきりした良い画を撮ってるので、この稀代の銘玉も一歩譲らざるを得ませんが、それでも、もし、内面反射の面で圧倒的に有利な銀塩の高感度フィルムを詰めたF-1Nにこのレンズが付いていて、単体露出計でしっかり露出合わせて、三脚使ってしっかりピントも合わせて撮ったらどうなっただろう・・・とも思いました。

歩きながら、背面液晶で道行く人々を見て適当なとこでピンを合わせシャッター切っていますから、これが実力ではないと信じたいです。

そこで今回の感想ですが、まさに国産の古レンズ、しかもこれまで無名、低評価だった層にもお宝が潜んでいるのでは・・・と確信するに至りました。

さて、来週のアップは通常ローテでいけば、秘宝館から何か出てくる筈ですが・・・乞うご期待。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2013/06/02(日) 20:32:39|
  2. Mマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

ああ、くやしい。

浅草国産中古名品レンズ撮り比べツアーに参加していれば自分のNEX-7でもこのFLを使えたものを。

それにしても見れば見るほど、現行プラスチックレンズより映りが良いのではないかと思ってしまいますね。

ただ、4~5枚目、と7~8枚目の様な写真がこのレンズには向いているように思いました。
2~3枚目辺りだと主題に対してボケがうるさいような気がしまして・・・。

大口径を生かして主題に思いきり接近してクロスレンジで撮影するのが得意なのかもしれませんね、このレンズ。
  1. 2013/06/04(火) 22:05:15 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:ああ、くやしい。

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。

でも、ホントは悔しがる必要は全くなかったのです。
何とならば、このところの会員各位の個人主義化で撮影会同調者は一名様しかおらず、しかも14時前には切り上げねばならない、ということで、それでは、ということで今回もヤメにして、家で例の大物レンズの加工をやってたという次第です(苦笑)

しかし、ホント、憎らしいくらいにこのレンズ良く写ります、しかも4枚目のカットが動かぬ証拠となっているように、大口径玉の本来の苦手である筈の最短距離付近で最大性能?を発揮してしまうという、天邪鬼的キャラのため、ますます、頭を使って撮ってやらないと神通力が発揮出来ないのです。

ところで、この国産大口径の盟主、当時の世界水準の遥か上を行っていたレンズを軽く打ち負かし、遂に研削非球面レンズの開発を決意させた原因となったとも言われている、某物故メーカーのf1.2をMマウントで装着しX-Pro1で撮影出来る準備が出来たので、当面は調整用に買った57mmf1.4で、かつてそのパートナーである関西系光学機器会社の58mmf1.4と味比べをして遊び、夏祭り本格シーズンの7月に入る前には、海外から良さげなf1.2の個体を曳いて来ようと思っています。

もし成田祇園祭ツアーに参加されるのであれば、国産の雄をつけたNEX対Xの対決なんて見ものが出来そうですね、これぞ東北の某大口径物故マニア?の方の良き供養となろうことでしょう(苦笑)
  1. 2013/06/04(火) 22:34:00 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

カメラ側の再現特性も多分にあるかもですが、キャノンらしい色気の多い描写だと思います。

ピント合致部分はかなり良い画像だと思います。そして白は滲まないように可也踏ん張っている優秀さも際立ってると思いますが、全体的には被写体エッジが甘いと思います。この辺りはデジカメラの任意設定で補えるでしょうね。
実際は58㎜という長焦点距離が受光版のハーフフレームには辛いのではないかと、いつもながら考えてしまいます。
ですから、今後現われるであろうフルサイズ・ミラーレスでは、58mmでしかもf1.2という深度の深さを画像制作に生かした新しい視座が脅威になり得ると思います。それはちょうど、今日のコシナ辺りの0.95レンズを彷彿させると思います。
そして、今では実用品価格ではなくなってしまった小西六60mmf1.2の後続品ともいえるかもしれませんね。今後の高騰が心配されます。


ノクチf1.2は、有難い事にモノクロで撮影させて頂きましたが、コントラストの良さとともに背景を分離しえるボケの荒々しさが今でも脳裏に焼き付いています。もっともこのレンズを振り回して使える時分では価格からすると無くなってしまったようで、それが残念ですね。(コシナ50mmf1.1辺りがその代わりに成るという所でしょうか…。)





  1. 2013/06/09(日) 23:42:57 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん

有難うございます。
そして、貴兄もこの兄弟をゲッチュされたそうで、おめでとうございます。

思うに、うちの50mmf1.1~f1.2はLキャノンとこれを除いて、皆、相場が性能を遥かに上回るという骨董品に成り下がってしまっていますから、気兼ねなく実用に使えるのは、これと、夏のお祭りシーズンまでに海外から一本曳いて来ようと思っている某社の絶版57mmf1.2だけというお寒い状況になってしまうかもしれませんね。

でも、某りんご畑の製品は確かにコスパフォは良いかもしれませんが、しょせんはコンピュータが設計した、なんちゃってクラシックレンズ、ましてや、外観だけ往年のレンズをパクッたようなあざとい製品まで大々的に出されて来たら、もうとても食指は動きようがありません。

あちこちのサイトでも喧しく云われてますが、海外から欧米品の高額品を曳いて来るのはは難しくなってきていますから、当面は国産絶版レンズからのお宝再発見を優先したいと考えています。
  1. 2013/06/13(木) 23:18:10 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

ここに使い方の答えが書いてあった○| ̄|_

Charley944さん
お疲れです。
FL55mm/1.2の使い方で悩んでいたらここに答えが書いてありました。
被写体に寄らなきゃいけませんわ。
次回こそはきっと。
  1. 2013/07/21(日) 18:46:18 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:ここに使い方の答えが書いてあった○| ̄|_

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
そうなんです。
このレンズ、どっちかというと3m以上で風景なんかちゃかちゃかっと撮るより、アンダー気味の光線加減で、人物を至近距離で撮るのに最適の玉だと思うんです。

そういった意味では、この使い方では、FLはハロも少なく、これがf1.2レンズの開放なの?とかモダンレンズ比肩し得るようなサプライズの画を吐き出しますが、全距離、全光線状況下でf1.2の開放とは思えない、それこそ太平洋のふちから或る日突然上がって来た、向かうところ敵無しの怪獣の化身みたいな描写性能を誇るさくら印の57mmf1.2の異常さ加減が改めて思い知らされるのですよ(^^;
  1. 2013/07/21(日) 19:47:12 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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