深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

市井に埋もれた異才~W.Komura35mmf2.8S~

komura35mm.jpg
今宵のご紹介は、どこかの中古カメラ店の棚の片隅にありそうで、実は全くない、人様から珍品と言われ、初めて珍品なんだねぇ・・・としみじみ感じ入った、地味めながら高性能を秘める、失われた下町の銘玉、W.コムラー35mf2.8Sです。

確かに国産の35mmf2.8というスペックのL39マウント版は、銀座の黄色い手榴弾のお店も、新宿の時計屋の傍らにカメラ商っているかの如きお店も、国産の旧RF用の交換レンズの在庫が豊富なお店ならば、だいたい何かしら置いています、キャノン、ニコンは語りつくされた感アリなので除くとして、TANAR35mmf2.8、Acoll35mmf2.8、そして、ちょっとレアなのが、このW.コムラー35mmf2.8のL版、だいぶレアなのがプロミナー35mmf2.8、そしてトプコール35mmf2.8ってとこではないでしょうか。

しかし、そのものズバリ、NikonSマウントの国産の互換広角レンズというのは、このW.コムラー35mmf2.8だけではないかと思います。尤も広角では被写界深度の関係でヘリコイドのドライブ量は関係なくなりますから、キャノンの28mmf3.5CXも、ソリゴール35mmf2.8もニコンSマウントで問題なく使え、実質互換レンズですが。

このレンズとの出会いは、まだ右も左も判らないコレクター初心者マークの頃、SP用の35mmがニコン純正の35mmf1.8しかなく、な~んとなくもう1本くらいF値の違う(要は安くて手軽に使える)交換レンズがあったら欲しいなぁ・・・とか念じながら、銀座の裏通りを歩いていると、天に召される前の黄色い手榴弾の一階の玉石混交というに相応しい雑多な委託品の棚の下の方に目立たず置かれていて、誰にも関心を示されずにしょぼくれているかのようにも見えました。

ふと視界に入った時、こんなメッセージが心の中に忍び込み、思わず手を伸ばしてしまいました、
「私の貧しい実家は潰れてしまい、兄弟もちりじりです。大メーカーの産まれぢゃないんで、満足な値段も付けてもらえませんが、産みの親のエンジニアは一生懸命設計してくれて、工員さんは、一個一個丁寧に組み立て、検査員のお嬢さんは厳しくも丁寧に見てくれて、たくさんの愛情を受け、この世に産まれ落ちました・・・絶対期待を裏切らないから、ここから連れ帰って下さい・・・」と。

値段も当時の同じレベルの品質状態のW.ニッコール35mmf1.8の4分の一程度だったので、迷うことなく、この心の声に耳を傾け、我が家へとお連れしました。

そして、この1960年代初めに生まれたレンズが家に来て初めての夏。
近所の洲崎弁財天のお祭りをやっているらしく、そとから活気ある掛け声や調子をとるホイッスルなんかが聞こえてきました。

ここで、このレンズに初仕事のチャンスを与えることとしました。

但し、メカ的な相性がよく判らなかったため、最初のテストはキエフ4での出撃。

真夏のピーカンのもと、神輿を担ぐ法被の若衆、日陰で涼をとる世話役の壮年達、そして、愛くるしい子供神輿の一団・・・戦場カメラマン宜しく、かなり露出もアバウトに全コマ開放で反射的にシャッターを切り続けましたが、夜、そのプリント結果にびっくり・・・

心の底では、安かろう、悪かろうと思って、どうせニコンのパチモンとしか思っていなかったこのレンズが予想以上の戦果を上げたのです。

ハイライトは飛ばず、フレアも出ず、シャドーでも色を忠実に再現し、しかも古い広角特有の周辺の崩れ、歪みも一切なし。

まさにお値段4倍のWニッコール35mmf1.8よりシャープで発色も醒めたカンジで、使い方によっては、こちらに軍配が上がるとさえ思えました。

後々調べてみると、このレンズは、普及品にも関わらず、後発の強みを活かし、ライツズマロン35mmに範をとった4群6枚の変型Wガウスタイプながら、先行していたWニッコール35mmf1.8をも想定ターゲットとし、F値を抑え、新たに設計し直したということなのです。

後々にこのレンズとの出会いが、次々と無銘の高性能レアレンズとの邂逅を与えてくれます。
タナー5cmf1.9しかり、サン、ソフィアしかり・・・有名なメーカー、大メーカーの産まれぢゃなくても、イイレンズは一杯産まれているのですよと。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2008/08/13(水) 01:35:44|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
<<移ろい行く老舗の誇り~Rodenstock Heligon35mmf2.8~ | ホーム | パラレルワールドから来た迷玉~NKPF50mmF2H・C~>>

コメント

こんばんは。今週はなかなか出てこなかったので、ブログもお盆休みかと思っていました。
それに、今度は、"あの"レンズをアップされるだろうと疑っていませんでした。
それがコムラーとは二重に意表をつかれました。

わたしもLのものは所有しています。
いま同じ位置から比較してみると、フォーカス用のローレット部分から上は、まったく同じデザインのようです。
ただ、微妙に異なるのが銘版の文字が、わたしのは微妙に青っぽい色をしています。
これは単に経年による変色かもしれませんが。

恐ろしく線の細い、繊細な描写が十分に個性的なレンズと思っています。
シャドーの表現もまったく同感です。
黎明期のすばらしい出合いがあって、いまのチャーリーさんが存在するのですね。
  1. 2008/08/13(水) 23:17:21 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

愛しいコムラー!

実はコムラー大好き!なんです。
骨董市でもいっぱい出ているのですが、一眼レフ用のチープなズームか中望遠ばかりです。
ニコンSマウントの135mmと105mmのレンズの汚いのを持ってはいるのですが
広角レンズは見たこともありません!Lマウントの広角は時々店頭で見かけますが・・・。
私の愛用のニコンS3にはいろんなレンズと交わらせてやりたいのですが、
黒いコンタックス2.8cmf8とは上手く交わらず名誉のキズ?を負ってしまいました。
  1. 2008/08/14(木) 00:32:28 |
  2. URL |
  3. むらさき茄子!@プログ失業中! #kqgYIJQs
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
コメント有難うございます。
ハハハ実は、写真展の準備、写真工業別冊の企画構想、深海生物工房(企画)の立上げ支援等々、夏休みに入ってからの方が、朝から深夜まで忙しかったので、ブログ更新をかまけてました。

しかし、本業の改造の方はと言えば、先般ご覧頂いた"スイス産まれのハーブキャンディ"の後、一週間で、"イギリス産まれのダイアナロス"、"ドイツ産まれのスナイドル映画玉"、"ドイツ産まれののび太改めフォコタ"と怒涛の改造ラッシュで通算4本の改造レンズを作り出し本工場の底力を発揮しました(笑)

特にダイアナロスさんの驚愕の解像度はぶっちぎりで本名「解像度X」を名乗るだけあって、Sマイクロニッコールと比肩し得る写りですが、オークションでの価格高騰を避けるため、公開は控えて欲しいとの要請もあったため、スイス産まれと共にちょいと時間調整している次第です。

尤も、スイス産まれの方は、昨日、もう一本、無事レンズヘッドを入手しましたので、帰京次第、アップしたいと思います。

せっかくの成果発表も、即、オークション等での価格高騰に繋がってしまうとは、世知辛くてイヤな世の中になりましたね。

それでも、次々と未知の玉にアプローチし、その性能を極める、という当工房の基本理念を与えてくれたのは、この貧しい産まれながら、大メーカー製品も凌駕し得る素晴らしい資質を持った不遇の名玉に因るところが大きいのかも知れませんね。
  1. 2008/08/14(木) 12:37:16 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

むらさき茄子!さん
コメント有難うございます。

昔、焼き物、特に、古九谷、柿右衛門の蒐集やってたころ、北陸の奥地の流行らない古道具屋で、自らの勘に任せて、結構なお値段の品物を買い歩いたことがあります。

もちろん、大当たりのものあれば、精巧に出来た写しで、あっヤラレタ!なんてのもありました。

思うに、レンズも焼き物も、結局は本読んだり、人様のものを見せて貰ったりでは、本当のところは判らないのですね、自腹を切って味見をしなければ。

ここでの紹介は成功例の一つですが、もっと高い玉をおっかなびっくり買ってみて、写りの酷さに愕然として、すぐに委託で転売したとか・・・

でも、レンズは焼き物と違って、使うことでそのものの個性の他に自分の写真のウデや美意識が加味されますから、飾っておくだけの何百万円の皿より何倍も楽しめますね。

それから、CX、Sマウントは広角系は互換性有りと巷間では言われてますが、旧コンタックス用のものは、エプロンの高さが違うものが有るので、要注意ですね。

当工房ではピント基準機とその予備用のボディがありますので、未知のCX、Sマウントレンズは、まず、キエフ4、ニコンSマウント&ヘリコイドユニット単体でメカ的適合見てから、SPのピント基準機でテストしてフィールドに持ち出しますから、貴重なボディに傷を付けることはありません。

そういった意味では、貴兄もSボディのジャンクを一個お買い求めになられてはいかがでしょうか。
  1. 2008/08/14(木) 12:58:50 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

charley944 さん、ありがとうございます。
多方面にわたってのご活躍、何よりです。
ハーブキャンディはかっこうよかったですね。
これは、数も多いので、いずれ真似させていただきたいです。
ダイアナロスがそれほど素晴らしかったとは、さすがの選球眼ですね。ロスインディオスでなくて良かった~。
そういえば、フォコ太は宮崎さんが大絶賛してました。

発表にあたってはいろいろと悩みもあるようですが、ここは中華圏向けに先日も提案させていただいたダミー記事を立ち上げてはいかがでしょう。
戦艦武蔵の側距儀の後継者キヤノン135mmF3.5とか南オセチアに届かなかったベルテレの最後っ屁ジュピター35mmF2.8等いかがでしょう。
charley944 さんの名文と作例で人気が出ても、玉数が多いので、そうは値上がりしないでしょう。

お礼、遅れましたが、先週は楽しい時間をありがとうございました。
  1. 2008/08/14(木) 21:23:33 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
再びコメント有難うございます。

スイス産まれのハーブキャンディはレンズヘッドを分解(後端部破壊?)しないと、L39のフランジバックには到底届きませんし、かなり薄手のヘリコイドが作れないと、無限から近接までの調整が出来ないですし、抜け留めも工夫がいるので、是非、船橋でどのような加工をするのか、お手並み拝見といきたいところです。

そうそう、そういえば、ついに(マリアナ海)溝の口在住の深海生物氏が旋盤のかなり大きなのを導入し、またフライス盤も入れるようなので、本工房より量産に向いた設備状況となります。

しかし、有り金全てはたいて設備投資してしまい、食費も底を尽き、マリンスノーや、空気中の水分や、机の上の養分で細々と露命を繋いでいるようなので、どんどん注文出して上げて下さいね♪
ただ、まだスイス産まれのハーブキャンディはオリンピック級の難度なのでムリだとは思いますが・・・

う~ん、どーでもイイようなレンズの記事ねぇ・・・そもそもそういうのを持っていないのと、ウソを書くのもイヤなんで、悩んでしまいますね(笑)

最後に、先週末はご足労頂いた上、遅くまでお付き合い頂き有難うございました。また9月の声が聞こえてきた頃に南蛮茶店で集まりますんで、ご都合合えば、宜しくお願い致しますね。
  1. 2008/08/14(木) 22:53:21 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

charley944 さん、再回答ありがとうございます。
ハーブキャンディはマリファナ海溝の口工房ではまだ難しいですか。
charley944 さんの仕上げが美しかったので、あのイメージを期待したのですが…。

いえいえ、ウソを書かずとも取り上げるだけで、日本語は読めないでしょうから、良玉とはいえない、立体感はまるでなし、など漢字熟語を平仮名で否定すれば、まんまとひっかかるはずです。

南蛮茶店のジンジャーエールが気に入りました。
みなさんには親切にしていただいてますし、スーパーモデルも登場したりで、楽しませていただいています。
また、よろしくお願いいたします。
  1. 2008/08/17(日) 01:52:53 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
遂にハーブキャンディのレンズヘッドもう一個調達しましたから、来週辺りにはいよいよ登場させましょうかね・・・ホントはまず、フォコ太なんかでお茶濁し、英国製イヴォコロリ、解像力のおバQと来て、ハーブキャンディの驚愕の描写性能と流麗な外観を紹介したいなぁ・・・などとも考えていたのですが。

何せ、9/10までに写真工業に8+αのアイテムを執筆しなければならなくなりそうなんで、あれもこれもは結構しんどくはなってきているのです(汗)

南蛮茶店はいつでもWellcomeです・・・仲間のうち、誰かしらは週末はお茶呑んで寛いでいます。
作品を持ち寄って相互観賞しても良いし、新しい戦利品自慢してもイイし、深海生物が回遊していたら、捕獲してレンズの手入れ、改造等を命じてもイイし。
  1. 2008/08/19(火) 11:15:45 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://pwfukagawa.blog98.fc2.com/tb.php/48-3579d233
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

charley944

Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる