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深川精密工房 [Fukagawa Genauigkeit Werke GmbH]

深川精密工房とは、一人のカメラマニアのおっさんの趣味が嵩じて、下町のマンション一室に工作機械を買い揃え、次々と改造レンズを作り出す秘密工場であります。 なお、現時点では原則として作品の外販、委託加工等は受付けておりません、あしからず。

漆黒の慧眼~Dallmeyer Dalmac2"3.5改S/CX~

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【撮影データ】カメラ:Nikon SP フィルム:スーパーセンチュリア100 全コマ開放
ハイサイ、また日曜日の晩が巡り来て、深川精密工房記事更新の時となりました。
今宵のご紹介は、知る人ぞ知る、一部のコアなマニアにとっては垂涎の銘玉?DallmeyerのDalmac2"f3.5を当工房にてS/CXマウントに改造したレンズです。

去年の記事で覚えておられる方もいらっしゃるとは思いますが、同じくDallmeyerの2"f4.5のEnlarging AnastigmatをS/CXマウント化しています。

今回のDalmacも、前回のEnlarging Anastoigmat同様、引伸機用レンズです。
製造された時代はこの小径のネジや、真鍮削り出しの鏡胴への黒エナメル塗装、そして元々の青い弗化マグネシウムの単層コートなどから判断して、50年代の初めの製造ではないかと思います。

絞りは開放のf3.5から最小のf16まであって、何故か、絞り羽根は前玉直後についていて、この形式のレンズにはよくある逆テッサー型でも、逆エルノスター型、或いはWガウス型でもなく、普通のエルマータイプ、即ち3群4枚構成と思われます。

ところで、このレンズ、写真で見ると傷一つないサファイアの如き澄んだ青い佇まいを見せていますが、実は、海の彼方、グラスゴーから遥か海を超えて当工房に辿りついた時は、中は埃まみれで絞り羽根には油がタール状になってこびり付き、前玉はというと、磨き傷なのか、使用に伴う磨耗なのか判らないくらい傷つき、また曇りのような症状も見られたので、幾ら銘玉とはいえ、そんな状態で改造して再び写すことが出来るようになったとしても、レンズ本来の性能は到底発揮出来ようもないので、自分で出来る限りの整備の上、大久保の名人のところに持ち込み、再び命を与えて貰えるようお願いしたのです。

初めは、あまりやったことがないし、少しお時間下さい、というようなことを言われたのですが、是非、歴史的銘玉の復活に力をお貸し下さい、と頼み込んだところ、快く引き受けて下さり、待つこと2週間で見違えるくらい美しい姿に甦って手許に戻ってきたわけです。

そうなると、喜び半分、プレッシャ半分で結構重いキモチになってしまいます。
大久保の名人が心意気にほだされて、手間隙かけ最速で素晴らしい状態のレンズにして返してくれたものを、出来ませんでしたでは二度と顔向け出来ないし、ましてや、失敗して破損など絶対に許されよう筈もありません。

しかし、工房の得意ワザのS/CXマウント化であれば、パーツはふんだんにありますし、ピント基準機もキャリブレーションやったばかりだし、その他計測機も調子良いので、万全の体制で加工が出来、帰ってきた翌週末には、Nikon SPでのテスト撮影に漕ぎつけたワケです。

さて、前置きはこのくらいにして、作例いきます。

まず一枚目。これは工房のすぐ近所の永代通りと並行して走る運河沿いに咲いた桜を1.5m程度で撮ったもので、背景に和船の舳先が写りこんでいます。
なかなか難しい桜の花びらの淡い色も破綻なく捉えているようですし、前ボケも後ボケもここでは大人しい振る舞いを見せています。

そして二枚目。これは同じ運河を門仲交差点方向に遡り二本目の橋の上で、毎年行っているさくら祭りのイベント会場で粋な法被姿の兄さんがたを捉えたものです。
発色は淡め、コントラストもそれほど高くはないですが、それでも洗いざらしの法被の布地のテクスチャは的確に捉えていますし、合焦域での描写の緻密さ、画面全体での画質の均質さはさすが引伸機用レンズの真骨頂とも言えるのではないかと思います。

続いて三枚目。同じイベント会場で目を転じると、海洋大の学生さん達がにわか仕込みの香具師と化し、昔懐かしい射的屋さんをやっていました。
ここで、商品に目が眩んだのか、或いは日頃主婦間のおしゃべりにうち興じ、自分たちを顧みない薄情な現代ママに文字通り一矢報いるためなのか判りませんが、かなり真剣な表情でコルク銃を発砲し、その結果に絶叫していたのでありました。
ここでは、女の子のナイロン系の反射するピンクのパーカーの生地の風合いがとての魅力的に捉えられていると思いますし、係員の兄さんの合成皮革もどきのジャンパーの皺なども妙にリアルに写っています。

最後に四枚目。今度は、イベント会場から離れ、やはり定点観測地点のようにテスト撮影コースに組み込まれている、門仲駅至近でありながら、完全に時代に取り残された「辰巳新道」へ向かいました。
ここで、一歩間違えたら、かのゴミ屋敷にもなってしまいそうな種々雑多オブジェデコレーション系大衆居酒屋の昼の営業前の佇まいを一枚戴きました。
特筆すべきは、全体的に淡い発色だと思っていたこのレンズ、こんな日陰の路地裏で色々な系統の色が入り混じったような被写界では、適度な解像力と発色バランスの良さを見せ、現代のただハイコントラストでのっぺり写るレンズ達とは一味も二味違うことを自己主張してくれたのです。
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テーマ:レンジファインダー - ジャンル:写真

  1. 2009/04/05(日) 23:51:40|
  2. CXマウント改造レンズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10
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コメント

レンズ再生

いつもながら見事なまとまりですね~!!
レンズの分解・再生と同時にマウント改造とは...、尊敬です。
僕もアンジェニュー90mmF1.8の前玉を大久保の研究所で研磨して頂いたことがあります。
コーティングの厚みの範囲内なら、キズや曇りも研磨でレンズ性能を回復出来るんですね。
研磨するまでの写りは、気になるほどの白濁はなかったので、見た目の問題として半ば諦めていたんですが、見事に透明感を取り戻したレンズを見て、やはり「これは大事にしなければ...」と思いました。
見捨てられたレンズを発掘して、だれもが羨む逸品に再生するのは、想像するだけでもドキドキします。
優しい写り、発色、コントラスト共に見事に再生された素晴らしいレンズですね!
  1. 2009/04/06(月) 17:51:37 |
  2. URL |
  3. andoodesign #WSWGH/LU
  4. [ 編集]

Re:レンズ再生

andoodesign さん
過分のお褒め有り難く存じます。

懇意にさせて戴いている、市川編集長がよく言われることなのですが、カメラ、レンズには様々な楽しみ方があります。
写真を写すのが第一義としても、モノとしての造形、質感を愛でる、更には自分で出来る範囲のカスタマイズを行う・・・まだまだ奥は深いと思うようになりました。
大久保の名人のところに出かけて、雑談にうち興じていても、いまだ教えられることはあまた有りますし、時には小生の自己満足に対し、厳しいジャッジも・・・

手前味噌ながら、そもそも当工房を始めた動機というのが、第二、第三のSマイクロニッコール、ノクチルックスを探せということでしたので、完品?のこれは!と言うレンズも多少ムリしても購いましたし、改造出来そうなものは、手間隙かけて自ら改造を行ってきたワケです。

そういった意味では、目利きの先輩コレクター各位とは少し違ったアプローチで自分なりのアイデアルレンズを追いかけているのではないかと思います。
まだまだ精進が必要です。
  1. 2009/04/06(月) 19:07:31 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

こんばんは。
1930年代のダルメイヤーのカタログを見ると、ダルマックはレフレックスやフォーカルプレーン・カメラにフィットすると書かれています。
当初は、引き伸ばしではなく、一般撮影用に設計されていたようです。
そんな先入観からか、若干やわらかさ、あたたかさを感じる描写に思われます。
サクラにもピントの外れている花びらからはフレアが出ているようですし、わたし個人的には、テッサー、エルマーと一線を画す、好みの描写のレンズのように感じました。
また、線がすっきり輪郭を描いているので、最後のごちゃごちゃした店でも、案外まとまった絵になっているのではないでしょうか。
  1. 2009/04/07(火) 01:17:07 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
有難うございます。
このレンズの出自をわざわざ調べて戴いたのですね。

確かにこの元々の売主や、だいぶ前にも一回磨いたことが有るとの山崎名人も引伸機用と言われていましたし、再コート品でももないとのことから、戦後、撮影用としてはより明るい高性能のものが出たため、引伸機用として細々と露命を繋いで50年頃まで生き延びていた玉と考えてもいいかも知れませんね。

それはそうと、英国のレンズながら、我が国の美意識の根源のひとつである桜をかなりイイ案配に写してくれて、ガチムチ?のシネレンズとはまた違う魅力もアリかなと思った次第です。
  1. 2009/04/07(火) 17:36:38 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

さくらと飲み屋描写のマイルドさが良いです。
比較的近距離がよさそうで、エルマーよりも無理して無い様な気がします。
ダルといえば、R,R,レンズに刻印されたすばらしい飾り文字が印象的です。
  1. 2009/04/08(水) 20:29:53 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordor. #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordorさん
お待ち申し上げておりました。
コメント有難うございます。
カッコはずんぐりしたというか、エルマーが斬首されて、落っこちた首みたいなレンズヘッドなのですが、確かにエルマーよりはもうちょいマイルドというか
バランスとれた写りですかね。
しかし、作りはイイですよ、鏡胴の黒ペイントしかり、一枚目の直後にある絞りの羽根は美しい鋼のブルーイング仕上げで開放でしか撮らないのがもったいないくらいですよ。

ところで、R.R.レンズってなんでしたっけ?? ロールスロイスでもなければ、ロックンロールでもないし???
  1. 2009/04/08(水) 22:59:37 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

割り込み失礼します。
Dallmeyer Rapid Rectilinear のことではないでしょうか(違っていたらごめんなさい)。

今回も、ダルマイヤーで一致しましたね。
ちまたにダルマイヤーブームは起こるでしょうか。
  1. 2009/04/09(木) 01:30:32 |
  2. URL |
  3. 中将姫光学 #sKWz4NQw
  4. [ 編集]

中将姫光学さん
助け舟有難うございます。
当方は、基本的に50mmより長いレンズとバレルレンズ系には全く興味も造詣もないものなので、調べてみて、ああ、原始的な色消し貼り合せ対向型の2群4枚の玉のことなんだなって判りました(笑)

それからダルメイヤ-ブームねぇ・・・まぁ、ムリでしょう、だって、シュナイダは勿論、ヲーレンザックよりも数は少ないのですから、ブームってのは或る程度、情報発信力の有る方々に行き渡っていないと・・・
  1. 2009/04/09(木) 12:00:45 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

thanks

 ブームにならなくとも、掘り下げや発掘の起点に成って行きつつあります。深川さんのところで地下鉱脈から発掘されたシネ、あるいは引き伸ばしレンズ等が原石として、立て爪・マウント加工を経たのちお披露目されるという筋道ち。
 50ミリ近辺の興味というのも、各社の原基的なサンプルとしても興味深いし、禁欲的とも見られる「深川製」の刻印にも相応しいかもしれませんね。
 
  1. 2009/04/09(木) 20:49:23 |
  2. URL |
  3. Treizieme Ordor. #-
  4. [ 編集]

Treizieme Ordorさん
再び有難うございます。
済みません、得意分野外の知識がまだ十分でなく、折角の話題のキャッチアップ出来ていなくて。

ところで、「地下鉱脈」ですか・・・上手いこと言いますね。因みにこの「地下」というのは小生の解釈では、歴史というか時間という地層が長い間積み重なってしまい、いつしか埋もれてしまった深い地面の下ということですね。

そうまさに埋もれてしまったものを必要に応じ、時には大久保や川崎の協力も得て、再び陽の目を見させることがライフワークのなりつつあります。

しかし自分独りがいかに技を高めても、研究して知識を増やしても限度が有るので弟子に詰め込もうとしているのですが、どうやら、常人相手の調教法では通じそうにありません(苦笑)
  1. 2009/04/09(木) 23:39:38 |
  2. URL |
  3. charley944 #SFo5/nok
  4. [ 編集]

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今を去ること60年前、古き佳き江戸情緒の残るこの深川の地に標準レンズのみを頑なに用い、独特のアングルにこだわった映画監督が住んでいました。その名は小津安二郎。奇しくも彼の終いの住まい近くに工房を構え、彼の愛してやまなかったArriflex35用標準レンズの改造から始まり、忘れかけられたレンズ達を改造し、再び活躍させます。

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