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深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

日本全国英国化鏡玉~Dallmeyer Enlarging Anastigmat2"f4.5~

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【撮影データ:カメラ Nikon SP フィルム Super Centuria100 全コマ 開放】

さて、新年第二弾の更新は、ちょいとキブンを変えて、工房作品から、久々の英国製レンズの改造モノのご紹介です。

この読者の方々は良くご存知の通り、当工房では、L、M、S、CX、M42、そしてニコンSマウントの改造を手掛けていますが、そのレンズヘッドでは、件数から言えば、アリフレックス用レンズが一番多くなっており、それに次いで増えてきているのが、引伸ばし用レンズなのです。

このレンズは、年代等は資料がないので不詳ですが、ノーコートであり、またメッキではなく黒塗り仕上げ、そしてネジが引伸しで主流のL39ではなく20mm弱であったことから、おそらく戦前、1930年台くらいのモノではないかと推定します。

しかし、それにしては、保存状態は良く、タイムマシンに乗って、神宮寺老人が届けてくれたみたいです。

尤も、外装はかなりまともでしたが、工房に入荷した時はレンズは埃だらけ、中もカビともたんぽぽの胞子とも思えるような白いもやもやだらけでとても光線がまともに透過出来る状態ではなかったのですが、何とか分解し、レンズをクリーニング、そして絞り羽根も脱脂し、ついでに光軸もチェック、エレメントの回し調整も行い、ベストの状態に仕上げました。一部、かしめがあったので確実ではないですが、トリプレット構成だったと思います。

さぁ、ここからが工房の腕の見せどころです。

このレンズのフランジバックを測ってみたら、親指の先よりはちょいと大きいくらいの可愛い玉なんですが、なんと40mm以上もあって、あとひとがんばりすれば一眼レフに使えるくらいでした。

これだけ長いと、RF用であれば、スペーサとマウント部でのケラレだけ注意してやれば、どんなマウントでも改造可能なのですが、やはり、見た目重視の当工房では、ニコンSマウント化を採用しました。

Sマウントの金具に繋げる部分には、2014番のヂュラルミン丸インゴットから削り出したメインスペーサ、そして、レンズのネジを加えるマウスには、高力真鍮の丸インゴットから削り出したパーツを奢っています。真鍮部分にはもちろん工房特製のニッケル・錫合金化メッキを施しています。

では、早速、作例で写りの実力?を見ていきましょう。

まず一枚目ですが、代官山の西郷山公園下の何とか橋の袂のちょいと小奇麗な民家の軒下から冬空を入れたカットです。
ノーコートの古いレンズにも関わらず、フレア、ゴーストは気にならないレベルまでミニマイズされていますし、開放から合焦部のディティールのシャープさは目を見張るものがあります。発色は穏やかで英国のカンツリーハウスを思い起こさせます。
また、前ボケの葉も決して醜くはないと思います。

そして二枚目、これはもっとシビアな条件でテストするため選んだ条件で、やはり代官山の結婚式伝門?の教会の白い建物を青空をバックに写したものです。

ここでも全く破綻がありません。
建物の白と背景の雲の白とを遠近感も交え、繊細なニュアンスで描き分けています。
また、注意して見ると建物の軒下のシャドーの部分のパネルのテクスチもしっかり捉えており、パワフルながら繊細という、この豆レンズの恐るべき素性を垣間見せています。

そして三枚目、これも代官山でヒルズの入り口というか、「猿楽塚古墳」の対面の駐車場に停まっていたミニクーパーを英国レンズのご縁ということで戴きました。
乾いた冷たい空気の下、主をじっと待つ忠実な機械・・・というイメージでメタリックな塗装の質感も、車の乗ったレンガ状のタイルの質感も、そして枯葉の連なった樹の枝の質感も、抑え目な締まった発色と程好いシャープネスで描き分けて、季節感を漂わせるお気に入りの一枚になりました。

以上ざっとご覧戴いたように、この70歳近くの英国製豆レンズは、当工房の手当てこそ受けたものの、持ち前の比類なき素質を発揮し、かのエルンストライツ社のフォコタ、エンラージングエルマー、そして同郷のCooke Ental、Ross Resoluxとも決して負けないパワーと繊細さを見せ付けてくれたのです。
こういう意図しない出会いが、当工房継続の強い動機となっているのです。
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テーマ:ニコンSマウント - ジャンル:写真

  1. 2009/01/12(月) 21:58:52|
  2. Sマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

こんばんは。
今回は珍しく、建造物をモチーフにされたものばかりでまとめていますね。
線のエッジが非常にくっきりしていて、製図板でさーっと線引きした図のようなイメージです。
発色も美しく、グリーンやオレンジがなんとなく英国調に見えたりします。
Dallmeyer, Cooke, Ross と揃いましたので(Wray はどんなものか)、イングランドプレミアリーグ対決も見てみたいものです。

末筆ですが、ゾナーありがとうございました。
恐ろしいまでの仕上がりに、いまあらためて興奮しています。
写りは言うまでもなく最高峰ですが、最短撮影距離もけっこう短く、恐らく80センチくらいになりそうで、これも気に入りました。
「Bundes Eigentum」とか刻印してもらうべきでしょうか。
  1. 2009/01/12(月) 23:45:31 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
こんばんは。コメント有難うございます。
昨日は遅くまでお疲れさまでした。

このレンズのプリントは既にご覧頂いておりますし、また味見もして頂いておりますが、改めてアップしたものにご感想を戴き有り難く存じます。
思うに、ドイツ風の写りというのも、和風の写りというのもないのに、英国風、仏国風というそれぞれ根底に通い合う描写傾向があるのは面白いことだと思います。しかしその中でも、解像力番長のRoss、発色の締りで勝負のCooke、そしてバランスのDallmeyerというカンジでとても興味深いです。

最後に、納入させて戴いたゾナー、気に入って戴いて何よりです。
'09年工房稼動の第一号レンズであったため、かなり気合いを入れ製造してみましたので、お気に召して戴いて何よりです、今後も末永くご愛用戴けますよう心より願っております。
  1. 2009/01/13(火) 00:03:32 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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