深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Nostalgia per la passione perduta~Carenar55mmf1.7 mod. M uncoupled~

carenar55mm.jpg
さて今宵のご紹介は、今は亡き国産の中小光学機器メーカー「PETRI」が1970年代に米国の流通業者向けに"CARENAR"でOEM供給した55mmf1.7のレンズをご紹介します。まぁ、秘宝館と工房作品の中間くらいの意味合いの記事とお考え下さい。

光学系の構成はオーソドックスな4群6枚のプラナータイプ、モノコートのオーソドックスな光学系です。
ただ、このレンズの特徴というか、後年にマーケッティング上の足かせとなったかと思われるレンズ側フランジのスピゴットマウントで、しかもフランジバックが43.5mmと故ミノルタSRマウントと同一の短さです。

実は工房主は小学校高学年から写真というかカメラいじりはやっているのですが、ペトリ製品を手に取ったのは、先のCarenar135mmf2.8のレンズが生まれて初めてで、ボディについては、このマウントアダプタを製造するために前橋の中古カメラ業者からヂャンクを曳いてくるまでは触ったことすら無かったのです。

何とならば、70年代に写真をやっていた方には思い当たるフシがおありと思いますが、ペトリは三流中の三流メーカーで、まともに写真やる人間が手を出すべき代物ではないと、物識り顔の写真マニアの大人達が常々口にしていたからです。要は「安物買いのゼニ失い」ということです。

確かに一生のうち何回買うか判らないカメラ、それもレンズ交換を前提とする一眼レフであれば、信頼性、発展性、そして、ブランド力を重視して買ってしかり、かも知れません。

かくいう工房主も、ニコン、キャノンは交換レンズ群が高くて手が出せなかったので、高校入学当時、出たばかりのPENTAX MEをパートナーに選び、ペトリなど眼中にもありませんでした。

しかし、会社勤めも長くなり、収入も安定し、そしてその一方、カメラ自体の値段も下がってくると、あれもこれも欲しくなってきて、その割には、一個一個を自分のものとして、先入観無く冷静にモノと向き合えるようになることから、Carenar135mmf2.8の望外の性能をきっかけとして、今回のペトリも客観的に観察しようという気になったのです。

また、ペトリはどこもMマウントのアダプタを作っておらず、デジタルでの実写例が無いことも今回のアダプタ製造の後押しになった次第です。

では、早速実写結果を見て参りましょう。カメラはX-Pro1での絞り優先AEによる全コマ開放撮影、ロケ地は浅草です。

Carenar55mm_001.jpg
まず一枚目のカットですが、お馴染み車夫さんシリーズ、「潮来の娘船頭」ならぬ「浅草の小姐車夫(婦?)」の交渉の図です。

いつも深川から浅草へ出るのには銀座線の地下鉄を使っているので、浅草寺最寄出口を上がると、いつも目の前に誰かしら車夫さんが控えているので、ご好意に甘えてモデルさんになって貰っている次第です。

ピンはEVFのクロップ拡大を駆使し、車夫小姐の眼に合わせていますが、それでも3m程度の距離であれば、車夫笠のふちまでは被写界深度に十分入っているようで、笠の黒い生地の細かい皺やテクスチャがあますところなく描写されています。

しかし、シャープさのお釣り?として背景はやや2線ボケ傾向です。

Carenar55mm_002.jpg
二枚目のカットは、ここも定番撮影スポットと化した、きび団子&甘酒のお店「あずま」さん店頭の図です。深大寺でかなり眉目秀麗な小姐を目にするせいか、以前ほど新鮮な感激はありませんが、やはり和服姿のいたいけな小姐達が健気にお店を切り盛りするさまは、観光地としてはやはり王道的撮影スポットであることは疑いようがないでしょう。

ピンは奥側の紺の和服のちょいエキゾチックな雰囲気の小姐のご尊顔に合わせていますが、当然写り込むであろう、手前の甘酒売りの小姐の顔はかなりマイルドな前ボケと化し、2線ボケも荒々しい後ボケとは対照的です。

またKOWAの玉ほどではないにせよ、タングステン光と午後の太陽光のミックスという、かなり難しい光線加減にも関わらず、お年頃の小姐の肌を柔らかくもリアルに描写していると思います。

Carenar55mm_003.jpg
三枚目のカットは、その「あずま」さんの店頭の反対というか、仲見世を横切る東西通路を挟んだ並びのペット洋品店の店頭で物欲しそうにショーウィンドを眺めていた、いたいけな小々姐の図です。

このカット、多感な小々姐の全身で表現される物欲しさとか、じれったさとか云ったゼスチャも面白いのですが、写真的には、赤系統の色バランス、そして何よりも、背負子の細かいチェック模様が余すところなく描写されているのです。これが国産で最底辺とも云われることもあったカメラの「眼」とは到底思えませんでした。

Carenar55mm_004.jpg
四枚目のカットですが、獲物を求めて仲見世を虎視眈々と睥睨しながら徘徊していたら、オモニに背負われながらもしきりに天空を凝視するいたいけな極小姐が居たので、オモニが店頭の売り口上に気を取られているスキに一枚戴いちゃったもの。

ピンはいたいけな極小姐の唇辺りに合わせていますが、ここでも幼子の肌の質感描写、そしてほぼ同一焦点面に有ると思われるピンクの可愛い帽子側面の細かいメッシュが見事描かれています。この柔らかな人肌の表現と顕微鏡並みに細かいデテールを捉えてしまう、こういった二律背反を知らっとやってのけてしまうところがこのレンズの凄いところではないかと思いました。

なお、背景のボケは光源が幾つか写り込んでおり、2線ボケと共に若干の口径食が認められます。

Carenar55mm_005.jpg
五枚目のカットですが、仲見世を通り抜け、宝蔵門から境内に足を踏み入れ、ここでも定点観測スポットである手押し井戸までやって来たら、健気な水汲み極小姐が居たので、「ハ~ィ、写真撮るから覚悟してね♪」とか冗談っぽく声掛けてみたら、急に表情が硬くなり、こんなカンジでとりあえずはポーズだけ取ってくれたもの。

ここでもピンはいたいけな極小姐のご尊顔にピンを合わせていますが、肌や衣装の質感描写は大したものです。
決してカリカリではないものの、フレアで以て解像力の低さを誤魔化すでもない、即ち、余計なものを足しもしない、必要な情報を引きもしない、かなり心地好い忠実な描写がそこにありました。

care<br />nar55mm_006.jpg
六枚目のカットですが、境内で一家の観光写真を楽しんでおられるアメリカからの観光客が居たので、声を掛けて、一家の集合写真を撮って上げる代わりに、娘さんをモデルに供出して貰ったもの。

ピンは向かって左の小姐の眼に合わせていますが、ここでもカリカリではないのに、お二方のご尊顔をかなり繊細に、それこそ表情筋の様子まで描いていますし、光線状態も曇天の空を背負った位置での撮影だったにも関わらず、ブロンズのしなやかな髪の艶かしさを余すところ無く描写しきっています。

CArenar55mm_007.jpg
七枚目のカットですが、こちらも米国から観光に来たというお二方をご焼香場でキャッチし、モデルになってよ♪とお願いし、"Really? With pleasure!!"と快諾戴いて本堂をバックに撮らせて戴いたもの。

このカットでは向かって右手の小姐のサングラスの玉にピンを合わせていますが、光線状態も良いこともあって、EVFでの合焦精度が更に高まったらしく、先の小姐姉妹のカットよりも更にクリアでリアルな肌描写です。

しかし・・・背景は凄いことになっています、あたかも田舎の正月のどんど焼で熱気と共にお焚き上げされた御札や用済み縁起物が煙の中を舞っているかのようにも見えました。

Carenar55mm_008.jpg
八枚目のカットですが、宝蔵門の下でお互いのスマホンで撮りっこしていた小姐2人組が居たので、ついつい余計なお世話かと思いながらもシャッター押したろか?と声を掛けて、そのついでにポーズ決めて貰ったところを撮ったもの。

ピンは便宜上、左の小姐の眼で合わせていますが、きちんと並んで必殺ポーズ決めてくれたおかげで、右側の小姐の愛くるしいご尊顔もきちんとピンが来て描写されています。

また、距離の関係か、後ボケも比較的マイルドに描かれていると思いました。

しかし・・・関西の小姐は面白いですね♪ 幾ら名だたる観光地とはいえ、このノリ、このポーズですから。改めて関西文化圏の底力を思い知らされた次第です。

もし、このブログ読んでたら、Yahoo!辺りの捨てメールでも一向に構わないので、連絡下さいね、この写真のファイルを記念に送って上げますから。

今回の感想としては、う~ん、やはり日本の産業の底力は凄まじい。1970年代、こんな、誰にも見向きもされなかった絶版メーカーの玉が幾ら最新ミラーレスの力を借りたとは云え、ここまでやってのけてしまうのですから・・・

さて、来週は、ふと気まぐれに訪れた深大寺の初夏の風景をお届け致します。乞うご期待!!
  1. 2013/06/29(土) 21:28:05|
  2. Mマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:7
<<初夏開運☆深大寺蕎麦喰い隊'13 | ホーム | Cost performer reborn in 2013~Tokina SZ-X200 mod.N/EF~>>

コメント

今回のレンズは大らかさのある描写が良いです。
写真が「楽しい」という時代を思い起こさせ、汗癖と知らぬ間に唱えていた「作品をつくろう」ということと無縁の頃を思い出させていただきました。

かつて、小学生か中学生の頃一眼レフにあこがれた時、都内は大崎広小路駅という私鉄沿線の駅前ガード下の小さなカメラ屋さん(光美堂?)にはペトリV6-llが鎮座していました。ボデーフロントにシャッターがあり、光沢の強いメッキの大柄ボデーはその頃でもクラシカルにも見えた記憶があります。

よく同級生と眺めあっていた記憶があります。

(しかしながら、結局わたしはせっかく購入した旭光学製・中古のS2が使いきれないまま、無くしたご本尊TRIP35の代わりに、友人からマンガ雑誌等で販売されていた今でいうところのトイカメラを借りたりして都合を付けていました。)

でもこれだけの描写があれば落胆はしないハズでしょう。

コントラストが低い利点を生かせば、淡い色彩に彩られた暖かな街の生活感が再現されるようです。
世知辛い現代の生活から、一瞬のあいだ逃避させてくれて、子供の頃の夢を叶えてくれるかのような想いがします。
  1. 2013/07/01(月) 21:29:27 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

いいね。
  1. 2013/07/02(火) 15:53:15 |
  2. URL |
  3. 目深帽子男 #-
  4. [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2013/07/02(火) 18:09:26 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。

深大寺でもI大先生とお話しをしましたが、ミラーレスという画期的なイメージキャプチャのデバイスは、これまでの写真に於けるレンズの役割を革命的に変える可能性が有る、ということです。

要は、銀塩でのOVFないし目測による距離合わせでは、完全にピントが合っていなくともその画像の再生される大きさ(=拡大率)に対する許容誤差、即ち人間の眼で識別出来る範囲の合焦精度を「被写界深度」と呼び実用としていたのですが、デジタルになって、フィルム自体の巻きグセや中弛み、そして圧板やフィルムレールの精度など関係なく、本来は光線の収束は一点なので、EVFのクロップ拡大等により、そこに限りなく近くピントを合わせられるようになったことから、レンズ単体での限界性能が楽しめるようになったのだと。

I大先生はミラーレス、特にミラーレスのひとつの究極とも思われるLeica M(Tipo240)を入手されてから開放でしか撮らなくなってしまった・・・とかぼやいておられましたし。

そういった意味では、これからも国産レンズの真の実力は次々とヴェールを縫いでいくのではないかと考えます。

次はミランダか、それともトプコンエクザクタか・・・夢は果てしなく拡がります。
  1. 2013/07/04(木) 23:32:42 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

目深帽子男さま
有難うございます。
宜しかったら、またいつでも拙サイトまで遊びに来てやって下さい。
  1. 2013/07/04(木) 23:34:20 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

ミラーレス一眼がすごいのか、オールドジャパンレンズがすごいのか。

ここのところCharley944さんの記事を拝見して、プラットフォームとしてのミラーレス一眼の許容力の広さがすごいのか、オールドジャパンレンズのパワーがすごいのか迷うところです。

今回のセレナーも一昔前なら知る人ぞ知る、的な存在だったと思うのですが、こうして作例を見ると元寇ヒントそんなにそん色ない仕上がりになりますからねえ。
AF機能を割り切ってキットレンズのみに使用するのであれば、マウントアダプターを買ってきて、往年の名レンズを装着して撮影する方が、ミラーレスの場合は楽しいのかもしれませんねえ。
  1. 2013/07/06(土) 16:10:55 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:ミラーレス一眼がすごいのか、オールドジャパンレンズがすごいのか。

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
こちらのレス書き込む前に翌週分のコメント書いて戴いてしまったので、何やら申し訳ない気もしまして・・・笑
さて、掲題の問い掛けですが、小生はこう思います。
元々凄い性能を持っていたのに、銀塩時代のカメラシステムではその理論適限界値まで発揮し切っていなかったと。
要はPETRIで云えば、高性能スポーツカー並のハイパワーエンジンを軽自動車に乗っけていたようなもんです。
幾らエンジンが高性能でも、シャシや操作系のバランスが取れていないので宝の持ち腐れですよね。
また言い方を変えれば、今まで眠りに就いていた銘玉の高性能を引き出し、開放するミラーレスのボディは、古来中国の汗血馬を見出した名伯楽の立場にも似ているのでは、と思った次第です。
  1. 2013/07/08(月) 22:25:51 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://pwfukagawa.blog98.fc2.com/tb.php/329-b214ffd0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる