深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

写真工業掲載記念~Nikon Sマウント版キャノン50mmf1.8 

canon.jpg
今日は当工房にとって、とても晴れがましい出来事がありました。
それは、工房が再び生を与え、光を写し撮ることができるようにした作品が、写真界では良識派とされる専門誌「写真工業」6月号の記事として紹介されたのです。

本件は、今を去ること3月に編集長殿直々にご依頼があり、何をご紹介しようかご相談のうえ、一番、インパクトがありそうだ☆ということで、小生が記事執筆と写真撮影を行ったものです。

この場では、キャノン50mmf1.8黒ヘリコイドモデルの光学系をやはり再生したものから製造したSマウント二号機を先にご紹介していて、今回の1号機はいわば、掲載誌発行を待っての、サプライズ登場を狙って温存していたのです。

一部は記事と重複しますが、このレンズの誕生秘話のようなモノをご紹介しますと、そもそも、当工房が旋盤等の本格工作機や、精度の高い測定機器を導入する前から、簡易ピント基準機と鉄工ヤスリ、リューター、糸ノコ等でそれなりの改造レンズを細々拵えていたのですが、そのヘリコイド&マウントに充てたのが、捨て値で叩き売られていた、キャノンのLマウント50mmレンズ達だったのです。

何故、捨て値で叩き売られていたのかと言うと、まずは殆どが後ろから3番目で被写体側を向いている、絞り真後ろの凹玉が例外なく白濁していて、これが磨いてもまた曇る不治の病であったため、誰も敬遠して手を出そうとしなかったこと、第二に比較的廉価で数が多かったため、まともにメンテされなかった個体が多く、ヘリコイドの油切れ、絞りの油にじみ、サビ等でメカとしての状態も悪いものが多く見られたからです。
尤も、そもそもは数が多かったことで、レアモノ好きで判官びいきのクラカメマニア達の食指を動かさなかったことが最大の原因かも知れませんが・・・

しかし5千円以下で買えるジャンクレンズといえど、ヘリコイドをきちんと分解して、固まったグリスをアセトン等で落とし、代わりに工房特製の四弗化エチレングリス配合のヘリコイドルブリカントを入れて上げれば、十数倍の価格のライツや国産ノンライツのLマウントヘリコイド同等以上の精度と堅牢さが甦り、初心者がおっかなびっくりこしらえる改造レンズの基幹パーツとしてはオーバースペックなものに甦ったのです。

そうこうして、親の仇と出物は出遭ったら討ち取れ云々のセオリー通り、お店巡りでも、ヤフオクでも、安いジャンクを見つけ次第、買っては集めていましたが、或る日、前玉は貝殻割れ、後ろは酷い擦り傷で、マウント部も脂じみた見るも無残なジャンクを見つけ、安いし、玉は外して棄てればイイと思って買って帰り、分解してびっくり、中の曇り易い玉が奇跡的にキレイでしかも、素人磨きしていない証にコーティングが乗ったままになっていたのでした。

そこで、あまた有るストックの前玉、中玉前群、後玉のキレイなものを選って、しかも偏光フィルターや凸レンズにはテストパターンを使った微視試験まで行って性能良さげなものをそれぞれの部位で幾つか選抜し、この奇跡的な中玉後群との組み合わせで最も周辺まで崩れがなさそうな光学系を見つけ出しました。
要は単純な組み合わせの問題ですが、トルクを気にして組み上げ、微視テスト、テストマウントに付けてのLマウントピント基準機による実像投影テストを十数回やっての4個イチです。

そして、いよいよ光学系が決まったら、後はパッケージングの問題なので、前々からやってみたかった、キャノンtoニコンのスワップを考えたのです。

このパーツも、加工に自信を持ち出した頃、ニコンSマウントの50mmf1.4のLマウント版をキャノンのヘリコイド&マウントアッセンブリ使って実用化していたので在庫があって、寸法も余計な切削をせず、程良いクリアランスで嵌められそうなことが判っていたので、後は加工有るのみ、現物合わせ、内面の光学系保持スペーサの削り出し、微調整を繰り返し、最後に自製の測定機器で加工精度見て完成、手間隙かけた結果、陽の目を見たという次第です。

で、写りはというと、元のレンズが相当優秀だったせいもあり、開放から、目が醒めるほどシャープ、古いレンズではありながら、カラーの発色もやや暖色系気味も、バランス取れた現代的なものですし、バックのボケもほぼどの距離でも2線ボケやグルグルボケが発生せず、なだらかに溶け、前ボケも滑らかで邪魔にならないカンジに写りこみます。

たとえは良くないかも知れませんが、個人的にはちょうど、ヤシコンGプラナーの45mmF2レンズのコントラストと彩度をちょっと落とし、シャープネスをちょっと上げたというカンジがしました。

まぁ、いずれにせよ、今回の件もあり、このレンズは当工房の宝としてこれからも大切にしていきたいと思っています。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2008/05/20(火) 23:28:40|
  2. Sマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

おめでとうございます!!!どんどんどん!
今日工業買ってきました.読むのが楽しみ.
世界で一本のチューニングレンズ.
あたかも,レーシングエンジンみたいですよ.
傑作が撮れることをお祈りしています.
  1. 2008/05/21(水) 18:06:58 |
  2. URL |
  3. conT #RGJnsXQk
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先ほど記事読みました。よく練られた文章ですね。すばらしいです。今度は特集記事ではなく、連載として読みたいものです。
  1. 2008/05/21(水) 19:33:45 |
  2. URL |
  3. ksmt #mQop/nM.
  4. [ 編集]

conTさん
早速のご祝辞有難うございます。
今回は、ちょっと肩に力が入りすぎちゃったかなぁ・・・と、他の、どちらかと言えばくだけた記事を読んでちょい肩透かしを食らったカンジがなきにしもあらずでしたが、判る方には判って戴き、好事家の方には喜んで戴けたようで、やれやれと胸を撫で下ろしております。
先般はお披露目だけでお味見をして戴けませんでしたが、次回は是非、お試し下され。
  1. 2008/05/21(水) 22:22:14 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

ksmtさん
有難うございます。
望外のお褒めの言葉を頂戴してしまい、恐縮至極です。
そうですね、実は、私どもノンライツRF友の会有志&新宿西口写真修錬会合同写真展に市川編集長が直々に来られ、私どもの活動にも、そして工房作の改造レンズ群にも並々ならぬご興味を示して頂いたので、毎号連載はムリとしてもたまには顔出すくらいになれたら・・・と思っております。
  1. 2008/05/21(水) 22:28:27 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

拝読しました。
「レンズ遊びを極める」という特集にあって、他の執筆者がほとんど「遊び」の方に偏った内容だったのに対し、チャーリーさんがまさに「極める」だったのが、雑誌の特集タイトル偽りなしという編集者救済の入魂の内容でした。
待った甲斐がありました!
(でも文章は少し気負いが感じられる?)
  1. 2008/05/22(木) 01:05:46 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
早速の記事講評有難うございます。
ちょいと気合い入れ過ぎて、なんか、場違い感無きにしもあらずってカンジでした。まぁ、しかし、執筆依頼をお請けした時点では、どんな猛者が出てくるか判らなかったので、構想を練りに練って、休みの日に一気に書き上げたのです。
でもまぁ、良い青春のおもひでになりました。
  1. 2008/05/22(木) 12:50:34 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

21日に写真工業読みました。
最近つまらない記事が多いなあと思いつつ読んでいましたが、あの面白い記事が貴工房のものとは・・・驚きました。
ニコンがキャノンにレンズを供給しても、その逆はないんだよ・・・の続きが、なんとも痛快でした。
今後のご活躍をお祈りします。
  1. 2008/05/23(金) 17:57:47 |
  2. URL |
  3. ファジ~ #UXr/yv2Y
  4. [ 編集]

ファジーさん
こんばんは。ご感想有難うございます。
ご興味を持って戴けたようで何よりです。
当初、市川編集長から本企画の執筆依頼をお受けした時、当工房メインのシネレンズ改LMはかのMSオプトをはじめ、幾つかの業者さんが実用化しているし、ELニッコール等引伸レンズをSマウント改造しているのも、なんか遊びっぽく思え、シリアス路線でいこうと思っていたんで、本品で執筆させて戴いたという次第です。
出来れば、また続編を登場させたい、とはこころ密かに願ってはいるのですが・・・
  1. 2008/05/24(土) 01:37:15 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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