



さぁいよいよ年末に突入というか、気がつかないうちに周りは師走になっていた・・・というカンジの年の暮れです。
当深川精密工房も、年に一回の棚ざらえということで、附設秘宝館からとっておきの秘宝を二週連続シリーズご紹介。
このレンズは、先に写真工業出版社から発売された「別冊 世界のライカレンズPartIV」の本編、そして特別読み切り記事でも紹介しましたが、富士写真フィルム(現フジフィルム)が1949年に発売したズマールコピーと言われる4群6枚のWガウスタイプの沈胴レンズです。
距離表示はフィートのみ、絞りは最小12.5までしかなく、デザイン、特に絞りリング周り、更には、マウントの繰出し部の距離インデックスが刻印してある部分のなで肩いかにも戦前のノーコートのズマールを彷彿とさせ、それを手本としたことを窺わせます。
しかし、細部に亘って日本人固有の美意識というか、今に繋がる、初めは模倣から出発しながら、小改良を積み重ねオリジナルを換骨堕胎していくといった商品開発の痕跡があちこちに見つけられます。
たとえば、マウント部の仕上げはライツが厚めのクロームもしくはニッケルメッキがかけられたブライトからややヘアライン目が残る光沢仕上げなのに対し、こちらは、極めて白色度が高い美しいクロームメッキの梨地仕上げとなっていますし、光学系を収納し、沈胴時はマウント内に収納されてしまう、シャフト部も、ライツのものは、初めからピストン運動による擦り傷を考えて、ヘアライン目が目立つ厚手のクロームもしくは、ニッケルメッキなのですが、こちらは画像でも一目瞭然の通り、顔が写るくらい磨き上げられたミラーブライト仕上げとなっています。尤も、このおかげで沈動するたびに擦り傷をつけやしないかと、冷や冷やしてしまいますが。
実は当工房には、記事で紹介した通り、もう一本、試作品と思しきCristarが所蔵されており、この個体とも、勿論、量販?品とも細かい点が異なります。
たった2000本かそこらしか製造していない筈のこのレンズでなぜこうもバリエーションがあったのでしょうか。
おそらく、富士写真フィルムは、Cristarシリーズ(35mm、50mm、100mm)を発売してから、色々とユーザの声に耳を傾ける一方で、ニコンがボディは未完成ながら、レンズ自体は1946年からライカマウントの高性能レンズNikkor5cmf2をリリースし、また戦前から35mmカメラを製造しながら、ニコンからレンズ供給を受けていたCanonも、1947年発売の自社開発のズマール型Wガウスのセレナー50mmf2を1949年にはf1.9に改良してきたことから、主戦場となる欧米マーケットへの輸出向けシェア確保策として、同社としても絶えざる改良を迫られたのかも知れません。
で、この貴重なレンズ、写りはどうかというと、はっきり言って、ダメです・・・深川精密工房で組んだ、ニコンSマウントのキャノン5cmf1.8の一号機には勿論、二号機にもぶっちぎりで負けます(笑)
また、先にご紹介した、日本のズマールコピーの大先輩、サン・ソフィア5cmf2とも希少性、外観の美しさならいざ知らず、肝心の描写で較べたら、あらゆる観点から勝負になりません。
では、早速作例紹介いってみます。勿論、全部開放です・・・開放から使えないレンズは存在する価値はありません(爆)
カメラはコシナイコンZM、フィルムはスーパーセンチュリア100EX24です。
まず一枚目、これは昼下がりの閑散とした築地の場外市場の店仕舞いモードに入った商店街をお散歩キブンで闊歩する母と娘です。
かなり輝度差があるカットでしたが、歩道の反射も娘さんの白いバッグもフレアにならず、何とか頑張っています。また、中心部分は、お母さんの緑色の服の皺のシャープさからも解像度の高さが窺われます。しかしながら、周辺が甘い、コントラストが低い・・・これでは、コーティングレンズの名が泣いてしまいます、サン・ソフィアはノンコートでももっとくっきり発色します。
続いて二枚目、これはまだ健気にも店を開けていて、来るか来ないか判らないお客を待ち続け、自分も含めた物好きカメラマンの餌食になり続けていた、「築地広報部」ともいえる魚屋さんでのカットです。
やはり周辺が甘いのと、通常は古いレンズは内面反射の関係から低照度域になってくると、コントラストが上がってくるのですが、全然ダメです・・・店先の蟹など、乾いてしまったかのようですし、青い陳列台も明日にはペンキ塗り替えが必要なほど色褪せてしまったかのようにも見えます。
そして、3枚目、これも2枚目の健気な魚屋さんのお隣を撮ったものですが、画面中央付近の赤いチェックのテーブルクロスみたいなシャツ着た恰幅良い中年妊婦みたいなおばさん店員はかなりシャープに捉えていますが、やはり周辺にむけて解像感が甘くなっていきます。また発色も薄くて、かなり物足りない感アリです。しかし、店先の白熱電球のフレアが膨らまないのはさすが・・・
ただ、唯一救われたのは、画面中央から放射方向で50%くらいまでが実用的な解像力なのでしょうが、甘くなるとはいえ、安物レンズや、壊れたレンズ、或いはもともとイメージサークルの小さいレンズをムリにこき使った時のように、周辺が崩れたり、片ボケしたり、見苦しい破綻は生じませんので、やくざなスナップばかり撮る小生の使い方からすれば、周辺はどうせオフフォーカスになって同一焦点面ではないので、あまり実害はないのです。
まぁ、ダメな子ほど可愛いと申しますが、色々ケチはつけましたが、使い方を考えて上手に使えば楽しい宝物というところです。
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テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真
- 2008/12/07(日) 23:01:21|
- 深川秘宝館
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跳躍への序曲~Fuji Cristar Type3 proto.~ |
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キャプテン交代~Cooke Kinetal 50mmF1.8~>>
こんばんは。忘年会&二次会以降の疲れもものともせずに更新されていて驚きました。
言われなければ誰もズマールと気づかないクリステル(?)ですが、描写はだいぶ違うようですね。
確かに書かれているとおり周辺はかなり甘いですが、全面で評価しない人には、問題にならない程度です。
むしろ前ボケがわたしにはいま一つです。
コントラストについても、この時代のクラシックレンズとしては善戦というか、モノクロの諧調を意識して設計されたはずだということを考えれば、これも欠点とまではならないように感じます。
解像度や適度なシャープネスが心地よい描写ですし、暗部がしっかり表現できそうなレンズとして、愛すべきレンズのひとつと思われます。
思うに、前回のカメラかレンズかの議論があった直後だけに、使用カメラ名は表記した方がいいかもしれません。
一枚目のコンビで撮影したのだと誤解を生まないためにも。
末筆になりますが、昨夜はほんとうにありがとうございました。すばらしい席でした。
- 2008/12/08(月) 00:39:16 |
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- 中将姫光学 #sKWz4NQw
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中将姫光学さん
土曜の晩は遅くまでお疲れさまでした。
早速のコメント有難うございます。
そーですね、周辺の大甘さよりも、前ボケのボワ~とだらしなく結像が膨らんでぼけてしまうカンジがあまり愉快なものではありませんね(汗)
まぁ、「だんだん良くなるホッケの太鼓」という諺?もありますが、このFirst Ver.ではこんなものです。
しかし、改良を積み重ねたCristarにあって、最後を飾る?もう一個の突然変異の個体は凄まじい写りです。
PCの13"LCDモニタで見る限り、お手本となったズマールでは全く勝負にならず、ズミター、ニッコールのそれぞれ5cmf2でもまだ敵わないどころか、ホットレンズを除くズミクロンとも良い勝負をするくらいの写りではないかと思いました。
それから、何のカメラで撮ったかは、明記しておくべきでした、失礼しました。
- 2008/12/08(月) 13:59:05 |
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- charley944 #SFo5/nok
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もう一度、M8で撮ってみてほしいです。
この色合いは、フィルムの特性(スーパーセンチュリア)
のような気がしてなりません。
あっ、ベルビアなんか良いかもしれませんよ。
メリハリくっきりの
カニなんか、ゆで上がりのまっかっかになるかも知れませんし・・・・笑
と、冗談はおいといて
クリスターというレンズは、最近まで私は全然知らなかったです。
希少なレンズなのでしょうね。
- 2008/12/08(月) 21:59:05 |
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- 山形 #-
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山形さん
コメント有難うございます。
残念ながら、この発色傾向は、R-1DSで彩度を上げ、いわゆる"ベルビア"モードにしても大して変わり映えしません。
因みにスーパーセンチュリアはこのブログの作例の標準となっており、ネガにしては異例の色飽和度の高さを誇っており、下の深大寺でのニッコール5cmf1.1にせよ、Componon5cmf4改Sにせよ、山崎名人をして、至高のレンズと言わしめたEnlarging Elmar5cmf3.5にせよ、殆どのテストはコニミノオリジナルのスーパーセンチュリアを使っていますが、発色は目を見張るくらい鮮やかです。
たまにくすんだような発色のものがあったりすると、コダックのゴールドだったり、フジのス-ペリアだったりしますが(笑)
- 2008/12/08(月) 22:52:18 |
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- charley944 #SFo5/nok
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
- 2008/12/10(水) 21:48:50 |
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たいへん興味深く拝見させていただきました。 余り日の目を見ないという個体の「秘密」に、妙に詮索心がおきてきます。なにか、本流に乗れなかった=消費者の好みを見極められない不幸があったのではないかと。富士にはたぶんその当時、高いガラス溶解技術が有り、大型テッサータイプではかなりの数がさばけているのにもかかわらず・・・。ひとつには35判では交換レンズ自社ボデーがない、押し出す個性を受け止めるハードの不在。つぎに、ロクロク判も含め高級路線が裏目。そして、ハイスピードレンズを始め、こったレンズ構成が有効な特徴をだしていない。 わたくし事で恐縮ですが、そのむかしminolta CLを持っていたあばれざかりのころ、レンズ選定で、35f2をカメラ屋で試し撮りした際、ざらざらの妙に古臭く、周辺も流れる富士を捨てて黒銅鏡もモダンなキャノン35f2を躊躇なく購入したのは、富士の妙な古臭い性能曲線が読めなかったような気がして(各種雑誌の作例でも、ベッタリしたトーンもない作例ばかり記憶にあり、安定した性能の普及タイプ、50f2,8はよいトーンだった)しかたがありません。 セレナー50f1,9がソフトなら、ハード側に今回紹介のレンズがあり、時代の方角とはちがう個性を、これからも映し出してゆくと確信する次第です。
- 2008/12/10(水) 22:18:00 |
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- Treizieme Ordre #-
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Treizieme Ordre さん
コメント有難うございます。常連メンバー?のコメントお待ち致しておりました。
今回の「別冊 世界のライカレンズ PartIV」の執筆でこのクリスター5cmf2の記事を書いた際、戦前から、小田原のガラス溶解工場の事業閉鎖まで、フジフィルムのサイト等で調べ、こりゃ、フィルムメーカ-っていうより、規模こそ小さいがれっきとした光学機器メーカーだわな・・・と思ったのですが、確かに人気のバロメーターとして最も客観的且つ定量的なバロメーターである、中古相場から見ると、比較的数量の多い、5cmf2、同f2.8の普通のL39フジノンは描写の実力からしても、まぁ妥当なレベルと納得出来ますが、こと35mmf2のコストパフォーマンスの極悪さについては、貴兄の経験に激しく同意です。
いっぺん、銀座の教会最上階にある故物的照相机魔窟こと、黄色手榴弾のお店がまだ平地で操業していた頃、手頃な価格で出ていたので、もし写りがイマイチでも、叩き売っとしても、それほど損しないだろうと思ってL39フジノン35mmf2を買ったことがあったのですが、とにかく、前ボケが酷いし、前ボケが画面の左右の隅に入るような対角構図で撮ったりしようものなら、このレンズ壊れてんぢゃね!っていうくらいグズグズの写りで速攻で叩き売ってしまったことがあります。
しかも、そのテスト撮影したのが、今回のクリスターと同じ築地場外だったのも何かの因縁ですね。
因みにLキャノン35mmf2は、同社のライカマウントレンズの中では設計が最も新しいもののうちのひとつですから、写りもむべなるかな・・・です。
- 2008/12/11(木) 15:00:25 |
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- charley944 #SFo5/nok
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今回の写真コメントを忘れていました。
一枚目の女性の後姿は、露光条件が日陰に寄っているので、ハイライトが飛んでいますが、眩しい日差しも好ましい、数寄ですね、これはこれで。印象的にハイライトを飛ばした、アップの女性ポートレイトしたいです。二枚目の、右水槽の前ボケが、キャノン50mmf1,9のそれに似ていてうれしいです。1,9は好きで2本あるのですが、常なるキャノンのピンずれで、飾り物ですが・・・。三枚目は、にがてですね、この描写。モノクロを念頭に考えているから、伸ばしにくい様子を考えています。 じつは、「なつかしい街写真」シリーズに聾唖者の写真集があって、canonの2B辺りからのモノクロ画像があります。ピントに芯のない像を、ぬめりとしたトーンで諧調を整えたプリントには驚きがありました。話は横道にそれましたが、要は映りの読み方だと、あらたな闘志が燃えてきます。(じつは、私、つたない技量。このほど暗室についてはTHにも応援して頂きました=向上しないと恥ずかしいので、これは謎懸け!)
- 2008/12/13(土) 22:53:32 |
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- Treizieme Ordre #-
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Treizieme Ordre さん
再びコメント有難うございます。
このレンズ、実はAEで使うとなかなか露出が難しく、また、どういうわけか被写界深度も他の50mmf2に較べると狭いカンジでスナップ撮るのが大変なのです、気に入った作例は本で使っちゃったし(まずはイイ訳・・・)
キャノンの50mmf1.9って、実は持っていないのですよ。50mmf1.8は改造レンズ用のパーツにも使えますし、安いんで1ダース近く常にストックが有るのですが、50mmf1.9ってキャノンのレンズにしてはカッコイイのと比較的高いので、食指が動かなかったんですね。
しかし、1940年代後半のWガウスはお手本が同じだけあって、どこかで似たようなクセが出るものだと思い、面白いと感じました。
しかし、このレンズ、全然イイとこなしですが、このリベンジたる最終型のナゾの試作レンズが作例共々登場しましたので、乞うご期待。
- 2008/12/14(日) 22:57:02 |
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- charley944 #SFo5/nok
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- 2009/05/19(火) 08:33:34 |
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FUJICAさん
書き込み有難うございます。
さて、ご質問の件ですが、まず”Cristar"銘のレンズは番号からして、富士写真フィルム製のCristar5cmf2に間違いないと思います。が、しかし、本サイトに出ている2本のうち何れかと同じタイプかと問われると、答えはノーということになります。
何とならば、先に紹介したズマールタイプのものは、No.が40万番台の最初期ロットで関西の研究家の方の調査結果では、戦後間もなく35mm用のライカ版レンズの市販を計画するにあたり、富士写真フィルムが1949年初めから試作品販売で極小数を輸出したタイプで、国内では類品は発見されておらず、またもう一本の方は、これは何故市販されたか今だ以って謎ですが、ズミクロンコピータイプと思われる試作品で世界に一本しかないタイプですから・・・
では、FUJICAさんのCristarはどういったものか、これは一番数が多い、戦後ズミター型の通常の市販モデルと思われます・・・とはいってもせいぜい2000本かそこらしか作られていないようですが。生まれ年はシリアルからすれば、1950年に入ってからのものと考えます。
この3タイプの細部の違いは、小生が「世界のライカレンズPART4」巻末特集に執筆していますので、宜しかったらご覧下さい。
一方、カメラの方はCANON SIIの"SEIKI-KOUGAKU TOKYO"銘のものであれば、1946年の9月までに作られたものだと思います。
では、この組み合わせは純正か否かというギモンですが、SIIは正確には、L39とは若干異なる独自マウントでセレナー5cmf3.5もしくは、極少量のニッコール5cmf3.5付きで売られた筈ですから、後からの組合わせではないかと考えます。
一般論で申し上げれば、このCristarはLeotaxに附属して販売されたか、或いは銀座あたりの大手カメラ小売商が、LeicaのDIIIあたりにセットして販売した例が多いのではないかと思います。
では、貴重ななレンズとカメラ、今後も大切にしてやって下さい。
- 2009/05/19(火) 14:39:12 |
- URL |
- charley944 #SFo5/nok
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回答有難う御座いました。
このカメラとレンズは父親の遺品として保管している物の一部で、生前(戦後間もない頃)富士写真フイルムに勤務していた事もあって、Cristarレンズにこだわっていたんだと思います。遺品の中に何本かの古いレンズがありますので、純正として組み合わされていたレンズがあるか調べてみます。
貴重なカメラとレンズこれからも大切に引き継いでいきます。有難う御座いました。
- 2009/05/19(火) 23:07:28 |
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- FUJICA #-
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