深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

キネマの申し子~Tanar5cmf1.8~

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【撮影データ】カメラ:R-D1S ISO200 +1/3 絞り優先オート 全コマ開放

さて、今宵のご紹介は、工房附設秘宝館のコレクションから、これもまた激レアといわれる田中光学製のTanar5cmf1.8です。

先にご紹介した5cmf1.9の後継モデルにあたるレンズで、昭和34年に製造されたものと考えられます。

しかし、非常に残念なことにこのレンズ、そしてバルナックコピーから始まって、最終的には、ニコンSP相当まで進化したVPを擁する、TANACKカメラを送り出した田中光学はこのレンズを産み落としてすぐに力尽き、倒産の憂き目に遭います。

そもそも、田中光学は、8mm映画用の用品メーカーで、ライカコピーの製造販売を始めたのが、1953年で国産のライカコピー組では比較的後発組になります。

何せ、キャノンは戦前から、ニッカ、レオタックスは戦中、ミノルタ、ニコンは戦後間もない47年、48年・・・この田中光学の後はと言えば、55年に目黒光学のメルコンI、ライゼ光学研/千代田商会のチヨタックスくらいになってしまいます。

他にもまだライカコピーは外貨獲得のため、色々有ったと思いますが、この2009年2月現在で、フィルム、デジタルとも作っているメーカーがキャノン、ニコンの両雄だけになってしまったのはとても寂しいことだと思います。

ところで、このTanar5cmf1.8ですが、構成は3群6枚のオーソドックスなゾナータイプと考えられます。
どういうわけかこの田中光学はゾナータイプにご執心で、5cmの標準レンズはf3.5、f2、f1.9、f1.8、f1.5とキャノンも顔負けの5種類の開放値のものを出していましたが、テッサータイプの5cmf3.5を除けば、f2からf1.5まで全てゾナータイプだというのです。

前置きがいつも通り長くなりましたが、早速、作例を見ていきましょう。

まず一枚目。今回は2月初めに我が秘密結社、「新宿西口写真修錬会」の秘密特訓と称して、湘南在住の某人気ブロガーT姫光学氏と連れ立って、浅草を徘徊した時に撮影したものですが、この前衛芸術的壁画の描かれた壁を颯爽と自転車で通り過ぎる青年を捉えたのは、隠れ撮影スポット、花やしき裏の路上です。白い壁が反射し、フレアッぽくなっていますが、何かメルヘンチックな印象を与え、自分では気に入った一枚です。

続いて二枚目。この花やしき裏から、すしや通りをずっと奥に進み、大きな通りを渡ると、いけないお風呂屋さん街に続く千束通りという商店街に出ます。
この商店街を入ってすぐのところに肉屋さんがあって、大きな回転式のガラス張りオーブンみたいな機械でローストチキンみたいなものを焼いています。このいたいけな美少女は、おなかが空いていたのか、或いは菩提心を出し、死してなお衆人環視のもと身を焼かれ、人々の今宵の食卓に供されようとする哀れな鶏たちの亡骸の冥福を祈っていたのか、知る由もありませんが、油断してたので、とりあえず一枚戴きました。
このカットもご多分にもれず、イイ按配にフレアがかかり、少女の姿をそこはかとなく柔らかく儚げに写しています。

そして三枚目。また浅草寺近傍に戻り、仲見世通りの側道で賑やかにお菓子などを商うお店の店頭での一枚です。
移動しながら、このレンズがゾナータイプのくせにかなりフレアッぽいことを、R-D1Sのモニターで確認していたため、その路線でいきました。
ここでも、いたいけな10人並みレベルの少女が、同伴の母親と思しき年配の女性に、これ買ってくれなきゃ、グレて飛び出してやる~とか言ったかどうかは判りませんがおねだりして、駄菓子を買わせようとしていたので、スキあらばと一枚戴きました。

最後に四枚目。これは伝法院通りを仲間内で贔屓にしている時計露天商のお店に向かう時、妙齢の女性達がたむろしていて、そこはかとなく華やかな雰囲気を漂わせていたので一枚戴きました。
このカットが実は今回テストしたTanar5cmf1.8の特徴を一番良く表わしているのではないかと思いアップしました。
全般的にソフトな描写ながら、女性達の髪の毛、或いはハーフコート襟元のフェイクファーの毛足が繊細に捉えられているのが判ると思いますが、このレンズは単なるソフトレンズではなく、シャープネスをフレアで包み隠した、能有る鷹は何とか・・・のレンズではないかと思いました。

たぶん、試してはいませんが、f4くらいに絞れば、たぶん、現代の一眼レフ用の単焦点レンズも真っ青なシャープでヌケの良い画を撮ってくれるのではないでしょうか。

テーマ:ライカ・マウント・レンズ - ジャンル:写真

  1. 2009/02/15(日) 20:39:27|
  2. 深川秘宝館
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

おお、タナックV3ですね♪

昔私も、ボディーだけは持ってましたよ~~~


Cさんが、このような
フレアーがかかったレンズを使うのは
珍しいのではないでしょうか。

個人的には
大好きな写りのレンズですね。
ハイライトはフレアーがかかっているのに
芯があってシャープ・・・・

早くタンバール帰ってこないかなぁ~~~笑
(外に出れないので、人形撮影で間に合わせてます・・・自分・・笑)

あと
RD-1の方が
色が渋く出る気がするのは
私だけでしょうか?
  1. 2009/02/15(日) 21:17:10 |
  2. URL |
  3. 山形 #-
  4. [ 編集]

山形さん
こんばんは。コメント有難うございます。
体調を崩して家で静養されているとか・・・
もしかして、煮え滾る物欲を無理矢理抑え込んだ反動でしょううか >_<\☆★ぼこっぉ

それはさておき、へへへ、このレンズは予行演習なのですよ、フレアがかかっていても画面隅々にまで細密に写る往年の名玉の・・・
今月末には、ここに登場しますので乞うご期待。

ところで発色の傾向ですねぇ・・・確かに白魔と較べると、黒奴で撮った方はドン臭い地味な発色のようにも見えてしまいますねぇ・・・
  1. 2009/02/15(日) 22:38:17 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

50余年過ぎてなお、この界隈は当時の様子を残しているのではないでしょうか。そんな様子を感慨深げに写し出す、1,8にして可也のフレアーが残るレンズの美しい映像は、すばらしい「現代への置きみやげ」になっています。懐かしげな町並みが、田中のカメラ・レンズとかさなり、都会の片隅に夢物語をつむいでゆきそうで、界隈の‘守護神‘に成るのは間違いなさそうです。倒れてなお、よみがえさせる「深川の助力」はたいしたものですよ。
  1. 2009/02/16(月) 00:27:44 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordreさん
有難うございます。
そうですね、今回はまさに"企画の勝利"の感無きにしもあらずですね・・・戦後の残渣を残す下町の片隅を昭和34年にはご逝去されてしまったメーカーの忘れ形見で撮り歩く。
しかも、その画がフレアがかって儚げなカンジなら尚更でしたね。

ところで、このレンズはさすがに当工房だけでは修理しきれなかったので、この浅草の地に住まう修理の大御所に最後の仕上げはお願いし、この往年の実力を取り戻した次第です。
  1. 2009/02/16(月) 09:26:15 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは、またしてもコメントが出遅れてしまいました。
わたしも charley944 さんが、このレンズを出してきているのが一見して不思議でした。
ハイライトの滲みはもちろんですが、ピントがはっきりしないレンズに感じます。
2枚目では「特売品」の字に、3枚目ではサナギマンの背中にそれぞれピントがきているように見えます。
確かにシャープさはかなり感じますが、当然ながらコントラストは低めです。
これは、わたしでしたらウェルカムな条件ですが、charley944 さんには耐えがたいことだったと思うのですが…。

浅草にお供させていただいているので感じるのですが、たとえば1枚目でウルトラシャープレンズでは、壁絵のアラが露呈してしまうところですが、ほんわか滲みが絵を芸術的に見せています。
また、2枚目も自転車の前ボケと滲みが絶妙でメルヘンティックな乗り物に見せています。

それにしてもゾナータイプでこの写りは信じがたいですね。
途中参加の某氏の趣味に田中光学が迎合してしまったかのようです。
  1. 2009/02/18(水) 01:06:07 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
コメント有難うございます。
貴兄もお気づきの通り、カバンの中には市川編集長をして、「カミソリXenon」と言わしめた伍号機も潜ませていましたが、あのコースでウルトラシャープの出番はないな・・・と思い、大甘なTANARのテストに切り替えたのです。
その理由は、貴兄ご慧眼の通り、見るに忍びないもの、興ざめするものまでありのままに切り取ってしまうからです。

ピントが甘く見えるのには理由があります。
すでにお気づきかもしれませんが、2枚目では一番ピンを速攻で合わせ易い、女の子の白いアウターの肩口とショーケースのところで二重像を合わせており、3枚目ではやはり白いアウターの肩口と背景の黒い衣装とで合わせています。このくらいの
距離であれば、顔は十分被写界深度に入るという計算に基づくクニックです。

ところが、今回のような内面反射が大きいレンズだと、白いものはフレアが生じて被写体表面のコントラストが低下し、反対に色の濃いものは相対的にコントラストが上がるのでシャープに見えるという現象が被写界深度内で生じてしまうと考えられるのです。

まぁ、解像力番長命の工房主人もTPOに応じたレンズの使い分けというワザを覚えてきたということです。
  1. 2009/02/18(水) 14:52:42 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

今は無き国産古典レンズによる「夢の町・幻の街」なんて有りそうなテーマで、下町探索したいものです。淘汰されたものの鎮魂と未だ見ることを覚えずといった感傷の入り混じった風情が、時代が見落としてゆく〈何か〉を突き止めるのではないでしょうか。
  1. 2009/02/22(日) 17:25:31 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordre #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordre さん
昨日はお疲れさまでした。
確かにこのレンズは、日常というヴェールの下に覆い隠されてしまった、気の遠くなるような時間の積層の中から、それぞれの時代の人々の喜怒哀楽といったものの残滓を掬い上げてくれそうな気もします。
しかし、昨日の修錬会でひとつの方向性が見えました、それはレンズの集める情報量の多さこそが正解なのだと・・・XenonもPlanarも同じ説得力を以って居合わせた人々の心を動かした気がしました。
  1. 2009/02/22(日) 22:24:13 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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