深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

拝領的銘玉之描写~Hexar5cmf3.5改~

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【撮影データ】 カメラ: R-D1S ISO400 +1/3補整 全コマ開放

さてさて、今宵はまた弊工房謹製の改造レンズの打順です。
今回のレンズは久々の引伸レンズのLマウント改造版です。

このレンズは、実は、先月初め、月間写真工業の市川元編集長と撮影ツアーをご一緒させて戴いた際、前々から、「良く写るから是非改造してみて下さいよ」と言われていた、戦後間もない小西六製の輸出用引伸レンズヘキサーを川越の地までわざわざご持参頂いて、衆目環視の元、小生と弟子用にとひとつずつ戴いたものです。

さて、土曜丸一日の撮影が終わってから、家に帰り、まずレンズの状態を確かめてみると、長いこと仕舞われたままになっていたのか、レンズには埃というか汚れが白くびっしりと付着し、また中にはくもりか軽いカビのようなものも認められました。
ただ、金属部分は、数十年の星霜を飛び越え、神宮寺老人がタイムマシンに乗って届けてくれたかの如く美しい状態で、これだけで改造意欲が高まりました。

幸い、全部バラしての薬液によるクリーニングの結果、エレメントには実写に影響有るようなキズ、クモリ、カビ跡は殆ど残らず、人様にもお見せして恥ずかしくはないレベルのレンズヘッドにまで戻りました。

レンズ構成については、開けたところでは、普通の3群4枚のテッサー型に見えました。
蛇足ながら、Hexarというラテン語の「6」に由来する名称は決して6枚玉だからではなく、発売していたのが、元々「六櫻社」という会社でこれが小西六になり、その六をモチーフにしたネーミングなのです。

さて、改造はこれからです。まずマウントの選択ですが、今回は作ったものを、頂戴した編集長殿にもお味見して戴かなければならないので、ヘリコイドのない50mmクラスの引伸レンズでは珍しく、手間隙の掛かるLマウント化を行うこととしました。

このレンズは、60年以前の引伸レンズにはよく見られる、ネジ径がL39でない17mmとか、16mmの極めて細い特殊なものを用いています。
従って、これをL39の引伸機で使おうとすると、ネジのコンバータをかます必要が有るのです。

しかし、改造ではそんなの関係有りません、どちらかというと、L39であれ、それ未満の小径であれ、ヘリコイド&マウント部との接合には、フランジをゼロから削り出し、現物合わせしなければならないので、あまり手間的には差が無いのです。

尤も今回のヘリコイド&マウント部については、殆どオリジナルのパーツを削って合わせる必要が少なく、フランジの作りこみと調整だけだったので、殆ど2~3時間で完成してしまいましたが。

さて、製造の苦労話?はこれくらいにして、実写行きます。

まず一枚目。これは工房から永代通りに出る途中の鉄橋の上部構造体を逆光に近い条件で強引に撮ってみたものです。
狙いは新しくペイントし直された橋のディティールが再現され、しかも逆光でフレアはどの程度出るのか、といった複合試験です。
その結果、厚板材、リベットの何れも硬い鋼の質感が捉えられ、裏側で光を反射しているペイント面の細かいうねりまで拾っています。
フレアも実用上全く問題ないレベルまで押さえ込まれています。

そして二枚目。富岡八幡宮近くの日本最初の鋼製橋を至近距離で写したものです。
これは発色再現が難しい海老茶の鋼製橋とバックの日本家屋、林のボケを見るために行ったものです。
結果としては、橋の色は目で見たものと相違なく、派手になったり、反対に沈んだりもせず、忠実な再現をしており、冷たい鋼の質感もむべなるかなです。
バックのボケ具合いについては、今さら何おか言わんやの感なきにしもあらずではありますが、上部遠景の隅に若干の流れは認められますが、非点収差のいたずらも殆ど認められず、目に優しい、融けるような水彩画系のボケとなっています。

続いて3枚目。これは深川不動尊の参道で、染め抜きの法被系衣料品を売っていた露天商の商談風景を撮影したものです。
ここでは、人間の毛髪も含めた繊維質のもののテクスチャの再現性能によって、解像力を見ようとしています。
結果として、合焦した露天商の男性の法被の藍の染め抜きの文字の輪郭も衣服のシワも、被写界深度内の那須ノ与一まがいの女性のスキーヤー帽のニットまで細密に再現しています。
また、副次的なデータとして面白かったのは、パラソルが相当ハイライトで飛ぶ寸前なのですが、手前のものと、後ろのものとの輪郭までくっきりと捉えているところです。

最後の4枚目。ここでは前ボケを見るためと、近接距離での緑と茶系の発色バランスを見るため、同じく不動尊参道の歴史的旅籠の入り口の看板と手水石を撮影しました。
結果としては、前ボケとなる看板はこれも後ボケ同様、柔らかく融けて、見る者の視覚を邪魔せず、一方、合焦部の手水石については、濡れた部分はしっとり、乾いた部分は乾いたなりのざらざら感を適度なシャープネスで捉えていて、個人的には気に入った写りになりました。

総合的な感想としては、戦後間もない国産の引伸レンズが、このような苛酷なテスト撮影でも、驚くべき成果を上げたことから、やはり日本の光学技術は当時から、既にドイツを脅かす萌芽を持っていたのではないかということでした。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2009/02/08(日) 21:05:50|
  2. その他Lマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:10
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コメント

結構私好みの写りで気に入りました♪

F3.5にしては、ボケが大きい感じがします。
  1. 2009/02/08(日) 23:47:01 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

山形さん
こんばんは。
一番乗りコメント有難うございます。

このレンズの写り、お気に召しましたか?
そーですね、昨日も撮影会で、Tarningさんにお味見して戴きましたが、なかなか気に入って戴いたようでした。

ボケですか・・・う~ん、あまり気にしなかったなぁ・・・いつもおんなじようなとこで撮っていますから、他のシムラーとか、ニッケルエルマーなどの50mmf3.5と比べてみます。
  1. 2009/02/09(月) 00:09:58 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

今晩は。今夜食事の後すぐ寝て、今起きました。明日は仕事だ!と、前置きシツレイします。
 一枚目、二枚目。撮影対象写りとも、すばらしいの一言につきます。色合いは60mm1,2ごときほのかな小豆色にかかり、やさしい描写とも、国産の美点とします。(雑誌で見ることができる初期のcanon28mm3,5の色に通ずる妙味がある。或はRD-1Sとの相性でしょうか?)国産だからか、「和紙に滲ませる彩色の妙」とでもいった形容が相応しい、水彩色とも油彩とも使い方次第ですよと、鏡玉が語り掛けて来るようです。
 被写体分離(コントラスト)が低いせいか、ハンテンのコマが雑多なものが写っているせいか、解像力が少ない為か、少々立体感に乏しい気がします。これは、初期の国産レンズの定石どうり絞るにつれ向上してゆく描写の、今後の楽しみにになるかもしれません。
 いずれにせよ、1,2枚目の描写、「このタマ欲しい!」と言わざるを得ません。
 さいごに・・・。ワタシクシノ悪い癖ですが、レンズ改造後戦後初期型canonとの姿に「和装の婚期近く、こちらを優しく見据える女性の立ち見姿」が脳裏からはなれません。この「映像」は果たせず亡くなった女性でしょうか?全くの怪談めいた妄想ですが、これを一般的な言い方に変えれば、次の様になります。
「このレンズが活躍すべき時代の残像を濃厚に秘めている特徴ある描写の、か弱きながら明確に主張している座証として・・・。」
 今回の市川さんご慫慂は、ことさら印象に留めざるを得ないすばらしい改造例としてほめたたえいたします。(ベタほめ)
  1. 2009/02/11(水) 02:11:32 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

こんにちは。出遅れ失礼いました。
一見すると、かなり渋い、玄人好みのレンズという印象です。
華やかな色がいっさい入り込んでいないせいなのでしょうか。
同系の色を描き分けるような表現は得意のようですね。
一方で、3枚目を見ると立体感の乏しさをわたしも感じました。
いつもの高性能シネレンズなどと比較しての話ですが、そういったレンズですと、まん中の三人の位置関係がもっとはっきりするのではと思います。
ただ、むしろヘキサーの方が自然な写りなのかも知れないですが。
あとは、人物の肌をどのように表現してくれるかなどに興味があります。
  1. 2009/02/11(水) 12:42:41 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

Treizieme Ordre さん
コメント有難うございます。
この戦前の漫画に出てきそうな人造人間の如き妙な造形美を持った金属製品への愛惜のお心、かたじけなく存じます。

実際のところ、このレンズの数奇な運命に思いを馳せると、余計に有難味が増すのではないかと思います。

戦後間もなく外貨獲得用に作られた引伸レンズの兄弟達の中で、たまたま市川編集長宅に貰われていった個体が、仲間達が海外、或いは一部は国内で、幾星霜、暗室でのお勤めを果たし、その生涯で何度かは、重大スクープの写真を伸ばしたり、或いは人生の晴れの姿に籠められた喜びの気持ちを投影したりして命をまっとうして消えていったのに、出番を待ったまま何十年も眠りにつき、半ば存在さえも忘れかけられた頃、埃まみれの姿でまた別の持ち主に引き渡された。

そこでは、産まれ落ちてからの役割である、引伸機上での仕事を得るどころか、レンズエレメントがバラバラにされ、このレンズは役割を果たし天寿をまっとうした仲間達と比べ、これまでの己が身に降りかかった不幸を嘆いた・・・しかし、工房の献身的な治療により往時の姿に戻り、隠された才能である撮影力を活かすよう産まれ代わって、撮影用レンズとしてほぼ半永久的な命を得た・・・こんなカンジですね。
  1. 2009/02/11(水) 20:02:30 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
お忙しいところ、コメント有難うございます。

確かにこのレンズはシネレンズや、超絶的な性能を有する現代の準現役クラスの引伸レンズと比べたら、地味で目立たない写りと評さざるを得ません。

が、何十年もデッドストックになっていたレンズがこうして新たな命を吹き込まれ、最新のデジタルカメラでも、きちんと撮影者の見た通りに像を写し撮ってくれる・・・この律儀さにいとおしさを感じます。
  1. 2009/02/11(水) 20:07:28 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

何はさておき、外観が気に入りました。メタルの輝きにはどうも弱いですね。引き伸ばしレンズは元々平面のものをきっちりと平面に結像させるのが役割ですから、変に自ら立体感を醸し出すということは避けたのかも知れませんね。dallmeyerあたりの引き伸ばしレンズもなんとなくそのように感じていました。でもそれはそれで、このレンズの存在感はまことに素晴らしいと思います。
  1. 2009/02/11(水) 20:23:04 |
  2. URL |
  3. kinoplasmat #lpavF/Xw
  4. [ 編集]

kinoplasmatさん
有難うございます。
デザインを気に入って戴けるというのが、工房としては最大の賛辞です。
改造レンズは写ってナンボのものではなく、やはり、オリジナルのテイストを残しつつ、いかに美しく、或いは今回のようにキッチュに仕上げるかが勝負だと思っておりますので。

この立体感の乏しさも理論的かつ好意的に解釈して戴き、レンズ自身も喜んでいると思います。
何せ、戦後すぐの律儀さだけが取り得の無骨者のようですから。

明日、市川元編集長にお会いしますので、まだ幾つかお持ちか伺ってみましょうか?

もしお持ちのようなら、比較的簡単に改造出来るので、ご本人も含め、希望者がおられれば頒布出来るかもしれませんね。
  1. 2009/02/11(水) 20:37:19 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

遅くなりました。市川編集長はお元気でしたか?と申しても、まだお会いしたことはありませんが(笑)。レンズの趣味を始めてから、時間的・金銭的に追いつかないことから、敢えて日本のレンズは避けてきたつもりなのですが、charleyさんの作品を見るにつれ、どんどん揺らいできました。う~ん困ったものですね。nikonのボディなど一つもないのに、最近ズノー1.1のSマウントなどが来てしまったりして、かなりがけっぷちですね。これもcharleyさんのfujinonに刺激されたためかも知れません。
  1. 2009/02/12(木) 21:21:12 |
  2. URL |
  3. kinoplasmat #lpavF/Xw
  4. [ 編集]

kinoplasmat さん
有難うございます。
今日は、元編集長殿も出品されている西神田での写真展を見に行きがてら、結局、7時半~9時半過ぎまで雑談にうち興じてしまいました。
ご本人はお元気そのもので、来週も13時間の講習の講師をやったり、来るPIE'09ではクラシックカメラ関連のプレゼンを行われるそうで、写真工業誌は無くなっても、ご本人が遊撃隊として、縦横無尽に飛び回り、面白そうだと思ったら、プロアマの区別なく、首突っ込んでセッションやりたい、とのことでした。
で、肝心の同レンズですが、来歴を伺ってびっくり、東大の小穴研だかの備品だったものを棚卸の結果不要になったので引き取ったまま自宅で眠りについていたらしく、1946~47年くらいの製造だということでした。
写りに関してもプリントをご覧戴きましたが、相当満足されたようでした。
そして、ご本人にも暫く使って戴こうと、今日、お渡ししてしまいました。

それはそうと、国産レンズの泥沼にも足を伸ばされたとは、かなりキケンな兆候ですね・・・当方は逆に国産のレア主体で海外モノ、特にライツは極力買わないようにしていたつもりですが、最近、極上のズマリット50mmf1.5がやってきて、その写りにもシビレ、箍が外れつつある自分に惧れおののいています。
  1. 2009/02/12(木) 23:00:19 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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Author:charley944
今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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