深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Proprio come il sole sul centro di~Petri V6 schwarz mit Petri55mm f1.8 tuned by FGW~

PetriV6a.jpg
さて、今宵のご紹介は予告通り、久々に工房附設秘宝館からのご紹介となります。
モノはPetriV6黒、1965年産まれの悲運の銘機です。

このPetriV6は日本で二番目に古い写真機メーカー栗林製作所が1962年に輸出向けを考慮し、旧約聖書の聖人ペトロから採ったPetri Cameraに屋号を変更し、その3年後に大衆向けの普及を狙い、当時の最高峰であった、Nikon Fの半値以下の価格設定とオリジナリティ溢れた個性的なメカで登場したのですが、あいにく、カメラは耐久消費財、高級品であり、豊かさの象徴とも考えられたことから、販売面では全く振るわず、この後、上級機種である、FTシリーズなども登場させますが、競合他社との販売競争にあえなく破れ、また労働争議により会社の経営も機能不全に陥り、1977年に倒産してしまいました。

工房主にも思い当たるフシがあって、カメラ自体は小学生になってからキャノネットQL17を愛用し、また自動絞りが不調であったとは云え、ヲヤヂのNikon Fが手許にあり、地元の高校で写真部に入った時にも、色々と悩んだ末、結局はスペックと会社のブランドで無難なものを選び、Pentax MEを買いました。

その際、まだPetriは現役で製品が店頭に並んでいましたが、概してその評判は「安かろう悪かろうのゲテモノ」扱いで廻りの訳知り顔の大人達は誰も勧めず、使っている人を見たこともありませんでした。

それから長じて、カメラ道楽が悪化の一途を辿りながらも、こうした経緯から、この会社の製品だけは手を出す対象からは外れていたのです。

ところが、今年の春先、Carenar135mmf2.8というかなりキレイな玉が新宿某所で1050円で叩き売られていて、面白半分に買って帰り、潮来の菖蒲祭で実写テストしたらば、現行のメーカー品と同等以上の写りをすることが判り、どこの会社の製品か調べるうちに、今まで冷淡な扱いをしてきたPetri Cameraの製品だと判り、次いでCarenar銘の50mmf1.8を買い求め、Petri V6不動品からマウントアダプタを作り、X-Pro1で実写したところ、これも想定外の素晴らしい写りだったので、この会社の製品に急に興味を持つに到った次第です。

或るサイトでこんな言い表し方をしていました、「Nikon Canonがアイドルなら、Petriは身の回りに居る、器量良しで気立ての良い庶民的な娘さん・・・」まさに何処にでもいて、写真を通じ、周りの名もなき人々に小さな幸せを分けて上げるような下町の太陽のような存在ではなかったかと思いました。

尤も、会社の経営方針というか販売戦略は時流に合わず倒産の憂き目を見ましたが、その大衆化という慧眼は間違ってはおらず、後にキャノンがAE-1で性能と低価格を両立させ、高級品から、何処のサラリーマン家庭、いや大学生でも頑張れば買える値段まで引き下げ、一気に普及を果たしたのです。

この珍しいオリジナル黒の個体は、或る光学機器メーカーの技術者の方の個人コレクションを譲り受け、深川で2個イチ修理を行い、レンズも新宿や秋葉原の中古店で買った3本からイイトコ取りして組んだものです。

そんなクラフトマンシップと物語に溢れた漆黒の銘機が紡ぎ出した、夏祭りのひと時の思い出、順を追って見て参りましょう。深川八幡の陰祭をEKTAR100EX36の開放で撮っています。

PetriV6_001.jpg
まず一枚目のカットですが、木場交差点の近くで下木場の社中が太鼓の点検を兼ねて童子達に練習みたいなことをさせていたので、ちょいとゴメンなさいよ♪てなカンジで声掛けながら近寄り、ハィ撮るよぉ!とか云ってシャッター切ったもの。

お昼前とは言え、かなり直射日光は強く、現にオーバー露光には滅法強いEktar100でもオントラストが下がりすぎてしまったので、フロンテアCDの画像をソフトで露光レベルを10%程度落としましたが、それでもフレアもゴーストも認められず、ここまで精緻に質感を捉えているのは驚き以外の何物でもありませんでした。
ピーカンの下、ケースにも入れず、キャップも無しでカメラを持ち歩いていましたが、替えたばかりのモルトとテレンプは性能を十二分イ発揮し、光線漏れも一切無かったです。

PetriV6_002.jpg
二枚目のカットは木場交差点から門仲交差点方向に歩いて行くと、ちょうど富ヶ岡八幡宮の門前で、太鼓屋台みたいなものを組んでいる一行が目に留まり、その中で祭の法被装束の美少姐が二名居たので、いつものタイムスクープハンター並みの特殊交渉術を駆使し、モデルさんになって貰ったものです。

まだ一本も撮っておらず、果たしてまともに写るのかどうかすら定かでないのに、こんなラッキーチャンスを使うのは大博打も同然ですが、この漆黒の銘機は期待を裏切らず、この下町のミニ太陽の小姐達の可憐な姿を余すとこなく捉えてくれたのでした。

PetriV6_003.jpg
三枚目のカットは成田山新勝寺別院、通称深川不動尊の参道に在る名物「象の置物」のお祭りバージョンの図です。
普段は、「撮影お断り」「撮影禁止」と物々しく貼り紙が貼られまくっていて、またお店の人間もヒマで仕方ないのか、商売そっちのけで無断撮影の輩を店内から見張っているのですが、「本日は猛暑休業」の貼り紙を店頭に貼ったまま、象さんの方は好きにしてくれと云わんばかりに、物々しい貼り紙は取り外してあったので、遠慮なく一枚戴いたもの。
ここでも盛夏の強い陽光を浴び、かなりの照り返しでしたが、見苦しいゴーストもフレアもなく、素晴らしい描写性能を発揮していると思いました。

PetriV6_004.jpg
四枚目のカットは久々に「辰巳新道」まで足を運び、手前い写っているヲヂさんに声を掛け、陰祭とは云え、思い思いにこの通りの住人が晴れがましいお祭りの仕度をしているところを撮らせて貰ったものです。
ここでは青いシャツのヲヂさんにピンを合わせていますが、この狭い通りの奥まで、それほどキツくはないボケで
捉えられていると思いました。
しかし、オーバー気味の露光でコントラストは低めなのに、シャツの青、その背後のドアの茶、そして看板の赤を見ると、まぎれもなくEktar100での撮影であることを思い起こさせてくれます。

PetriV6_005.jpg
五枚目のカットは門仲交差点付近で子供神輿の一行に遭遇したので、即座に世話役の大人を見つけ、話しを付けて同伴撮影させて貰う許しを得て一緒に移動しながら、永代通りの一本南の裏道に入ったところで前に出て一枚撮ったものです。
裏通りとは云え、太陽は天頂付近から強い陽光を射しかけてきていますので、明暗の差が大きくなります。
手前の小々姐を狙って撮ったのですが歩く速度が思いのほか速く、ちょっと前ピン加減ではありますが、それでも光線の加減で輪郭が際立ち、周囲から浮いたかのように見えるのは、このレンズとEktar100の相性の為せる技ではないでしょうか。
PetriV6_006.jpg
六枚目のカットは子供神輿の一行が小休止し、太鼓に取り付いているところを頼んで撮らせて貰ったもの。
実のところ、初めは妹さんの方は台上で太鼓を叩くのに夢中で、お姉ちゃんに声掛けて、さぁ撮るよ♪とか掛け声掛けても、こっちを向く気配無かったので、お姉ちゃんが、「ほら、写真撮ってくれるって云ってるでしょ、こっち向きなさい」と大きな声で叱り付けて、振り向きざまに撮ったものなのです。
あまり声が大きかったので、周りのみんなの注目浴びて、実は撮ってる方もこっ恥しかったです。

PetriV6_007.jpg
七枚目のカットは実はフィルム最後のカットで子供神輿の一行に別れを告げ、その後ろ姿を送りざまに撮ったもの。
光線的には太陽を背中に背負っている格好なのでベストな条件だったと思います。
ただ、最高速が公称1/500秒までしかないV6のことなので、いかに幕速を限りなく1/500秒近く迄調整したところで、露光オーバーなのには変わりなく、そんなハンデのもと、このようなシネレンズばりのシャープでクリアで臨場感溢れたカットを撮れたというのは、当時とはフィルムの性能が桁違いに良くなっていることもありますが、やはり、カメラとレンズの基本性能の高さに拠るところが大きいのではないでしょうか。

数年前までは、とにかくカメラとレンズは一流と言われるもの以外は写りがダメだ・・・と思い込まされていましたが、或る日、欧州の片田舎から里帰りして来た"老貴婦人"Sun Sophia5cmf2が教えてくれたのです。「国産の名もないメーカーでも良い写りをするものは必ず有ります、ブランドイメージだけで描写を判断しないで!!」と。

今回の感想としては、まさにこの隠れ銘機は、心尽くしのレストアに対し、素晴らしい描写で以て恩義を返してくれました。工房主のアリフレックス用の玉から始まった「埋もれた宝玉探し」の旅はまだまだ続きそうです。

さて、来週は富ヶ岡八幡の夏祭りのR-D1sによる決死の撮影行からお送り致します。乞うご期待。
  1. 2013/08/11(日) 21:00:00|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

ブランドネームだけで判断しちゃいけませんやね。

Charley944さん
お疲れです。
昨日の炎天下の中、強行撮影大変だったでしょうに。これだけの光量ですから暑さも相当なものだったでしょう。

しかも例によって要潤ばりの特殊交渉術を使用されるとは。
その内神輿担ぐ視点のカットも出てきそうな気がします。

さて、今回は二枚目のカットが文句なくベストショットじゃないでしょうか。
ピントも全体に来ていてぼやけておらず、女性の表情もくっきりと映し出してますね。向かって左側の女性は、テレビに出てくるタレントさんよりきれいなんじゃないですかねえ。
次点が6枚目なんですが、これもしかしてお姉ちゃんの声に驚いて微妙に視点がずれたのでしょうか。
妹さんの方が微妙にピントが来てないように見えます。お姉ちゃんの方はきっちり来ているので、意外に1.8級でもピント薄いのかもしれませんね。

それにしても前回の55mm/1.4と言い、この前のカレナーと言い、侮れないですねペトリも。

自分も今週はM42マウントのオートタクマー55mm/1.8を使ったのですが、驚きの映りにビックリでした。ブランドネームだけで考えずにまずは使って撮って見て、それから判断した方が良さそうですね。
ただ、ちゃんと使うなら古いレンズの場合関東カメラサービス辺りでのメンテナンスは必須になるかもしれませんが。

この記事見て、Kipon辺りが調子こいてPetri→Eマウントアダプターを作ることを祈願しときます(笑)
  1. 2013/08/11(日) 22:29:17 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:ブランドネームだけで判断しちゃいけませんやね。

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
確かにこの日は、朝方からどーしようもなく暑く、撮ってる方はガマン出来なくなっちゃったら、何処か涼しいところへ避難すればイイんですが、演ってる方はそうはいかないですからねぇ・・・

そりゃそーと、確かに二枚目のカット、最初は向かって右の小姐が目に付いて、交渉を始めたのですが、途中からこのAKBとかSuper☆Girlsくらいなら何処ぞのチームでキャプテン張れるくらいの眉目秀麗な、この小姐がやって来て、ぢゃ一緒なら青春の佳き思ひ出ですわなぁ・・・とかこじつけ、こんなヒトコマとなったワケです。

それにしても、開放値f1.8でシャッター速度1/500が上限であれば、デジタルなら、真っ白けで画像処理ソフトの力を借りても、本来のカラーバランスを再現するのは至難の業だと思いますが、さすが、オーバーに滅法強いEktar100、情報量の少ないフロンテアCDでも、画像処理ソフトでほんのちょいと露光を下げてやれば、ほらこの通り、鑑賞に堪え得る画の出来上がりってとこなのでしょう。

まぁ、デジタルでは解像力とかカラーバランスとか絶対性能を見るには良いですが、フィルムはその持ち前の鷹揚さで、レンズ、カメラにとっては酷な撮影状況でもキチンと画作りさせてくれるってことなんでしょう。

それにしてもOMズイコー、タクマーとまさに当工房とは相互補完みたいに古いレンズを精力的に発掘されますね、だんだんと往年の性能の真相が明らかにされるようで興味深いです。

それから、中華思想の自己ちゅーメーカーが希望の製品を出すのを待つより、オーダーメードで安く作っちゃうことを考えた方が現実的かもしれませんよ(笑) 例えば、旋盤加工見習い中?の久留米の先生にお願いしてみるとか・・・
  1. 2013/08/12(月) 18:19:16 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

一、二枚目のような、飴玉がとろけるようなぼやけ方が独特です。
ほかのサイトでみても、ペトリレンズはゆるいコントラストで淡い色再現が優しさを醸し出すようです。

プロや写真にこらなければ、これくらいの描写のほうが安心な性能とも思いますが、だれもかれもが大メーカーというのも、上昇機運が特に強かった時代だけあって、どうにも付和雷同の国民性だったようですね。(今では更に性能寡占模様ですが)

ちなみに、20年近く昔に世田谷ボロ市で購入したペトリMF-1は、わたしの手元で今でもシャッターが切れます。ペトリ衰退の元凶とウワサされる、作りも含めてあの画期的なキャノンAE-1だったら、電気メカ次第では途切れてしまっていたかもしれません。


MF-1に付いていたM42のペトリc、c、Autoとともに、V6Ⅱレンズのめずらかで優美な描写を参考にさせていただきます!
(じつは、mf-1交換レンズ、M42/28mmf2.8のペトリオートも持っています…。)











  1. 2013/08/12(月) 19:55:17 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
そうですね、あの高度成長期の余熱も残る昭和70年代から80年代では、とかく一流とされたメーカーだけが、一般大衆も含めた写真愛好家の耳目を集め、それ以外には冷淡だったのは一種の熱病にも似た国民性だったのかもしれませんね。

でも、バブルが弾け、身の丈に合った生き方や多様性が尊重される世の中になってくると、実用性云々もさることながら、個性的かつ趣味性の強い機材が再評価されつつあるのではないかと思います。

そういった中では、このPETRIなどは充分に愛される資格を持つと思いますし、貴兄や出戻りフォトグラファーさんをはじめ感性豊かな面々が共感して戴いたたようで、大変嬉しく思います。

ところで、MF-1はそこそこの中古が某新宿のお店に出ていたのを見ましたが、会社が倒産してから全国金属労働者総評議会連合会だかが製造販売したとのことで、V6やFTシリーズのような個性的で押出し感の強いデザインや操作フィーリングとは全くの別物で、これはこれで同じM42ボディのアサペンやフジとは別物の女性的なカンジのする金属ボディで希少価値もあって、物欲は惹くのではないかと思い、程度の良いものなら一台は手許におきたいとも思いました。
  1. 2013/08/14(水) 12:42:56 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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