深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

恍惚の中に潜む尖鋭~CANON35mmf1.5~

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七夕とは何の関係もないようですが、今宵のご紹介は、再び当工房附設秘宝館から、意外と有りそうで、無さそう、買ってびっくり玉手箱のどっきりレンズ、キャノンがRF機当時、世界最強のハイスピード広角レンズとして世に送り出した35mmF1.5です。

このレンズは今を遡ること昭和33年に発売されました。当時のお値段が35000円、今の中古相場の半分以下にも思えますが、初任給がせいぜい1万5千円とかそのくらいだった時代ですから、今の貨幣感覚に直せば、だいたい50万円弱の超高級レンズということになります。

このレンズの凄いところは、RF界のトップメーカーエルンストライツ社が35mmではやっとF2のズミクロンを送り出した年だというのに、それを遥かに越える明るさを持つコンパクトなレンズを送り出してしまったのです。
ライツは昭和36年になって、やっとズミルクス35mmF1.4を送り出し、F値の上では0.1優位に立ったのでした。

しかしながら、このズミルクスは開放ではコマフレアが多くて、ピントの芯が見当たらず、個人的には、F3.5以下に絞ってやっとまともなレンズになるというカンジで、曲りなりにも開放から、何とか使い物になる、このキャノンのハイスピードレンズの敵ではないと思いました。

キャノンの35mmはこのF1.5のほかにもう1本、キャノンがRF用としては最後期に開発し、開放からズミクロン同等以上のシャープネスとコントラストを誇る昭和38年発売のF2IIを持っていますが、同じF値、例えばF5.6で較べれば、このF1.5のモデルに軍配が上がると思いました。

確かに今のレンズに較べると、球面収差が大きく、開放で日中に撮ったりしようものなら、コマフレア大会になってしまい、何とかピントの芯こそは判るものの、ベス単か調子の悪いタンバールの如き、ソフトフォーカスレンズになってしまうため、撮るシーンを選ばねばなりませんが、このレンズの本領発揮は日没前から、灯りの点る時間帯です。

特に路地裏の夕暮れスナップには、このレンズは重宝します。
下のカット二枚は、新宿某所で夕暮れ時にこのレンズを買ってすぐ性能テストに持ち出した時のものですが、同伴機のF1-ODにつけたNew FD50mmF1.2Lのどこまでもネオンや点光源がシャープに濁りなく描写するのに対し、このレンズは荒削りながら、人の営みというか、澱んだ場の空気みたいなものまでしっかりと拾い上げ、路地裏のうらぶれたカンジを良く掴んでいると思いました。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2008/07/07(月) 22:58:08|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

こんばんは。ようやく少し一般的なレンズが登場したかしら、と感じました。
が、文章を読むと、「調子の悪いタンバールの如き、ソフトフォーカスレンズ」と書かれていて、あーっ、さすが charley944 さんにとっては、天下のキヤノンもソフトレンズに見えるのだなと、いつもの鋭い舌鋒が甦って一安心です。

わたしも写りに不満のない大好きなレンズですが、アクセサリー共用のためか、肥大化したボディとのバランスのためか、鏡胴が少し大作りなのが気になっていました。
自分が巨大なせいかコンパクトなものに惹かれるもので。
ただ、むわたしは、この作例のようなレンズの個性を最大限発揮させた写真は撮れていません。
1枚目など、肉眼でどのように見えていたのか分からないですが、こんな写りになることを意識されていたのだとしたら凄過ぎます。
レンズ発売時の写真を引っ張り出してきたかのような不思議感覚と迫力を感じます。
圧巻でした。
  1. 2008/07/08(火) 01:07:54 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
稀代の通人のお一方から望外のお褒めを戴き光栄です。

元々、タイから復員して、池袋や新宿やら、アジアの残滓漂う場末の夕暮れスナップをNikon FにNikkor-H5cmf2にJX400詰めて撮っていたのですが、描写がいまいち迫力不足かつ、大柄なカメラとそのシャッター音が人目をひくため、RF機によるスナップに切り替えようと思い、ノクチ50mmf1.2と前後して購入したものです。

ポケットやカバンからさっと出し、パッと撮って、何もなかったかの如く立ち去る・・・これが街撮り、しかも場末の飲み屋街との正しい付き合い方だと思っています。

余談ですが、このレンズを昼間でも使うようになったのは、ベッサR3AやHEXAR RFなど1/2000以上の高速シャッターが切れるボディを買って以降で、昼間のスナップでは「ベス単か調子の悪いタンバール」みたいだと気付いたのは、こういう写真を撮ってから暫くあとのことでした。
  1. 2008/07/08(火) 14:56:59 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

返信ありがとうございます。
思い入れのあるレンズなのですね。
街撮りに活躍したとのことですが、鏡胴はたいへんきれいで、大切に使われていた様子がうかがわれます。
キヤノンのもうひとつの弱点が、ローレットのブラックすが擦れてなんかみすぼらしい感じになっちゃうことですから。
F1.8はかなりクセのあるレンズですが、F1.5は優れたレンズと思っていました。
F2は未体験ですが、それぞれに個性的な35mmを発表し続けたキヤノンは広角の宝庫ですね。
  1. 2008/07/08(火) 23:40:05 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

再びコメント有難うございます。
往年のキャノンはデザインはともかく、絶対性能、コストパフォーマンスとも、他社の追随を許さないと思っています。
しかし、今現在に至るまでの企業活動の在り方が、過去の名声にまで???をつけてしまっているようで、残念としか言い様がありません。

と愚痴はさておき、実はまだ手を出してはいないのですが、キャノンの35mmには、ニコンが世界初のF2を超える大口径?レンズとして1956年に送り出したニッコール35mmf1.8というクセノタータイプの名レンズへの刺客がしっかりと用意されていて、ヘリコイドの銀色そのままの金属ローレットも禍々しい、35mmf1.8という1957年発売のモデルがあります。

これもなかなか出てこないので、F1.5ほどは高くはないものの、F2の倍額はするでしょうが、開放からシャープネス、コントラスト、カラーバランス、そして、なだらかなバックのボケと、見た目からは想像もつかないような性能を秘めたレンズらしいです・・・キャノン恐るべし。

そもそも、19mmは評価が分かれるところですが、25mmから35mmのいずれにおいても、同世代の同じF値であれば、ノクチを除くライツ、マイクロニッコールを除くニコンのあらゆるモデルに比肩、もしくは凌駕すると思っています。
  1. 2008/07/09(水) 00:13:38 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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