深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Arri_Kinoptik5cmF2改L39

kinoptik.jpg
だいぶ長いこと、業務多忙やら、GWのバカンスやらで更新サボってて、愛読者各位に寂しくも、退屈な思いをさせてしまった罪滅ぼし?にまた超弩級レンズのご紹介。

今回は、シネレンズのあらゆるマウントの中でも一番通好み?で、しかもArriマウントでは、32mmより長い焦点距離のものは滅多に市場に出ず、ましてや5cmのものはレア度で言えばNo.1とも言えるArri_Kinoptik 5cmF2を当工房にて距離計連動のL39に改造したものをお披露目です。

このレンズはフランスのKinoptik Paris社がモーションキャプチャカメラであるArriflex用に製造したもので、おそらく60年代後半から70年初頭に作られたものと推定されます。

銘板には、誇らしげに"APOCHROMAT"の刻印が見えます。

これは、何度もご紹介してはいますが、要は通常の銀塩スティル用レンズが赤・青波長域での色収差補正のみに留まっているのに対し、このレンズは可視光スペクトルの中心に位置する黄色~淡黄緑域までの光も同一焦点面に結像させる性能を持っていることを示しています。

ガラスは当時まだマルチコートの技術が無かったため、モノコートではありますが、各エレメントとも、かなり透過度の高いクリアな硝質を使っているらしく、斜めから見ても、レンズ内部が透き通った北国の鍾乳洞の湖の如く見通せますし、また外観は入念な造型と緻密な黒の焼付塗装が否が応にも高級感を醸し出してくれます。

で、肝心の写りはというと、これがキネプラナーやら、スピードパンクロ、キネクセノン、キネヘリゴンやら、まさに怪物級のレンズと較べるからイケナイのかも知れませんが、まぁ、柔らかく情感に溢れた描写をするのですが、逆光に極端に弱く、空でも画面に入ろうものなら、不恰好なフレアが盛大に写り込むわ、またオフフォーカス部の点光源などヘンな崩れ方をしたりして、お値段からすると、んんん?と思ってしまうことも暫し・・・

でもまぁ、往年の銀幕を支えたパリ製の銘機を我が物として、いつでも好きな時にヘッポコアマチュアカメラマンのたわいない街撮りにもイヤな顔ひとつせず付き合ってくれるのですから、こんな贅沢なことはないのかも知れません。
kinoptik01.jpg

これはこのキノプティック50mmf2改L39をLeicaM4ODに付け、神楽坂でスナップした時の作例です。

このフィルムでは、不用意にフレアが移りこんでいたコマが結構ありましたが、不思議とこの反射率の高い、白の被写体をモチーフにしたカットでは、開放にも関わらず、陶甕の上、首部分の漆黒のと胴体の化粧土の白、そして飾り紐の赤が艶やかに映しこまれています。
前ボケも後ボケも素直に溶けるが如く滲んでいって、とても優しい画作りとなっています。

なお、残念ながら、この中華のお店は神楽坂界隈の再開発のため、今はもうありません。

kinoptik2.jpg
続いてこの作例は同じく神楽坂の裏通りを徘徊していてたまたま見つけたフランス風のカフェの軒先に柑橘系の実がぽつねんとなっていたので、背景のボケを見るため、至近距離で撮影してみました。
ところが、およそ最短距離で捉えた柑橘系の実は柚子肌から葉の葉脈まで繊細に再現しているのですが、バックがいけません。
建物や什器類は二線気味になるし、豆球は心霊写真の人魂か、狐火みたいに不気味に崩れるし、こういうモチーフは不得意なのだろうか、とも思った次第です。

う~ん、こうして作例の解説を書いていたら、結構イイレンズなんぢゃないかなぁ・・・と見直すことしかり。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/05/11(日) 00:07:15|
  2. Arri改造レンズ群
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

以前から電子湾でしばしば登場しますが、高価過ぎてまったく落札できないレンズです。
拝読するに、もしムリに落札にいったらがっくりだったかもしれません。
ドイツのシネレンズ群が性能を追求していったのに対して、キノプティックは写したいものだけが写ればいい、それ以外はむしろ写らない方がいいという、設計思想があったのかもと想像します。
60年代のヨーロッパ映画であれば、そういうレンズこそが求められたという気がしてしまうので…。

それはともかくですが、レンズ構成はやはりダブルガウスなのでしょうか。
40mmくらいですとまだ周辺は怪しいですが、このレンズはどうでしょう。
はやり発色は、特徴がありそうですね。
  1. 2008/05/12(月) 23:15:54 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

かなり評価が悪そうですね。50mmは持っていませんが75mm、300mmを持っていますが、charley944さんのものとかなり写りが違うように思えます。
あとシネ用のレンズとスチル用のレンズでボケ具合が違うと感じられ。スチル用の方がかなり描写は良いという判断をしています。
逆光に極端に弱くは無く、点光源も仰るように変な崩れ方はしませんよ。
昔某カメラの社長さんが、キノプテックのアポクロマートのレンズの性能を検査して.こんな優秀なレンズはなかなか無いよと評価もされていました。
  1. 2008/05/12(月) 23:28:31 |
  2. URL |
  3. ジオグラフィック #JalddpaA
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
早速のコメント有難うございます。
確かに性能重視のドイツのArriレンズ群に対し、"感性"で売ろうとしていたというカンジなきにしもあらずです。
先般の写真展のポートフォリオ集で最後の2枚をご覧頂いていたと思いますが、神楽坂のフレンチレストランのテラスの柑橘系の実を大写しにして背景を
ぼかしたカットでは、見事にバックの豆球の点光源が崩れてましたからね・・・でも、あれはあれで神楽坂がパリの香りを纏ったようで、それなりの出来だったとは思いますが・・・
それでも周辺は意外としっかりしていて、謹厳実直さがウリのCine-Xenon50mmf2のものとイイ勝負くらいだと思います。

ジオグラフィックさん
こんばんは。コメント有難うございます。
まぁ、けちょんけちょんには言ってみましたが、何せ、所有のシネレンズの中ではたぶん設計も製造も一番古いものでしょうし、こういう経年劣化に晒されたレンズをフードなしで日中使うこと自体がルール違反でしょうから、まぁ、良しとしています。
だいたいにおいて、較べる相手が性能重視のドイツのシネレンズなので、Sマイクロニッコールを頂点としたシャープでクセの少ない玉が好みの小生だと採点が厳しくなってしまうのかも知れません、お値段もお値段だったですし・・・当時、一番性能良いと思ったCooke Speedpanchro50mmF2の約2倍でしたから(笑)

いずれにせよ、今度、お会いする時には作例をお見せ致しますので、ご感想を承りたく。
  1. 2008/05/13(火) 00:17:00 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

シネレンズでも、こんな長玉があるんですね。はじめてみました。
仏モノは、やはり形而上の描写がお得意のようですね。
勉強させていただきました。
  1. 2008/05/13(火) 11:14:22 |
  2. URL |
  3. ファジー #UXr/yv2Y
  4. [ 編集]

シネレンズは1950年後まではテーラホブソンやクックが主流ですからドイツの他のレンズもそんなに使われていないのではその後アメリカはブッシュアンドロンブが主流になりフランスはアンジェニューが主流となったようです。
シネの中でもレンズとしての評価はキノプテックとアストロはひとつ上のレンズなので価格的にも高いのです。後アポクロマート系のレンズはレンズをバラスと性能が失われるものが多いようです。
絶対に触るなといわれたことがあります。
劣化だけでなくレンズをいらわれていたら性能は出ないものもあります。
  1. 2008/05/13(火) 12:30:13 |
  2. URL |
  3. ジオグラフィック #JalddpaA
  4. [ 編集]

ファジーさん
有難うございます。
このレンズ、確かに数値上の性能とはまた違った描写で人を魅惑するのだと思ってます・・・でも、コストパフォーマンス(趣味の世界に相容れるかどうか?)では、はっきり申し上げて、値段が3分の1以下のキネクセノンの方が上手だと思います。

ジオグラフィックさん
レス有難うございます。
シネレンズとは言っても、このArriflex用に関しては、元々、ドイツのArnold und Richter社が戦中の1930年代中頃に開発した機材だけあって、ドイツのレンズが中心で、少なくとも単焦点玉では70年代までは、今やデフォルトになってしまったZEISSや、Scneider Kreuznach、そしてごく僅かに受注生産ですが、Rodenstockがキネヘリゴンなど作っています。他のマウントはいざ知らず、このマウントでは、Astro-Berlinは製造数が少ないらしく、レアですね。
また他国産では、元々シネ用との触れ込みのケルン社のSwitarや、英国製のSuper-SixなどはArri-Mountのものは見たことが有りませんし、ボシュロム製のもの(Balter?)よりは、コダックのキネエクターの方が良く見かけます。
勿論、一時は、このフォーマットでZEISSと覇権を競った英Rank Taylor Hobsonの Cooke Speedpanchroや、Cooke Kinetalなどは、数もそこそこあって、今だ、モーションピクチャを撮るプロ、ハイアマチュアにも人気のようですね。

一方、Arriflexのズームレンズでは、ZEISSも実質上Arriデフォルトなので当然よく出ていますが、貴兄もおっしゃるようにAngeniuexも人気がありますね。

翻って、当方の個体は、素人分解の跡もないし、ぶつけた跡もなく、当然、他のArriレンズ同等の精度で改造していますから、経年劣化、或いは設計の古さのためか、比較的、設計・製造の新しい他のArri改造レンズ達から見れば見劣りがしてしまうということです。
しかし、なにぶんにもお値段が高いので、骨董的プレミアムなのかなと思った次第です。(何よりも根がケチなので、安くて良く写るCine-Xenonとか、Cine-Planarを重用しがちです・・・^_^;)

因みに周りの写真関連の仲間内でKinoptikに関して、意見を聞いてみても、実性能よりも希少性とか、イメージで値段が高いのでは、という声が多いですね。
ことによると、今残っている個体はバラツキが大きいのかも知れませんよ。
  1. 2008/05/13(火) 16:23:54 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

charley944 さん 私自身がアリフレックスで話をしていませんでした、すいません。
レンズ主体で話をしてしまうので、申し訳ないです。
キノプテックは、charley944 さんが仰るように結構多くのサイトであまりよい評価を得ていないのです。
charley944 さんがご評価している映像を見ないと
個人の好みもあるのでここではなんともいえませんが、私は数本のアポクロマートのレンズを評価しているので、「そんな評価なの?」と疑問に思ってしまったのです。
評価が低いサイトの映像を見ていると、これキノプテック?違うよと思ってしまう映像が多々あります。
ただ1つのレンズでそれをすべて評価してしまうのがあまりにも無謀だと思ってしまうんですよ。(性格的に(笑))
キノプテックはアルパでコレクターにプレミアムが付いてしまったのが高額になっていますが、新品のレンズでも高額なんですよ。
  1. 2008/05/13(火) 19:35:20 |
  2. URL |
  3. ジオグラフィック #JalddpaA
  4. [ 編集]

ジオグラフィックさん
たびたび有難うございます。
>私自身がアリフレックスで話をしていませんでした、すいません。
>レンズ主体で話をしてしまうので、申し訳ないです。
いえいえ、こちらも、エクレール、アートン、ボレックス等々数あるモーションピクチャシステムの中でのArriflexなのに、日頃からあたかもこれが全てのシネレンズを代表するかの如き書き方をして混乱を生じさせてしまったらしいので、却って申し訳なかったと思っています。

因みにArriflex35用のレンズは基本的に全てApochromatなので、その条件で較べてしまうと、やはり、設計と製造が新しいSpeedpanchroやら、Cine-Heligon、Cine-Planarに軍配が上がってしまうのです、まぁ、貴兄も仰る通り、個人的な趣味、好みの要素が多分にあろうかと思いますが・・・
まぁ、サンプル画像を近日中に何点か載せますんで、ご覧下さい。(撮影の上手い、ヘタはさておき・・・笑)

そうそう、この会社のレンズが新品でも高価なハナシはたまに遊びに行く、浅草の某名人店のおやじさんも言ってましたが、「新品で100mmのマクロレンズでユニバーサルマウントのSLR用も頼めるが、軽く3000ドルは取られるよ」ってことでした。まぁ、新品のArriflex用のZEISS社製のMASTER PRIMEシリーズでしたら、50mmF1.0もので軽く10000ドルはするでしょうが(爆)
  1. 2008/05/13(火) 21:56:07 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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