深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

パラレルワールドから来たレンズVol.2~Wollensak Velostigmat2"f2.8S

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夏も過ぎ、秋の気配も深まった頃、再び、私は神宮寺老人に彼の庵へと呼び出された。
何でも、紀元前のエジプトで深海生物が"レンズ"という概念を消失させる寸前に阻止し、やっと、「こちら」へ戻ってきたので土産話がてら会いたいということだった。

せっかく街に出るのだから、たまには中古カメラ屋でも覗かなくっちゃってことで、早めに家を出て、一旦、銀座で降り、教会の最上階に位置する、「かぼす舎」なるカメラ屋に立ち寄る。

すると、先般は相当係わり合いがあった、ニコンのレンジファインダーのコーナーになにやら不可思議な組み合わせの出品が・・・しかも日付が何故間違えたのか、来月の今日になっている。

早速、店員さんを呼んで、ショーケースから出して貰い、手にとって確かめてみる。店員さん曰く、こんなカメラ、誰がいつ出したのかな、しかも日付がおかしいし・・・と。

ニコンの報道用SPのしかも良く使い込まれたボディに何故か米国製のWollensak Velostigmatの2"f2.8が付いている。

このレンズが、レンジファインダー用として製造されたのは、クラルスとかパーフォレクスとかいう安物のライカコピーと超レアではあるが、デトローラ400の2台しかないと聞いている。
しかもデトローラ用でf2.8なら試作しかないはずなので超レアだし、今嵌っているボディはそれらのうちどれでもない。

戦時中から戦後間もなく作られたレンズだから、戦中であれば、軍用としては信頼性の高いライカタイプしか作っていないだろうし、戦後なら、わざわざ戦勝国が敗戦国のしかも機構的に面倒なタイプのもの、即ち、ニコンSやコンタックスマウントのレンズなど作る必然性などないのだ。

幾ら考えても思考はまとまらず、ただ時が移ろうばかりで神宮寺老人とのアポに遅れてしまうのも気が引けるので、この不可思議なコンビをとりあえず買って行って、神宮寺老人を驚かせようと、いうことにした。

東銀座から再び地下鉄の乗り、都心から外れた高級住宅街の奥まった一角に鬱蒼と茂る林があり、その奥に神宮寺老人の屋敷と「庵」は有る。

屋敷のゲートでチャイムを押し来意を告げると、下働きの吾作爺が出てきて、「旦那様は庵の方で先ほどからお待ちです」と言って、鉄扉を開けて導いてくれた。

茶室でもある「庵」のくぐり戸を抜け屋内に入ると、神宮寺老人は結跏趺坐の半目で瞑想状態にあった。

しかし、さすがは予備役とは言え、元敏腕のタイムガ-ディアン、気配を察してすぐさま覚醒状態に戻り、何も無かったかの如く、永の無沙汰の挨拶を発した。

「だいぶ長いこと会っていなかったね・・・尤も、戻る時間を出発の翌日にしてしまうことも出来たが、それでは、キミの方が感覚がおかしくなってしまうだろう。我々には、時間の流れは一定の速さで一方向で流れているものでなく、少なくとも自分の存在はその束縛には囚われていない・・・」

はぃはぃ、また時間航行の講釈が始まったかと思いつつ、うんざりした表情になりかけた時、老人が、「また、クレージィなヤツが居て、時間渡航禁止先のひとつである、1944年にまた密航した。」

えっ、またお供ですか、それでまた呼んだんですか!?と鼻白もうと思ったが、老人は先回りして、「まだ確証は取れていないが、今度はかなり政治的な動機が絡んでいる、一番、SF小説に取り上げられる頻度が高いネタ、そう太平洋戦争に日本が勝利し、米国を統治するってヤツだ。」

しかし、一個人が元々の負け戦の現場に紛れ込んでもどうなるものでもなかろうが・・・と思ったが、老人は「まだ調査段階なので、すぐに飛ぶことはないと思うが・・・」と。

そこで話題を替え、二人の共通の趣味であるカメラの話に切り替え、来る途中、銀座の「かぼす舎」にて不思議なカメラを格安で手に入れたハナシを切り出し、この良く出来たキワ物で、いつも仏頂面の老人を驚かせてやろうと思い、おもむろにカバンから取り出した。

老人はこのカメラを手にした途端、驚くでなし、ただ、深く息を吸い込み、「やはり影響が出始めたか・・・」とだけぽつりと言った。

一体何を言っているのかと思い、老人の次の一言を待って凝視していると、「不確定要素の支配する並行過去時間が何者かによって干渉され、日本が戦勝して、米国経済が支配されている時空が出来つつある・・・しかし、まだ緩やかでしかも多数の可能性因子のひとつでしかないから、"現在"のこの時空への影響は限定的なので、一ヶ月先に影響が出始め、それが現在の時空に向かい、未来から遡行してきているのだ。」

神宮寺老人の口をついて出た言葉は日本語なのに、何を言おうとしているのか全く判らず、私はきょとんとして、出された茶碗を手のひらで弄び、茫然自失としていたら、「キミが偶然手に入れた米国製レンズが付けられたニコンは未来からの警告だ。」と。

要は、時間統制局の本部で調査したところでは、"戦勝国の"日本を中心とした東南アジア、満蒙経済圏への輸出用として、"敗戦国"の米英仏は手っ取り早く"円価"を稼げる光学機器、精密機械の製造に手を染めており、先に降伏したドイツの光学機器メーカーになり代わり、世界的な光学機器ブランドとなった日本光学、精機光学研究所のカメラの互換レンズが世界の主要工業国で作られるようになった時空が発生したのだと。

まだ影響が限定的且つ間接的なうちは良いが、これが次第に干渉し合い、完全にシンクロしてしまうと、歴史の改変が起こってしまうので止めなければならない。

しかも、前回は一個人のマニアが出来心で戦史の一部を塗り替えようとしただけだったが、今回は組織犯罪の可能性が高く、時間統制局は総力を挙げて対処しなければならない大事件となったのであった。

(つづく)

以下は実話。
このレンズは先の海外での海外レンズ、しかも国外のレンズヘッドを利用して製造された改造レンズのうち、新たに北京でドイツの銘品、Astro-Berlinのレンズヘッドを用いて産み出された改造レンズへの返礼として、ここ深川の地で、米国製の引伸レンズであるWollensak Velostigmat2"f2.8を最もスタイリッシュに見えることから、ニコンSマウントに改造したものです。

このレンズは分解まではしてませんが、スリット光、及び絞り位置からして構成は恐らく、4群5枚の変型クセノタータイプではないかと思われます。

で、肝心の写りはというと、このレンズも引伸レンズのご多分にもれず、開放から、まず合焦部はシャープです。
また色のりも必要以上に派手にならず、また醒めてもおらず極めてバランス良いと思います。

ただ、今回の作例では目立つものが選べなかったのですが、前ボケが流れるというか、前にズル~というカンジの崩れたボケになってしまいました。

しかし、街撮りでは、Sボディに付けた姿はカッコもイイですし、発色もシャープネスもなかなかのものなので、Sマウントのひとつのバリエーションとして、これから愛用していきたいと思っています。

テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2008/10/05(日) 23:10:12|
  2. Sマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:7
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コメント

 観念小説、空想科学唯物論。たくさんの時空がゆがんでて、酔います・・・。そのむかし、日々想い煩いの青春時代、某生物学御研究所のprinterを引退されたおじいさまの、お話をされていた横顔がjinguuji roujinとうつし絵になるようです。 老人のかたりべというのは、ふるい写真のように、ふしぎな実在感の宝庫で、そんなことを思い出しました。                  今回の作品はがちがちですね。女性専科の中O正也先生がむかし、雑誌に、apo-nikkorは味も何にもないけれどとにかくシャープ、とコメントされていました。 3年くらい前、アメリカの中古屋のfaxでシャッターつきのapo-nikkor305mmf9をよく目にしましたが,そのころ現地にいた友人によると、大型のブツ撮りでシャ-プさを要求されるときは重宝されているとの説明でした。
  1. 2008/10/07(火) 22:05:18 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordre さん
早速のコメント深謝申し上げます。
確かにこれだけ発色も忠実で、後ボケにもこれといったクセもなく、コントラストも程好くシャープさが際立つと、味も色気もないレンズってことになっちゃいますね(笑)

一方、同じ引伸レンズでも、CE-Rokkor-X50mmf2.8や、Apo-Rodagon50mmf2.8は開放値も同じで広い意味での変型Wガウスの一派なのですが、シャープさだけでなく、揃って発色にも温かみのようなものがあり、遠近感の表現ももっとドラスチックで、よりスティルカメラ用レンズの写りに近いです・・・しかもかなり良く出来た部類の。

しかし、天は二物を与えずとは良く言ったもので、同じSマウント改造でも、このレンズは「神宮寺老人」の出番が来るくらい迫真の出来なのですが、写りが良く出来た方の2本はどう見ても銀塩用カメラ、ましてや機能美を誇るニコンのSシリーズとは相容れない改造レンズ然とした異形の外観を有しています。
  1. 2008/10/07(火) 22:25:08 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは。ご無沙汰してしまい、失礼いたしました。
このルックス、すばらしいですね。
このレンズの外観を見て、ライカでなくSへの改造にすべしと思い立たれたのでしょう。
さすがのセンスです。
実は、わたしもこれにそっくりの外観の Raptar 2inchF2 を宮崎さんにライカに改造してもらっています。
自分ではかっこ良さに気に入ってましたが、ボディにつけた姿は、あきらかにチャーリーさんに完敗です。
それに、このボディとレンズから、よくぞこのストーリーが思い浮かぶものです。
非常に痛快ですが、そういえばレンズがボディに追随するものとして描かれている点には少し不満も感じます。
わたしたちは、そのレンズを使いたいがためにボディを合わせていると思っていますので。
それはそうと Wollensak の欠けあり丸Wマークがいいですね。
  1. 2008/10/08(水) 20:43:42 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #-
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
久々のコメント有難うございます。
>レンズがボディに追随するものとして描かれている点には少し不満も感じます。
さすがのこだわりですね。前回の創作ではあまりにもストーリー展開において改造レンズに無理矢理ハイライトを当てようとし過ぎ、ワザとらしさが残ってしまったので、ニコンSPについていた米国製のナゾのレンズという控えめな設定にしてみたのですが、創作には、やはり少々過度過ぎるくらいの演出が必要でしたね。
次回以降の創作の参考とさせて戴きます。

しかし、自分で言うのもなんですが、このレンズ、ルックスという点では、今まで製造してきたレンズの中でもベスト3に入るのではないかと思いますね。
でも、月内に塗り替えられそうな予感が・・・しかも同じくS/CXマウントの改造レンズで。
  1. 2008/10/08(水) 21:29:33 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

 ちょっと思うところがあって大判nikkorの事を調べようと思いたちました。大判の世界では数年前からAPOレンズが主流になり、大判nikkorは知らぬまに脱落、カタログ落ちになつていたようです。tele系のハイライト赤にじみなどあったかなとおもいつつ、あそびでモノクロ8*10に写る120mmf8の像は十分シャープでした。しかしながら240mmf5.6は中途半端に柔らかくそれならとコンバーチブルsimmarのトロトロ感に浮気したり、150mmf8もイメージサークルの大きさに利点を感じながら、二コンらしく無いカラー向きのやわらかいタマだと思っていました。 アマチュアのたわごとを尻目に、コントラスト十分なカラーの鮮やかさ、色抜けのよさがdigitalの時代に相応しいのでしょうか、そこにはnikkorの姿はありませんでした。EL-NIKKORやAPO-NIKKORも中古店に放出され、次世代を担う製品が外国製しか見られないと感じるのは旧ハードウェアに対するノスタルジーなのでしょうか。 fittingの問題かも知れませんが、そのかなりを引き伸ばしレンズに執着するcharleyさんの改造作品に、標準レンズのアポクロマート化への思考プロセスともとれる姿が見える気がます(たぶん私の悪い勝手な想像癖ですが)。 日本製ではあえてapoとうたう製品はみかけませんが、御本尊とうたうS/Lマイクロ二ッコールも工業用にシフトしていったといういきさつもあって、昨今の民生用特殊需要レンズの衰退とともに考えてみました。 
  1. 2008/10/13(月) 18:33:31 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2008/10/13(月) 19:43:09 |
  2. |
  3. #
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Treizieme Ordre さん
コメントありがとうございます。

ご指摘の通り、確かにこのところ、引伸レンズばかり改造していますね。(今日も手間隙かけて一本やってますし・・・)

しかし、別に引伸レンズに執着しているのではなくて、手馴れたArriflexのレンズ群が謎の価格高騰のため、手が出なくなってきているのと、他のマウントであれ、元々35mm用カメラのレンズを手間かけてまで改造しようと思わないので、その矛先がどうしてもBolexマウントとか、引伸しレンズに向いてしまうのです。
これは、35mm銀塩フィルムないし、RD-1S等のデジタルの画像が作例等も発表されていないため、知的好奇心、征服欲をそそるからでもあります。

ところで、民生用特殊需要レンズ?の衰退・・・ですか。
確かに各社、昨今似たようなスペックのズームレンズばかり出してきて、民生用の一般用途はデジタル機器への適合性を武器に興隆を極めていますが、特殊需要レンズ?といっても、ピンときません。

尤もマイクロニッコールS/L自体が、公道を走るフォーミュラカーみたいなもので、要は元々産業用製品が市販されただけの話なので、昔は民生用特殊需要なるカテゴリーと産業用との垣根が低かったものが、次第に産業用に求められる要求レベルが高まった結果、その差が開き、民生用としてはオーバースペックで高価なものは売れないので、リリースもされず、その結果衰退したように見えるのでしょう。(ご本尊のマイクロニッコールは街撮りに使うため買ったのであって、複写みたいな特殊用途に使おうとは考えたこともありませんが・・・)

しかし、産業用レンズの技術の進歩は、確実に民生用のレンズの技術の底上げに役立っており、例えば、ニコンで言えば「ナノクリスタルコート」しかり、「EDレンズ」、「UDレンズ」しかり、キャノンで言えば「回折光学素子」しかり「人工蛍石」しかり・・・

また、産業用でいちいち「Apo」の称号を付けなくとも、栃木ニコンで汎用産業用レンズ、Rayfact IR シリーズという、ELニッコール互換で引伸から、複写、ラインセンサまで使えるレンズを出していますが、これらは、380nm~700nmまでの可視光域全域で色収差を補整するとアナウンスしています。
このレンズシリーズは入手さえ出来れば、すぐにもSマウント、L/Mマウント化で35mmフォーマットにもRD-1Sにも使用することが出来るので、限りなく民生用特殊需要レンズに近い存在なのではないでしょうか。
  1. 2008/10/13(月) 19:43:40 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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