深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

Tradition sometimes makes a miracle~Yashica DSB 50mmf1.9~

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さて今宵のご紹介は予告通り、工房附設秘宝館から、かつてヤシカが国内向けヤシコンマウント自社ブランド機のセットレンズの最廉価レンズとして80年代前半から製造販売したYashica DSB50mmf1.9の登場です。

構成は4群6枚のシンプルなモノコートながら、主要部品は金属製で、硝材もかなり良いものが使われているように見受けられました。

ご存知の通り、旧ヤシカはニッカ、ズノーと資本力、販売力は無いものの、技術力の高かったメーカーを買収し続け、最盛期の74年には、世界に冠たるカールツァイスがパートナーとして選び、コンタックスRTSをはじめとした個性有るシリーズを送り出したのですが、その後間もなく、自身は営業不振に社内コンプライアンス上の問題が絡んだ経営破綻状態のまま、1983年に京セラに買収され、独立メーカーとしての存在を終えます。

その京セラも2005年にはカメラ事業自体から撤退し、八洲光学から、ニッカ、ズノーと脈々と生き永らえて来たDNAも途絶えてしまったのです。

そんな気の遠くなるような伝統が織り成す地味ながら熟成された技術の粋として送り出された、実用レンズの雄、DSBの実力のほどを見て参りましょう。

ロケ地は先般のフジノンX55mmf1.6と同様、鎌倉から江ノ島で10月第一週の金曜日に撮影しています。

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まず一枚目のカットですが、鎌倉は小町通口に降り立ち、いつもの慣れた道を辿り、撮影スポットを次々こなしていくのですが、その第一弾として、通りの入口付近にある、ちょい奥まった中庭を持つ商業モールがなかなか素敵な趣きなので、今回も新趣向の赤い唐傘を入れて撮ってみたもの。
機材はEOS50D、絞り優先AEでの開放撮影で、以降のカットはすべて同じです。

ピンは唐傘の表面に合わせていますが、その合焦面のシャープでリアルな結像は云うまでもなく、背景の空が入った建物の弧状の屋根を含んだ佇まいがなだらかなボケになっているのにも心惹かれました。
また点光源はこのレンズのコマフレアを表しているようです。

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二枚目のカットですが、小町通を少し八幡宮方面に歩くと、とある商店の軒先に、なかなか時代がかった木製看板に趣きある「鎌倉」の文字が彫られ、しかもその直下には信楽焼のこれも古びた壺をプラター代わりとして、可憐な植栽としているのが目に留まったので、店番の方に断ってから、一枚戴いたもの。
ここでも、最短撮影距離に近い領域ながら、ピンを合わせたのは看板の底部先端の金物でしたが、鎌倉彫でしょうか、ささくれかけた看板の地肌や可憐な花の質感をも実に捉えていると思いました。

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三枚目のカットですが、いつもの散策コース通り、小町通りの前半にある小さな橋を渡ってすぐ、進行方向左側の路地に曲がり、そこの地区掲示板やら、近年、改築された「MilkHall」なる隠れ家風のおしゃれなカフェを撮りました。
ここでは、黒づくめのシックな建物外観と蔦、そして深緑色の看板がお洒落なアクセントになっていて、このDSBはその程好いシャープネス、そして曖昧な色は曖昧なまま描き出すという流儀で以て、かなりイイ案配にその雰囲気を捉えたのではないかと思います。

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四枚目のカットですが、路地からまた表通りである、小町通りでモデルさんなど探しながらキョロキョロと歩いていたら、肩車して歩いていたドイツ人親娘と出くわし、モノは試しにドイツ語で撮っても良いかな?と問うたところ、はじめキョトンとしていましたが、肩の上の極小姐の方が先に雰囲気を察し、カメラを指差し、足バタバタしてはしゃぎ出したので、ヲヤヂさんが、OK,OKと破願し、こういうシーンとなった次第。
モノを撮っても、この普及レンズは今の並みのズームより素晴らしい描写性能を叩き出しますが、何よりも美しいと思ったのは、このカットでの白人親娘の肌が陽光に照らされて生じた極僅かのフレアです。
たぶん、ロシアのモンスターレンズで撮れば、肌の状態診断まで出来るくらいシャープに写るのでしょうが、このようにルネサンスの宗教画みたいな肌の描写もイイものだ、と暫し関心しました。

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五枚目のカットですが、いつもの鎌倉散策の常連、小町通から一本右に入った側道沿いの民家1階ガレーヂに佇むイタリアンレッドのミニクーパーの雄姿です。
このカットで感心したのは、やはり素晴らしいカラーバランスとコントラストです。
赤が強調され、周囲の葉の緑がくすんだり、或いは葉の緑が突出し、主役のクルマの赤が沈んだように写し込まれる、名だたるレンズでもデジタルではそういった怪奇現象?を生じることがありましたが、これはまさに記録色で実用的な描写ではないかと思いました。

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六枚目のカットですが、情熱的?な赤いミニクーパーのガレーヂのすぐ隣の塀に蔓を巻いた昼顔がその葉とともに午後の陽射しを透かし、とても美しく見えたので一枚戴いたもの。
マクロレンズや引伸レンズ、或いはシネレンズなどと比べれば、この最短距離での花の撮影はシャープネスがもたらす迫力に欠けるかもしれませんが、この方が実は肉眼で実際に見ている姿そのものではないかと云う気もします。

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七枚目のカットですが、再び小町通りに戻り、八幡宮方面に歩いて行くと、なかなか素敵な店構えの日本蕎麦屋さんがあり、しばしば、遠近感表現のテストも兼ねて、良く手入れをされた玄関までの植栽や庭石を入れたカットを撮らせてもらうことがあり、今回もご他聞にもれず、一枚戴いたもの。
ここでは、やはり向かって右側の黒い木塀が画面中央奥に向かって真直ぐ伸びて、ボケていくさまがこのレンズの地味ながら写実的性能の優れるというキャラを如実に表しているのではないかと思いました。

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八枚目のカットは、所変わって江ノ島に着き、ランチを戴くべく、上陸してすぐの大鳥居手前を右手の道から登って視界が開けた辺りから眺めた藤沢の海岸風景です。
ここでも開放だけあって、目が痛くなるようなシャープネスは期待すべくもありませんが、それでも、必要十分な情報はしっかりと捉えていて、海岸から奥手まで相当精緻に港湾施設や建物など街の佇まいを描写しています。

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九枚目のカットですが、美味しい生しらす丼とさざえさんのツボ焼きなど戴いてから、再び気合いを入れての撮影再開で、真っ先に向かった島頂上付近の撮影スポット、長崎の鐘ならぬ江ノ島の鐘です
ここでも、カリカリするほどのシャープネスは見せつけないものの、背景に曇天とは云え、それなりに輝度の有る空を控えても、鑑賞に有害なフレアは殆どと云って良いほど発生せず、鐘の金属表面のテクスチュア、そして無数の落書きなども忠実に描き出しています。

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十枚目のカットですが、来たのと反対周りに降りて来て、いつもの散策ルート、ヨットハーバー方面への道路の側道というか、狭い生活道路がえも云われぬ良い雰囲気を醸し出していたので、その佇まいを撮ってみたもの。
この生活臭が強く漂う路地というか裏通りは、それこそ標識や看板のひとつひとつが自己主張しますから、人が居ようと居まいと、画を紡ぎ出してしまうのでしょう。

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十一枚目のカットですが、いつもは側道の奥まで辿り着いたら、元来た道を戻って、ハイさいならなのですが、今回は妙な胸騒ぎがしたんので、駐車場経由、行けるだけ奥まで堤防の上の道を歩いて行って、ふと見上げた灯台の周囲をトンビが飛んでいたので、モノは試しにとばかりに撮ってみたら、存外に上手く収められたというもの。
殆ど逆光に近い条件なので、肝心のトンビはセミシルエットと化していますが、それでもフレアなく、きっちりとモノの形を押え、しかもソフトでハイライトやガンマをいじれば、トンビの羽の模様がきっちりと写っていて、デジタルだからこそ、この地味ながら真面目な写りを身上とするレンズの持ち味を引き出せたのかな、とも思った次第。

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十二枚目のカットですが、ヨットハーバー脇を通って帰る途中、とてもオシャレなパステルカラ-づくめのヨットクラブ施設が目に留まったので、入り口付近から挨拶代わりに一枚戴いたもの。
空が相当曇天で重くなってきましたが、このモノコートながら堅実な描写を売り物とするレンズはどの色にも偏ることなく、パステルカラーのすべての佇まいを見たままに再現してくれました。
今度は晴天の時、是非試したいと思いました。

今回の感想としては、やはり標準レンズは驚きの宝庫だと思います。

今も都内某所で里帰りの標準レンズが非常に魅力的な値段で叩き売られてますが、はは、また数本買っちゃいそうで怖いです。もう既に高性能レンズを発掘し、修理完了して家の近所でテストラン大成功に終えてますし。

さて、来週は工房作品のご紹介でもいきましょう。乞うご期待。

テーマ:街の風景 - ジャンル:写真

  1. 2013/10/27(日) 19:59:34|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

恐るべし富岡光学!

市川さんの掲示板で発表された直後から、ヤフオク等で相場が上がった曰くつきのレンズですね。

自分もこの前同じヤシカ50mmのDS-Mを使ってみましたが、下手なプラスチックレンズより良い映りで驚きました。
経緯を見ると、良く映って当たり前のノウハウを持っている会社だったのですね。
京セラ如きに買収されず、もっと文化的側面を分かっている会社が買収していれば、生き残ったかもしれませんね。本当にあの(以下65535行割愛)

馴染みある鎌倉と江の島の風景を眺めましたが11枚目のトンビを瞬間速写した一枚は引きこまれましたね。時間を凝縮した様な迫力があって、流石です。50mmですからEOSに付けると焦点距離が80mmクラスになりますけど、振り回されずレンズの良さを引き出すのはさすがです。

惜しむらくは、ここで掲載されたことで更に市場でこのレンズが値上がりしそうなことで。

ヤシカレンズは当面高値の花ですねえ。

あ、そうそう、タイトル表記がYsahicaになっているので、お時間あるときにYashicaに変更をお願いします。

いやはや、それにしても偶然の一致とは言え、自分もYashicaDS-M買っといてよかったわー。
  1. 2013/10/30(水) 21:26:04 |
  2. URL |
  3. 出戻りフォトグラファー #aYDccP8M
  4. [ 編集]

Re:恐るべし富岡光学!

出戻りフォトグラファー さん

有難うございます。

まずはご指摘深謝です。
早速訂正させて戴きました。

XPのパソで打つと動作が不安定だし、新機で打とうとするとキーボードが埋め込みボタン式でミスタイプし易いし・・・

ホント、70年代から80年代前半の昭和の御世には面白いレンズが一杯生まれていたのかもしれませんよ。いや、玉石混交だったのかな。

でも、OEMも含めて量が膨大なので、まさに富籤を買う感覚でヂャンクボックスの中のレシピエントに真摯に向き合い、真剣勝負つけて、選び出すということしかないでしょうし、それがまた楽しいのかも知れませんね。

また、くどいようですが、一般論ではデジタル専用に設計されたレンズ以外はデジタルではX(ペケ)とか云われますが、実際に試してみれば、味わいでは片付けられない、描写の素晴らしさというものが見えてくるのではないでしょうか。

そう、古レンズ道はトライアンドエラーで選玉眼を磨くことと、撮影技術を磨くこと次第なのですね(汗)
  1. 2013/10/30(水) 23:12:10 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

(コンタックスの廉価版としてのヤシカFRシリーズが気になった頃、このレンズでフイルム一本撮影したことがありました。残念ながらマウントから脱着出来なくなってしまってそのままにしてしまいましたが・・・。)

七枚目の前側ボケ部分の収差が、古典レンズ風の被写体輪郭もとろける様に浅く面白いですが、他のサイトでの実写もそうなので、興味深いです。

今回の写真を拝見いたしますと、やはり試写した当時を思い出すようなどことなく色気があるような色合いで、お天気の具合でしょうか、丁度被写体の朝顔のような薄紫めいた色が被さっているようで、それでも他社と比べて色気付いたハイカラな感じもします。

発売当時は、コンタックスレンズとライン・ナップも同等で張り合っていたわけですから、そうしたブランド品を売るための比較になってしまうような最近の廉価商品とは違って、当時のヤシカさんは横目に最強めいた海外ブランドを置いて、引くに引かれぬようなとてつもない気合が入っていたのかもしれませんね。



  1. 2013/11/01(金) 00:32:21 |
  2. URL |
  3. treizieme ordre #-
  4. [ 編集]

treizieme ordre さん
有難うございます。

確かにFRシリーズっていう地味ながら、質実剛健、現実路線のモデルがありましたね。

ボディもしっかりした金属製ですし、ファインダの見えもシャッターのフィーリングも良好で、もっと売れても良かったのに・・・と残念でしたね。

今思うと、とにかくシステム一眼レフを構えていた一流と呼ばれた5社以外では、ヤシカ製でもライカを凌ぐブランドであるカールツァイスとの共同開発を行ったコンタックスのみが例外的に一流相当品であり、したがって、同じ産みの親でもヤシカ銘のものは二流品という刷り込み学習を受けていたのです、田舎のカメラ少年は・・・

ただ、経済的にも或る程度余裕が出来、多少は写真の善し悪しが判ってくるようになると、当時の孤高の超一流ブランドのニコンと三流扱いのペトリの標準レンズはどちらも良く写り、違いは趣味の範囲でしかなく、ただ、ボディの信頼性等でハンデを負っていたのではないかと自分なりに思うようになりました。

そういった意味では、ミラーレスの普及はそういった風説に曇った目よりも冷徹に過去のレンズそのものの性能、味付けみたいなものを教えてくれるのではないかと思った次第。

それにしても、当時の12500円のレンズ、倍以上したプラナーとイイ勝負しているなと思い、高度成長期育ちの人間としては、日本の技術の勃興を嬉しく思わざるを得ませんでした。
  1. 2013/11/01(金) 22:30:51 |
  2. URL |
  3. charley944 #yjwl.vYI
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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