深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

鐵幕從內部的鏡~PO59-1 50mmf2 mod.L39~

PO59_1.jpg
さて、今宵のご紹介は予告通り、工房作品、かなり前から実機化し、海外にも連れ出していたのですが、今回初登場となる、旧ソ連製の謎の産業用レンズPO59-1です。
構成は5群7枚の前半分2群3枚、後半分3群4枚のいわゆる改良ズマリットタイプです。
このレンズ、コーティングの色や硝質などから判断するに1950年代半ばから60年にかけての製品と思われるのですが、何せ、工房にやってきた時の佇まいが物凄かった・・・
そもそも、取引有る旧CIS域内の業者から「大きなスリーブに入った用途不明のレンズが手に入ったが、あんたなら何とか使えるだろう、かさ張るので運賃掛かるが、その分値段安くするから買ってくれないか?」というオファーがあり、如何にも軍用特殊用途の匂いぷんぷんの怪しげな玉のハンディロケットランチャの子供みたいな無骨なスリーブ兼ヘリコイド?に入った姿の写真などを送ってきたので、硝質は悪くなさそうだったし、それに先に買ったPO3-3Mの性能がとても満足出来るものだったので、買った次第です。
幸いなことの米国産のミッチェルやアイモのように鋼製の盲ピンなどトラップもなく、通常の蟹目を駆使して、レンズブロックを外し、キャノンのヘリコに合体させ、絞りリングは真鍮丸インゴットから削り出して、ほらご覧の通り、アヤシゲなレンズの一丁上がりです。
では、このレンズの実質デビュー戦、昨年の成田山祇園祭からの実写例を見て参りましょう。
カメラはLeica M8 絞り優先AEでの開放撮影です。

po59_01_01.jpg
まず一枚目のカットですが、京成の駅から降りて、新勝寺の参道伝いに歩いて行ったら、これからお祭に出掛けようとしていたいたいけな極小姐がおばぁと兄ぃと仕度の最終点検なんざしながら、商店の店先で楽しく夢を語らい合っていたように見受けられたので、あいや暫し、と成田屋ばりに芝居がかった声をかけ、一枚撮らせて貰ったもの。
ピンは勿論、浴衣姿がばっちり決まっている、いたいけな極小姐のご尊顔に合わせており、同一被写界深度内のおあばぁ共々シャープにあますところなく可憐な姿をリアルに捉えていますが、前の兄ぃはオフフォーカス、当然の後ろの陳列商品もオフフォーカスとなっており、前後のボケとも悪くはありません。

po59_01_02.jpg
二枚目のカットは参道を歩き進んでいたら、かき氷なんか食べながら楽しく語らい合う、いたいけな小々姐二人組が眼に留まったので、すかざず出演交渉、一枚撮らせて貰ったもの。
このカットを久しぶりにしげしげと見て気付いたのですが、高緯度での日射量・時間の少ないエリアで開発、使用されたレンズであるためか、通常の50mmF2クラスの玉より、直射日光下でのハイライトが飛び易い傾向があるとの印象を受けました。
向かって左の小々姉の白いシャツはテクスチャが飛ぶ寸前ですし、右の小々姐の陽が当たる方の左側の頬も似たり寄ったりの状態です。

p059_01_03.jpg
三枚目のカットですが、参道途中の駐車場みたいなところを開放したミニ露店広場みたいなところを覗いてみたら、お揃いのワンピなんぞ着た、健気な極小姐姉妹がスーパーボウル掬いなどに打ち興じていたので、傍らの親御さんにお揃い素敵ですなぁ、一枚撮らせて貰いますよ、などと声掛けて、おもむろに一枚戴いたもの。
テントの下の低光量状態では、普通の銀塩撮影用の古レンズだとカラーバランス崩れたり、線描写自体も甘くなるものがよく見られますが、この旧ソ連製の謎のレンズ、あんたはヘソ曲がりかいな!?と突っ込みを入れてやりたく
なるくらい、色といい、コントラスト/階調再現性のバランスといい、秀逸に描写しています。

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四枚目のカットですが、これも参道脇の天津甘栗屋の前でお友達と待ち合わせをしているのでしょうか、いたいけな小々姐が約一名佇んでいたので、一枚撮らしてね、とか声掛けたら、ぢゃ、斜め後ろからなら、とか云っていたのですが、結局シャッター切った瞬間にこっち向いて、ばっちし写っちゃったんで、背面LCD見せて、どうする?とか聞いてみたら、あ、結構フツーに写ってるからイイです、とかお許しを貰っての掲載です。
このカット、まさにこのレンズの人物描写の性能を表しているのではないかと思います。
10歳かそこらの無垢な小々姐の健康的な小麦色の肌のハリやツヤ、そしてしなやかな黒髪の生え際の若々しい様子まであますところなく描き切っていると思いました。
また仄暗い店内のボケのナチュラルさも、この小々姐の愛くるしい姿を浮かび上がらせるのに一助買っていると思いました。

po59_01_05.jpg
五枚目のカットですが、参道を歩き切り、階段を上り、やっと新勝寺の境内に辿り着きました。
この日は最終日だったので、全ての山車、屋台の類いが全て本堂前広場の集結し、その華美さ加減を競い合っていたので、ちょうど、五重塔前に陣取った山車が岸和田のだんじりと見紛うが如きパフォーマンスを始めたので、下から一枚戴いたもの。
ここでは、ハイライトが飛び易い傾向は背面モニタで判っていたからでしょうか、EXIFデータを確認したら、露出補整を若干アンダー気味にして、撮っていました。
その結果、発色もコントラストもかなりイイカンジで、伴送機のR-D1sに装着していたBaltar35mmf2.3のコーティング付とほぼ拮抗し得るような艶やかなカットとなりました。

po59_01_06.jpg
六枚目のカットですが、本堂前からまたもと来た参道を辿って、駅に戻る途上、歩道上に設けられたベンチで休憩していた黒人の親子が居たので、声を掛けて一枚撮らせて貰ったもの。
時間的には午後も遅くになってはいたのですが、7月中旬のこと、参道上はまだ陽射しが結構強く、あいにく、こちらの写真撮る都合など通行人各位にはお構いなしですから、ちょうど、シャッター切ろうとした瞬間、レフ板並みに陽光を反射する白いTシャツ来たヲッサンが無慈悲にも後ろを通り掛かり、写り込んだ結果、露出をアンダーにしてしまいこの黒人のお父さんの優しげな表情はより描写が難しくなってしまったのですが、それでも、ソフトでちょちょちょいと露出補整して上げれば、ほれこの通り、このレンズはきちんと細部までシャープかつクリアに描き出していてくれたのです。

po59_01_07.jpg
七枚目のカットは参道をJR駅に着く手前で左に折れ、京成方面へ抜ける道の傍らの飲食店の店頭販売コーナーで楽しくお友達と買い食いをエンヂョイする、いたいけな下総小姐軍団の予備軍の雄姿?です。
せっかく、ハィ撮りますからね♪と声掛けてからシャター切ったのに、手前の極小姉はよほど空腹に耐えかねていたのでしょうか、一瞥もくれず黙々と串にかぶりつき、奥の極小姐は豪快に串にかぶりつきながらのカメラ目線でした。
ここでも、肌や髪の毛などは極めて精緻にテクスチャを描写していますが、白い生地の浴衣はやはりハイライトが飛ぶ寸前に見えます。

今回の感想としては、このレンズ、夏の働きはこんなもんでしたが、一昨年の真冬のソウル、氷点下15度の屋外での働きは目覚しかった・・・どんな光線状態でも、氷点下の屋外から、暖房効いた屋内に入っても、曇りも生ぜず、こんな頼りになる相棒は居なかった、ホント、改造技術を磨いていて良かった、こんな掘り出しものを自在に使うことが出来るのですから。

さて、次回はまた国産絶版レンズの発掘成果を発表したいと思います。乞うご期待。
  1. 2013/09/29(日) 17:17:58|
  2. その他Lマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

またどんだけポケット広いんですか。

Charley944さん
お疲れです。

これ工業用レンズが元々なのでしょうか。
いつもの写真と比べると映りが良いですね。
4枚目の写真は一瞬台湾で撮った写真かと見誤ってしまいました。
ピントは薄いですけど、思ったより良さそうですね。
5枚目の色再現もかなり良さげですし、こういうレンズが出てくるのも共産圏ならではかもしれませんね。

こりゃ次の撮影会もやられそうですわ。
  1. 2013/09/30(月) 20:44:19 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:またどんだけポケット広いんですか。

出戻りフォトグラファー さん
有難うございます。
そうですねぇ・・・このレンズ、世界中、何処を見ても、氏素性やら実写例は見当たらないので、かなり量も少ない特殊用途のレンズだったと思います。
レンズブロックが格納されていたハウジングというかヘリコイドとマウントのユニットはまさに戦車とか、装甲車の外装部品の様相を呈しており、たぶん野戦演習の動画記録撮影用の超高性能カメラの目玉などだったんぢゃないかと見ています。
工房には同じロシアの産業用であるOKCシリーズやPO-3-3mがありますが、この高精細の写りはどれにも似ていないような気がします。
まず、見つけられたら、高くないこともあり、買い!と断言出来ます(笑)
  1. 2013/10/01(火) 23:15:57 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

2・4カット目の異様に黄色い背景は、高速シャッターのせいでしょうか・・・、ほかの場面はニュートラルな補正だと思いました。

50年代半ば位までのレンズも、たとえばライツのズマールのような素直な色再現と同等というのも面白いです。

最近は、PO系以前のレアと銘打った特別高価なレンズ群も発売されて、50年代という微妙な境界線を持ったところで、価格も二分化されているようです。

いずれにせよ、鉄のカーテンの向こうでパテントもお構いなしの生産体制をとっていたお蔭なのか、非常にバラエティなレンズ群に出会えるのがロシア製の面白みになるといえます。

1・7カットのような収差も、なかなか古典的で微笑ましいです。
  1. 2013/10/02(水) 03:22:27 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。
このレンズ、佇まいは如何にもアヤシゲでキリル
文字がロシア製品であることを目一杯主張しちゃってますから、ぱっと見たら、こんなに良く写るとは思えないでしょう。
確かに日本やら台湾辺りのマイルドな気候、光線状態ではプラナーや、クセノンといった西側の秀逸なシネレンズの後塵を拝すかも知れませんが、極寒の大陸では、そのエレメント独自?のアンチフォグネスやら無骨な鏡胴のタフさで確実に傑作をモノに出来るのだと思います。

なお、暗部のY転びですが、これは、この青いコーティングが示す如く、透過光のスペクトラムが青の補色方向にシフトする傾向を持ち合わせており、M8のオートホワイトバランスが適切な露出レベルであれば、きちんとカラーバランスを弾き出し補正しますが、中央部が適正露出レベルでこれにカラーバランスを合わせたら、シャドーかつ背景はそのおつりが来ちゃった、ということかも知れません。
いずれにせよ、画面構成での細かいことは全く気にならない人間なので、ご指摘受けるまで全く気づいてすらおりませんでした(苦笑)
  1. 2013/10/03(木) 22:48:13 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

面白い!
このレンズ面白い。

私には「ハイコントラストが飛びやすい」というより「ピントが会った所以外?そんなのしらねーよwww」っていうように見えました。多分、本当に知ったこっちゃない設計なんでしょう。多分、オフフォーカスな部分は色収差も多めだろうなと推察します。そういう意図のレンズを開放で使うのは難しそうですが、敢えて出すのも面白そうです。

ピントも薄そうで難しそうなのですが、もし被写体すべてを被写界深度におさめることができたなら...このレンズ、最強かもしれません。
  1. 2013/10/05(土) 13:29:05 |
  2. URL |
  3. JY #mQop/nM.
  4. [ 編集]

JYさん
有難うございます。
そうですね、ロシアもんはたまにつぅか、よく、こういう尖ったのが出て面白いです。
例えば、スピードパンクロやシネプラナー、或いはシネクセノンがスーツをビシッと着こなして、仕事もバリバリ出来る、フランクフルトとか、ロンドンのシティに居そうな金融ビジネスエリートだとすれば、ロシアのシネレンズってのは、生まれ以ての天才児に普通の教育なんかせず、ただただ才能を伸ばすための英才教育だけして育てたみたいなカンジで、人見知りはするわ、マナーも悪いんだが、とにかく数学を駆使した金融工学にはまさに天才の天才たる稀有の存在感を発揮する、そんなイメージなんですよね。
だからこそ、今はヂャンク並みの値段で一部のマニアにのみ取引されていますが、いずれは無銘の米国産レンズだったバルターがスピードパンクロやシネプラナーに並び、シネクセノンの値段をとうに追い越したようになる日も来るんぢゃないかと思います。
  1. 2013/10/07(月) 22:51:48 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

すばらしいレンズですね!

深川様

はじめまして。
PO3-3MやOKC1-50を調べていてたどり着きました。このあたりは謎が多いレンズなので非常に参考になります。最近やっとPO3-3Mを入手し、OKC1-50の購入も考えています。Panchro50mmと同じ構成という話も耳にするので検証してみたいと思っています。ところで今回のPO57-1というレンズ初めて拝見させていただきましたが、すばらしいですね!F2とは思えないほどの極薄の被写界深度とカリカリのピンと面の感じがそそります。おっしゃるとおり特殊用途の佇まいです。こういった特殊レンズが手に入るところがロシアレンズの醍醐味ですね。
そういえばOKC1-50はロシアのスペースカメラについているのを見かけたことがあります。

  1. 2014/01/13(月) 03:23:19 |
  2. URL |
  3. ヨッピー #-
  4. [ 編集]

Re:すばらしいレンズですね!

ヨッピー さん
有難うございます。
初のブログご訪問ということで、今後も宜しくお願い致します。

さて、OKC59-1ですが、たぶん、軍事演習の記録か何かのために戦闘指揮車か何かの車載機銃か何かの台座にくっつけて35mmフィルムで動画でも撮ってたレンズぢゃないかと読んでます。

開けてみたら、5群7枚のズマリットタイプで硝材も良いもの使ってましたし、民生用のレンズとは鏡胴金物の加工から、反射防止策の念の入れようまで全くの別物でした。

また、このレンズの凄いところは、昨年、厳寒のソウルに撮影旅行に出掛けた時の50mmに選びましたが、マイナス15度の屋内から、スチームがんがんに焚いて、室温25度以上で多湿の屋内に何回も出入りしても、全く結露によるエレメントの曇りが残っていなかったことです。

一緒に使った、ほぼ同構成のボシュロム銘のBaltar40mmf2.3や同35mmf2.3がみな曇ってしまい、帰国後クリーニングに一苦労したのととは大きな違いです。

貴兄も云われるとおり、謎の光学大国ロシアはレンズの宝庫です。

まだまだ発掘のしがいがあるのではないかと思っています。
  1. 2014/01/13(月) 22:48:33 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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